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連載

60年ぶりに麻栽培が復活
伝統的な麻づくりプロジェクト。
「八十八や」前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.019

posted:2014.9.2  from:鳥取県智頭町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

大麻でまちおこしをする智頭町の取り組み。

いま麻でまちおこしをする鳥取県智頭町の取り組みが注目されている。
移住してきた若者が大麻栽培免許を取得。
地元の古老、町役場、町長、知事らがサポートし、60年ぶりに麻栽培を復活させた。
限界集落の再生を目指す試みだ。

一般的に、日本語で「麻」(あさ)というと繊維のことを連想し、
「大麻」というと麻薬のことを連想するひとが多い。
実は「麻」も「大麻」も同じ植物を意味する言葉。
最近は大麻の繊維でつくった衣服は「ヘンプ」(HEMP)と呼ばれることもある。

古来より日本人の生活に密接に関わっていた大麻草。
伊勢神宮の神札を大麻と呼ぶ由来となった植物であり、
神道とも深い歴史的な関わりを持っている。

戦前、大麻は米につぐ作物として日本のどこでもつくられていた。
しかし戦後は大麻取締法によって、所持や販売が厳しく制限されてきた。
智頭町では麻薬成分(THC)のない安全な品種を使い、
新たな産業としての挑戦を始めている。

アサ(麻、Cannabis)は中央アジア原産とされるアサ科アサ属で一年生の草本。写真提供:八十八や

かつての麻産業を復活させる。

産業用大麻栽培者、上野俊彦さんは2年前に智頭町へ移住した、いわゆるIターン組。
戦後初めて鳥取県でこの免許を取得した。

「かつての智頭郡では麻が大きな産業でした。
100年前の時点で五十五町歩(約545,000平方メートル)もの栽培面積がありました」

繊維を使って魚網や縄や紐、麻布、畳糸などを生産し、
そしてそれら繊維を取ったあとのオガラ(麻幹)を茅葺屋根や、
焚きつけ用の松明として用いたり、蚊やブヨなどの虫よけに使われたという。

「お盆には先祖の霊の送り迎えの儀式に使われてきたんです」

上野さんは智頭町で麻栽培を行う会社、株式会社八十八やを立ち上げた。
株式会社八十八やは、中国・四国地域で唯一の麻栽培を行っている。
麻を利用した商品やサービスを提供することによって
過疎化・高齢化のまちを元気にすることを目的としている。

大きな吊り鐘型の桶を上から被せて3時間以上蒸して繊維を取る。室町時代から続く伝統的な製法が智頭町で60年ぶりに復活した。写真提供:八十八や

麻薬成分(THC)のない安全な品種の大麻草を栽培。

移住のきっかけは東日本大震災だった。
上野さんはそれまで群馬で麻の栽培免許を持っている方のもとで働いていた。
震災後、子育てのために智頭町へと移住した。
畑で野菜を自給し、余剰分を販売していこうと考えた。
最初は「麻づくり」は考えていなかったという。

あるとき、88歳になる集落の古老が上野さんの畑にやってきた。
鍬の使い方を教わったり、昔話をしているうちに、
昔、智頭町は麻の産地だったという話をしてくれた。
古老が言うには、
「このあたりでは昔、麻のことを「お(麻)」と言っていた。
お(麻)は、大きく延びて、葉っぱもきれいで、いいにおいがしてなあ。
大麻は麻薬とかそういうイメージもあるかもしれないけれど、
わしが思うに植物界で最も強い繊維がつくれる植物だと思っている」

古老はその集落で麻栽培に関わってきた最後のひとりだった。
上野さんは古老の話から、
麻はこの地方で生活のすみずみまで利用されていたことを知る。
群馬で免許を持っている方のもとで大麻の栽培をしていたという話をすると、
古老は「だったらまたやればいいじゃないか。皆で協力する」と言う。
免許は簡単に取れるものではない。

古老は上野さんにあるものを手渡した。

「これは昔、自分が麻をつくっていたときの麻縄と、100年前にワシの父がつくった麻袋だ。
何かの役に立つときがくるかもしれないから、持っておきなさい」
と上野さんの右手をつかみ麻袋を握らせた。

上野さんはそのときの感覚をこう語る。

「その瞬間、ビリビリっと体中に電流が走ったような感じがしたんです」

尋常でない感覚だった。
100年前の麻袋とおじいさんの笑顔。
上野さんはその瞬間、鳥取県で麻の栽培を復活させるために
免許を取ろうと決意したという。

「人間は不思議だと思った。
もしあのときおじいさんが麻の袋と麻のひもを持ってこなかったら、
麻づくりはしていなかったかもしれません」

集落の長老が上野さんに手渡した麻の袋と麻のひも。地域のなかにある麻づくりの伝統を知り、麻再生の取り組みが始まった。

智頭町の89の集落がある。
もしかしたらほかにも麻づくりの記憶を持つひとたちがいるかもしれない。
上野さんは智頭町のお年寄りたちに取材を始める。

智頭町の暦史資料にあったってみると
3~4世紀に全国各地に麻を伝えた徳島県の阿波忌部族(いんべ)の氏族の所縁の神社が
鳥取県内に多数あることから、この氏族が麻を伝えたと考えられる。
江戸時代に智頭の大庄屋を務めた石谷家に残る「万日記帳」には、
文政11年(1828年)に麻をつくり、使っていたころの記録がある。
ほかの集落には麻のひものさまざまな用途を教えてくれるおばあさんがいた。
大麻づくりの記憶を持つ人は、数多く存在したのだ。

町長へのプレゼンテーション。

「これはわしの首にかけてもやらなければならないなあ」

智頭町の寺谷誠一郎町長は、上野さんの麻づくりのプレゼンをじっと聴いたあと、
そうつぶやいた。
智頭町の協力のもと、鳥取県の知事に申請をした。
大麻栽培の免許取得は簡単なことではない。
そこから町と二人三脚での大麻栽培免許取得のプロジェクトがスタートする。

関係各所への説明、用地の取得、事業としての具体的なプランづくり。
麻薬成分がない麻とはいえ、防犯のためのフェンスや防犯カメラも必要だ。
上野さんの群馬県での栽培経験も役にたった。
耕作放棄地の活用や雇用の創出、かつての伝統文化の再生など、
町としてのメリットもアピールした。

2013年、戦後初めての鳥取県で麻の免許がおりた。
夏も近づく八十八夜のその日だった。
会社名を「八十八や」とした。

最初の年は「種とり」から始めた。
群馬の麻農家からわけていただいた一握りの種から栽培していくための種を増やすこと。
昔のやり方で繊維を取れたらいいなと考えていた。

そんなとき、となりの集落から2メートル40センチの「桶蒸し」の桶が見つかった。
桶蒸法は西日本各地で行われていた麻の繊維を取るための加工法のひとつ。
室町時代から行われてきた伝統技法である。
かつての麻の桶蒸を復活させようと、全国からひとびとが集まった。

室町時代から行われていたという伝統的な麻の桶蒸しが復活した。写真提供:八十八や

桶蒸しの公開実験イベントが2013年9月に行われ、限界集落に200名の人が集まった。今年は9月20日(土)に開催される智頭麻まつりで桶蒸しが行われる。写真提供:八十八や

自然栽培で育てた鳥取県智頭産の麻。

栽培2年目となる今年、八十八やはいよいよ麻の商品化に取り組む。
上野さんにはひとつのこだわりがあった。
全国で大麻の免許を持って栽培している農家は数十件あるが、
無農薬・無化学肥料の大麻は少ない。

「オーガニックの麻製品を智頭麻のブランドで出していきたい」

麻製品のトップランナーとして自然栽培で育てた麻で勝負したいと考えたのである。
初年度は自然栽培で育てた鳥取県智頭産の麻の炭「智頭麻の炭」と
「ちづ麻の油」を商品化した。
ヘンプ・オイルは食品のほか、ボディーケア製品・潤滑油・塗料・工業用途など、
非常に広範囲に使われる可能性がある。
また麻炭は1gあたりの表面積・細孔容積は備長炭のおよそ4倍、
孟宗竹の1.6倍あると言われる。
いずれもそこからさらなる商品開発の可能性を秘めている。

自然栽培で育てた鳥取県智頭産の麻の炭「智頭麻の炭」と「ちづ麻の油」写真提供:八十八や

大麻の文化をわかりやすく伝えるために、歴史的観点、法律的観点、産業、医療的観点などから捉えた麻のマンガ「よのあさ」も出版。写真提供:八十八や

次週は麻のオイルを使ったヘンプカープロジェクトと、智頭町の取り組みのレポートをお届けします。

後編:【麻でまちおこし 鳥取県智頭町の挑戦。「八十八や」後編】はこちら

Information

map

株式会社八十八や

http://www.8108ya.co.jp/

智頭麻まつり ※2014年は9月20日(土)開催
http://chidukarakimashita.jimdo.com/

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