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福島で10代続く糀屋と、
ソーセージの匠が共演。
そこに生まれたものは?

TOHOKU2020
vol.023

posted:2014.2.26   from:福島県  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。

editor’s profile

Kayano Miyoshi

三好かやの

みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊87年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog

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加藤純平

糀屋は、お米に花を咲かせるのが仕事です

「糀和田屋」の三瓶正人さんは、
福島県の中央部、本宮市で240年続く老舗の10代目。
糀(こうじ)は「麹」とも書き、豆麹、麦麹なども存在するが、
和田屋の糀は米糀。
創業以来、地元の米農家とともに歩んできた。

「地元の農家さんからお米を預かって、精米したり、
糀に加工して戻す。それが始まりでした」

20〜30代。若手の糀。

糀屋が花を咲かせた糀を使い、農家が家々で味噌を仕込む。
そんな風に昔ながらの味噌を仕込む農家は、
本宮周辺で500軒を数えている。
以前は自宅でもろみを作り、醤油を仕込む農家も多かったそうだ。

震災が起こる直前、2011年のはじめに塩麹のブームが起きようとしていた。
「塩と糀と水を混ぜたものに、野菜を漬け込む。
そんな習慣は、福島にもありました。それを漬け床ではなく、
調味料として料理に使う新たなニーズが生まれるに違いない。
商品化して4月に全国的に発売しようと準備していた矢先、
震災が起きたのです」

工場や機械が大きく損傷。
「塩こうじ」を発売できたのは、2011年7月のことだった。

発売当初は、原発事故の影響のない前年産のお米を使っていたので、
販売は順調だったが、23年産米は原発事故の影響を真正面から受けた。
ずっと付き合ってきた農家に頭を下げ、
やむなく山形県や新潟県産米で「塩こうじ」を作ることに決めたが、
福島で作り続けることを非難する声も少なくなかったという。

「正直、心が折れそうになることもありました。
そんな時は、お客様の『がんばってください』
という声に、本当に救われましたね」

平成24年産米から、お米の全量全袋検査がスタート。
安全性を確認し、再び福島県産米を使用するようになった。

「糀はどれも同じように見えますが、
実は蔵元によってクセがあり、それが味に反映されます。
機械で大量に作ることもできますが「塩こうじ」の場合は、
『一升盛』といって、一升ずつ升で計って、手作業で作っています。
うちの職人は20〜30代がほどんど。今では46歳の私が一番年長です」

お米と糀菌を操る糀職人は、日本にしかない職業。
全国的に高齢化が進む中、
これだけ若手が揃っている糀屋は少ない。

世界中のソーセージを手作りする、異色のレストラン

1月22日に、福島県主催の「県産品消費者理解促進交流会」が開催されたのは、
東京・恵比寿の「ソーセージスタイル流行-hayari-」。

シェフの村上武士さんは、福島県いわき市の小名浜出身。
子どもの頃はメヒカリやカツオなど、新鮮な魚を食べて育った。
役者を目ざして劇団を渡り歩いていたが、料理の世界に転身。
ヨーロッパはもとより、アジア、アフリカ諸国の多彩なソーセージに加え、
独自に考案したオリジナルソーセージを繰り出す、
おそらく世界初の「ソーセージレストラン」を開業した。
2009年のことだ。

故郷の苦労を知りながら、
東日本大震災直後は食材の正確な情報が掴めないまま、
料理人として「何かしたくても、できない」という思いを抱えていた村上さん。
しかし、検査結果が明らかになるに従って、
福島県には安全性の確認できた食材が豊富にあることを知る。
「こんなにたくさんの食材があったことを、改めて知りました」
「ふくしま応援シェフ」として名乗りを上げた。

この日のテーマは「正月の食べ過ぎ解消」。
福島の食材を駆使した4つの料理が登場した。

福島ハーブ鶏のレバーソーセージ

鶏のレバーを使ったソーセージは、村上シェフの定番。
今回は「福島ハーブ鶏」のレバーを使った。
オレガノやシナモンなどのハーブ類を飼料に混ぜて育てられた「ハーブ鶏」。
そのレバーを、ポルト酒やアルマニャックなど、
洋酒に漬け込んで臭みを落ち着かせ、
スパイスと合わせてフードプロセッサーにかける。
それをさらに3回裏濾し……という具合に、
手の込んだプロセスを経て、なめらかな食感に仕上げた。

「臭みがなくてすばらしい。
レーズンを使ったソースとの相性も抜群」
これは会場で参加者から聞いた声だ。

雪下野菜と発酵生姜のサラダ

通常は雪が降る前に収穫する野菜を、
積雪後にも畑で栽培し続ける雪下野菜。
寒さから身を守るため糖度を上げてがんばる。
1m近くの雪の中から掘り出さなければならないので、
「収穫」というより「発掘」に近い作業になる。

そんな雪下野菜のキャベツとニンジンの細切りと、
アスパラ菜、干しエビ、豆類を合わせて、
村上シェフはサラダに仕立てた。

ミャンマーの「アトゥ」と呼ばれる料理をアレンジしたものだ。
ポイントは発酵生姜。

発酵生姜は、ミャンマーではメジャーな調味料で、
身体を芯から温め、代謝をよくする効果もある。
糀屋の三瓶さんも「細切りで乾燥しているのに、強い香りがする」と、
異国の「発酵もの」に興味津々の様子。

会津地鶏とミャンマーの伝統麺

「オンノカウスエ」も、ミャンマーの代表的な麺料理。
ヒヨコマメの粉末をココナツミルクで溶いたスープで味わう。

素麺のような小麦粉の細麺を使うことが多いのだが、
今回は福島県いわき市の「たふぃあ」が作る米粉の「稲穂めん」を使用。
「小麦の麺よりもあっさりした味わいなので、
よりスープが絡むよう、いつもより粘度を上げてみました」と話す村上シェフ。
「会津地鶏」を2羽使ってとったというスープは、味わいが至って濃厚。
会津の芽吹き野菜、あさつきも添えられていた。

10代続く糀屋とシェフの競演

村上シェフのソーセージと、三瓶さんの「塩こうじ」。
このふたつが出会うのはホットドッグだ。
「会津天然酵母パンに包まれたエゴマ豚のブラートヴルストを、
塩こうじのザワークラウトとともに味わうホットドック」という、
とても長い名前の料理で両者が競演。

「できる限り無添加で。化学的な結着剤や発色剤は使わない」
そんなポリシーでソーセージを作り続けてきた村上シェフが、
ソーセージに使ったのは「エゴマ豚」。
福島県の特産品で、
α-リノレン酸を豊富に含む「えごま」の実を飼料に混ぜて育てるこの豚の、
ブロック肉をミンチする作業から取り組んで、
ドイツの古典的なソーセージ、ブラートヴルストを作った。

「肉料理に塩こうじを使うのは確かにブーム。
でも、家庭で作るのは難しいので、野菜を漬け込んでザワークラウトにしました。
糀和田屋さんの塩こうじは優しい。野菜がきっと華やかになる」

塩こうじのほか、ディルシードやローリエ、穀物酢でキャベツを揉み込むだけ。
冷蔵庫で3時間ほど寝かせると食べごろになる。
作り置きすれば、お新香感覚で楽しめるそうだ。

会津の女子大生に人気。天然酵母のパン屋さん

今回のホットドックに使用されたパンを焼いた、
会津若松市の「ホームベーカリーコビヤマ」の小桧山和馬さん(30歳)にもお話を伺った。

お店は会津大学短期大学部の目の前。
女子大生に愛される町のパン屋さんで、
毎日80〜90種のパンを焼いている。

「いずれ天然酵母のブームは必ず来る。それなら会津で一番先に取り入れよう」と、
和馬さんのお母さまが真っ先に天然酵母を取り入れたそうだ。

今回使用された、天然酵母のソフトフランスは「皮はパリッ、中はふわっ」
「フランスパン用の小麦粉に、塩と水、
そして砂糖を少しだけ加えた生地を、天然酵母で発酵させたシンプルなパンです」
ここにも「発酵の技」が生きている。
村上シェフは、そんな小桧山さんのパンに可能性を見いだした様子。
「ソーセージやザワークラウトとの相性が、とてもいい。これからも使っていきたい」
交流会がきっかけで、新たな定番が登場しそうだ。

日本酒ベースの発泡酒やハチミツ入りのお酒も登場

料理に合わせて福島県の日本酒も登場した。
「鶏レバーに合うと思ったから発泡酒がほしかった」と村上シェフ。
そこで選ばれたのは、会津若松市の「末廣酒造」の「姫ごこち しゅわりん」。

その名の通り微発泡。
たしかにさわやかな飲み口の「しゅわりん」と、ソーセージの相性は抜群。
同じ蔵元の「伝承山廃純米 末廣」もまた、好評だった。

もう一点セレクトされたのは、「ミード酒」と呼ばれるはちみつのお酒。
会津で採取された栃のハチミツを、
1か月ほど発酵させた後に濾過したもので、アルコールは11度。
採蜜を会津若松市「ハニー松本」が、醸造を喜多方市の「峰の雪酒造場」が手がける、
会津生まれの珍しいお酒だ。

こうした新しいスタイルのお酒が続々と生まれる背景には、
たしかな醸造技術を持ち、意欲的に商品開発に取り組む、県内の蔵元の存在がある。
「平成24酒造年度全国新酒鑑評会」では、
福島県から37の蔵元が37点の日本酒を出品。
うち26点が金賞を受賞。
金賞受賞数全国1位の快挙を成し遂げている。

「福島の食材を使ったお料理だから、同じ土地で生まれた日本酒が、
すごく合いますね。マリアージュがすばらしい」と話すのは、
フードアナリストとしても活躍している、参加者の佐保田香織さん。

糀和田屋の「塩こうじ」も日本酒も、元を正せばお米が原料の「発酵もの」。
スタイルが洋食に変わっても、
味わう人の中で互いに響き合うのは、当然なのかもしれない。

SNS、ブログ、イベントなど、応援のカタチもさまざま

この日の参加者は25名。大部分が女性で、
中には個人のブログやSNSを通して、
福島の食に関する情報を、積極的に自己発信している人も少なくなかった。

ブロガーとして活躍する山本峰子さんも、そのひとり。
「ネット上で、コミュニティを作り、その中で東北の情報を発信しています。
東北のきれいな風景や、おいしいものの情報を発信。
それを見た仲間にも、どんどん写真や情報をUPしていただいて、
みんなを東北に行きたい気持ちにさせよう。会津にもよく行っていますよ!」

一方、村上シェフも、
「私自身も震災直後は『福島は終わった』と絶望的になっていました。
だけど、いろいろ勉強するうちに、全県を上げて検査に取り組んでいるのがわかったし、
応援シェフになることで、今まで知らなかった食材にも、出会えました」

もうすぐ震災から3年。
東京では、レストランやネット上で出会った仲間たちが、
福島の魅力を知り、伝え合う。
そんな人たちが、確実に増えている。
「自分の思いを発信しやすく、誰かとつながりやすい時代です。
信頼できるシェフや共感できる友だちから正確な情報を得てください」

本宮の糀屋さん、いわきの米粉麺屋さん、
会津の雪下野菜の生産者やパン屋さん、そして日本酒の蔵元たち…。
福島の生産者や職人の力を借りて、
「ソーセージの匠」は、会場にたくさんの笑顔の花を咲かせていた。

◎「塩こうじのザワークラウト」のレシピ◎

【材料(4人前)】
キャベツ 1/4個(250g)
糀和田屋の塩こうじ 50g
ディルシード(またはキャラウェイシード) 1g
ローリエ 1/2枚
酢 30g

【作り方】
① キャベツ1/4をざく切りにして洗う。
② ビニール袋に1のキャベツと酢以外の材料をすべて入れて、よくもむ。
③ 全体にしんなりしたら、口を閉じて冷蔵庫で4時間〜ひと晩寝かせる。
④ 袋に酢を加え、全体になじませたら完成。

お問い合わせ

事務局 会津食のルネッサンス

住所 福島県会津若松市中島町2-52
TEL 0120-91-0617 (10:00~18:00 ※土日祝日休)
FAX 0242-93-9368
E-MAIL order@a-foods.jp
http://www.a-foods.jp/

Information

ソーセージスタイル流行-hayari- 

住所 東京都渋谷区恵比寿3-48-5 グランデ恵比寿2F
TEL 03-5422-8467
営業時間 18時〜23時(月〜金L.O.)、18時〜22時30分(土日祝)
定休日 不定休
http://www.hayari-sausage.com/

㈲糀和田屋

住所 福島県本宮市本宮字上町22
TEL 0243-34-2140
http://www.koujiwadaya.co.jp/

ホームベーカリーコビヤマ

住所 福島県会津若松市山見町307
TEL 0242-22-1898
営業時間 7時〜19時
定休日 日・祝

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