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連載

総額5億円の機材で、
ハードウェア・スタートアップ
を支援する。
DMM.make AKIBA 前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.037

posted:2015.1.20   from:東京都秋葉原  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/

「ものづくり」のかたちを根本から変える拠点

2014年11月、東京・秋葉原にハードウェア・スタートアップを支援する
ものづくり施設「DMM.make AKIBA」がオープンした。
3Dプリントやレーザーカッターや各種検査機器など、
総額5億円の機材が使えるものづくり拠点だ。
近年、3Dプリントの登場で物の生産のあり方が大きく変わり、
従来企業でしかできなかった製品が個人で作れるようになった。
いわゆるMAKERSムーブメントともよばれる動きだ。
ものづくり”のかたちを根本から変える「第三の産業革命」とも言われる。

このDMM.make AKIBA は、デジタルツールをはじめ、
検査機器など各種機材150点を自由に使えるほか、
シェアオフィスや、ライブラリー、共用カフェスペース、
イベントなどでオープンイノベーションを促す。
さらに各種コンサルティング、投資家による支援の仕組みなど、
ものづくりのスタートアップをサポートする機能を備えているのも特徴だ。
誰もが製造業の起業家になれる時代のプラットホームである。

フリーアドレスのシェアスペース

フリーアドレスのシェアスペース。入居者は自由にデスクワークに使える。ワークショップやイベントにも使える。壁はホワイトボードになっている。プロジェクターで情報を投射。

ハードウェア・スタートアップの拠点

DMM.make AKIBA総支配人の吉田賢造さんにお話を伺った。

「テーマとしてはハードウェア・スタートアップを
ここから生み出そうということで始めました。
3Dプリントなどを活用したものづくりが手軽にできるようになり、
これからハードウェアがのびてくるんじゃないかと。
その拠点として提供できるスペースとして、
ものづくりのまちである秋葉原にオープンしました」
「こういう施設はいろいろあるけれど、
機材をここまでそろえているところは日本では初。世界でもまれだと思います」

もともとDMM.comはEC、物流、決済まわりなど、
B to CのWEBサービスを手がけてきた。「DMM.make AKIBA」は
DMM.comとしてのオリジナル商品の開発を目指すこともねらいにあるという。

「自分たちの気持ちとしてはここから面白いガジェットであったり、
スマートフォンツール、世界で展開できるようなものを生み出したい」と吉田さん。
そのための相談窓口をつくり、投資プログラムやビジネススキーム、
スタートアップのノウハウを提供している。

「新たにハードウェア・スタートアップを考えているひとに、
できない要因をクリアしていく。それは機材の提供に始まり、
場所の提供、お金がない場合は投資プログラムを紹介する。
どうやってつくっていいかわからないというひとには
製品開発のノウハウを提供する。できない要因をクリアしていくんです」

現在、事前登録された会員が300名ほど。
投資を受けてスタートしたプロジェクトも10件ほどあるという。

吉田賢造さん

DMM.make AKIBAの総支配人、吉田賢造さん。

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筋電義手「handiii(ハンディ)」

実際にDMM.make AKIBAでスタートアップした製品を見せていただいた。
最近、さまざまなメディアでもとりあげられている義手「handiii(ハンディ)」。

「20代のエンジニア3人がつくった製品です。
腕の筋肉が発する電気信号を、
スマホ端末とアプリを使って動かす『筋電義手』と言われるもの。
3Dプリントでパーツをつくりあげています」
もともと大手家電にいた3人がプライベートプロジェクト開発を経て独立。
DMM.make AKIBAを拠点に投資を受け、「exiii」として法人化した。
3Dプリントやスマホなどの最新技術を活用することで
安価な義手「handiii」の量産を目指している。
こういった先端技術や個人のアイデアをもとに試作品をつくり、
具体的な製品化、市場投入までをサポートするのが
DMM.make AKIBAの役割であるという。

3Dプリントでつくった義手「handiii(ハンディ)」

3Dプリントでつくった義手「handiii(ハンディ)」。腕の筋肉が発する電気信号を介して動かす。スマホ端末とアプリを使って稼働する。

11階は3Dプリントを設置した「DMM.make AKIBA Hub」
exiii のようなMAKERSが次々と集まり、
さまざまなハードウェアのスタートアップが進むDMM.make AKIBA。
場所は秋葉原駅の近く、富士ソフト秋葉原ビルにある。
10〜12階はそれぞれ「Studio」「Hub」「Base」と名付けられた。
会員向けのフロアを見学させていただいた。
案内してくださったのはテクニカルマネージャーの下池幸司さん。

下池幸司さん

テクニカルマネージャーの下池幸司さん。

最初に訪れたのは11階の「Hub」フロア。
部品の選定や資金調達、ハードウェア開発にまつわる
各種相談を受け付ける窓口になっているほか、
3Dプリント、レーザーカッターを設置し、
各種機材に関する法人向けのコンサルティングサービスを提供している。
またサイト上でデータをアップロードし、
3Dプリントでパーツやフィギュアなどの造形物を製作する事業も展開している。

精巧な製品をつくり上げる3Dプリンター

3Dプリント、レーザーカッター。ABSライクなど、さまざまな素材を立体的に造形し、精巧な製品をつくり上げる3Dプリント。金型を使わずに直接製品をつくれるため、ユーザーが求める商品を即座に低コストでつくることができる。

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10階の「Studio」「DMM.make AKIBA Studio」

10階におりて、電子ロックされた入り口を抜けると「Studio」エリア。
電子工作から量産向け試作品の開発・検証までが行える。
「ものづくりのためのワクワク感を大切にしたい。
扉を開けたら自分たちの“秘密基地”といったイメージです」と下池さん。
「Studio」では図工室にあるような基本的なDIY工具から、
高性能の5軸CNC(切削機)、CADや半導体の設計まで本格的な製造が使える。
個人ではなかなか所有できないプロユースの機材も多い。
「ここでつくれないものはない」というほど、その種類は豊富だ。
手作業で対応できないミクロン単位の電子基板の設計に対応した機材から、
高額な3D CADソフトを使えるPCルーム、
ウェアラブルデバイスを洋服に縫い付けるためのソーイングマシンなど。

「ここにある機材はガイダンスを受けることで使うことができます。
使用に慣れたらライセンスを発行して
さらに自由に使ってもらえるようにしています」
それぞれの機材には使用条件がステッカーで記されていて、それに従い使用可能。
使い方はそれぞれスタッフがサポートしてくれる。
製品の環境試験から量産試作、小ロット量産まで行える各種機材を用意している。

それぞれの機材に貼られた使用条件ステッカー

それぞれの機材には使用条件がステッカーで記されている。S=スタッフ立ち会い、¥=有料、R=要予約、L=ライセンス必要。

「Studio」の共有スペース

「Studio」の共有スペースでは会員たちがそれぞれのペースで、ものづくりを進めている。

声に反応するデスクライトを試作中のメンバー

声に反応するデスクライトを試作中のメンバー。音声でアームが動いて手元を照らす作動確認中。

PCルーム

PCルーム。PCルームでは通常、数百万円するCATIAのようなハイエンド3D CADのソフトを使うことができる。個人でモデリングしたものをその場で3Dプリントアウトして形状を確認しながらの作業にも対応。

ハードウェア開発に必要な本格的な試験機材

「Studio」では、ハードウェア開発に必要な本格的な試験機材が
各種導入されているのも特徴だ。
たとえば恒温槽では何百度という温度での検査ができる。

「製品を輸出するときに、太平洋を船のコンテナで輸送したら
何日も高温にさらされます。その状況化で現地に着いたあと製品が壊れないかとか。
ほかにもマイナス何十度という極寒の地から
急に暖かい部屋に入ったときの温度差でひび割れないかなど、
製品の販売前に厳しく検査する必要があります。
ほかにも配送するときトラックなどの振動で壊れないか、
梱包して検査することも必要なんです」

そのほか雷を発生させる装置や水圧の検査機、電磁波を遮断した場所での動作確認など、
さまざまな環境下での検査機器が備わっている。
「こういった検査は単にものづくりということだけでなく、
商品化して販売、流通にのせることまでを前提としたものなんです」と下池さん。

たしかにこういう検査機器を個人で所有するのは難しい。
しかし商品化する場合は必ず必要になるプロセスではある。
場所、機材、ノウハウ、資金など
「これまで個人では超えることが難しかった部分」をサポートする、
それが「ハードウェア・スタートアップ支援」の意味するところだ。
逆に技術アイデアがあるひとなら、起業し商品化するチャンスが生まれる。
さらにDMMが持っている流通も使える。
まさにこれからの「つくる」のためのプラットホームと言えるかもしれない。

水深30mまでに対応した耐圧潜水試験機

水深30mまでに対応した耐圧潜水試験機。防水カメラなどの商品化に必要な試験用設備だ。ほかにも電磁波や耐震、耐熱の試験機も設置されている。

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12階は共有スペース「DMM.make AKIBA Base」

12階はイベントスペースやシェアオフィスなどを展開する「DMM.make AKIBA Base」。
内装は古き良き時代の明るいアメリカンテイストで統一されている。
壁や床など、ビンテージ風の雰囲気。
ここはスタートアップに必要なオフィススペースや、
最大80名を収容するフリーアドレスのシェアスペース、
飲食可能なバーなどを設置して、会員の交流を促す場所となっている。
「Aさんが考えた製品とBさんが考えた製品が出会い、
仲良くなってあらたな製品が生まれるといいなと思っています」と下池さん。
入り口には「オープン」「シェア」「ジョイン」というキャッチフレーズ。
入居者同士が出会い、刺激しあい、
コラボレーションが起きることをイメージしてつくられたという。
さまざまな業種が出会うことで「オープンイノベーション」が生まれる場をめざしている。
この10年の間で急速に展開している「ものづくり革命」。
日本の「ものづくり」の新たな拠点と言える。

カフェスペース

カフェスペース。軽食やドリンク、イベント時にはアルコールなども提供される。

オフィス個室

オフィス個室。3人部屋と6人部屋のチームルームとミーティングルーム。すでに満室になったので、いったん入居は打ち切っている。

最後にコロカルの読者にアピールしたいポイントを吉田総支配人にお聞きした。

「面白いアイデアを持っているひとにはぜひ来ていただきたいですね。
いろんな方に集まっていただくことによって
場所としての価値があがっていくと考えています。
ハードウェア・スタートアップをするひとは日本ではまだまだ限られたひと。
ぜひ集まっていただき、シナジーが起きることを期待しています」
DMM.make AKIBAでは事前予約不要の見学ツアーも実施している。

次回はDMM.make AKIBAのキーパーソン、
ハードウェア・スタートアップのノウハウを提供した「Cerevo」、
投資を行う「ABBA LAB」の立ち上げのエピソードを詳しくお聞きします。

後編:イノベーションを生み出す試作の場。新しいものづくりをするひとが集まる拠点 DMM.make AKIBA 後編 はこちら

information

map

DMM.make AKIBA

住所:東京都千代田区神田練塀町3富士ソフト秋葉原ビル 10F/11F/12F

Web:https://akiba.dmm-make.com/

exiii

Web:https://exiii.jp/

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