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創立65年の劇団と
演劇専用ホールをもつ
“地域演劇のふるさと”西和賀

岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト
vol.002

posted:2016.12.2   from:岩手県西和賀町  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

sponsored by 西和賀町

〈 この連載・企画は… 〉  岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000 人の小さなまちです。
住民にとって厄介者である「雪」をブランドに掲げ、
まちをあげて動き出したプロジェクトのいまをご紹介します。

writer profile

Hiroko Mizuno

水野ひろ子

フリーライター。岩手県滝沢市在住。おもに地元・岩手の食や暮らし、人にまつわる取材や原稿執筆を行っている。また、「まちの編集室」メンバーとして、「てくり」および別冊の編集発行などに携わる。

credit

撮影:奥山淳志 写真提供:小堀陽平
supported by 西和賀町

西和賀にんげん図鑑Vol.1 
小堀陽平さんと妻の結香さん
(ギンガク実行委員会・企画委員)

東京で生まれ育った小堀陽平さんが、このまちに移住して、もうすぐ3年目を迎える。
現在は、西和賀町地域おこし協力隊として
演劇専用ホール〈銀河ホール〉の運営やまちの広報活動に関わるが、
もともと西和賀に特別な縁があったわけではない。

きっかけは、日本大学大学院芸術学研究科に在籍していた晩秋のことだった。
「東日本大震災の後、かつて銀河ホール館長を務めた芸術プロデューサーと
西和賀町の旅館組合の組合長から、湯田の温泉宿を使って
演劇学生たちの合宿をやれないものか? と声をかけられて」

西和賀町には、古くから演劇文化がある。
戦後まもなく地元住民によって結成された〈劇団ぶどう座〉は
中央演劇界とのつながりも深く、60年以上も活動を続けているそうだ。
そうした素地のもと、1993年に演劇専用施設として建てられた〈銀河ホール〉は、
地域演劇祭から国際的な演劇交流まで幅広く活用されてきた。

「このまちには劇団ぶどう座と銀河ホールが積み重ねてきた、
新旧さまざまな地域行事や伝統芸能があるし、ほかの地域にも誇れる設備や環境がある。
せっかくなら、合宿だけでなく演劇祭を開きたいと伝えました」

小堀さんの提案をうけ、まちでは、師走の多忙な時期からコトがパタパタと動きだす。
1月末に合宿実施のめどが立つと、小堀さんが学生たちに声をかけ、
東京都内3団体による滞在型演劇祭の開催が決定。
3月上旬上演に向けて慌ただしく小堀さんがまちを訪れたのは、
西和賀町が最も雪に覆われる2月の真っただ中だ。

「初めて訪れた西和賀がその時期。
特に雪の多い年だったらしいのですが、比較対象を知らなかったおかげで、
純粋に、東北の冬ってこういうものなんだなと思いましたよ(笑)」

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そして〈ギンガク〉立ち上げへ

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その後、2012年からは「銀河ホール学生演劇合宿事業」、
通称〈ギンガク〉が本格的にスタート。
当初は外側から企画に携わっていた小堀さんだが、
2014年4月から西和賀町地域おこし協力隊のひとりとして移住し、
まちの広報活動に携わると共にキンガクの運営の中心的役割を担ってきた。

ダンサーとして、学生時代に小堀さんと知り合った奥さんの結香さんも
ギンガク立ち上げから一緒に西和賀町に関わっており、
いまは、新しい家族を迎える予定だ
(写真は地域の皆さんに結婚のお祝いをしてもらった時のスナップ)。
たびたび聞かれるのは「どうして縁もゆかりもない田舎のまちへ来たのか」。
しかし、小堀さんらにとって大事なのは、“そこに表現活動の場があるか“どうかで、
どこ、はさほど大きな問題ではないという。

「最初から実行委員としてギンガクの運営に関わっていますが、
無名の学生に対して自治体レベルで活動の機会と施設を提供してくれるなんて、
ほかにはないことですし、ある意味無謀ですよね(笑)。
でも外部の若者たちが“西和賀”をキーワードにつながるという現象自体がおもしろいし、
まちのほうも、いわば“未来への投資”として事業の意義を感じてくれているようです」

いま、ギンガクは夏と冬に開催。西和賀に暮らす小堀さんらが、
首都圏の学生たちとまちとのつなぎ役となり、
演劇だけでなく美術も含めた芸術活動へと広がりを見せている。
地元事業者に取材してポスターをつくるデザイン企画〈はるばる〉
旅館や温泉施設、まちそのものをアトリエにした〈風呂美術大学〉(通称「風呂美」)
県立西和賀高校の美術部と短編アニメを制作する〈放課後のちいさな芸術家〉など……、
そのひとつひとつによって、西和賀に点在するストーリーが拾い上げられているのである。

西和賀で40日間の滞在制作に臨んだ国際ダンスカンパニー〈東風組〉の稽古。

ギンガク参加者の記念写真。

文化祭の演劇講師という立場で中学2年生とつくった『夕鶴』の舞台。

廃校活用施設での子ども向け事業でやった地図づくりの様子。

地元住民は、そんな学生たちの活動をどう捉えているのか。
「最初は何をやっているのか? と遠巻きに見ていたかもしれません。
でも、風呂美で古着を利用したインスタレーションを制作した際には、
地元の人に声をかけて古着を提供してもらい、
合宿参加者と一緒に作品を制作してもらうなど、徐々に関わりが生まれています。
地域のなかで一緒に熱を持って活動してくださる方が増えてきたと感じています」
来春、小堀さんは協力隊としての活動を終了するが、
家族でこのまちに残ることを決め、銀河ホールの企画運営を通じて、
「どこにもない演劇のまち・西和賀」をつくっていきたいと考えている。

西和賀という舞台で「静かに熱く」繰り広げられる演劇や美術の活動が、
岩手の中ではさほど知られていない現状もあるなか、
まだまだ外への発信力が足りないと感じる小堀さん。
「可能性を感じつつも、常に疑問をもちながら動いている」と話す。
頭の中に積み上げられている構想が、
どんなかたちで実践されていくのか、きっとこれからがおもしろい。

profile

小堀陽平さん

1986年東京都生まれ。高校時代に演劇をはじめ、日本大学芸術学部在学中から舞台芸術に携わる。同大学院研究科修了後、2014年に西和賀町へ移住。「ギンガク」の運営を通して、舞台芸術を中心に幅広い文化活動のコーディネートを行う。

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岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト

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