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福井 Part2
生まれ育った福井のまちと、
ぼくらのこと。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.011

posted:2012.4.11   from:福井県福井市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:合田慎二

山崎亮さんと一緒に訪れるまちは、早くも3か所目。
古いビルを地産地消カフェとスクーリング空間として再生させた、
福井市のフラット・プロジェクトについてうかがいます(全4回)。

まちとデザインについて、ずっと考えてきたから。

山崎

たしか、3人は年齢もバラバラですよね。

出水

はい。ぼくがちょうどまん中で、山崎さんと同じ73年生まれです。
そのふたつ上が藤田さん、ふたつ下が内田です。

山崎

とすると、幼なじみでもなく……はじめは何で知り合ったんですか?

内田

スノボ仲間ですね。ショップの店員さんとお客さんの間柄で、
20歳そこそこからの付き合いです。

山崎

その後、仕事でも一緒に絡むことになるわけですね。藤田さんは?

藤田

当時所属していたデザインセンター(公益財団法人ふくい産業支援センターの
デザイン振興部)で、福井のデザイン展を開催するにあたって、
これまで協力してもらっていた団体でなく、
思い切って地元の若い人材に任せてみよう、というチャンスがあったんです。
この仕事を、内田くんにお願いしたのがきっかけですね。

山崎

それがずっと繋がって今がある、ということですか。

出水

そうですね。3人とも、それぞれに「まちとデザイン」ということについて、
ずっと考えてきた気がします。
同じ福井でも、山間部の池田町というところで
「日本農村力デザイン大学(*1)」というのが
開催されているのはご存知ですか?

山崎

そういえば、何かの媒体で見かけて、うちのスタジオのメンバーと
「いいコンセプトだな」「やられたねー」なんて言ってた記憶があります。

出水

2か月に1度のペースで講義があり、
まちのひとと東京からやってくる大学生が一緒になって、
とてもいいコミュニティを形成しているんです。
福井の中でもとても注目されているコンテンツなんですが……
ただ、やっぱりまだ「デザイン」という面で未熟なんですよね。
そういうのを見ると、ぼくらはつい「もったいない」っていう
ジレンマを感じてしまう。

*1 日本農村力デザイン大学:NPO法人農村力デザイン研究所(福井県今立郡池田町)が実施する講座。農村を中心に、自然や人間、社会といった様々なテーマについて考える。2005年7月から隔月で講座を開催。http://www.c-nord.com/

呉服町商店街

フラットビルがある、呉服町商店街。江戸期から戦前にかけて、福井でいちばん賑わったまち。

あのビルがあったらすべてが解決する、そう思った。

山崎

そんな日々のなかで、黒崎輝男さんに会ったり、
福井でもスクーリングのようなことをやりたいと
考えたりするようになるわけですね。

藤田

そうです。ぼくらはもうすでに内部爆発を起こす用意が整っていて、
さらに黒崎さんや山崎さんのような
外部からの仕掛け人の力も借りることができたら最高だな……と。

出水

そんなタイミングで、ぼくが理想としていた古ビルの物件が、
500万円で売りに出たんです。
それを知って「お金さえあればなあ」ってつぶやいていたら、
すかさず藤田さんが「お前に投資しようか」って言ってくれたんです。

山崎

おお! それは男前な発言だなあ。

内田

さすがは公務員!ってね(笑)。

出水

でしょ? めちゃくちゃ胸を打たれちゃったんですけど、
あまりに荷が重すぎてイエスとは言えなかった。

山崎

そりゃあ、そうですよね。

内田

それで、黒崎さんをお招きした勉強会の日の夜のことですよ。

藤田

そうそう。「ぼく、あのビル買います!」って、
宣言しちゃったんですよね。酒を飲んだ勢いで……。

山崎

なるほど。そのとき、ふたりは同じ夢を描いていたんですか?

藤田

ぼくはぼくで、カフェとセレクトショップとスタディルームがあり、
デザイン事務所も同居していて、自分がその最上階に暮らす、
というような夢を思い描いていたんです。
大阪のgraf(*2)のようなイメージですね。

山崎

そんな思いがぐっと高まっているところに、
古ビル活用のアイデアに満ちた友人が、格好のビルを見つけてきた。

藤田

ええ。あのビルがあったらすべてが解決する。そんな風に感じたんです。

山崎

それが3年ぐらい前のはなしになるのかな?

藤田

そうですね。2009年7月にビルを購入しています。
黒崎さんを福井に迎えた夜から、ちょうど半年後のことでした。

(……to be continued!)

*2 graf:家具・空間・プロダクト・グラフィックのデザインから食、アートにわたってさまざまなクリエイティブ活動を行う集団。大阪・中之島の古い5階建てビルを改装し、家具の製作・展示、カフェ、ギャラリーと複合的な店鋪展開をしている。http://www.graf-d3.com/

フラットビルのイメージイラスト

旧ビル解体前に描かれた、フラットビルのイメージイラスト(FLATブログより)。

座談会の様子

同世代の4人。あのころの夢や熱い思いが、まるで昨日のことのようにことばとなってあふれ出る。

information

map

FLAT

福井市呉服町にある古いビルを、ワークショップにより多くの人の創造力と行動力で再生したプロジェクト。1Fは「フラットキッチン」という名の地産地消カフェ、2Fはスクーリング空間、屋上には庭園を設け、このビルを拠点にふつうの価値観をクリエイティブな発想で転換し、よみがえった場所で生き方と学び方の再定義を行う。

住所:福井県福井市順化2-16-14

TEL:0776-97-5004

Web:http://www.flat-fukui.tv/

profile

SHIGEHARU FUJITA 
藤田茂治

1972年福井県福井市生まれ。1996年近畿大学大学院修士課程修了。ボタ山と自然が美しい福岡県飯塚市でクラフトを中心としたプロダクトデザインを学ぶ。その後、デザインスタジオに一瞬所属。1998年からデザインの研究職として福井県職員となり、デザイン振興全般、農林水産品の販路開拓等の職務に就く。現在、公益財団法人ふくい産業支援センターデザイン振興部勤務。

profile

KENDAI DEMIZU 
出水建大

1973年福井県福井市生まれ。海外での生活の経験や、田舎ならではの自然の中での遊びから今の地元福井の建築のあり方を模索中。2006年に建築会社、㈱建大工房設立。2010年6月、リアルに人が繋がれるコミュニケーションカフェ「FLATkitchen」オープン。まちなかの廃墟となった建築を再生させ、そこでのコミュニケーションを通じて、まちと人の可能性を引き出していきたい。

profile

HIROKI UCHIDA 
内田裕規

1976年生まれ。越前和紙の里・旧今立町の月尾谷で育つ。広告や宣伝に関わるさまざまなアートディレクションをする傍ら、FLATの立ち上げに参加。主にスクーリングやイベントの企画広報を担当。株式會社ヒュージ代表。http://www.hudge.jp/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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