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小布施 Part2
まちのひとたちでつくる、まちの図書館

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.003

posted:2012.2.14   from:長野県上高井郡小布施町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

小布施の図書館「まちとしょテラソ」で館長を務める
花井裕一郎さんを訪ねた山崎さん。
4回にわたりお二人の対談をお届けします。

本を基軸に、遠まわりをしようよ。

山崎

そういえば、昨年は「Library of theYear 2011大賞」を受賞されたんですよね。
おめでとうございます。

花井

ありがとうございます。
なんでも町民と一緒に決めていくやり方が評価されたように感じています。

山崎

新図書館建設運営委員会にいたメンバーと同じひとたちが、
ひき続きその役割を担っているんですか?

花井

いいえ、そのチームは内覧会終了後に一旦解散し、こんどはプロジェクトとして
「運営」を一緒にやってくれるひとを改めて募りました。

山崎

どんなことをやるんですか?

花井

本にまつわるあらゆる企画、です。

山崎

なんでもあり?

花井

基本的には。でも、まちとしょテラソ“らしく”
企画をブラッシュアップしてから実行しています。

山崎

うん。大切なステップですね。

花井

本に直結するよりも、あれこれ考えているうちに本にたどり着く。
そんな、ちょっとした遠回りもまた楽しいかなって。

山崎

つまりそれが、まちとしょテラソらしさ、ですね。

花井

館内のiPadがすべて貸し出し中だったときに、こどもが
「しょうがねーな、本でも読むか」って言ったことがあるんです。
そういうのがいいかなって(笑)。

山崎

心のなかでガッツポーズですね(笑)。
これまでにどんな企画が実現されたのか教えてもらえますか?

花井

たとえば、さまざまなジャンルのアーティストを講師に招く「美場テラソ」では、
美術館で行われるようなワークショップをやります。
変わったところでは、多目的室を使って
小さなこどもが「転ぶ」練習なんかもやりましたね。

山崎

図書館の概念を変えましたね……。

花井

いやあ、ここにたどりつくまで、そりゃあ大変だったんですよ。
海外の事例もいろいろとひっぱってきて提示しながら、
町民に理解を深めてもらいつつ、一方では行政を説得、説得の日々ですよ。

山崎

ペットボトルの持ち込みOK 、カフェコーナーの円卓では軽食の飲食可なんて、
相当画期的です。

花井

カフェスペースがあるのも、僕の席がカウンターの中に設けられているのも、
すべて町民によって決められたシステムなんです。

山崎

え、館長室みたいなものがないってことですか?

花井

ないんです(笑)。

なぜか人気のある「隅っこ」

なぜか人気のある「隅っこ」。会議や打ち合わせが行われることも。

ワークショップ「美場テラソ」

アートにまつわるワークショップ「美場テラソ」の光景。(写真提供:まちとしょテラソ)

ここができるまで、なにをしていたんだろう。

山崎

話を伺っていると、館内を多目的に使える感じがとてもいいですね。

花井

読書だけでなく、図面書いているひと、会議しているひと、
シンポジウムを開催しているひと……。

山崎

会話もOKなんですね!

花井

ええ。情報を共有するため、コミュニケーションには必要な行為ですからね。
ほかにも、なにやらひたすらに歩き回っている数学者とか……。

山崎

そのひと、なにしてるんですか?

花井

僕もずいぶん怪しいと思って、声をかけたんです。
そうしたら、数式を解くのに、ここでうろうろ歩き回るのが
いちばんいいんだとおっしゃって(笑)。

山崎

おもしろいなあ。ここができて、まちが変わったという実感はありますか?

花井

ありますね。最近は利用者に
「ここができるまで、なにをしてたんだろうねえ」
なんて言ってもらえて、それはもう、館長としてはうれしい限りです。

(……to be continued!)

山崎亮さん

既存の図書館の概念を変えましたね。(山崎)

花井裕一郎さん

まわり道の楽しさも伝えることができたら。(花井)

information

map

まちとしょテラソ

「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築された小布施町立図書館。「本を貸し出す業務」だけにとどまらず、この場で未来を担うこどもたちが世界を感じ、飛び立っていくための支援や、なにかを創り出すひとの支援を通じ、町内外のひとびとの生涯学習の拠点としての「図書館」を目指している。

住所:長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00 〜 20:00

休館日:火曜

Web:http://machitoshoterrasow.com/

profile

YUICHIRO HANAI 
花井裕一郎

1962年福岡県筑豊生まれ。テレビディレクターからスタート。2000年、東京から小布施町に拠点を移し、本来の人間の姿、生き方を模索し創作。2009年より、小布施町立図書館・まちとしょテラソ館長。図書館を交流の場、ワクワクする情報を提供する場として演出している。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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