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連載

みんなから愛される
島であり続けるために。
石垣島〈USIO Design Project〉

ロフトワーク
ローカルビジネス・スタディ
vol.002

posted:2015.9.29  from:沖縄県石垣市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。

writer profile

Shoma Terai

寺井翔茉

てらい・しょうま●ロフトワーク シニアディレクター。
立命館大学卒業後、2008年に新卒でロフトワークへ入社。
2012年に最年少でシニアディレクターとなり、ロゴやプロダクト、コンテンツ、展示のディレクション、デザインコンペティションの運営などさまざまなクリエイティブを手掛けながら大型のCMS導入やWebディレクションなど、幅広く豊富な制作実績をもつ。

company profile

Loftwork

ロフトワーク

ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/

「ロフトワーク ローカルビジネス・スタディ」連載第2弾は、
デザインの力を通して石垣島の魅力を再発見する、
沖縄県石垣市主催の〈USIO Design Project〉。
本プロジェクトに関わって2年、
ロフトワークのシニアクリエイティブ・ディレクターの寺井翔茉がご紹介します。

USIO Design Projectとは?

プロジェクト名の〈USIO〉の由来は、海の〈潮(うしお)〉のこと。
異なる海流がぶつかる〈潮目〉は、豊かな漁場になるというエピソードと、
島の象徴である美しい海のイメージを重ね、
デザインのチカラを通して“外の視点”と
“島で生まれるモノ、働くヒト、育まれる知恵”がぶつかり、
新しい豊かさを生みだしたい!そんな想いが込められています。
プロジェクトは2013年秋より約8か月をかけて、
石垣島の島内で生産される10の名産品を対象に、
新しいパッケージデザインの公募と商品化を行いました。
リデザイン公募へは国内外204名のデザイナーが参加し、
約2か月という短い公募期間にも関わらず、
世界中から431点のデザインが寄せられました。

みんなから愛される島であり続けるために

USIO Design Projectは、いわゆる〈地域活性化プロジェクト〉ではありません。
むしろ、活性化しすぎた地域の中で“自分たちの良さ”を見直すためのプロジェクトです。
石垣島は沖縄本島から400km、台湾から270km離れた場所にあり、
車で一周すると2時間程度の島。
もともと人気の強い島でしたが、2013年3月の新空港開設とLCCの就航により、
島民4万8,000人の島に年間100万人の観光客が訪れるようになり、
ますます島は賑わうようになりました。
一方、急速な観光者数の増加に戸惑う住民と、
都会と同じレベルのサービスを求める観光客の間で、
これまで想定していなかった観光客とのトラブルも起き始めたそうです。
2013年は石垣島にとってターニングポイントであり、
そのような状況の中で始まったのがUSIO Design Projectでした。

「観光バブルの中で、このまま求められるものに応えるだけで良いのだろうか?」
「たくさんの人が石垣島に来てくれて人気者になることはありがたいが、
自分たちらしさを見失ってしまわないだろうか?」
「そもそも石垣島らしさ、八重山らしさって何なんだろうか?」

大切な島の環境をキープしたままで、みんなから愛され続ける場所であり続けるために、
今までとは違う視点で考えてみること。これがこのプロジェクトの目的でした。

その“今までと違う視点”として
“デザイン”という考え方を全面に持ってくることにしました。
デザインする対象の魅力を、きちんと深く理解しなければデザインはできない。
デザイナーは“魅力を引き出す目利き”になってもらう必要がある。

これがUSIO Design Projectが“今までと違う視点”としてデザイナーを起用した理由で、
そのプロセスとしてより多くの人が参加できる“公募”というかたちを採用しました。

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USIO Design Projectはここが違う

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すべてのプロセスをオープンに

USIO Design Projectでは、
プロジェクトに関するほぼ全てのプロセスをWebサイトやSNSでオープンにしています。
公募作品はクリエイターが応募した瞬間にウェブに公開され、
誰もが応募された作品を見れるようにしました。
また、プロジェクトを立ち上げた時の想いや、メンバーが初めて石垣島に降り立った瞬間、
難航するロゴデザインの進捗、島内での取材の様子などなど、
細やかにプロジェクトの進捗をSNSで発信し続けました。
公募の審査結果は島内で発表会を開催、審査員から生産者へ採用理由を直接説明しました。
またこの発表会はUstreamでも配信、公募に参加したデザイナーも固唾を呑んで見守りました。
行政主催の公募プロジェクトは多くありますが、
公募のプロセスがここまでオープンになっているものは珍しいケースだと思います。

オープンにすると参加者が増える

ここまでオープンにしてしまうと、準備も大変。
スピード感も求められるし、予想外のトラブルが起きるリスクも高まります。
それでも、僕たちは“オープン”であることにこだわりました。
なぜなら、より多くの人がプロジェクトに参加できるから。
島内の生産者が応募作品を印刷してまち中の掲示板に貼り出してくれたおかげで、
インターネットを使えない島内のおじぃおばぁも応募の経過を楽しんでくれるようになりました。
一方、デザイナーはどんどん増えていく応募作品を見ながら、新たな気づきを得て、
それらに負けないよう自分のアイデアに磨きをかけていくことができました。

またWebサイトやFacebookでは、
商品化に向けて改良されていくデザインへの意見を問いかけたり、
商品を取り扱ってくれる店舗を募ったりと、
インターネットを通じたオープンなコミュニケーションが行われました。
一般的な公募プロジェクトでは、このようなプロセスは公開されず、
全てが完成し整った状態で初めてお披露目されることが多く、
その過程に関わることができるのはごく一部です。
思い切ってオープンにすることで、より多くの人がプロセスに参加できる機会が生まれます。
そして参加する事は共感を生み、
単なる消費者ではなく関係者やファンへと変わっていくことができるのです。

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クリエイターと生産者が出会って生まれた化学反応

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石垣島の生産者へ会いに、クリエイターズキャンプ

応募デザインが採用されたデザイナーは石垣島を訪れ、
リデザイン候補の名産品生産者と過ごす3日間の〈クリエイターズキャンプ〉に参加しました。
クリエイターズキャンプは、実際に石垣島を訪れることで、島の空気や文化を肌で感じ、
商品化に向けた生産者との話し合いと、
名産品がつくられるプロセスを体験し理解を深めることを目的としています。
六本木で音楽イベント関連のデザインをしているデザイナーが、
石垣島の農協のおじさんと出会う。
台湾南部でサングラスのデザインをしている台湾人デザイナーと、
石垣島の漁協のおじさんが出会う。
この新しい出会いを通して生まれる化学反応も、USIO Design Projectのおもしろさです。

デザイナーと生産者が直接関わることから生まれたアイデア

大阪のグラフィックデザイナー本田アツシさんは
石垣島で地元に人気の油みそ〈あんまぁーのアンダーミシュ〉のデザイン案が採用され
石垣島を訪れました。
はじめは緊張をしていた初対面のふたりが、
いつの間にか親子のようになっていたのが印象的でした。
打ち合わせだけでは聞くことができなかった、今までの不安や、さまざまな工夫、
先代から続く想いを聞くことができました。

この体験をもとに、本田さんのデザインは細かな改良が加えられていきました。
瓶の蓋を包む包装紙は当初、紙をかぶせた後に紐をひとつずつ結んでいくという
二重の工程を想定していましたが、生産者の労力を軽くするため、
ゴム紐を使ったものに変更されました。

さらに、一緒に作った昼食を食べている時に耳にした
「おいしょーり、しかいとぅみーふぁいゆー(おいしいよ、たくさんお食べ)」
という不思議な響きを持った言葉を、シールにして瓶の蓋へ貼りつけて、
石垣島から帰ったあとも島らしさを感じてもらえるようにしました。
また、ほかにもデザイナーからさまざまな提案と改良が加えられています。

遠く離れた本土から勝手にデザインをつくって押しつけるのではなく、
実際に会い、互いを知ることで、デザインのクオリティと実現性を高めていく。
オンラインの情報だけでは得られない「この人のためにつくるんだ」
「この人と一緒につくっていくんだ」というリアリティが重要な役割を果たしています。

自分の良さは周りから指摘されないと意外と分からないのと同じで、
地域の中だけで考えるのではなく、外部視点をうまく取り入れることで気づくことがあります。
その新鮮な気づきを、すぐに、そしてどんどんオープンにして、
共感してくれた仲間を増やし巻き込んでいくことが、
地域のプロジェクトにとって大切な要素だと思いました。
発信スピードの速いインターネットの力をうまく使うのは必須です。
同時にインターネットだけでは伝えられない情報があることも忘れてはいけません。
オンラインとオフライン、どちらかだけだけでは成り立たない。
両者のバランスをうまく取りながら丁寧にコミュニケーションを積み上げていく、
それが地方のプロジェクト成功のポイントかもしれません。
なお、USIOは第2弾〈旅のリデザイン〉を経て、第3弾が進行中です。
これまでのプロセスで見つけた“石垣島らしさ”をより多くの観光客が体験できるように、
観光体験情報を発信するWebサイト〈ISHIGAKI NOW〉として公開する予定です。

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