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イノベーションを
生み出す試作の場。
新しいものづくりを
するひとが集まる拠点 
DMM.make AKIBA 後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.038

posted:2015.1.27   from:東京都秋葉原  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

前編:総額5億円の機材で、ハードウェア・スタートアップを支援する。DMM.make AKIBA 前編 はこちら

秋葉原でハードウェア・スタートアップの拠点としてオープンしたDMM.make AKIBA。
アイデアや技術を持った個人や小さな会社が製品をつくり、
投資を受けたり、コンサルティングを受けながら、
製品を世に出すところまでをサポートする、ものづくりの拠点だ。
「DMM.com」と、ハードウェア・スタートアップに投資する「ABBALab(アバラボ)」、
ノウハウを提供する「Cerevo(セレボ)」という3つの会社が出会うことで生まれた。
今回はそのキーパーソンのおふたりにお話を伺った。

小笠原治さん

ABBALab代表取締役の小笠原治さん。

DMM.make AKIBAは、どんな経緯で立ち上がったのか。
ABBALab代表取締役の小笠原 治さんにその全体像をお聞きした。

「これから新しいものづくりをするひとが生まれてくる。
その市場にどういうかたちで入るか。
そんな話をDMMのオーナーさんとしたところから始まりました。
まずは3Dプリントの出力サービスから始まり、
そこのプロデューサーをやらせていただくことになり、
そういうひとたちが集まれる場をつくってもいいかなということで、
2014年の7月に場づくりがスタートしました。
キーコンテンツとして若手のインディーズメーカーなどが集まる仕組みをつくり、
その目指すべき姿ということでCerevoさんが参画しました」

3社それぞれの役割としては、まずDMMが「場所」を提供、運営をしている。
そこにものづくりをしたいひとが相談に来たり、シェアオフィスに入居する。
実際にハードウェアのプロトタイピングのノウハウを提供するのがCerevo。
売ることまで見据えた量産試作に対してABBALabは資金を提供する。
さらにできあがった商品を実際にディストビリューション(流通)
させる段階になると、DMMが担うという連携だ。

「インターネットの世界で起きていたことが、
いまハードウェアの世界でも起きている」と小笠原さんは語る。
「部品とかソフトウェアが汎用的なものになると専門知識は必要なくなる。
それによって開発チームを横断していろんなひとが参加することが可能になるんです」
インターネットと家電、このふたつが交わり、人材が流動化することで
いま新しい波が生まれているという。
そのためにネットとハードウェアのひとが出会えるような場所を
プロトタイピングしたのがDMM.make AKIBAだ。

「まずつくってみよう。手を動かしてみよう、
つくりながら考えてみようということで、ホワイトボードから床やテーブルまで、
目に見えるものは全部自分たちでつくってみました。
アメリカの工場を解体するって聞いたので
廃材をコンテナ2個ぐらいガサっと持ってきて、
職人さんを呼んできてセルフビルドしました。
建築の業界も“モジュール化”しているんですね。
職人さんがいて現場で指示や判断できるなら、2か月くらいでつくれちゃう」
創造性が生まれる空間、ものづくりのスピリットが感じられる場づくりを心がけた。

扉にある「“OPEN、SHARE、JOIN”のメッセージにも
この場所への想いが込められている」と小笠原さん。
“OPEN”は、オープンソース、オープンマインド、オープンイノベーション
という意味です。“SHARE”とはシェアオフィス、シェアファクトリー。
場所をシェアすること、サーバをシェアすることだけでなく
知識やスキルをシェアすることも含まれます。
ひとりや1社では買えない機械を貸し出すことによって、
みなでつながることができる。それが“JOIN”です」

扉には「OPEN」「SHARE」「JOIN」の文字

扉には「OPEN」「SHARE」「JOIN」の文字が。

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IoT デバイス「Listnr」

音でスマート家電の操作やスマートフォンへの通知ができる IoT デバイス「Listnr」。録音した音声はクラウドサーバーへ自動でアップロードされ、サーバ側の音声認識エンジンで音声を解析することができる。スマホのアプリに連動させたり、音をきっかけにさまざまなデバイスをコントロールすることも可能だ。

音声解析するリスニングデバイス「Listnr」

ここから生まれた製品として「Listnr」がある。
製品づくりのノウハウを提供し、スタートアップをサポートした
株式会社Cerevo 代表取締役CEO 岩佐琢磨さんはこう語る。

「Listnrは簡単にいえばネットにつながったマイクです。
音のセンサーがついていて、声や音でさまざまな操作ができる。
API(技術仕様)を公開して、
このデバイスを使ったアプリなどをつくれるよう提供しています。
この製品は“声や音で家電製品を動かせたらいいな”というアイデアを持った女性が
ここに相談にきたところから始まりました。
彼女はハードウェアや製造のことなどまったくわからなかったのに。
DMM.make AKIBAには「HUB」という相談窓口があるのですが、
そのアイデアに関してCerevoが協力し、
その技術はパナソニックとのコラボレーションで実現できるとわかった。
起業したい気持ちもあるということで、
ABBALabがスタートアップの資金を提供しました。
彼女は「Interphenom」という会社を起業し、
DMM.make AKIBAでプロトタイプをつくりました。
現在、クラウドファンディングサービス Kickstarter
量産化にむけての資金をさらに調達しているところです」

デザインはスマート電源タップ「OTTO」などを手がけた
デザイナーの柳澤郷司氏が担当。製品はDMM.make AKIBAの3Dプリントで造形し、
すべてモジュールを組み上げるかたちで製品ができている。
こうしてでたListnr は米国ラスベガスで開催された家電展示会「CES 2015」にも出展、
注目を集めたという。こういった家電展示会などへの出展やPR計画など、
ノウハウの提供もCerevoが行った。

岩佐琢磨さん

株式会社Cerevo 代表取締役岩佐琢磨さん。家電のスタートアップのプロ。これまでさまざまなイノベーションを生み出してきた。

「家電のスタートアップ」を手がけるCerevo岩佐琢磨さん

岩佐さんはこのほかにも数多くの「家電のスタートアップ」を手がけてきている。
もともと大手家電メーカーにいて、業界の変化をつぶさに見てきた。
「2007年ころデジタル家電革命といわれたものがトリガーになって、
ものづくり環境に変化が起きた」と岩佐さん。
それが2011年になると「世界的な大きな波となっていくのを実感した」という。
ものづくりを変えた流れを岩佐さんは以下のように説明する。

「3Dプリントのようなデジタルファブリケーションによって
ものがつくりやすくなったのか? という質問には答えはYESなんですけど、
それだけではない。
ものづくりを変えたのは”モジュール化””EMS””オープンソース”の3つなんです」
それによって小さな会社による「ニッチなハードウェア」が
次々と生みだされるようになったという。詳しく聞いていこう。

その1:モジュール化

「既製部品の組み合わせで、あらゆる製品がつくれるようになったんです。
マイク、液晶ディスプレイ、チップ。
昔はすべての部品を自社でつくれるのは大手しかなかった。
いまでは必要なパーツを購入して組み合わせて、
デザインと発想でものがつくれるようになったんです」
標準化した部品の組み合わせで製品を設計するモジュール化の動きが
家電業界を変えたのだ、と岩佐さんは言う。

その2:EMS

あらゆる製品がモジュール化する動きに加えて、
2つ目の要素はEMS(electronics manufacturing service)だと言う。
いわゆるアジアの工場化。
「そうはいっても最後にねじをしめるのを誰がやるの、
説明書をきれいにふたつに折ってパッケージに詰めるのを誰がやるの。
それは工場を持ってないとできないでしょ?
それがアジアの工場に頼めば50個でも1000個でもやってくれる
という時代になったのが、2006年くらいから。
それがEMS(electronics manufacturing service=アジアの工場化)なんです」
アジアの工場を使うことで、
自前の工場を持たずとも製品を商品化することができるようになった。

その3:オープンソース

「そして3つ目の要素が、オープンソースです。
デジタル家電はチップのなかにソフトウェアを書かなければならない。
それをつくるのに人件費だけでも何千万とする。
しかし今はその7〜8割はネット上に公開されている
オープンソースのソフトウェアを使って、
あとの2〜3割をつくればいいということになった」
この3つの要素が「ものづくりを変えた」と岩佐さんは考える。
つまりアイデアさえあれば、誰もがハードウェアをつくれる時代、
そのための場がDMM.make AKIBAなのだ。

「DMM.make AKIBA Studio」

DMM.make AKIBA Studio。モジュールを組み合わせることで、あらゆる製品のプロトタイプをつくれる場所を目指している。

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イノベーションを生み出す発想とは。

岩佐さんは2007年に大手の家電メーカーを辞め、
Consumer Electronics(家電)をRevolution(革新)するという思いをこめて
Cerevo(セレボ)という会社を起業した。
大手の家電メーカーとは別の道を行くという発想はどこから生まれたのだろうか。

「当時大きなメーカーが向かっていた方向は、
とにかくマスが求めるものを安くたくさんつくることだった。
たとえば“歯ブラシ”という商品があるとしたら、
その100円のものをなんとか99円で売ろうとしていた。
そのために色やデザインを工夫したり、流通に交渉したりして、
一本でも多く売ることを考えていたんです。
しかし僕が向かいたかった方向はそもそも
“歯を磨くために、歯ブラシ以外で磨く方法はないか?”とか
“そもそも歯を磨かなくてもいい歯をつくることはできないか?”というような
発想の転換だったんです」と岩佐さん。
まさにイノベーションの発想そのものと言える。さらにこう続けた。

「たとえば歯磨きロボットをつくったとします。
そういうものは急には売れないわけです。
歯ブラシは日本国民全員持っているでしょうけど、
新しいものはせいぜい1万台くらいしか売れない。
1台10万円くらいするかもしれない。
しかし30年後は、歯ブラシを使う人はいなくなっているかもしれないんです。
昔は歯ブラシを使って手で磨いていたよね、ということになるかもしれない」

そして、「ひとことで言えばニッチということかもしれませんが、
誰かが始めなければならない」と話した。

これからの「つくる」のヒントはこんなところにあるのかもしれない。
とはいえヒット商品を生み出さなければ、企業は生き残れない。
革新的なアイデアがブレイクスルーし、
「キャズム(Chasm=一般のひとに拡大するポイント)」を超えるためには
どんな発想が必要なのだろうか。

「数字でかしこく狙ったものは超えられないと思いますね。
市場から考えていくところからキャズムを超える商品は生まれない気がします。
イノベーションは変人の発想から生まれることが多くて、
発想した瞬間は市場が無いものだったりします。
商品ができたとによって、それがきっかけで市場が生まれるもの、
最近だとGoProとかそうかもしれませんね。
サーフィンしていてWoW! ってなるようなカメラつくろうぜってつくってみたら、
世界中のサーファーがみな買った。実質キャズムを超えましたね。
これがサーフィン市場や防水カメラの市場というところからでは生まれない。
仮に市場があるということが前提で始まったとしても、
各社参入して値段の下げあいが始まり良い市場にならなかったと思うんです」

投資を決めるジャッジルーム

投資を決めるジャッジルーム。無跫音(むきょうおん)の部屋。投資プログラム参加者は毎月発表を行う場が用意され、そこで支援継続、支援追加、支援中止のジャッジを受けることになる。

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things=物事の変化をとらえることができているか

DMM.make AKIBAから生み出されるアイデアは、
さまざまなハードウェア・スタートアップ向けの
支援プログラムを受けることで製品化していく。
ABBALab代表取締役の小笠原 治さんは、
ここでスタートアップ向けのシードアクセラレーションプログラム
「ABBALab Farm Program」を展開する。
そこに集まるひとに投資をしていく際、どのようなジャッジが行われるのだろう。
小笠原さんに聞いてみた。

「評価のためのマトリクスがあるんです。
つくろうとしているものを、僕は“things”と言っているんですが、
物事の変化をとらえることができているかとか。
インプットとロジックとアウトプットができているかを評価軸とします。
インプットとは動作を変化ととらえる。
デバイスよりロジックを優先しているか、
そしてリアルタイムのフィードバックとアーカイブ化など
僕らなりの評価軸があるんです。そして、本人にどれだけやる気があるか、ですね」

投資の評価を決めるジャッジルームは音がまったく響かない「無跫音室」という構造だ。

「無音響で平場で投資家10人を前にプレゼンするという、
なるべくプレゼンがやりにくい環境をつくったんです。
圧迫面接のような。そこでプレゼンできるようになれば、
どこでもしゃべれるという場です。ここは全部、完成品手前の試作の場なんです」

今後の展開

最後に小笠原さん、岩佐さんのおふたりに、
DMM.make AKIBA の今後の展開をお聞きした。
2年後、3年後にここではいったい何が起きているのだろう。

岩佐さんは「あの製品ってじつはここから生まれたんだよとか、
その後アメリカに移ったけどスタートアップは秋葉原だったと言われているような
場所になっているイメージですね。そういう会社が何社もいるというのが
目標・目的であって、実際にそうなっているんじゃないかと思っています」

小笠原さんは「僕は想像もつかない状態になっていてほしいので、
決めたくないですね(笑)。
でも、もっと交わっているイメージです。
ソフトやネットのひとたちが、ハードウェアを生み出しているとか。
いままで主要プレイヤーでないひとが、
ハードウェア・スタートアップを構成しているようなイメージです」

Information


map

DMM.make AKIBA

住所:東京都千代田区神田練塀町3富士ソフト秋葉原ビル 10F/11F/12F

https://akiba.dmm-make.com/

株式会社ABBALab

http://abbalab.com/

株式会社Cerevo

https://www.cerevo.com/ja/

interphenom

http://interphenom.com/

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