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勝山 Part4
少し先の未来の話。
こどもたちのために。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.009

posted:2012.3.29   from:岡山県真庭市勝山  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

旧城下町・勝山に暮らす染織作家の加納容子さん。
4回にわたり山崎さんとの対談をお届けします。

美しいデザインが、ひとびとをワクワクさせる。

山崎

そういえば、お向かいにすてきなお店ができてますね。

加納

はい。2月半ばにオープンしたばかりなんですよ。
自家製天然酵母と国産小麦のみを使用した、こだわりのパン屋さんなんです。

山崎

彼らは、どういうご縁でこのまちに?

加納

千葉の房総から移転を考えて、
「水のいい場所」を探し求めていらっしゃるときにお会いしたんです。
水はもちろん自慢できるし、まちのコンパクトさもちょうどいいし、
前の暮らしよりも都会的よ、なんてお話をさせていただいて。
さっそく遠方から車で買いにいらっしゃるファンもいらして、
早くも連日行列の人気ぶりですよ。

山崎

そんなに話題のパンなら、うちのスタッフにも買って帰らないと
叱られるだろうなあ(笑)。

加納

うふふ、それは間違いなく(笑)。

山崎

彼らのように、もともと地縁のない若い方が
暮らすことになるケースも増えているんですか?

加納

そうですね。ものづくりをするひとたちが少しずつ。
でも、空き家でも、まちのひとが個人で管理して非常に大切に保存しているので、
いざ「他人に貸してみよう」となるまでには、
やっぱり時間がかかることもありますね。

山崎

ここでもまた、無理をしない、と。

加納

ええ。縁つなぎはしますが、借り主と貸し主が
お互いによく納得してこそですからね。
決して「若者をジャンジャン呼び集めよう」というのではないです。

山崎

そこのところが徹底されていて、気持ちいいですね。
まちづくりは決して誰かの自己表現の場ではない、ということです。
ただあちこちからの声を寄せ集めただけでは、結局誰も満足しない。
そうではなく、ひとりひとりの声が反映されて、
個々の気概みたいなものが次第にまちをつくっていくのが心地いい。

加納

そのためにはまず、役割を担うわたしたちが楽しくないと。
たとえば、「自分のまちに、自慢のおいしいパン屋さんがあるなんて、
最高じゃない?」ってね。

山崎

そうです。さらには、それが「美しく」デザインされている、
ということも大切な要素。
ぼくたちがやっているコミュニティデザインの場合は、
「目に見えないもの」が多いけれど、加納さんたちの取り組みは、
美しいのれんや、新しい店やアトリエが増えること、お雛まつりの継続と、
住民参加のカタチが「目に見えるもの」だけに、
飛躍が実感できるのだと思います。

「パン屋タルマーリー」店内

2月にオープンしたばかりの「パン屋タルマーリー」。丁寧に作られた素朴な天然酵母のパンが愛らしく並ぶ。

「パン屋タルマーリー」のパン

水のすばらしさとまち並みが決め手となって、千葉県から移転。遠方から足を運ぶファンも多い。

こどもたちが、このまちを愛せるように。

山崎

「民」もしくは「私」のモチベーションが
ずっとつながっていった、という感覚がいいですね。
はじめは、好きなひとたちができる範囲でやりましょう、というのが
ひとつのポイントかもしれません。

加納

始まりこそ、行政があとからついてきた格好ではあるけれど、
そうなると、わたしたちも「やるからには成功しなくちゃ」とがんばる。
「みんなうれしいよね」ということを見せたくなる。
そんなことでやってきました。

山崎

楽しいことの延長としてそういうことができれば、最高ですよね。

加納

住んでいる人間が「まちのためにやる」って無理がないでしょう。
「ゴミゼロ」なんて謳わなくても、このまちが好きだったら、
誰だってまちをきれいにしたくなる。とってもシンプルです。

山崎

今、のれんのまちを楽しく動かしているのは、
加納さんの幼なじみあたりの世代とお伺いしましたが、
次の世代は育っているんですか?

加納

世代交代って、考えないようにしているんです。
息子や娘たちは、きっとまたあたらしい感覚で別のことをやるんじゃないかな。
それがいいねって。

山崎

なるほど。

加納

だって、わたしたちが楽しそうにやってると、
自然と寄りたくなったり、刺激されたり、するでしょう?

山崎

楽しそうなおとなの背中を見せる、と。

加納

そうですね。
いちばんはじめに「まちづくりが活動の目的じゃない」と言いましたけれど、
もしもなにか目的があるとすれば、それは
「こどもたちが戻って来たくなるまちであり続けるため」
ということなのかもしれません。

加納容子さん

「まちののれんを作るとき、わたしは作家でなく職人に徹して、役割を実行するという感覚なんです」(加納)

山崎亮さん

「なるほど。まちのひとりひとりの思いが、のれんというカタチになって、前に出てきているんですね!」(山崎)

profile

YOKO KANOU 
加納容子

1947年岡山県勝山生まれ。女子美術短期大学デザイン科、生活美術科卒業後、29歳で勝山にUターン。1996年に勝山町並み保存地区にて、のれん制作開始。翌年、生家にて「ひのき草木染織工房」を立ち上げる。染織作家/「勝山文化往来館ひしお」館長。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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