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連載

廃校を使った地域の拠点づくり。
株式会社ハレとケデザイン舎
「三好市の廃校活用事業」前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.027

posted:2014.11.4   from:徳島県三好市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

三好市は徳島県の最西部、四国のほぼ中央に位置する。
徳島県のなかでも最も山深い。高齢者の割合は40%。

東京でデザインの仕事をしていた植本修子さんは今年の春、移住を決めた。

「東京で働いていた会社の上司が三好市の職員の方と知り合ったのですが、
三好市には20以上もの廃校があって、
その活用方法を募集してると聞いたことがきっかけなんです。
ちょうど私には3才の子どもがいて、
子育ての環境にいいんじゃないか、ということで。
来てみると自然が気持ちよくて、
こんなところで子どもを育てたら、どんな子どもに育つのかなと
想像したらワクワクしちゃったんです」

そして、移住を決めた理由は9年前に廃校になった
旧出合小学校との出会いだったという。
植本さんは実際に昨年の秋に旧出合小学校を訪れ、
廃校の活用の企画を考えてみることにした。

「具体的に廃校活用のアイデアを考えはじめたら、
いろんなことを思いついて、止まらなくなっちゃって(笑)」と植本さん。

「廃校のそれぞれの部屋の写真を撮って、この部屋をこんなふうに活用しよう、
ここはこう使おうといろいろ考えているうちに楽しくなってきました。
気持ちのいい庭があって、ウッドデッキをひいたらどんなだろうか、とか」

廃校といっても地元のひとが体育館を使ったり、運動場を使ったり、
草刈りをしてあったり。怖い感じはしなかったという。

「わたしはここパワースポットじゃないかって思っているんです。
それほど気持ちがいい場所なんです」

9年間眠り続けていた小学校にふたたび明かりを灯そうと決意した。

旧出合小学校に作られたウッドデッキ

ウッドデッキにて。親子でお菓子教室。

植本修子さんと植本綾子さん

ハレとケデザイン舎の植本修子さん(左)と植本綾子さん(右)の姉妹。写真提供:ハレとケデザイン舎

マチトソラとの出会い

関東で育ち、それまで地域と深く関わることがなかった植本さん。
引っ越してすぐに、三好市の地域活性化に取り組むNPOマチトソラを紹介された。
マチトソラは三好市にある空き家や地域に残る伝統文化の活用に取り組むNPO。
タバコ産業で栄えたまちの古民家再生やマルシェやアートイベントを行い、
都市からの若者の移住促進や若者の雇用、
住んでみたいと感じるまちづくりをしている。

「かつて旅館だった建物で歓迎会をしてくれたんですけれど、
地域を盛り上げようとがんばっている若者や、
まちづくりをしていこうという地域のひとと
いっぺんにつながることができたんです」と植本さん。
小さなまちであるからこそ、地域の動きにすぐにつながっていけるのが嬉しい。
また移住者や仕事づくりのプラットホームとなるNPOがあることも
大きな助けとなったという。

3月に移住して3か月ほどは地域のイベントに顔を出し、
交流することに費やした。
そこで人脈をつくり、一緒に廃校活用を進めてくれる仲間をリクルートした。
7月からいよいよ廃校に入り、工事を始めた。
可能な限りセルフビルド。
地域のひとや行政の助けもあってアイデアはかたちになっていく。
1か月で廃校は「再生」した。

再生した出合小学校

再生した出合小学校。写真提供:ハレとケデザイン舎

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出合小学校・復活祭

「復活祭をやったんです。夏休みに子どもたちが来てくれたらいいなと思って。
ストーリーも考えたんです。
“この学校は9年間、眠っていました。
神様がまちがえて、冬眠の粉を学校にも撒いちゃったのです。
9年間眠っているうちに子どもたちもいなくなってしまった。
ある日、学校が目を覚ましたら誰もいなくて寂しかった。
みんなに戻ってきてもらいたい”」

そのように植本さんは「復活祭」のお話を考えた。
出合小学校が「復活」しますから
みなさん来て下さい、と卒業生や地域のひとを招待した。
そのときちょうど、ニューヨークからボデイ・リズム・パーカッションの第一人者
キース・ミドルトンさんが徳島に来るという。
「復活祭」にも来てもらい、子どもたちも身体を動かして復活を祝った。

出合小学校・復活祭

出合小学校・復活祭。キース・ミドルトンさんによるボデイ・リズム・パーカッションのワークショップ。写真提供:ハレとケデザイン舎

ハレとケデザイン舎の仕事

ハレとケデザイン舎のベースの仕事はグラフィック全般。
デザインやクリエイティブディレクターとして関わっていた東京の仕事を
引き続き行いつつ、
徳島県や三好市の印刷物、物品、コンセプトワークやパッケージなど、
地域での仕事を受注するようになった。
またインターネットを使った全国での仕事、
ECの管理運用とコーディングなども行って、地域での雇用も生んでいる。
徳島県はサテライトオフィス事業の誘致をすすめているが、その流れにも合致した。

ハレとケデザイン舎の業務の概略図

ハレとケデザイン舎の業務。

マチトソラ芸術祭のポスター

三好市で行われるマチトソラ芸術祭のグラフィック制作もハレとケデザイン舎が手がけている。

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地域のコミュニティ・ハレとケ珈琲

ハレとケデザイン舎のもうひとつ、大きな事業が「カフェ」だ。

「地域のひとに集まってもらいたかったのでカフェを開きました。
実家の父や母が食に関わる仕事をしていたのでお店を構えました。
妹も母に習って5年くらい洋菓子職人としての修業をしていたので、
洋菓子のワークショップをやっています」と植本さん。

植本さんが Iターンを決めたとき、家族も全面的に協力してくれることになった。
植本さんのお母様は洋菓子研究家の植本愉利子(ゆりこ)さん。
妹の綾子さんはその直弟子で、東京でお菓子づくり教室の講師を務めていたが、
植本さんの移住に伴い、綾子さんも旧出合小学校で
地域の食材を利用したお菓子づくりとお菓子教室をすることになった。
お父様は千葉県で喫茶店を営んでいたが、
こだわりの自家焙煎コーヒーをカフェ事業のために
提供してくれることになった。
植本さんの廃校活用計画は、別々の仕事をしていた家族を結びつける、
家族ぐるみのプロジェクトになっていった。

お菓子職人、植本綾子さん

お菓子職人、植本綾子さん。

地域の食材をつかったお菓子づくり

綾子さんに「ハレとケ珈琲」についてお聞きした。
代官山の「Le Cordon Bleu」を卒業して洋菓子職人になり、
廃校のカフェでパティシエデビューを果たした。

「最初は、月に一週間くらいお菓子教室をするために来ればいいかな
と思っていたのですが、何度か来ているうちに、ここに住もうかなと。
ひとと自然が魅力ですね。地元のひとは温かいですね」

地域の素材を生かしたお菓子を開発している。
そのお菓子づくりについては、

「そば粉の美味しさを生かした洋菓子をつくりたいと思い、
そば粉のガレットを開発しました。
また、今年の秋は栗をたくさんいただいたので、栗の渋皮煮をつくり、
それを使った栗のケーキをつくっています」と話す。

さらに、綾子さんはシュタイナー教育の思想に基づいたお菓子づくりをしている。

「シュタイナー幼稚園では曜日ごとに出すお菓子を変えているんです。
基本は穀物を使ったお菓子。よく噛むことで脳の発達を促します。
あと精製したお砂糖を使わないですね。
甘みはメープルシロップや、リンゴジュース、甘酒、きび糖などでつけます。
素朴な味のものが多いですね。
ハロウィンの親子料理教室で出そうと思っています」

そば粉のガレット

そば粉のガレット。三好市祖谷は祖谷蕎麦で有名。水田のつくれない傾斜地や痩せた土地でも栽培できる蕎麦は伝統的な食材。

はっさくと抹茶と栗のパウンドケーキ

はっさくと抹茶と栗のパウンドケーキ。カフェは11時〜17時。土日は18時くらいまで営業中。

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出合の湧き水で淹れるこだわりのコーヒー

修子さんのお父様は手炒りにこだわる自家焙煎コーヒーを淹れている。
普段は千葉県で喫茶店を経営しているが、
月に何度か出合小学校に手伝いに来ている。
フルシティロースト(深炒り)で自家焙煎されたコーヒーはこだわりの味。

「ローストは音、色、煙の出具合で見極めます。焙煎したては少し尖っていますが、
3日目ぐらいに丸くなってきます」

豆はエチオピアなどアフリカ産を使って、水は地元、出合の湧き水で淹れている。
近くには「龍ヶ岳」という名水もあるが、
出合の湧き水のほうが美味しいと感じているとお父様。
時間があるときは、ネルドリップで淹れてくれる。
数量はわずかだが焙煎した豆も販売している。

丁寧に手煎りしたコーヒーをカウンターで入れる

少量しか焼けないロースターで丁寧に手煎りしたコーヒー。出合の湧き水を使って丁寧に淹れる。

出合小学校・文化祭「おばけの学校」開催

10月25日、植本さんは出合小学校・文化祭として、
ハロウィンイベント「おばけの学校」を企画した。
地域の親子が参加する、ハロウィンのお菓子づくりのワークショップ。
小学校の校庭のウッドデッキを使った料理教室だ。

綾子さんの指導で、地域のカボチャを使った生地を
子どもたちがハロウィンの型抜きをしてクッキーをつくる。

お菓子はかわいらしくパッケージするところまで行い、各自が持って帰ってもらう。
修子さんはそこでひとつのハロウィンの物語を考えた。

「お菓子ができあがったところにおばけがやってくるんです。
そしてできあがったお菓子をぜんぶ持っていっちゃう。
そこからゲームが始まります。
子どもたちは教室にあるいろんなヒントを頼りに、
おばけが隠したお菓子取り返しにいくの」と植本さん。

「謎解きをしながら、廃校の教室をめぐる。
そうするとキーワードやハロウィンの仮装のアイテムが見つかるんです。
最後は一番近所のお宅に仮装をして行って、
手に入れたキーワード“トリック・オア・トリート”を言うと、
お菓子をもらえるんです」

地域のひとたちも巻き込んで、
限界集落の廃校ならではのハロウィンのイベントになった。
ちなみに徳島三好市は「妖怪」の伝説でも有名で、
自然のなかにその気配を感じるような神秘の場所だ。
森や谷に住まう日本の妖怪たちがハロウィンと結びついて、
楽しい子どもたちの思い出になったに違いない。

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お菓子教室の様子

親子でお菓子教室。

おばけに仮装した人も

つくったお菓子をおばけが持っていっちゃった。

校舎内に飾られたお菓子を探すヒント

おばけに持ってかれたお菓子を探すヒントは逆さ文字。

地元のおばあちゃんたち

地域の住民が集まり、Iターンで都会からやってきた子どもたちと料理づくり。

出合小学校の未来像

今後、出合小学校はどんな場所になっていくのだろうか。植本さんに聞いてみた。

「1年後は小学生がたくさん出入りするようになっていて、
“こども通貨”ができるといいなと思っています。
草刈りとか、学校のお手伝いをすると“こども通貨”をもらえる。
それで飲み物やお菓子がもらえる仕組みです」と植本さん。

「地域通貨」はコミュニティ再生のツールとして注目されている。
子どもたちがきっかけになって「地域通貨」が巡りはじめる。
もちろん大人も使える。
地域での労働や地元の食材などが交換できる
ひとつのコミュニティ経済が動き始める。
さらに植本さんの出合小学校での夢は広がる。

「夏は川遊びとか自然学校の拠点にもできると思っています。
都会から泊まりがけで来られるように宿泊もできるような場所にしていきたいです。
地域のもともとあるコミュニティと連動していきたい」と植本さん。
廃校活用のさまざまなアイデアを実現していきたいとのこと。

全国で地域の過疎化や高齢化が進んでいる。
廃校活用は各地で行われているが、
徳島県三好市の取り組みは全国でも希有な実現率を誇っている。
ハレとケデザイン舎をふくめ、この1年で9つの廃校活用事例があるという。
次回は休廃校活用事業の仕組みを考えた
徳島県三好市・地域振興課の取り組みを紹介する。

後編:注目される休校・廃校を活用する事業の仕組み 「三好市の廃校活用事業」後編 はこちら

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株式会社ハレとケデザイン舎

住所:徳島県三好市池田町大利大西15番地

Mail:shuko.haretoke@gmail.com

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特定非営利活動法人マチトソラ

住所:徳島県三好市池田町マチ2467-1

Web:http://machitosora.com/

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