colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

綾部 Part1
人生の〆切という発想。
50歳らしいしごととは。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.014

posted:2012.5.11   from:京都府綾部市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:中島光行

作家・星川淳さんのライフスタイル「半農半著」にインスパイアされ、
「半農半X(はんのうはんエックス)」という生き方のスタイルを提唱する塩見直紀さん。
5月は、京都府綾部で暮らす塩見さんの「いま」のおはなしをうかがいます(全4回)。

綾部を、かくまち=書くまちに。そのココロは?

山崎

こんにちは! 今日はわざわざうちの大学まで足を運んでもらってすみません。

塩見

いえいえ。声をかけていただいて、光栄です。

山崎

塩見さんの活動は、初めてお会いしてから興味深く拝見しているのですが、
ご著書もたくさん出されてますよね。

塩見

共著を入れると10冊ぐらいになります。
いちばんはじめに書いた『半農半Xという生き方』は、
台湾でも翻訳出版されているんですよ。

山崎

たしか、40歳までに何冊本を出すって、目標を決めていらっしゃったんですよね。

塩見

そうですね。そして今や「ひとり出版社」を立ち上げるまでになりました(笑)。

山崎

……というと?

塩見

実は、出版元の事情で『半農半Xという生き方』とその続編の『実践編』が
完売後もう手に入らなくなったので、ぼくが復刊しつつ、
せっかくなら、綾部近辺の印刷屋さんで刷ってもらおうと。

山崎

なるほど。流通は?

塩見

基本的には講演会などで販売しますが、
Amazonなどでも扱ってもらえるようにします。

山崎

いいですね。

塩見

半農半編集者とか、半農半カメラマン、装丁家など
「半農半X」で生きるひとのしごとになればいいなと。
コミュニティデザインの一貫として(笑)。

山崎

お。それは恐縮です(笑)。

塩見

その名も「半農半Xパブリッシング」。
半農半Xコンセプトに特化するスモール&ローカルな出版社です。
「それ以外は出さない!」心意気です。

山崎

うーん、素晴らしいなあ。

塩見直紀さん

今回の対談のために、山崎さんの勤務する京都造形芸術大学まで足を運んでくださった塩見直紀さん。

新装版『半農半Xという生き方 実践編』

新装版『半農半Xという生き方 実践編』は、5月10日完成。一冊1,000円(税別)。塩見さんのブログ(http://plaza.rakuten.co.jp/simpleandmission/)から購入できる(送料100円)。

めざすは「ことばによるまちづくり」。

山崎

過去に、ぼくたちも海士町で冊子をつくったことがあるけれど、
あれを地域にいるライターやカメラマンでつくれたら。
まちにしごとをつくり出すこともできるし、
あらたなチームができるということですよね。

塩見

ローカルな出版社としては小布施町の「文屋」とか。
沖縄にも小さな出版社が50社ほどあるんです。

山崎

それは知らなかった!

塩見

仙台にも、80年代に加藤哲夫さんという方がつくった
「カタツムリ社」というのがあって、はじめはみんなからお金を集めて、
集まった分だけ本を出す、というスタイルで始まったと聞きました。

山崎

たしか、日本デザインセンターの紫牟田伸子さんも
そんな方法を提唱されていた記憶があります。
欲しい本を、欲しい人のお金でつくる、というような。

塩見

むかし勤めていた「フェリシモ」でも、
この指とまれ方式で本を復刻するというのをやっていました。

山崎

うーん。これってきっと、
塩見さんがずっとやりたかったことのひとつでもありますよね。

塩見

ええ。しかも、かなり最終形ですね。

山崎

おいくつでしたっけ?

塩見

47です。だんだん「50らしいしごと」をしないといけなくなってきたかな、と。
33歳でUターンしたので、気持ちは永遠に33なんですけどね(笑)。

山崎

そういえば、初めてお会いしたときに
塩見さんからいただいた名刺に、内村鑑三のことばで
「我々は何をこの世に遺して逝こうか。金か、事業か、思想か」
と書いてありました。いまでもずっと印象に残っています。

塩見

ぼくも、20代であのことばに出会っていなければ、
フェリシモを辞めなかったと思います。原点ですね。

山崎

あ! あれもたしか、内村鑑三33歳のときの講演会でのことばでしたっけ?

塩見

ええ、そうなんです。
だからぼくにとっては「33」というのがひとつの人生の〆切だったんです。

山崎

それで、きっぱり辞職して地元に……。

塩見

わりと駆け足な人生ですけどね。

山崎

わりとね。

塩見

これといった特技もないぼくがフェリシモ時代に尊敬する先輩から
「塩見くんはことばがいいんじゃない?」というメッセージをもらったことでした。
この綾部で、ことばによるまちづくりができればいいなと。
いまはそんなことを考えています。

(……to be continued!)

対談の様子

「ローカルでの出版、海士町や島ヶ原でもできたらステキだなあ」(山崎)「ぼくは、ことばによるまちづくり。これでいきます」(塩見)

小冊子「かくまちBOOK」

「書く」という観点からのまちづくり10のワークを掲載した小冊子「かくまちBOOK」。

profile

NAOKI SHIOMI 
塩見直紀

1965年京都府綾部市生まれ。大学を卒業後、カタログ通販会社(株)フェリシモに入社、環境問題に関心を持つ。33歳で退社して故郷にUターン。「半農半X(はんのうはんエックス)」のコンセプトを提唱し、NPO法人「里山ねっと・あやべ」のスタッフとして綾部の可能性や21世紀の生き方、暮らし方としての「里山的生活」を市内外に向けて発信している。

Web:http://www.towanoe.jp/xseed/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ