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連載

有田焼創業400年 
ARITA EPISODE2の胎動 後編 
コラボレーションの未来型

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.042

posted:2015.2.24  from:佐賀県有田  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

前編:【有田焼創業400年 ARITA EPISODE2の胎動 前編 技術の「伝承」と新しい「伝統」の第二章にむけて】はこちら

1616年にうまれた有田焼。来年、創業400年を迎える。
これまでの400年を「ARITA EPISODE1」として、
その第2章「ARITA EPISODE2」が動き始めた。
今回は新しい有田焼のプロジェクトを紹介しよう。
まずはテクノロジスト集団「teamLab(チームラボ)」 による
未来の有田焼をイメージしたデジタルアート映像から。

「未来の有田焼があるカフェ」

「未来の有田焼があるカフェ」。teamLab による有田焼デジタルアート。

これは昨年、佐賀県立九州陶磁文化館で行われた展示の様子。
有田焼のイメージはいまさまざまなクリエイターとのコラボレーションによって進化している。

「2016/ project」

いま有田は世界中のアーティストに注目されている。
有田というまちを「世界のクリエイターが集まる聖地」にしようという動きだ。
有田焼の窯元や商社と世界のデザイナーによるコラボレーションを行う。
さらに地元のまちづくりや教育、研究機関と連携しながら、
滞在型ワークショップや交流の場を創出する「プラットフォーム」にしようというもの。
その中核的なプロジェクトが、16の有田・伊万里の窯元と商社と
16組の世界のデザイナーがひとつのブランドを作り上げる「2016/ project」である。
クリエイティブ・ディレクターとして
「1616 / arita japan」も手がけるデザイナーの柳原照弘さん、
Co.ディレクターとしてオランダのデザイナー、
ショルテン&バーイングスさんが関わっている。
現在、オランダ、スウェーデン、イギリス、アメリカ、スイス、ドイツ、フランス、日本という
8か国のデザイナーが参加している。

柳原照弘さん。1976年 香川県高松市生まれ。「1616 / arita japan」、「2016/ project」のクリエイティブ・ディレクター。

「2016/ project」のクリエイティブ・ディレクター、柳原照弘さんにお話を伺った。
「有田は小さなエリアにいろんな窯元と商社が集まっているまち。
約150の窯元、200以上の商社があるといわれているんです。世界的にみても珍しい。
海外の方に話をすると、有田はひとつの会社だと思っている人もいる。
普通はひとつの会社が大きく拡大していくのに対して、
たくさんの窯元と商社が集まって全体として有田焼を形成している」

その多様性に世界各国のデザインセンスがかけあわされて、
有田焼が歴史や技術と共に世界中のさまざまな場所へ届き使われ、
未来に継承されていくことを目指すのが「2016/ project」だ。
コラボレーションはどんなかたちで行われているのだろうか、柳原さんにお聞きした。

「窯元さんには今までの有田焼の概念をいったん忘れてください、と言っています。
いったんゼロになったうえでデザイナーのアイデアや意見を聞き、
プロフェッショナルとして本気になってもらう。
それぞれが役割を全うして力を出し切って生まれたものが、
これからの有田焼になっていくと考えます」

そもそも有田焼はこうだから……という固定観念を窯元自体が捨てていくことで
イノベーションが生まれるわけだ。ではデザイナーに対してはどうだろうか。

「デザイナーに対しては歴史をできるだけ知ってほしい。
しかし歴史をなぞることはしないでほしい、と言っています。
日本風に有田焼のお茶碗をつくるとかではなく、
その技術を自分たちの国での生活のなかで使えるものとして提案してほしい。
参加しているデザイナーはそれぞれの国ということを超えて、
世界中にマーケットを持っています」

16組のデザイナーが持つ世界市場。そこにアジャストした新しい有田焼のスタイル。
それが「2016/ project」。それぞれの新作は2016年の4月にミラノサローネで発表の予定だ。

「2016/ project」。スイスを拠点とするデザインユニット「BIG-GAME(ビッグゲーム)」が有田の窯元で熱心にリサーチを重ねる。撮影: Kenta Hasegawa

柳原照弘さんと在日オランダ王国大使館・報道・文化部のイネケ参事官。「2016/ project」を実施している佐賀県はオランダ王国大使館とも連携協定を結んでいる。有田焼とオランダの関係は江戸時代のオランダ東インド会社(VOC)にまでさかのぼる。撮影: Kenta Hasegawa

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インゲヤード・ローマンとの出会い

16組のデザイナーのなかでも特筆すべきは
スウェーデンを代表するデザイナー、インゲヤード・ローマンさんの参加だ。
スウェーデンのガラス工芸文化をつくったキーパーソンでもある。
柳原さんは彼女に初めて会ったときのことをこう語る。

「彼女のスタジオを訪れるとテーブルセッティングがされていて、すばらしいもてなしでした。
そのなかにさりげなく彼女の作品もある。日常と作品がすべて結びついている」

素晴らしい器のデザインだけでなく、その器が置かれる状況や食事、
空間のすべてが丁寧にコーディネイトされていたのだ。

「海外ではデザイナーの概念は広いんです。日本ではすべてが決まってあとの、下流にいる。
デザイナーは本来もっと上流で、その空間のすべてを考える仕事なんです」

「デザインする状況をデザインする」という、柳原さんのデザインの基本姿勢がうまれたのは
まさしくインゲヤード・ローマンさんとの出会いだった。
この出会いがきっかけで柳原さんはデザイナーを目指したのだという。

スウェーデンを代表するデザイナー、インゲヤード・ローマンさん。「『2016/ project」は私にとっても重要なプロジェクト」と語る。撮影:Kenta Hasegawa

有田の交流拠点のひとつNEW ADDRESS。古民家をリノベーションした味わいある空間。撮影:Kenta Hasegawa

「1616 /arita japan」

柳原さんが初めて有田焼に関わったのは、いまをさかのぼること7年前。
有田を代表する商社のひとつ「百田陶園」との出会いだった。
その百田陶園が展開し、柳原さんがデザインを手がけるブランド「1616 /arita japan」は、
コンテンポラリーな有田焼を代表するシリーズである。

「パンケーキが食べられるお皿を目指しましょう、ということで始まった、
テーブルにおいて使う器で、ナイフとフォークを使う有田焼です」

いままでの有田では考えられないデザインだった。
たとえば高台(卓に接する脚の部分)がない食器などは違和感があるとも言われた。

「しかし400年の歴史をみてみると、昔の有田焼は海外の文化を取り入れていたんです。
そしてオランダ東インド会社(VOC)を通じて世界に輸出していたんです。
自分たちが使ったことがないようなコーヒーカップやワインのピッチャー、
髭剃りの受け皿までつくっていたんです。
江戸時代、明治期と有田焼は海外とのコラボレーションを行っていたのに、
閉じてしまっているのは現在だけなんです」
だから「日本のマーケットを狙わずに、あえて彼らの需要にあうものをつくろうと、
60アイテムほどつくった」と言う。
そこで柳原さんは「有田のひとたちが持っているクオリティの高さ」を目の当たりにする。
「たとえば焼成時間。20時間以上焼きしめる。焼きしめは長いほど固くて丈夫なものができる。
しかしそれはコストにかかってくる。単純にいえば8時間でも器はできる。
見た目は同じ、しかし衝撃に弱い。
割れたら買ってくれるという考えもあるけれど、そうはしない。
有田では見えないところでもしっかり仕事をするという、
有田の窯元が持っている暗黙のプライドがあるんです」

400年の歴史のなかで有田焼が有田焼たるゆえんとは、
かたちや絵付けの様式ではなく、「一番いいものをつくるという誇りを失わないこと」だと
柳原さんは実感した。

「1616 / arita japan」柳原照弘さんのデザインの新しい有田焼。スクウェアボウルはコロカル商店でも扱っている

「1616 / arita japan」は2012年の国際見本市ミラノサローネでデビュー。
次の年の「エル・デコ」のインターナショナルデザインアワードのテーブルウェア部門で
グランプリを受賞した。そして「有田焼世界一」という記事が新聞に載った。
「その記事を見た佐賀県の前知事から連絡をいただいたのが、
有田焼創業400年事業への参加のきっかけです」と柳原さん。
「『1616 / arita japan』は百田陶園とのプロジェクトですが、
『2016/ project』は一社でなくより多くの人たちが関わるプロジェクトです。
もともとまち全体を世界とつなげたいということを考えていたので、
県からのお話はぴったりでした。
たんなる商品開発が目的ではなくて、それを通じて有田というブランドが広がる。
それが有田に戻ってきて地域で横につながるというプロジェクトなんです」

「2016/ project」のクリエイティブ・ディレクターである柳原さんと、Co. ディレクター(Co-director)であるショルテンさん、16の参加事業者の写真。撮影:Kenta Hasegawa

さまざまな窯元が参加する「EPISODE2」。海外のライフスタイルにあわせて「手でもたない食器」をコンセプトにした「1616 / arita japan」に対して、逆に「手で持つ和食器」の文化を欧米へと展開したのが深川製磁の「アルテ・ウァン」だ。ウァンとは「碗」のこと。ミラノからデビューした新しい有田焼のひとつ。深川製磁は有田焼を代表する窯元のひとつで120年の歴史がある。提供:深川製磁株式会社

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トップシェフとのコラボ、プロユースプロジェクト

有田焼のコラボレーションは海外のデザイナーとだけではない。
世界トップとのコラボレーションで、プロの料理人のための
有田焼を創りだしていく、それが「プロユースプロジェクト」である。

有田焼は料理と出会うことで食器として完成する。世界トップシェフとのコラボレーションでプロの料理人のための有田焼をつくりだしていく、プロユースプロジェクト。写真提供:佐賀県

一流のシェフが有田焼の可能性を最大限に引き出していく。発掘された初期伊万里の陶片の雰囲気を模し、あえて一部を欠けさせた李荘窯業所の皿。そこに料理を盛りつけることで料理がアートになる。写真提供:佐賀県

李荘窯業所・寺内信二社長

プロユースプロジェクトのキーパーソンのひとりが李荘窯業所の寺内信二社長だ。
李荘窯業所は伝統性を重んじた平成古伊万里と評される
染付から形状やテクスチャーにこだわったモダンな作品まで幅広い作陶を行っている
有田焼の窯元のひとつである。

「シェフの仕事は皿に盛られて初めて作品が完成する」と寺内さん。
「同じように器も料理が盛られて初めて完成すると考えています。
だから器は70%ぐらいの完成度がちょうどいい」

昔は洋食に有田焼を使うということはほとんど考えられなかったという。
その理由はナイフ、フォーク、スプーンなどの金物類、カトラリーを使うと
有田焼の釉薬の表面は柔らかいので傷が入ってしまうからだ。
しかしここ数年、そこに変化が起きている。

「海外で和食が評価されるようになってきて、
そのなかで日本の食器も使われるようになった。
ここ数年で、それにともなってトップシェフたちの
料理の見せ方も変わってきた」と寺内さん。
「昔は皿の真ん中に料理があって、それをナイフで切り分けるのが主体だった。
ところがここ数年で、盛りつけを中心からずらして
最初から小さいサイズにカットされて料理が提供されるというように
スタイルが変わってきたんです」
さらにソースで食べることから、素材の味を生かし自然のまま出すことが増えてきた。
また、お店の席数が減り、20席から50席の有名店が増えてきた。
「西洋の料理が日本食のスタイルに近づいてきた」ように感じたという。
「これならいける」と思った。
「有田焼は多品種少量生産に向いているんですね。
われわれが和食器をつくっているスタンスと変わらずできるんじゃないか」
海外のシェフたちの志向と有田焼の未来像が重なりはじめたことに気づいた、と寺内さん。
そして寺内さんは「すでに地位を確立しているトップシェフではなく、
若い世代のシェフたちに注目した」と言う。

「これから5年後、10年後に出てくる若いシェフたちをサポートをするのが
自分たちの役割じゃないかと思ったんです。これから伸びるひとたちです。
彼らには情報収集能力もあり、次の時代をつくっていこうという意識がある」と寺内さん。
「そんな若い料理人たちと話しながら、私たちも一緒に育っていこう」と考えたと言う。

プロユースプロジェクトは、
国内外のホテル・レストラン向けの見本市や
外食産業の見本市への出展などを行っている。
またこのほかにも佐賀県有田焼創業400年プロジェクトとしては、
日本酒の専門家などの協力を得て、
佐賀の酒を最大限おいしく味わうことができる酒器を開発する
「酒器プロジェクト」や、国際線機内食用の食器への参入など、
有田焼と「食」との「コラボレーション」は、
新たな市場開拓に向けてさまざまなかたちで事業化へと進んでいる。

李荘窯業所、寺内信二社長。伝統と革新を融合させ、有田焼の現代的なアプローチを進めている。球形のお重は、パリで開催された、欧州最大級のインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」でも注目を集めた。

ブラックホールのようなイメージを表現。一枚の皿の宇宙に料理がすいこまれるような一品ができた。提供:李荘窯業所

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デジタルデザイン技術で成形する新しい有田焼の世界

有田焼の最新形はデジタルデザインの分野でも目覚ましい。
佐賀県の窯業技術センターでは12年前からデジタルデザインが導入されている。
3DプリントやNC切削などで陶磁器を成形するための技術開発も
成果をあげようとしている。

「全国の試験研究機関と比べてみても
佐賀県の窯業技術センターは最高の水準であると言われています。
“型”とか“ろくろ”では成形できない
複雑な形状をした有田焼がつくれるようになりました」
と有田焼創業400年事業推進グループリーダー志岐宣幸さんは語る。

伊勢丹の高級おせちでも有名になった李荘窯業所の五段重ね重箱。2013年に売り出した銀座六雁とのコラボおせちは10万円近い値段にもかかわらず初日の予約開始数分で80セット完売した。写真提供:李荘窯業所

李荘窯業所の寺内さんもデジタルデザインを積極的に活用しているひとりだ。

「デザインは自分の手でおこして、それをコンピュータで3Dデータ化する。
ひとの手ではできないようなかたちでもつくれます」
専門的にいえば、3次元CADソフトRhinocerosを使い、
NC加工(数値制御の切削)をして型をつくる、という。
工業デザインでも最先端の分野の加工法だ。
「それでも焼くと10数パーセントは縮むんです。
焼き上がりが完全な球形になるようにデータを補正しながら作成する」と寺内さん。
最終的に職人の経験がものをいう。

また有田草創期の初期伊万里は素朴なゆがみが「味」として珍重されたりしてきた。
その「味わい」もデジタルデータで再現できるようになった。
古い伝統的なかたちに現代的な色彩を重ねあわせる作品も生まれてきている。

「ほんのり手づくり感があるようにして、
家庭のなかでもあるいは料理屋のなかでもじゃましない器になる。
料理が盛られたときちょうどいい完成度になる」と寺内さん。
400年のときを超えて初期の伊万里がデジタルデータで復活する、
それを欧州の新進気鋭のシェフたちが創作料理でコラボレーションする。
伝統と先端技術の融合、食と器のコラボレーション、地域デザインとひとづくり。
古くて新しい有田焼の世界だ。
有田焼創業400年事業「ARITA EPISODE2」は、陶磁器に限らず、
あらゆる製造業が抱える問題解決のヒントがつまっている。
これから日本のものづくりが再生するためのモデルがある。

Information


map

有田焼創業400年事業総合ウェブサイト

http://arita-episode2.jp/

2016/ project

http://www.2016arita.com/

1616/arita Japan

http://www.1616arita.jp/

李荘窯業所

http://www.risogama.jp/

深川製磁株式会社

http://www.fukagawa-seiji.co.jp/

コロカル商店でもお買い求めいただけます。

柳原照弘さんデザインの「Standard」シリーズ

・スクエアプレートセット

https://ringbell.colocal.jp/products/detail.php?product_id=2004

・スクエアボウル

https://ringbell.colocal.jp/products/detail.php?product_id=2010

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