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それは、逆転の発想から始まった。
地方創生の新しいカタチ、
〈ユキノチカラ〉が動き出す!

岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト
vol.001

posted:2016.12.2   from:岩手県西和賀町  genre:活性化と創生

sponsored by 西和賀町

〈 この連載・企画は… 〉  岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000 人の小さなまちです。
住民にとって厄介者である「雪」をブランドに掲げ、
まちをあげて動き出したプロジェクトのいまをご紹介します。

writer profile

Hiroko Mizuno

水野ひろ子

フリーライター。岩手県滝沢市在住。おもに地元・岩手の食や暮らし、人にまつわる取材や原稿執筆を行っている。また、「まちの編集室」メンバーとして、「てくり」および別冊の編集発行などに携わる。

credit

撮影:奥山淳志、ユキノチカラ西和賀デザインプロジェクト提供
supported by 西和賀町

西和賀ならではの食ブランド、誕生

雪がもたらす岩手県西和賀町の魅力あるコンテンツを
全国へ発信していくためのブランドコンセプト〈ユキノチカラ〉
住民にとって厄介な存在だった雪を、しっかりタカラモノとしてアピールしていくため、
マイナスを逆手にとった発想、そして、これまでにない枠組みによってスタート。
小さなまちで生まれた〈ユキノチカラ〉は、
いま、全国のデザインプロジェクトの手本となる大きなムーブメントになろうとしている。

2016年3月22日、23日、東京ミッドタウンで開催された〈復興デザインマルシェ2016〉。
東北地方と茨城県から集まった35事業者のアイテムがずらり並ぶなか、
岩手から参加した西和賀町のブースには、2日間途切れることのない人の列ができた。

ブースの前には、1年がかりで立ち上げた新しい食ブランド〈ユキノチカラ〉の商品を
興味深く手にとってほおばるお客たち。
その様子を心配そうな面持ちで見守るのは西和賀町役場の高橋直幸さん、
〈ユキノチカラ〉プロジェクトの推進役だ。

高橋直幸さんは西和賀で生まれ育って、18歳で役場に入庁。以来、観光や農林、防災、県庁出向まで20 年間で約10 部署を経験してきたミスター西和賀!「西和賀食ってみでけろ隊」の立ち上げなどにも関わる。

〈ユキノチカラ〉とは、雪がもたらす西和賀の魅力あるコンテンツを
全国へ発信していくためのブランドコンセプト。
「西和賀は冬場の積雪量が10メートルにも及び、
2メートル近く雪が積もることもあります。
昔から雪は住民にとって厄介な存在でした」と直幸さん。

生活者にとってはマイナス要素の大きな「雪」だが、
それは西和賀の風景をつくりだし、土地の個性をかたちづくる重要な要素。
それをしっかりタカラモノとしてアピールしていくための考え方が
〈ユキノチカラ〉なのだ。

1年前から始動したこの取り組みの注目すべき点は、
マイナスを逆手にとった発想、そして、
これまでにない枠組みによるスタートだということ。
その経緯を少し振り返ってみよう。

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温泉も食べ物も豊富……でも、どうする?

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いったい、西和賀ってどんなまち?

岩手県の中西部、秋田との県境にある西和賀町は、人口6000人ほどの小さなまち。
三方を取り囲む奥羽山脈、南北に流れる和賀川、透明度の高い水をたたえる錦秋湖など、
目前に広がる豊かな大自然こそが、このまちのすばらしさといえる。
当然ながら、清らかな自然は四季折々のおいしいものを育てる。

西和賀の特産品「西わらび」を代表する山菜やキノコをはじめ、
土地ならではの工夫を凝らした、寒ざらしそば、納豆汁、大根の一本漬けなど
素朴な食べものは格別のおいしさだ。

また、豊富に湧き出る温泉も自慢のひとつ。
たとえば、温泉で熱した砂に埋まってあったまる〈砂ゆっこ〉
駅に隣接する〈ほっとゆだ〉、パーキングエリアから入る〈オアシス館〉など、
泉種も施設もさまざまだ。

そんな西和賀町で始まったのが、
「西和賀町・地域創生 地域づくりデザインプロジェクト」。
国の地方創生先行型交付金を活用した町の事業として、
2015年9月から動き出した全国初の取り組みである。

「魅力的なまちをどうPRしていくか」。
多くの地域が抱えている課題に対し、自治体と地元事業者、あるいは
地元事業者と外部デザイナーやアドバイザーなどがチームとなって取り組む例は
全国にも多く見られる。しかし、つくった商品をどう売っていくか?
デザイン面のみならず、販路拡大や商品開発における資金をどう調達するのか?
といったビジネス展開における知見が不足する例も少なくない。

そこで、このプロジェクトでは地元金融機関である北上信用金庫と共に
信用金庫のセントラルバンク信金中央金庫が全面的にサポート。
県内在住6人のデザイナーが各事業者とタッグを組んで商品開発を進めていくが、
デザイナーはパッケージデザインするだけでなく、
あくまでチームとして関わり、情報を共有していくことも重要な点だ。

さらに、岩手県工業技術センターがアドバイザーとして支援し、
プロジェクトの運営や広報に関しては、
グッドデザイン賞を主催する日本デザイン振興会がとりまとめる。
地域資源を活用した魅力ある商品を、「つくる」ことから「売る」まで
トータルでバックアップし、デザインでまち全体が稼ぐ力を育てていくのだ。
冒頭の直幸さんは、当時6次産業推進の特命担当であり、
プロジェクトの窓口として駆け回った。

きっかけは北上信用金庫からまちに対する提案だった。
担当者である高橋祐樹さんも、このまちで生まれ育った住民のひとり。
仕事における各事業者とのつながりが深いのはもちろん、昔からの顔なじみも多い。
金融機関としての立場だけでなくまちに暮らす生活者として、
ソトとナカをつなぐハブ的ポジションにある。

高橋祐樹さんは、西和賀の湯之沢地区にあるにある豆腐店がご実家。「ユキノチカラなんて、地元住民だけでは思いつかない発想でした」とプロジェクトスタート時を振り返る。

「信金では以前から西和賀観光振興のコンサルティングを行ってきた経緯もありますし、
ふるさと納税の返礼品を取り入れるにあたって、
地元事業者から新商品開発やパッケージの刷新に向けた相談を受ける機会も
多くありました。そうした現況を踏まえて、
信金中央金庫に相談したところ、ちょうどこのプロジェクトの話を知り、
町に提案しました」。

信金からの提案を受けた西和賀町では、
西わらびなど既存の特産品に付加価値をつけるチャンスと捉え、
さっそく2015年度初めからチーム編成に動きだす。

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初年度はこんな商品をつくりました!

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土地に暮らす人の逞しさこそが、ユキノチカラ!

そして、2015年6月。デザインチームと地元事業者らが一堂に会し、
どんな商品をどう展開していくか、ブランドコンセプトについて何度も話し合いを重ねた。
「デザインチームと事業者の話し合いの場面は、見ていてもワクワクした」と直幸さん。
主役となる事業者の声を聞きつつも、ときに根本的な考え方を問いながら、
デザインチームが打ち出したコンセプトこそが〈ユキノチカラ〉なのである。

たっぷり積もる雪を西和賀の大切な資源と捉え、
雪のもつ透明感や素朴さ、雪の多い冬を乗り越えて生きる
西和賀のパワーをイメージしたブランドロゴは、
シンプルながらも温かみや素朴さを感じるデザインにしあがった。
「ユキノチカラは冬だけのものではなく、冬の厳しさを越えて生まれる、
この土地の人の逞しさや大らかさ、しなやかさも象徴したもの。
春夏秋冬すべてにおいてユキノチカラをコンセプトにまちの魅力を発信していくつもりです」
と直幸さん。
そのデザインコンセプトに迷いはない。

第1弾となる〈ユキノチカラ〉商品が誕生したのは2016年3月。
西和賀の特産品である西わらび、そば粉、牛乳、米、そして清らかな水などを使った
6事業者の商品が〈復興デザインマルシェ2016〉に出揃った。

そこには事業者や町役場の人間だけでなく北上信用金庫職員、
デザイナーたちも駆けつけた。
エプロン姿でお菓子を勧めるスタッフのなかには、
北上信用金庫の祐樹さんらの姿も……。
「以前から観光振興コンサルの業務を展開してきた信金では、
販路拡大のイベントでブースに立つことにも慣れてますから。普段通りですよ」
と祐樹さんは笑う。

駆け抜けるように経った1年———
この土地で生まれ育った直幸さんにとって
第1弾となる「ユキノチカラ」商品誕生までの過程に関わったことは
「自分たちのアイデンティティーを知る機会になった」と振り返る。

直幸さんや祐樹さんをはじめ、まちにはやたらタカハシさんが多い! 「あっちもこっちも高橋なんで、住民どうしでは下の名前で呼び合っています」とおふたり。

次回は、新潟にて「里山十帖」を運営する
クリエイティブディレクター・岩佐十良さんが西和賀を訪ねます。
岩佐さん、「地方の魅力、どう売ればいいですか?」

岩手県西和賀町・ユキノチカラプロジェクト

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