colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

小豆島 Part4
桶を守れば、小豆島がうるおう!?

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.064

posted:2013.5.16   from:香川県小豆島町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:中島光行

瀬戸内海の島々を舞台に、現在開催中の現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2013」。
その出展準備のため小豆島にたびたび通うことになった山崎さんが
「いま、いちばん話を聞いてみたいひと」と名前を挙げたのは、
小豆島に5代続く、お醤油屋さん。醤油づくりとローカルデザインの関係とは?

祖父が島に残してくれた、たからもの。

山崎

伝統産業も伝統工芸も生態系と同じで、
さかのぼってつながるすべてのものが健全でないと、うまくいかない。

山本

そこに気づかないと、ある部分がふと抜け落ちてしまうんですよね。
むかしながらのいいものが、どこかで手を抜かざるを得なくなってしまう。
しかもそれが根っこの部分だった場合は、もう致命的です。

山崎

ぼくたちにとって大事なものを未来にきちんと残していくためには、
まわりの環境も整えてホンモノを保たないと、続いていかないということですね。

山本

実はさきほど、箍(たが)を編んでいると言いましたが……。

山崎

組んだ樽を固定している、竹で編んだ縄のような輪っかの部分ですね。

山本

この19石(*1)の大きな樽用の箍を編むには、
13メートル以上の長さのあるマダケが必要なんです。
だけどこれもまたなかなか希少なものでね。
だけど、京都の山から切り出してその場で削り、
さらに小豆島までフェリーで運ぶには、丸めざるを得ない。
そうするとどうしても型がつく。そこで、桶屋がこう言うんです。
「むかし、島に桶屋がおったんやったら、
マダケの薮があるはずやから、探してみろ」と。

山崎

ほぅ……。

山本

言われるがままに探してみたら、近所のひとがこう言うんです。
「箍を編むマダケやったら、将来のことを考えて、
お前のじいさんと一緒にあそこの山に植えたぞ」って……。

山崎

すごい!

山本

でしょう。ぼくもさすがに、涙が出ました。

*1 石(こく):お米を表す単位のひとつ。1石は約180.39リットル。

山本康夫さん

「まさか、うちの祖父が島内にマダケを植えてくれていたなんて、ほんとうに奇跡のようなはなしです」と山本さん。

木樽づくりが島の暮らしの生態系につながる。

山本

うちみたいなちいさな醤油屋は、大手と競ってもしかたがないですから、
とことん丁寧にやるだけです。
小豆島の醤油屋は木樽をつかっているところが多いですから、
それをぼくら自身が修繕できるというのは、ものすごい強みになるはずなんです。

山崎

しっかり足下を見るのがいちばんですね。

山本

島全体で木樽づくりに注力すれば、
きっと醤油のブランド価値があがると思っているんです。
すると、その醤油でつくる佃煮もそうめんもうまい、ということになる。
小豆島は食品産業の従事者がいちばん多いですから、
すなわち島のうるおいにつながるはずなんです。

山崎

お、道具から、ものづくりだけでなく、島の生活まで繋がりましたね。
「風が吹けば桶屋がもうかる」ということわざもありますが、
まさにそんなイメージですね。産業、あるいは暮らしの生態系ですね。

山本

つながる理由があるから、つなげる。

山崎

ローカルデザインとは、つまりそういうこと。
どこかでぶつ切れになっていたら、成り立たない。

山本

ひとりでやろうとしないこと。
ぼくは40歳になって、樽のことをやろうと思った。
あとに続くまわりの20代、30代も、それをみて、
じぶんができることをやろうとしてくれる。
そうやっていけば、いいつながり、いいスパイラルが生まれるはずなんです。

山崎

そうですね。「小豆島のなかで一番」を競い合うのではなく、
「小豆島は醤油の島だ」ということを
みんなで盛り上げていけたらいいんだと思います。

山本

醤油って、ひと樽つくるのに4〜5年かかりますからね。
醤油屋やってると「長い目でものを見る」感覚が養われるのかもしれません(笑)。

山崎

小学生の息子さんたちが6代目になるころのことが、
ぼくもたのしみになってきました。
父親のこれほどの本気を受け継ぐんですから。

山本

娘もいれて、3人もいますから。
長男が醤油屋を継いで、次男が桶屋になってくれたら言うことなしです!(笑)

ヤマロク醤油の軒先でいただける「アイスクリームの鶴醤かけかけ」

ヤマロク醤油の軒先でいただける「アイスクリームの鶴醤かけかけ」300円。バニラの甘さと醤油のほどよい味わいがバランスよく。

木樽の中で二人並んで写真を一枚

ひとつひとつの木樽の大きさを実感。「小豆島全体で、未来に向けて木樽仕込みの醤油を守り継げるといいですね」

information

map

ヤマロク醤油

住所:香川県小豆郡小豆島町安田甲1607

TEL:0879-082-0666

※見学は随時受付、予約不要

Web:http://yama-roku.net/

profile

YASUO YAMAMOTO 
山本康夫

1972年香川県小豆島生まれ。ヤマロク醤油5代目。大学卒業後、小豆島に戻りたくて、島の佃煮メーカーに就職。営業職で大阪に赴任後、東京に転勤。2002年、小豆島に戻り、家業のヤマロク醤油を継ぐ。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ