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ユキノチカラの主役たち(2)
西和賀で人気の菓子店
×デザインで、
「みんなが欲しくなる」
商品ができた!

岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト
vol.009

posted:2017.3.14   from:岩手県西和賀町  genre:食・グルメ / 活性化と創生

sponsored by 西和賀町

〈 この連載・企画は… 〉  岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000 人の小さなまちです。
住民にとって厄介者である「雪」をブランドに掲げ、
まちをあげて動き出したプロジェクトのいまをご紹介します。

writer profile

Hiroko Mizuno

水野ひろ子

フリーライター。岩手県滝沢市在住。おもに地元・岩手の食や暮らし、人にまつわる取材や原稿執筆を行っている。また、「まちの編集室」メンバーとして、「てくり」および別冊の編集発行などに携わる。

credit

撮影:奥山淳志

岩手県の山間部にある西和賀町。 積雪量は県内一、人口約6,000人の小さなまちです。
雪がもたらす西和賀町の魅力あるコンテンツを、
全国へ発信していくためのブランドコンセプト〈ユキノチカラ〉。
西和賀の風景をつくりだし、土地の個性をかたちづくってきた雪を、
しっかりタカラモノとしてアピールしていくプロジェクトです。
前回は、第1弾の〈ユキノチカラプロジェクト〉で誕生した
〈サンタランドのぽんせん〉、〈ゆきぼっこ〉、どぶろく〈ユキノチカラ〉と、
開発した商品への思いを紹介しました。後半に紹介する3事業者もまた、
大らかな西和賀の人らしい愛すべきキャラクターのみなさんです。

雅樹さんのホタル愛にあふれた 〈雪のようせい〉

雪国のだんご屋 団平×デザイナー/岩井澤大・堀間匠

最初は、湯本温泉近郊で餅やだんごの製造販売業〈団平〉を営む高橋雅樹さん。
西和賀で多く見られる名字「高橋」。ここでも「高橋さん」の登場だ。
社名の由来は、「親族に平のつく名が多く、団子の団と合わせてつけました」とのこと。

雪国のだんご屋〈団平〉の高橋雅樹さん。

独自の冷凍技術で東北全般にだんごを出荷する。

雅樹さんは団子屋の主人というだけでなく、
地元ではホタル博士としても知られているのだ。
店を訪ねると、そこにはホタルの写真がいくつも並んだファイルが置かれていた。
10年ほど前、仕事の合間に出かけた川で見かけたゲンジボタルの美しさに魅せられたそうで、
自宅でホタルを育てるばかりかエサとなるカワニナまで育て、
毎年300~600匹のホタルを自然に放しているそうだ。
「自分が放したホタルが見えるとね、嫁は見つかったか~、なんて話しかけてます」
と雅樹さん。
語り始めたらホタルの話は止まらない。
一生懸命に育てて自然に放してはいるものの、そう簡単には増えないのだとか。

そして、雅樹さん自慢の逸品も、
ホタルのはかなく美しい灯りをイメージしたお菓子だ。
ひと口サイズのわらび餅にとろり溶け出す餡が入った〈雪のようせい〉。
餡を包むのは、独特の弾力とつるんとした口触りのわらび餅だ。
西和賀産西わらび粉を使ったわらび餅は、
アクが少なく飴色のきれいな透明感があるのが特徴。
餡は2種類あって、地元の湯田牛乳を使った抹茶クリーム餡は、ホタルの美しい光をイメージし、
黒みつ餡は西和賀町の夜空をイメージしたと雅樹さん。
ホタルの舞う夏に似合うお菓子だけれど、
そのおいしさの秘密は、冬に掘り起こすわらびの根っこからつくるわらび粉にあるのだ。

練りあげの技術がわらび餅の食感を決める。

飴のような透明感をもつ、西わらび粉のわらび餅。

〈雪のようせい〉は、以前から商品として販売していたが
デザインプロジェクトを機に、パッケージデザインと名前も変更。
デザイナーとも相談しながら、包装個数をコンパクトにして、
買い求めやすく食べやすくしたという。
「通常のわらび餅のパックにも〈ユキノチカラ〉のラベルをかぶせたところ、
紙1枚で高級感が出ました。
西わらび粉はほかに負けない質の良さが自慢ですから、味に自信はありますが、
上質さを伝える方法としてデザインがいかに重要かを実感しています」
と、プロジェクトの成果を語る雅樹さん。

おいしいわらび餅を食べながら、美しい西和賀の初夏を彩るホタルの美しさを楽しんでほしい。
そんな雅樹さんの思いを込めたお菓子が〈雪のようせい〉なのである。

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口溶け軽やかなクッキーも

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さらさらと降る粉雪のような軽さの〈ほろりん〉

工藤菓子店×デザイナー/岩井澤大・堀間匠

次に訪ねたのは、西和賀町の湯本温泉に小さな間口の店を構える〈工藤菓子店〉。
横手出身の初代が湯本温泉へ移住し、昭和28年に創業した。
店で出迎えてくれたのは、店主の工藤美代子さん。
3代目となる息子さん夫婦や娘さんと一緒に、暖簾を守ってきたそうだ。

工藤菓子店の工藤美代子さん(左)と娘さん。

湯本温泉の夜は、昭和の佇まいを残すノスタルジックな雰囲気。

湯本温泉はかつて、大勢の観光客でにぎわい、観光バスが何台もやってくる一大観光地だった。
隣接する旅館〈対流閣〉の依頼で宿泊客のお茶うけ用にとつくったのが、
西和賀の伝説にちなんだ銘菓〈およねまんじゅう〉だ。
いまや湯本温泉を代表するお土産品となっており、ほかにも自慢のお菓子を多数揃えている。
やはり、看板商品は西わらび粉だけでつくった〈わらび餅〉。
「アクが少なく粘りが強い西和賀産の西わらび粉を100%使って
時間をかけて最後まで手作業で練りあげます。
だからこそ透明で粘りがあって滑らかなわらび餅ができます」と美代子さん。
こだわりの思いは先代からしっかり受け継いでいる。
一方で、常に地元の素材を使った新商品づくりを心掛けており、
斬新な発想の〈わらび粉みるくぷりん〉は、全国女性誌などでも取り上げられた。
新作のアイデアはどうやって? と尋ねると、
「家族であれやこれや話しているうちに出てくるの」と美代子さんはにっこり。

優しい笑顔の美代子さん。

なかでも人気急上昇なのが、サクサクのソバ粉クッキー〈ほろりん〉だ。
この〈ほろりん〉もまたユキノチカラプロジェクトによって装いを新たにした商品である。
西和賀の寒暖差ある気候で育ったソバは香りが高く風味豊か。
〈ほろりん〉はそのソバ粉を使った生地に、
砕いたクルミとアーモンド粉を混ぜ合わせて焼いたクッキーだ。

西和賀産のそば粉100%使用。風味豊か。

ひと口大に焼き上げたばかりの〈ほろりん〉。

うっすら和三盆をまとって、雪玉のよう。

焼き上げたクッキーにサトウキビでつくった和三盆を丁寧にまぶすのだが、
それだけでは終わらない。
1時間ほど休ませ、再び和三盆をコーティング。
できあがった一粒をほおばると、きめ細かな和三盆がじんわり溶けて
クルミの香ばしさ、上品な甘さが広がっていく。

〈ほろりん〉は、3代目となる息子さんの結婚式に用意した
祝い菓子・ドラジェをヒントにアレンジしたもの。
小さな雪玉をイメージしただけあって、さくさくと歯ざわりよく、
まさに降り落ちたばかりの新雪のよう。家族みんなで楽しめるお菓子だ。

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風味豊かなフィナンシェは、2種類用意

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多趣味な店主、忍さんがつくる 〈金と銀のフィナンシェ〉

お菓子処たかはし×デザイナー/木村敦子

〈工藤菓子店〉と同じ湯本温泉街の一角にやはり小さな店構えの菓子店がある。

ふと入りたくなる昭和の佇まいの〈お菓子処たかはし〉。

創業55年の〈お菓子処たかはし〉の初代は、〈工藤菓子店〉と同郷の横手出身。
昭和40年代まで西和賀周辺には鉱山が多く、
湯本温泉街も炭鉱で働く人々で賑わっていたそうだ。
店には、湯田牛乳を使ったケーキや洋菓子、粘りが自慢の西わらび餅など
地元食材を生かしたお菓子が並ぶ。
観光客向けの土産品としてつくった薄焼きクッキー〈一日物語〉は同店の名物。
かつて湯本温泉に投宿した正岡子規の小説にちなんだ商品で、昔も今も人気の一品だ。

店主の忍さんは、西和賀の伝統芸能「湯本鬼剣舞」の踊り手としての顔も持つ。

この湯本温泉街で生まれ育った高橋 忍さんは、お父さんが始めた菓子屋の跡を継ぐ2代目だ。
高校時代の夢はバンドマンやバーテンダーだったが、卒業後は秋田で和洋菓子づくりを修業。
その当時、師匠から学んだ「原料の質は落とすな」の教えを大切に、
素材はいいものを吟味して選んでいる。
「小さな店だから手作業でひとつずつ」と目を思い切り細めて笑う。

そんな忍さんがつくるのが、フランスの定番焼き菓子「フィナンシェ」だ。

こんがりと焼きあがったばかりのフィナンシェ。

聞けば、30年も前から〈お菓子処たかはし〉の定番品だというが
ユキノチカラプロジェクトの一品として、地元の素材を使ったふたつの味を加えた。
西和賀町の小田島八郎さんが採取したハチミツの上品な甘さが際立つ〈金のフィナンシェ〉。

風味豊かな西和賀産ソバ粉を生地に使った〈銀のフィナンシェ〉の2種類だ。
丁寧に煮詰めた飴色の焦がしバターをたっぷり使い、低めでじっくり焼き上げるので
しっとりやわらかく仕上がるのが特徴。

フィナンシェは多い時で1日に600個もつくることがある。

ふんわり泡立てた卵白、アーモンド粉の優しい甘さとバターの幸せな香りは、
店の外にも漂ってくる。
「ソバの実を入れませんか、名前に西和賀を入れましょうなど、
その都度デザイナーさんからの提案を受け、試作品をつくって意見を聞き、
また変えていく……。というプロジェクトの流れは、つくる側としてもやりやすかった」と話す。

前半で紹介した〈サンタランドのぽんせん〉、
〈ゆきぼっこ〉、どぶろく〈ユキノチカラ〉と違って、
この3軒は、家族経営の製造小売店だ。
限られる生産量を踏まえ、新商品開発は事業者のペースを考慮しながら進める必要もあった。
同店のフィナンシェに関わるデザインを担当したデザイナー・木村敦子さんは、
「3歩進んで2歩下がる感じもあったけれど、
私たちが先走りすぎるとプロジェクトは、継続しないし、
事業者の皆さんと共に考える時間こそが重要でもあった」と振り返る。

時に立ちどまりながら、共通のフラッグを目印に
昨年3月に発表されたユキノチカラ商品は、その誕生からやっと1年を迎える。
2月に行われたユキノチカラツアーでは、
どぶろく〈ユキノチカラ〉や開発したお菓子でツアー客をもてなした。

できたてのわらび餅に「やわらかくておいしい!」と思わず声が。

地道に一歩ずつ……。徐々にその名に耳を傾ける人は増えてきたとはいえ、
販路も含めて、まだまだ試行錯誤の真っ最中だ。
先陣を切った6つの事業者は、第2弾となるプロジェクトの大切な道しるべなのである。

岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト

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