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福井 Part4
もう一度、わくわくしながら
続いていこう。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.013

posted:2012.4.26   from:福井県福井市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:合田慎二

山崎亮さんと一緒に訪れるまちは、早くも3か所目。
古いビルを地産地消カフェとスクーリング空間として再生させた、
福井市のフラット・プロジェクトについてうかがいます(全4回)。

10年先も「ヤバい」仕掛けを続けていたい。

山崎

今回のリニューアルには、なにかきっかけがあったんですか?

出水

はい。とりあえずプロジェクトがスタートしたものの、
動き出してみるとなかなか思い通りにいかない。そんな現状をなんとかしようと。
カフェも、コミュニケーション重視で経営を続けてきた結果、
客層はどんどん濃くなり、そうすると、そこに集うひとたちは
もちろん楽しいんだけど、どうしても横に広がっていかない。
正直、売り上げも伸びない(苦笑)。

山崎

なるほど。

出水

地域の方たちにも、ゆっくり時間をかけて認知されつつあるはずなんですが、
一方で、このままでは「若いひとたちの店」というレッテルを
貼られてしまいかねないんじゃないか、と……。

山崎

どんな風に変わるんでしょう。

出水

改装リニューアルを機に、ボクたちが感じている、
たくさんの小さなズレみたいなものも見直していけたらという思いがありますね。

藤田

具体的には、これまでのように「遊び場」としてだけでなく、
「ビジネスパートナー」として
フラットを見てもらえるような仕掛けも考えていきたいですね。
たとえばフリーペーパーのようなメディアを作って、
1万部規模で発行すれば、広がりが生めるんじゃないかとか。

出水

そうそう。地域のメディアになりたいですよね。

藤田

「こんなことが実現できたらヤバいよね」という
アイデアや妄想はまだまだあります(笑)。
これをずっとくり返していければ、おもしろいのかな。

山崎

始まりのモチベーションがソレだったわけですからね。
今あらたに、次の10年の「ヤバい」を見つける……。いいですね!

フラットビルの外観

3月末にリニューアルオープンしたフラットビル。次の10年に向けて、ますます「ヤバい」場所になりそう。(写真提供:FLAT)

1階のカフェスペース「フラットキッチン」

1階のカフェスペース「フラットキッチン」。内装に少しだけ手を加えて、スタッフのキモチも心機一転。(写真提供:FLAT)

フラットビルが「祭り」の場になればいい。

内田

ボクら、「ド」がつくローカルですから。
もっとそこを極めていけばいいのかもしれない。
同じ福井といっても、ひとつ山を越えればことばも違うし、うたも違う。
祭りの料理も通夜料理も、村ごとに味が違う。
そういうのをカフェで提案できてもおもしろいのかな。

藤田

北陸の郷土料理として知られる「呉汁」も、地域で異なるんですよね。

内田

祭りのときのお寿司の文化もおもしろい。

山崎

そんなワークショップができたら楽しいかもしれませんね。
「今月は、○○村の△△さんの手料理!」なんて、
きっちりデザインしたかっこいいフライヤーも作って。
そうしたら、「先月の集落には負けられないゾ!」って
みんなどんどん張り切りそうじゃないですか。

内田

想像するだけでたのしそう(笑)。

山崎

市内の中心部にあることを逆手にとって、福井のむかしながらの文化や伝統食、
アクティビティを紹介する場所になればいいのかもしれないですね。

内田

そうか。それで、市内に暮らす若いおかあさんたちに
「体験の感動」を通じて伝えていければ……。

山崎

つまり、フラットに来て作ることが「祭り」になればいいんですよ。

藤田

あ……言ってたね。そういえば。

出水

作るときに言ってたよね。「テーマは祭りでいこう!」って。……忘れてた。

山崎

行政のなか、大企業のなかで社会貢献や文化振興にたずさわるひとが、
枠のなかでは実現できないこと、位置づけられないこと、
でも「やらなくちゃいけないこと」を見つけちゃったときに、
まちにカフェのような「場」を作るケースが出てきましたね。
藤田さんのように、職場に片足を置いたままのひとも、
きっぱり辞めてしまうひとも両方いますが。
「あたらしい公共」っていうのが、その辺から生まれてきている気がします。

藤田

行政も、むかしと比べたらずいぶん寛大になりましたけどね。

出水

行政ばかりをたよりにはできない、
じぶんたちでも動くことも大事だと、みんなも気付いてきてるんじゃないかな。

山崎

公共性をたのしく実行すること。
でも、つい利益のこととかを考えてしまって
「このまま、たのしくなくなっちゃったらヤバいぞ!」と思ったから
リニューアルするわけですね?

出水

その通りです!

山崎

ということは、すでにキモチがもう一度、
わくわくし始めているということでしょう。……ヤバいですね。

三人

ほんっと、ヤバいですよ!(笑)

座談会の様子

「全国で、カフェをベースにボクたちのような活動をしているひとたちがいるはず。そんなひとたちとも繋がっていきたい」と藤田さん。

information

map

FLAT

福井市呉服町にある古いビルを、ワークショップにより多くの人の創造力と行動力で再生したプロジェクト。1Fは「フラットキッチン」という名の地産地消カフェ、2Fはスクーリング空間、屋上には庭園を設け、このビルを拠点にふつうの価値観をクリエイティブな発想で転換し、よみがえった場所で生き方と学び方の再定義を行う。

住所:福井県福井市順化2-16-14

TEL:0776-97-5004

Web:http://www.flat-fukui.tv/

profile

SHIGEHARU FUJITA 
藤田茂治

1972年福井県福井市生まれ。1996年近畿大学大学院修士課程修了。ボタ山と自然が美しい福岡県飯塚市でクラフトを中心としたプロダクトデザインを学ぶ。その後、デザインスタジオに一瞬所属。1998年からデザインの研究職として福井県職員となり、デザイン振興全般、農林水産品の販路開拓等の職務に就く。現在、公益財団法人ふくい産業支援センターデザイン振興部勤務。

profile

KENDAI DEMIZU 
出水建大

1973年福井県福井市生まれ。海外での生活の経験や、田舎ならではの自然の中での遊びから今の地元福井の建築のあり方を模索中。2006年に建築会社、㈱建大工房設立。2010年6月、リアルに人が繋がれるコミュニケーションカフェ「FLATkitchen」オープン。まちなかの廃墟となった建築を再生させ、そこでのコミュニケーションを通じて、まちと人の可能性を引き出していきたい。

profile

HIROKI UCHIDA 
内田裕規

1976年生まれ。越前和紙の里・旧今立町の月尾谷で育つ。広告や宣伝に関わるさまざまなアートディレクションをする傍ら、FLATの立ち上げに参加。主にスクーリングやイベントの企画広報を担当。株式會社ヒュージ代表。http://www.hudge.jp/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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