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連載

横手市〈金輝さくらんぼ園〉
自由な働き方で、農業以外にも
多彩な顔を持つさくらんぼ農家

Local Action
vol.114

posted:2017.10.7  from:秋田県横手市  genre:暮らしと移住

sponsored by 秋田県

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

photographer profile

Tada

ただ

写真家。池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。神奈川県横須賀市出身。典型的な郊外居住者として、基地のまちの潮風を浴びてすこやかに育つ。最近は自宅にサウナをつくるべく、DIYに奮闘中。いて座のA型。
http://yukaistudio.com/

父の思いを受け継いださくらんぼ

さくらんぼの産地といえば山形が有名だが、
隣接する秋田にもさくらんぼ栽培の盛んな地域がある。

「さくらんぼは、水と土を選ぶらしいですよ」

秋田県横手市十文字町で、〈金輝さくらんぼ園〉を営む金澤輝幸さんはこう説明する。
県南内陸部に位置する横手盆地は、全国でも有数の豪雪地帯。
その一方で夏は暑く、肥沃な土壌と豊富な雪解け水、
そして昼夜の寒暖差の大きい気候がさくらんぼ栽培に適しているらしい。

十文字地区でさくらんぼの栽培が始まったのは、明治初期。
さくらんぼが日本に伝来したのが明治元年といわれているので、
産地としての歴史も古い。
昭和20年代までは自家用に栽培されていた程度だったが、その後、
缶詰工場の進出や減反政策などの影響で、栽培面積が拡大して現在に至っている。

広大な平地を有する横手盆地では、ブランド米〈あきたこまち〉のほか、野菜やブドウ、桃、りんご、さくらんぼなど、さまざまな恵みをもたらしてくれる。

金澤さんが就農したのは4年ほど前。父の急逝を機に秋田市からUターンして、
さくらんぼ農園を継ぐことを決意した。
「父の本業は大工だったのですが、思うところがあったのか、
いつの日からかさくらんぼを栽培するようになっていました。
忙しい時期は手伝いに帰っていたのですが、
まさかこんなに規模が大きくなっているとは思いませんでした(笑)」

父の残した農園の面積は、約5000平方メートル。
ひとりで管理するのは、容易でない広さだ。

就農前の金澤さんは会社勤めをしていて、さくらんぼの知識はほぼゼロに等しかった。
しかしながら、父が手塩にかけてきた畑をなくしたくないという思いと、
固定のお客さんが少なからずついていたことが、思い切った決断を後押し。
右も左もわからない状態でできるのは、人に聞くこと、
そして見よう見まねをすることだった。

長さ100メートルもあるさくらんぼ農園。ビニールハウスをかけるのもひと苦労だ。さくらんぼ狩りを体験できる観光農園も運営している。

「最初は近所の先輩農家に聞いてみたりもしたけど、
それぞれ独自に編み出した栽培方法を持っていて、企業秘密にしている部分が多い。
そんななか、たまたま取り引きのあった肥料屋さんが見るに見かねたのか、
山形のさくらんぼ農家さんを紹介してくれて、
2年限定で教えてもらえることになったんです」

農園の中にはところどころに蜂の巣箱が。蜂が受粉してくれるのだ。

「剪定作業ひとつとっても、何が正解なのかは試してみないとわからないし、
人によって正解も違う。思い通りの木を形成するにはどうすればいいか、
先を見越しながら作業をするのは難しいけど、楽しいですね。
すべての責任が自分にある分、会社勤めをしていた頃より
手を抜くことがなくなりましたよ(笑)」

1本の木に数時間かかることもある剪定作業。「犬みたいに木の周りをくるくる回りながら、剪定すべきか悩むこともあります」

父が残した農園を、父の思いとともに受け継いでいく金澤さん。
「親父にはかなわないだろうなとは思います。
だけど、代が変わったら味が落ちたというふうには言われたくない。
それだけは心がけています」

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さくらんぼ農園以外の仕事も

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地域と密着した仕事を自由に行き来する

金澤さんの顔はそれだけではなく、エンジニアをしていた経験を生かして、
農機具などのメンテナンスも請け負っている。
「大曲にある業者から依頼を受けるかたちなのですが、
稲刈りシーズン前後になると修理を待つコンバインが
うちの庭に2、3台並んでいることもありますよ」

最初は大曲に出向いて工場の一角で作業していたものの、
メインである農業を優先しているため、なかなか時間がとれないことも。
それでも農作業の合間にやってほしいと、
金澤さんの自宅まで積載車でわざわざ運ばれることもある。
田植えや稲刈りなどの農繁期は、田んぼに呼ばれて修理することもあるし、
中古農機具の購入者には操作説明も行っている。

珍しい消毒散布機を修理中。「農業機械は種類が多いので、マニュアルがあっても覚えきれないんです」と金澤さん。それでもさまざまな機械の修理に対応できるのは、知識と経験があってこそ。

また金澤さんは、花火大会の盛んな秋田らしく、打ち上げ従事者の資格も持っている。
冬は除雪作業員として除雪車の運転や屋根の雪下ろしなど、
地域に欠かせない仕事にも携わる。
それだけでなく、若い頃、スポーツインストラクターをしていたというほど
体を動かすのが好きで、子どもの水泳指導やスキー指導に当たっていたことも。

さくらんぼ栽培をベースにしながら、常に地域と密着した仕事を
自由に行き来するのが、金澤さんの働き方だ。

農機具のみならず、バイクも頼まれて修理。バイク好きの金澤さんにはお手のもの。

十文字のさくらんぼをブランド化したい!

現在栽培しているさくらんぼは7品種で、主力品種はそのうち4つ。
知名度がまだ高くない十文字のさくらんぼを
ブランド化していきたいという夢がふくらむ。
その戦略のひとつとして、来年度の商品化を目指して、
さくらんぼのスパークリングワインも試作中だ。

写真提供:秋田移住定住総合支援センター

しかし、十文字地区のさくらんぼ栽培は、多くの第一次産業がそうであるように
後継者不足という問題を抱えている。歴史を絶やさず、より多くの人に
十文字のさくらんぼを知ってもらうには、現状を変えていかなければいけない。
そのためにもサポートしてくれる仲間がほしいと、金澤さんは感じている。

「自分ひとりで畑をやっていると、どうしても考え方が偏ってしまいがちだし、
決まった道から逸れることが怖くなってしまうんですよね。
一緒にやっていける仲間がいたら、負けたくないという思いが出て、
お互いに技術も上がっていくだろうし、
古い考えが払拭できるんじゃないかなあって思うんです」

6月半ばから約1か月が最も忙しい収穫シーズン。(写真提供:秋田移住定住総合支援センター)

さくらんぼ農家だけでなく、さまざまな仕事をすることで
地域とのつながりをつくる金澤さん。
さくらんぼ栽培を軸に地域をサポートする働き方は、
大工をやりながらさくらんぼを育てていた金澤さんの父と
通じるところがあるかもしれない。そんなふうに地域に溶け込んでいるからこそ、
このような多様な働き方が可能になるのだろう。

金輝さくらんぼ園も出展するトークイベントが、10月23日に東京で開催されます。
実際に秋田で暮らし、働く人たちに会える貴重な機会をお見逃しなく!

information

秋田くらし×しごとTalk vol.1

日時:2017年10月23日(月)17:30~21:00

会場:東京・渋谷ヒカリエ 8F 8/COURT(東京都渋谷区渋谷2-21-1)

秋田で「くらし」と「しごと」を楽しんでいる人や企業と出会えるトークイベントが開催されます。

金輝さくらんぼ園ほか、地元企業のブースが出展。詳細はこちら

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