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滝川 Part3
アートが、まちの未来に
どう関われるか。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.029

posted:2012.8.23   from:北海道滝川市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:山口徹花

生まれ育った北海道滝川市にて、デザインとアートによるまちの再生にたずさわる
彫刻家・五十嵐威暢さんと山崎さんの対談を、4回にわたってお届けします。

そして、太郎吉蔵の修復が始まった。

山崎

日本に戻ってこられたきっかけは?

五十嵐

終の住処だと思ってロスに家も建てたのに、44年ぶりに北海道から声がかかってね。
故郷が呼んでくれているのだからと、先生と同級生に会いに来ました。

山崎

滝川へ? いつごろのことですか?

五十嵐

2000年です。

山崎

まちの印象は、ずいぶん変わってたはずですね。

五十嵐

ええ。大嫌いなまちになっていました。ゆたかな、自然の美しい場所だけれど、
2代前に開拓された地ですから、やはり文化がない。
でも、同級生との再会が運命を変えたんですね。

山崎

では、太郎吉蔵の修復も、仲間のみなさんからの提案だったんですか?

五十嵐

そうです。ぼくたち兄弟が祖父から相続していた古い蔵は、
次の冬にも崩れるぞという状態だったんですが、
修復してコンサートをやりたいねえ、と。

山崎

改修設計は中村好文さんですね。

五十嵐

改修の費用は見積もりで3400万円。
NPOを立ち上げて助成金を申請しても、行政から出るのは2分の1。
滝川ではほとんどお手上げだったのですが、道内外から、
半年のうちに寄付などで残りの1700万円が集まって。

山崎

それはすごい。

五十嵐

というわけで、アメリカの家をひき払うことになるんです。

修復されてよみがえった太郎吉蔵

修復されてよみがえった太郎吉蔵(1926年竣工)。重厚な木の扉は、五十嵐さんの作品。

アートとデザインと、まちの関わり方。

山崎

なるほど。そういういきさつがあって、
「アートチャレンジ滝川」が生まれるんですね。

五十嵐

駅前のシャッター街は、このまま放っておいても空き地になる。
それならいっそ、札幌の大通公園に負けない公園にしたらどうか。
風景、ランドスケープを観光資源にしよう! というのが当初のコンセプトでした。
でも、のちに山崎さんの本を読んで、おおいに反省することになるんです。

山崎

反省?

五十嵐

全国のメンバーと共有したはずのこの夢に、サークル活動のような
地元の種や芽や根をうまく乗っけることができてなかったんです。
反省すべき大半の原因はここにあると、いまでは思っています。

山崎

なるほど……。

五十嵐

「紙袋ランターンフェスティバル」など、
うまくいったプロジェクトもあるんですよ。
冬のまちが生き返るようになるイベントで、これは実行委員会が発足して、
すでにぼくたちの手を離れるまでに成長しました。

山崎

資料によると10年も続いていますね。なぜ、これはうまくいったんでしょう。

五十嵐

始まりが市民ワークショップだったんです。雪に閉じ込められる長い冬に
たっぷりの時間をかけて、ひとがひとにその手法を教えていく。とくに、
子どもたちの作品は、とてもすばらしい。まさに、まちのひとが生んだアートです。

山崎

では、太郎吉蔵デザイン会議はどこからアイデアが?

五十嵐

「アートチャレンジ滝川」の主たる事業として、五十嵐アート塾があります。
はじめは200人集まったこのアート塾も、
回を重ねるごとにやはり参加者は減っていく。
そこで、ひとが集まる魅力は何だろう、そのための仕組みはどうすればいいだろう、
と考え抜いて生まれたのがデザイン会議。
スピーカーが主役だから、自腹でもやってくる。いわば、聴衆はおまけ。
このあたりの発想は、リチャード・ソール・ワーマンが創設した
当初の「TED(*1)」に影響を受けています。

山崎

なるほど、TEDですか!

五十嵐

足を運んでくださる聴衆を、おまけなんて言ったら失礼だけど。

山崎

いえいえ。ぼくも初めは聴衆として参加したわけですが、
ここで原研哉さんにも会うことができたし、とてもよい刺激をいただきましたよ。

(……to be continued!)

*1 TED:T=テクノロジー、E=エンターテインメント、D=デザインの意。全世界500名の招待者限定のカンファレンスとして、1984年、情報建築家のリチャード・ソウル・ワーマンによってモントレーで開催されたのが始まり。五十嵐さんは、1990年に行われた「TED2」にスピーカーとして登壇しているほか、ワーマンからの依頼でTED10までのタイトルの数字をデザイン。その数字を含むタイトル映像が、毎回の会議のオープニングを飾った。

五十嵐威暢さん

「最近やっと、地元の若いひとの参加が増えてきたし、あたらしく、母校の改修のはなしもある。やめなくてよかった」(五十嵐)

山崎亮さん

「やめなくてよかったですね。でも、ロサンゼルスの自宅から通われていたころはさぞかし大変だったと思います」(山崎)

「第5回太郎吉蔵デザイン会議」で展示された、紙袋ランターン

「第5回太郎吉蔵デザイン会議」で展示された、紙袋ランターン。中に、ろうそくを灯す。(撮影:酒井広司)

information

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TAKENOBU IGARASHI 
五十嵐威暢

1944年北海道滝川市生まれ、多摩美術大学卒業、UCLA大学院修士課程修了。1970年イガラシステュディオを設立。国内外でグラフィック・プロダクト デザイナーとして活動し、その作品はニューヨーク近代美術館(MOMA)をはじめ世界各国の美術館に永久保存されている。’94年より米国を拠点に彫刻制作に専念し’04年に札幌駅の時計デザイン、札幌駅JRタワー展望室の彫刻「山河風光」などを手掛け、帰国を決意。現在、故郷滝川市にて、デザイン/アートで町を再生するプロジェクト「NPOアートチャレンジ滝川」を設立し、「五十嵐アート塾」を主宰する。2011年4月から多摩美術大学学長に就任。

Web:http://www.igarashistudio.com/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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