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連載

“使い捨ての器”のイノベーション。
「WASARA」前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.011

posted:2014.7.1  from:東京都台東区  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

環境にやさしく、こころを潤す「紙の器」。

日本ならではの感性から生まれた紙の器、「WASARA」。
その製品哲学には、古来より自然と共存することで育まれてきた
日本の精神、技巧、そして美意識が込められている。

WASARAを生み出したチームのひとり、
クリエイティブディレクターの緒方慎一郎さん(SIMPLICITY代表)のお話を伺った。
緒方さんはWASARAのほかにもプロダクトブランドを手がけ、
みずから和菓子店や和食料理店を経営している。
食を通して日本の文化を広めたいという思いがあるのだ。

「文化というのは食ありき。
私たちの生活の根源は、“生きていくために食べること”だと思います」
と緒方さんは語る。

SIMPLICITY代表の緒方慎一郎さん。建築、インテリア、プロダクトなど、多岐に渡るディレクションやデザインを手がける。(写真提供:SIMPLICITY)

「その土地にあるものをどう調理して食べてきたか。
日本には日本の、フランスにはフランスの食文化がある。
その国の風土や文化を最も色濃く反映しているのが食ではないでしょうか」

食文化には、料理自体はもちろん、器や空間など多くのことが関わっている。
それらすべてをトータルで考え、ときにはイノベーションすることによって、
初めて次の時代にきちんとしたものを残すことができるというのが緒方さんの考えだ。

「現代における日本の文化創造」をコンセプトに
自社店舗の経営や、ホテルやレストランのデザインを手がけてきたなかで、
目を向けたのが、使い捨ての紙の器だった。

パーティやケータリングなど、さまざまなシーンで活躍するWASARA。手前は2012年よりラインナップに加わった竹製のカトラリー。(写真提供:WASARA)

使い捨て食器の概念を変える。

ケータリングやパーティ、バーベキューなどで、
使い捨ての紙皿や紙コップを使ったことがあるひとも多いだろう。
われわれの生活に深く浸透しているといってもいい。
しかし緒方さんは違和感を感じていた。

「食べるという行為のなかには、器にさわった手の感触や口当たりも含まれるはず。
しかし、既存の製品に、そこまで配慮されたものはなかなかありませんでした」

そんな思いを抱えていたからこそ、
WASARAのディレクションを手がけることになったとき、
「日本人ならではの感性が反映された紙の器をつくりたい」というイメージは
すでにできていた。

重ねて置いても美しい、存在感のあるフォルム。(写真提供:WASARA)

構想から商品化までは3年かかった。

「料理に合わせて器を選び、器を手に持って食事をするのは、日本独特の食文化です。
日本の食文化には、季節の移ろいや自然を大切にする心、
茶碗や箸を手に持って使う所作の美しさなど、
日本人の美意識や価値観が結集しています。
日本はもちろん、世界で使われることを念頭に置き、
料理を引き立たせ、手に持ったときにすっと馴染むようにデザインしました」

しかし今の時代に新しい「使い捨て食器」を生み出そうとは、
一見、時代にマッチしていないように思われる。

「“いまどき使い捨てをつくるなんて”という声があることは当初から予想していました。
しかし、捨ててはいけないものをつくるから問題になるわけで、
逆にいえば、自信を持って捨てられるものをつくればいい。
そこにはすごくこだわりました」

そもそも簡単に捨ててはいけないものをつくり出しているのも人間。
そこから見つめ直してみれば、
捨てても大丈夫なものをつくればいいという考えが生まれる。
“使い捨て”と“環境負荷が低い”という
対極にあると思われる概念を組み合わせた、逆転の発想だ。

環境にやさしく、資源を有効活用できる素材であること。
木材パルプにしてしまえば簡単だったが、非木材の素材にこだわった。
そこで紙の原料としてすぐれた性質を備えている
“バガス”というさとうきびの搾りかすに注目した。

砂糖生産の際に大量に発生するバガスは、
一部は製糖工場などで燃料として使われるものの、ほとんどは破棄されている。

WASARAはバガスに竹をブレンドし、ろ過して漉き上げたパルプを使用している。
廃棄されるバガスと、枯渇する心配のない竹。
いずれも土に還る素材だ。

原料となるバガス。世界中で約1億トンもの排出量があるという。(写真提供:WASARA)

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すべてにこだわりぬく、日本的な機能美のものづくり。

WASARAは持ったときの感触や口当たりの良さを出すため、
細部に至るまでこだわりぬかれている。

表面は和紙のような質感で、繊細な陰翳を帯び、
かすかな凹凸が手びねりの陶器を思わせる。

成形する金型そのものに細かな凹凸がつけられており、
これが手づくりの風合いを生み出しているのだ。

理想のかたちを求めて何度も試作を重ねた金型。
日本の優秀な職人の技術があってこそ、ようやく辿り着いた造形だ。

感性に訴えかけるデザイン。和紙のような質感が表現されている。(写真提供:WASARA)

手づくりの風合いと流麗なフォルムが、料理の繊細さを引き立てる。(写真提供:WASARA)

こだわりはフチの仕上げにも表れている。

通常の紙コップを思い浮かべてほしい。
多くの場合、口をつける部分が丸く巻きこまれているか、フチがついている。
強度を保つための仕様であるが、それこそが口当たりを崩してしまう原因にもなる。
WASARAの場合、巻き返しもフチも、継ぎ目すらない。
さらに真横から見ると、フチが水平ではなく、
ゆるやかに波打ち、有機的なラインを描いていることがわかる。

「プレス機で成形したのち、その日の気温や湿度、パルプの状態を見ながら
ひとつひとつ手作業で断裁する位置を合わせ、打ち抜いています。
それだけ手間をかけるからこそ、なめらかで自然なフォルムが生まれるのです」

すべてに妥協しない姿勢とすぐれた技術に裏付けられた日本のものづくりが、
世界に通用する紙の器を生み出した。

フチをカットする前の状態。

たった一度しか使えない紙の器であっても、こころを潤す器でありたい。
WASARAには、日本ならではの感性と高い技術力、
そして環境への配慮も込められている。
“捨てる”という行為を、
後ろめたいものではなく、ポジティブな行為にしていくことも、
これからのものづくりの役割であろう。

後編:【日本の食文化の豊かさをWASARAにのせて。「WASARA」後編】はこちら

Information

WASARA

環境に配慮したワンウェイの紙の器WASARAは、日本の美意識や価値観を商品哲学とし、3年以上の開発期間を経て2008年に誕生。2012年には、農薬を使わず自然に自生した竹を使用した、防カビ剤・漂白剤フリーの竹製カトラリーを発売。国内にとどまらず、欧州や北米など、世界中へ販路を拡大。
香港デザインセンター主催アジアデザイン賞2009 大賞・金賞ダブル受賞。
シカゴ建築・デザイン博物館2010年 グッドデザイン賞受賞。
デンマークINDEX: Award 2011 ファイナリスト進出。
http://www.wasara.jp/

Information

SIMPLICITY

クリエイティブディレクター 緒方慎一郎により1998年設立。「現代における日本の文化創造」というコンセプトのもと、自社ブランドとして和菓子店、和食料理店、プロダクトブランドを展開。建築、インテリア、プロダクト、グラフィックなど多岐に渡るデザインやディレクションを手がける。2014年6月に開業したHYATTグループによるホテル〈Andaz Tokyo〉のインテリア設計を担当。
http://simplicity.co.jp/

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