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滝川 Part4
第5回太郎吉蔵デザイン会議
を終えて。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.030

posted:2012.8.30   from:北海道滝川市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:酒井広司、山口徹花

生まれ育った北海道滝川市にて、デザインとアートによるまちの再生にたずさわる
彫刻家・五十嵐威暢さんと山崎さんの対談を、4回にわたってお届けします。

少しずつ、間接的に。でも確実にまちへ沁み出していく。

山崎

大きな蔵のなかに何人かのデザイナーが集まって
「あーでもない、こーでもない」と本音でしゃべる。
聴衆を意識したり、喜ばせたりしようと努力する必要がなく、
ただそこに集まったパネリストとの対話を楽しむだけでいい。
これは気が楽でいい。のびのびと、対話を楽しませてもらいました。
でも、蔵の外からは、なかで何が行われているのかわからないし、
この会議はそもそも滝川のまちに影響を与えようと意図されたものでもありません。
では、まちにまったく何の影響もないのかというと、そうでもないと思うのです。

会議には毎回、地元のデザイナーや起業家、活動家が呼ばれます。
そして、まず彼らの基調講演を受けて、
全国から集まったデザイナーたちが語り始めます。
彼ら地元の基調講演者、加えて地元の聴衆者が、
この場の対話の内容をそれぞれの日常へ持ち帰ることで、間接的とはいえ、
蔵の中で話し合われたことが少しずつまちへと沁み出していくことになるでしょう。

そして、毎年全国からデザイナーが集まって
蔵のなかで話をしているという事実は、
回を重ねるほど地元の人たちにもその存在が認知されるようになるはずですね。
「なぜ自費で?」「なぜ滝川で?」「なぜ蔵のなかで?」
こうした疑問は、じぶんたちのまちの価値や
今後のあり方を改めて考えるよいきっかけになると思います。

「地域の未来を考える会」「地元の元気を取り戻すために」と銘打った
シンポジウムや講演会も一定の価値を持つことは確かです。
でも、それをくり返せばくり返すほど、住民が受け身の姿勢になってしまい
「地元がお客さんになる」危険性も内在しています。
ところが、太郎吉蔵デザイン会議はそうじゃない。
住民が自ら動き出さなければ、情報が手に入らない。
それはほんの一部の人かもしれないけれど、
主体的で力強い行動が生まれる可能性を内在しているといえます。
こんな会議、どこにでもあるわけじゃないですからね。

第5回を数えた太郎吉デザイン蔵会議の会場

第5回を数えた太郎吉デザイン蔵会議。パネリストがじぶんたちで会場の椅子をセッティングするのもユニーク(写真左端は原研哉さん)。

会議中の山崎亮さん

参加申し込みはインターネットの告知のみで、2週間で定員に達したという。「のびのびと好きなようにしゃべれて、たのしかった」(山崎)

小さな田舎の小さな会議。その大きな希望と可能性。

五十嵐

今回も、議論には素晴らしいものがありました。
特に、山崎さんによる「つくることとつくらないこと」の真実、
この視点が議論に持ち込まれたことが
今年の議論の広がりと深さをつくりあげたと思います。
人と人がつながったときの力、激変する世界のスピードに対する態度、
さらにアジアの近未来についても、
情報と知恵と思考の大きな広がりと可能性に思いをはせることができました。
たくさんのおみやげが、心のなかに積み重なった濃密な2日間でした。

山崎さんのおっしゃる通り、
会議は地域の活性化を目指すために開催しているわけではありません。
「NPOアートチャレンジ滝川」としてはそういう活動をしていますが、
その一部である太郎吉蔵デザイン会議は、日本や世界が抱える問題、
本質的な問題についてデザインで解決できる方法、理念について、
滝川のような田舎で話し合われることの健康さを目指しているといえます。
とはいえ、昨年の基調講演者の金道泰幸さんが今年は事務局を手伝い、
新十津川町のお母さんたちが昼食を用意、
滝川の野口翔吾さんが野菜とお米の販売を始めるなど、
運営サイドも生き生きと成長し拡大しています。このような人たちを通じても、
私たちの思いがじわじわと地域につたわることも期待しています。

一方で、新滝川市長、教育長も昨年に続いてのご参加、
地元企業や滝川市と新十津川町の教育委員会の支援もいただき、
ある意味、会議は小さいながらもピークに達した感があります。
今後は、新しい魅力的な仕組みを考えるタイミングにあると考えています。
もちろん、パネリスト自身のための会議だという基本は変わりませんが、
小さな田舎の小さな会議であるから可能な仕組みと議論の高い質を維持しながら、
本音で話ができる環境をひき続き実現したいと話し合っているところです。

帰り際に原研哉さんが、この会議はかなり重要な会議になるかもしれないと
希望の言葉を残してくれました。
この希有な小さな会議を新陳代謝しながら、みなさんと共に、
さらなる高みを目指したいと思っています。

五十嵐威暢さん

真剣な表情で、デザイナーたちの意見交換に聴き入る五十嵐さん(写真奥)。

五十嵐威暢さん、山崎亮さん

パネリストと参加者が平等に交流しながら全員でつくる会議。「こんな会議はほかにはありませんね!」(山崎)(撮影:山口徹花)

information

map

TAKENOBU IGARASHI 
五十嵐威暢

1944年北海道滝川市生まれ、多摩美術大学卒業、UCLA大学院修士課程修了。1970年イガラシステュディオを設立。国内外でグラフィック・プロダクト デザイナーとして活動し、その作品はニューヨーク近代美術館(MOMA)をはじめ世界各国の美術館に永久保存されている。’94年より米国を拠点に彫刻制作に専念し’04年に札幌駅の時計デザイン、札幌駅JRタワー展望室の彫刻「山河風光」などを手掛け、帰国を決意。現在、故郷滝川市にて、デザイン/アートで町を再生するプロジェクト「NPOアートチャレンジ滝川」を設立し、「五十嵐アート塾」を主宰する。2011年4月から多摩美術大学学長に就任。

Web:http://www.igarashistudio.com/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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