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〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉
鹿児島川辺町と東京、
ダブルローカルが始まった。

坂口修一郎の「文化の地産地消を目指して」
vol.002

posted:2019.9.11   from:鹿児島県南九州市川辺町  genre:活性化と創生 / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  音楽家である坂口修一郎さんは、フェスの運営やコミュニティづくりのために、
東京と鹿児島、さらには日本のローカルを移動し続けています。
坂口さんが体現している新しい働き方やまちづくりを綴ってもらいました。

writer

Shuichiro Sakaguchi

坂口修一郎

さかぐち・しゅういちろう●BAGN Inc.代表/一般社団法人リバーバンク代表理事
音楽家/プロデューサー。1971年鹿児島生まれ。93年より無国籍楽団〈ダブルフェイマス〉のメンバーとして音楽活動を続ける。2010年から野外イベント〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉を主宰。企画/ディレクションカンパニー〈BAGN Inc.(BE A GOOD NEIGHBOR)〉を設立。東京と鹿児島を拠点に、日本各地でオープンスペースの空間プロデュースやイベント、フェスティバルなど、ジャンルや地域を越境しながら多くのプレイスメイキングを行っている。2018年、鹿児島県南九州市川辺の地域プロジェクト〈一般社団法人リバーバンク〉の代表理事に就任。

毎週末、鹿児島へ。分刻みで人に会いまくる!

2019年の今年、10周年を迎えた
〈GOOD NEIGHBORS JAMBOREE(グッドネイバーズ・ジャンボリー)〉を
始めるまでのストーリー。前回の連載では場所を見つけるまでをお話しました。

まずはどうなるかわからないけれど、
南九州市川辺町(かわなべちょう)の森の中にある廃校でイベントをやってみよう。
そう思い立ったはいいものの、打ち合わせでその場所に行くだけでも大変です。
当時も今も、僕は首都圏に暮らし東京中心に仕事をしています。
鹿児島を離れてから20年以上経っており、
生まれ育ちが鹿児島というだけで完全によそもの。
東京での仕事の合間を縫って、
なんとか週末に時間をつくって毎月鹿児島に行くという生活が始まりました。

美しい朝焼けの桜島。

美しい朝焼けの桜島。

とにかく時間がないので、
鹿児島に着くとそこから分刻みで夜中までアポを入れて協力してくれそうな人、
おもしろいことをしていそうな人を紹介してもらっては会いに行くという日々。

この頃、雑誌『relax』の元編集長の岡本仁さんも、
〈ランドスケープ・プロダクツ〉の中原慎一郎君の案内で
鹿児島をめぐりながらブログを書いていました。
中原くんと一緒に岡本さんを案内していた鹿児島の人たちが、
僕もあちこち連れて行ってくれることになりました。
このときに出会って仲良くなった友人たちは、
今でもグッドネイバーズ・ジャンボリーの実行委員として活動してくれています。

ブログがきっかけになってできた『BE A GOOD NEIGHBOR〜ぼくの鹿児島案内』(岡本仁 著)。

ブログがきっかけになってできた『BE A GOOD NEIGHBOR〜ぼくの鹿児島案内』(岡本仁 著)。

そんななかで紹介されて訪れた場所のひとつが、
鹿児島市にある知的障がい者支援施設〈しょうぶ学園〉でした。
この施設は障がいのある方々と一緒にアートやクラフトを制作する活動に取り組んでいて、
園内にギャラリーがあるという話は聞いていました。

実は僕の家系は社会福祉法人を営んでいて障がい者施設も運営していたので、
利用者が趣味で画を描いたり陶芸をしたりという活動には馴染みがありました。
逆にそういうことを知っていたせいで、
当時の僕は障がいのある人たちのアートと言われても、
正直、趣味程度のものとしか思っておらず、
ピンときていなかったというのが正直なところでした。
友人の案内がなかったら自分ではそのとき、足を運んでいなかったかもしれません。

美術館のような〈しょうぶ学園〉。

美術館のような〈しょうぶ学園〉。

ところが園を訪れてみると、
広々とした公園のような敷地にすてきなデザインの工房や居住施設があって
居心地のよさそうなカフェまであり、
とてもそれまで思い描いていた旧態依然とした「障がい者施設」などではありませんでした。

園内を見せてもらいながら
趣味のレベルなどはるかに超えた圧倒的な作品の数々に見入っていると、
ギャラリーに民族楽器を使った現代音楽のような音楽が
うっすらと流れていることに気がつきました。
気になってこれは誰の演奏かと職員に尋ねたところ、
園の利用者さんが演奏しているものだと教えてくれました。

僕が相当に興味を示したこともあって、
あとで施設の方がその演奏をおさめたDVDを送ってくれました。
その映像を見た瞬間、
そのユニークすぎる音楽とパフォーマンスにあらためて衝撃を受けました。
何度も何度もそのDVDを見返しながら、
熱病にかかったような勢いで企画書を書いて
次の鹿児島滞在のときにしょうぶ学園の園長に会いに行きました。
会いに行ったというより一方的に押しかけたというほうが正しかったと思います。

まだイベントのタイトルすらも決まっていませんでしたが、
考えていることをとにかく必死で伝え、聞いてもらいました。
その頃のしょうぶ学園は外でチケット代をとるようなイベントで
音楽の披露をしたことはほとんどなく、
鹿児島の森の中でフェスティバルを開催したいという僕の話も
半信半疑だったと思うのですが、僕の異常な勢いになにかを感じてくれたのか、
なんとか出演してもらえることになりました。

それがこの10年間、
毎年グッドネイバーズ・ジャンボリーでトリを務めてくれている
パフォーマンスバンド〈otto&orabu〉です。

〈otto&orabu〉によるライブ。

〈otto&orabu〉によるライブ。

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おもしろそうな人には全員、声をかけた!

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なにかつくり出すのは、音も物も表現が少し違うだけ

そのほかの出演者も
鹿児島で音楽活動をしている人たちの情報が少しずつ集まってきました。
予算的にも東京からたくさんアーティストを呼ぶことは難しかったので、
僕も自分が所属しているバンド〈ダブルフェイマス〉のみんなにお願いして
鹿児島に来てもらうことにしました。

僕がメンバーとして活動している〈ダブルフェイマス〉というバンド。

僕がメンバーとして活動している〈ダブルフェイマス〉というバンド。

当初から音楽だけのイベントにはしたくなかったので、
若いクラフト作家にも声をかけて
ものづくりのワークショップもやってもらうことにしました。

とにかくおもしろいことをやっていそうな人には全員声をかけて
来てもらおうと思ったということと、
ものづくりをしている人と話をしていると音楽好きな人も多く、
音でも物でも表現の仕方が少し違うだけで、
なにかをつくり出す人にジャンルの垣根なんてないんだなと
感じていたということもあります。

イベントで開催した木工ワークショップ。

イベントで開催した木工ワークショップ。

そんな具合で準備をし始めたのが2009年末から10年春にかけて。
夏には開催しようと考えていたのでよく考えると時間が全然ありません。
しかし、なかなかタイトルが決まらない。
やりたいことは見えているけれど焦点がもうひとつ定まらない。そんな感じでした。

悩んだ末にここは鹿児島案内の書籍を出したばかりの岡本さんに相談してみようと、
またしても一方的に押しかけたのでした。

その頃までに僕は自分のバンドでも
日本中あちこちのフェスティバルに出演させてもらっていましたが、
いろんな地方で開催されるフェスが
どこも同じようなラインナップになってきているように感じていました。

そういったいわゆる「夏フェス」の楽しさはもちろんよくわかるし大好きです。
でもわざわざこれから自分が始めるのであれば、
ネームバリューのあるバンドをショーケースのように並べるようなイベントではなく、
少し違うやり方があってもいいだろうと思っていました。


ダブルフェイマスが出演した東京の野外フェスティバル。

ダブルフェイマスが出演した東京の野外フェスティバル。

経験上、ミュージシャンの仕事としてフェスに参加すると、
とにかくその場所に行って演奏し、その地域のことをほとんど知らないまま
ただ帰るということになってしまいがちです。
僕はもっと出かけていった地域や人たちのことを知りたかったのでそれが残念でした。

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イベントタイトルが決まった!

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みんながフラットに交流する、文化のお祭りにしたい!

それに東京で活動しているアーティストばかりが大きなステージに出ていて、
地方のアーティストはあまりお客さんがいない時間にちょっとだけ出演しているというのも
なんだか居心地が悪い。

あとは、音楽のフェスティバルは音楽がメイン、
クラフトやアートのフェスティバルはそういったことに興味のある人だけが集まっていて、
それぞれのジャンルでシーンがたこつぼ化しているようにも感じていました。

東京中心に活躍している人も、地域で活動している人たちも。
ミュージシャンやクラフトマン。食事をつくれる人。絵を描ける人。
文章を書き言葉で表現する人。
大人も子どもも、教える人も教えられている人も、楽しませるのが得意な人も楽しむ人も。
障がいのあるなしも関係ない。

ワークショップがあれば家族や親子で参加しやすい。

ワークショップがあれば家族や親子で参加しやすい。

そういう世界が鹿児島にあったら、
東京で音楽活動をしてきた自分も生まれ故郷にもう一度居場所がつくれる気がする。
地方でものづくりをしている人たちのステージをつくることで
みんなの居場所もつくれるんじゃないか。
コンセプトはみんながフラットに同じ場でステージに立ち、
ジャンルを超えて交流するような文化のお祭り。

そんなことを一生懸命に岡本さんに伝えた憶えがあります。
そうしたところ岡本さんがひと言、
「それってグッドネイバーっていう感じですね」と。

みんながいろんな垣根を超えて協働し合う。良き隣人たちの集まり。
紋切り型の「夏フェス」という感じでもないからフェスティバルというより、
お祭り騒ぎ=ジャンボリーって感じがしっくりくる。
それで、グッドネイバーズ・ジャンボリー。

第1回のジャンボリーで岡本さんが自著について語る。

第1回のジャンボリーで岡本さんが自著について語る。

岡本さんが鹿児島案内の本につけていたタイトルも、
『BE A GOOD NEIGHBOR〜ぼくの鹿児島案内』でした。
想いを同じくする人たちとは良き隣人として
アイデアやコンセプトもシェアしてみんなでやっていこう。
そういうメッセージだったのだと思います。
これ以上のタイトルは思いつきませんでした。

こうしてコンセプトとタイトルが決まって、
グッドネイバーズ・ジャンボリーはようやく旗上げということになりました。

しかし、本当に大変なのはここからでした。
携帯の電波も届かず、交通インフラも整っていない中山間地域で
実際にイベントをやるとなるとオペレーションの負荷がかなりかかります。

次回は、グッドネイバーズ・ジャンボリー立ち上げ編の最終回、
予定していた日程で始められなかったという事件からお話します。

イベントのシンボルとなるフラッグ

information

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GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 
グッドネイバーズ・ジャンボリー

Web:https://goodneighborsjamboree.com/2019/

※2019年の開催は終了しています。

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