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与謝野発、織物の可能性を
みんなで作り考える
京都・与謝野町
〈YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT〉

ロフトワーク
ローカルビジネス・スタディ
vol.007

posted:2016.5.13   from:京都府与謝野町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。

writer profile

Shinya Kunihiro

国広信哉

くにひろ・しんや●立命館大学卒業後、デザイン事務所にてソーシャルデザインを軸に空間/紙/Webなどのデザイン及び企画設計を担当。2011年ロフトワーク京都へ入社。中〜大規模Webサイトのデザインリニューアルから、地場産業とクリエイティブを掛け合わせて価値を作り出すプロジェクトを得意とする。趣味は山のぼりと野外録音。好きな音楽はピグミーのポリフォニー。

company profile

Loftwork

ロフトワーク

ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/

Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの“デザイン”を手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈ロフトワーク〉がお届けする
「ロフトワーク ローカルビジネス・スタディ」。

7回目は、織物の新しい可能性をみんなで作り考える、
京都府与謝野町を舞台とした〈YOSANO OPEN TEXITLE PROJECT〉。
本プロジェクトのクリエイティブディレクターの国広からお届けします。

YOSANO OPEN TEXTILE PROJECTとは?

「ガシャガシャガシャ……ガッチャン……ガシャガシャガシャ……」

初めて与謝野町を訪れたとき、最も印象的だったのが
路地裏から聞こえる機織りの音でした。

丹後半島のつけ根にある与謝野町は、
古くから丹後ちりめんをはじめとする織物産業で栄えたまち。
ただ昭和40年代の全盛期に比べると織物産業の勢いが徐々に衰え、
若い継ぎ手の方も少なくなってきているという問題に直面していました。

そこで、次世代の織物産業を担う20〜30代の若き織物職人を対象に、
それぞれが持つものづくりの力と、
これまで直接的に出会うことの少なかったクリエイティブの世界が出会うことにより、
誰も考えなかった織物の未来を、共に考え、つくってみよう!
という目的で2016年1月より始まったのが、
〈YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT(ヨサノオープンテキスタイルプロジェクト)〉です。

・異業種のクリエイターたちと若手織物職人がコラボレーションし、一緒に悩みつつ、
新しい「織り」の可能性を感じられるプロトタイプをつくる。

・それ自体が完成品ではなく、「何これ(笑)!」「おもしろいね」「私ならこうする」など、
あーだこーだ言える、議論のタネになるようなものを目指す。

・そしてそのプロセスをオープンにすることで、
多くの方に与謝野町の「織り」の技術や文化を伝えていく。

そんな思いを込めたプロジェクトにしたい! と考え、
ゲレンデが溶けるような熱い3か月間がスタートしました。

ちなみに私は、その実現のために「どういうメンバーで取り組み」
「どういう機会をつくり」「どういう発信をしていくか」を考え、
参加される方がワクワクできるような舞台づくりに奔走しました。

“しさく”を通じて“たいわ”する

このプロジェクトは「商品開発」ではありません。
外からきた人“だけ”で決めず、“みんなで”できる限り可能性を探索し、
答えを出していくコミュニケーションの過程こそが大切だと考えました。

そのため、アイデアの創出からプロトタイプづくりに至るまで、
「自発的に取り組んでいけるくらい楽しいプロジェクト」を目指しました。
ワークショップ、Webサイト、展示会など、プロジェクトに関わる織物職人、
クリエイター、一般の方たちが同じ視点でコミュニケーションできる場をつくっていきました。

例えば、アイデア創出のワークショップでは職人たちに
「マイフェイバリット」なモノを持ち寄ってもらいました。
これはアイデアをつくっていく際に、自分の好きなエッセンスを盛り込むことで
「自分ごと化」できるメリットがあります。
そこにクリエイターが機場を視察するツアーで得た気づきやアイデアの種をかけ合わせ、
さらに一般の方の視点も組み込みながらアイデアを練っていきました。

ワークショップ後、アイデアをもとに実験を行っていくチームを3つに分けました。
頻繁に会うこともできないため、チームごとに実験結果をFacebookやTumblrで共有。
小さくても手を動かし、失敗も含めた気づきを共有しあうことで、
「失敗しちゃった(笑) → じゃあこうしてみよう!」
「この構造が再現できるかわからない → じゃあ私が試してみる!」など
フランクなコミュニケーションが生まれました。

このプロセスはすべてオープンにしているので、この実験用Tumblrで見ることができます。
いろんな感情が入り混じるカオスな実験の模様を、ぜひご覧になってみてください。

各チームの実験がかたちになってきた段階で、
「うまくいったところ」「うまくいかなかったところ」を全員で共有しあう
中間報告会を実施。いろんな角度からの意見を取り入れ、さらにアイデアを磨いていきます。
日々の概念をとっぱらって、アイデアを飛躍させていくのは大変な作業ですが、
各チームのディスカッションでずっとやりとりを続けてきたからこそ、
みんなから笑顔がこぼれていました。

また試行錯誤のプロセスを多くの方に知ってもらうために、
実験したモノや与謝野の〈織り〉を構成する道具などをレイアウトした特別展示も行いました。
私も普段なかなか接することのできないカイコを20匹育て、
どう成長していくか、どう繭をつくっていくかを、
来場された方が目で見て学んでもらえるように工夫しました。

さらに一般の方で興味を持っていただいた方には、サポーターメッセージとして、
プロジェクトや与謝野の〈織り〉についてコメントをいただきました。

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3か月間でできたプロトタイプたち

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織りの可能性を飛躍させるプロトタイプたち

こうして3か月間の多様なプロセスを通じて、プロトタイプが生み出されました。
正直、プロジェクト開始時点では、この最終形は見えておらずただただ不安でいっぱい。
でも生み出されたいろんなモノは、ここから議論を生み出し、
飛躍できる可能性を大いに秘めているのでは、と感じています。

例えば「パターン班」のつくったプロトタイプは粗い織物。
分業体制の各工程を見直すなかで、機織りからセリシン取り※1 の精錬工程に
いまだないパターンを発見したのがきっかけで、
生機(きばた)※2 から精錬を施すことで
縮ませることを前提とした素材開発のプロトタイプをつくりました。

※1 セリシン…カイコが絹を生産する際に作るタンパク質。繭をコーティングする役割があるが、付着したままだとゴワゴワな織物になるため、通常だと工程上取り除かれ廃液となる。

※2 織機から織り上がって外したままの状態

今後の活用方法として、スリップしやすい組織がもたらす過剰なまでの縮みやドレープを
積極的に取り組んだテキスタイルができるのではないか、と考えています。
例えば自分でドレープや縮みをカスタムメイドできるような製品もできるかもしれません。

また、不均一な糸をテーマに取り組んだ「イレギュラー班」では、
当たり前と思われている工程や素材をあえて別角度から検証。
ボンドでコーディングされた水滴のようなニュアンスを持つ糸や、
結び目をランダムに発生させた糸で織った織物などのプロトタイプをつくりました。

3チーム目の「デジタルと織」班は音の紋様をテーマにしました。
Processing(デザインのためのプログラミング言語)で
音をかたちにするというアイデアを生かして、色から音を読み出す装置を作成。
対象物の色を測定しRGBの各数値が当てはまる条件に応じて
音が鳴るプロトタイプをつくりました。

これらプロトタイプの多くは、職人とクリエイターが目線を合わせて、
楽しみながらつくりあげたもの。「普段はやらないんだけど」が積み重なり、
新たな製品をつくり続けていたかつてのように、
普段はやらないことをあえてやってみることで、
与謝野町の〈織り〉の可能性が少しずつ広がっていくのではないかと考えています。

プロトタイプをもとに多くの人と議論し、かたちにする

「機能や、用途等からだけから、スタートするのではない試みが、
素材自身の見方を変えてくれた。
今後も一緒に小さな再確認、再検証を積みあげることで、
与謝野町でしかうまれないものを見てみたいです」
ープロダクトデザイナー:吉行良平さん

「正直まだどうなるか見えてきませんが(笑)、
できるできないは置いて取り組んでみると何かしら気づきがあります」
ー与謝野町職人:高岡操機場 高岡徹さん

「元々伝統工芸に関わる仕事もしていたので、
与謝野町の織物が産業として人気が出たり
ニーズが増えるような結果に繋がるといいと思いました」
ーサポーター:掛札英敬さん

プロジェクトを振り返り、さまざまな立場の方からコメントをいただきました。
ただ与謝野町職人の高岡さんのコメントにあるように、
フェーズ1として行われた3か月間では、まだスタートラインに立てたにすぎません。
この短い間でつくられたプロトタイプとチームの関係性を大事にしつつ、
この夏以降はさらにアイデアを飛躍させていくような仕組みをつくっていきたいと考えています。

プロトタイプ発表と時を同じくして、
与謝野町全体で掲げる与謝野ブランド戦略のWebサイトが公開されました。
これからも職人、クリエイター、与謝野町民、見守っていただいているすべての方々と一緒に、
ワクワクできるウネリを生み出せるようこのプロジェクトを育てていきたいと思います!

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MTRL KYOTO 
マテリアル京都

住所:京都府京都市下京区本塩竈町554
アクセス JR京都駅徒歩15分/京都市営地下鉄五条駅徒歩7分/ 阪急京都線河 原町駅徒歩10分/京阪電鉄清水五条駅徒歩3分

TEL:075-708-2593

営業時間:月~金 11:00-22:00

定休日:土日祝休(イベント除く)

https://mtrl.net/
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