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連載

〈水をたべるレストラン〉の
すべてから感じた
〈ミズカラ〉の大野愛

Local Action
vol.108

posted:2017.9.5  from:福井県大野市  genre:食・グルメ / 活性化と創生

PR 大野市

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

Rui Izuchi

出地瑠以

写真家。1983年福井生まれ。東京とハワイでの活動を経て、現在は大阪・福井を拠点に活動中。〈Flat〉という文化創造塾の運営メンバー。また結婚式を創るユニット〈HOPES〉のメンバーでもある。
http://www.cocoon-photo.com/

市民ユニット〈ミズカラ〉を中心に練り上げた打波古民家の夜

ここ数年、プロジェクトやイベントなどで、
水への感謝を伝えてきた福井県大野市。
特に食に関しては〈水をたべるレストラン〉と称したプロジェクトで、
さまざまな大野の特産品を紹介している。
ここでより大野の水と食を体感してもらおうと、
一夜限りのリアル〈水をたべるレストラン〉が開催された。(詳細は前編

会場は打波地区にある古民家。

このイベントを成功に導いたのは、〈ミズカラ〉という市民団体だ。
グラフィックデザイナー/映像作家である長谷川和俊さんが、
〈水をたべるレストラン〉のリアル版を開催したいと
大野市から相談を受けたところから始まる。

「この話を聞きながらすでに、今のメンバーの顔が思い浮かんでいました。
その日のうちに、みんなに声をかけたんです。全員即OKでした」(長谷川さん)

ミズカラのリーダーである長谷川和俊さんと高見瑛美さん。

「“自ら”や“水から”という意味をかけています」と言うのは
〈モモンガコーヒー〉を営む牧野俊博さん。
「水」というのはもちろん、「自ら」という由来に、彼らのモチベーションを感じさせる。

モモンガコーヒーの牧野俊博さん(右)。小屋などの設計担当である印牧拓朗さん(左)。印牧さんは、「次回は川床をやりたい」と意気込む。

ほかにもイベント会社勤務の桑原圭さん、工務店勤務の印牧(かねまき)拓朗さん、
フードユニット〈nishoku〉としても活動している村上洋子さんと三嶋香代子さん、
臨床美術士の広瀬美香さん、歯科衛生士の山田緑さん、
鉢植え作家の高見瑛美さんと、さまざまな職能のメンバーが揃った。

この企画の全体プロデュースを担当したのは、
料理開拓人として大阪でfoodscape!、全国でEATBEAT!を展開している
堀田裕介さん。しかし堀田さんは一歩引いた立場を取っている。

料理開拓人の堀田裕介さん。渓流好きが高じて大野通いに(!?)

「現地に実行委員会を立ち上げて、
そこを中心に進めていくのがいいと思っていました。
長谷川くんと出会って、彼に任せておけばうまくいくのではないかという勘は
見事に当たりましたね」(堀田さん)

具体的な料理の内容については、堀田さんが全体的な構想を練り、
〈nishoku〉というフードユニットの村上洋子さんと三嶋香代子さんを中心に
仕上げていった。

「僕たちがすべてを考えてしまうと、
僕たちがいなくなったときに何も残らなくなってしまうので、
できるだけ現地の人たちがつくり続けたい、発信したいと思うものにしたい。
あくまで僕たちはサポートのつもりです」(堀田さん)

〈nishoku〉の村上洋子さん(右)と三嶋香代子さん(左)。

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どうやって〈水を食べるレストラン〉はできたのか

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大野への気持ちから生まれた、おもてなしと手づくり空間

〈水をたべるレストラン〉の会場は、屋外から屋内へと移るスタイルだった(前編を参照)。
屋外の立食スタイルでの“現代的”料理に続いて、
屋内ではずっと大野で食べられてきた料理がお膳に並んでいた。
この雰囲気は、大野に伝わる報恩講料理のようだ。
報恩講とは、もともと浄土真宗の仏事で、特に北陸地方に伝わっている。
これが大野のおもてなし文化の源泉だという。

古民家入り口には手染め・手づくりののれんが。

「報恩講ではお膳の上にはそれぞれの料理が並び、
追加でどんどんと大きな鉢に乗せられたおばんざいが振る舞われるんです」(三嶋さん)

「あの場所や雰囲気には、大野の人のおもてなしの心意気みたいなものが
表れていたと思います」(堀田さん)

日本酒やお水をどんどんすすめられた。

ほかにもミズカラのおもてなしはすばらしかった。

「メンバー全員、強くおもてなしを意識していました。
染めものやお皿なども、なるべく既製品を使わないで、
地元の作家さんを紹介したい。会場装飾など含めて、
本当に手づくりにあふれた会場になりました」(長谷川さん)

木のお皿は、〈木工房 翡翠〉を営む川端孝直さんによるもの。
今回のためにつくってもらったオリジナル作品で、
古民家の敷居だったケヤキや県産スギなど、8種類程度の樹種が混ぜられている。

手ぬぐいやのれん、座布団は、造形作家の松本三重子さんとミズカラメンバーにより、
すべて手作業で染めたものを手縫いで制作した。
みんなでナスの皮を360本剝いて、柿渋を加えて自然染め。やわらかいムラサキになった。

会場に着くと、手ぬぐいとうちわを用意してくれた。

自然染めをした手ぬぐいが目立つように、ドレスコードは白。

なんと、会場に置かれていた虫除けも手づくり。
そもそも虫除けを用意してくれているだけでありがたいのに、
そのうえ、手づくりとは恐れいった。すべてからおもてなしの精神が伝わってくる。

伝えたいのは水の向こう側

もっとわかりやすく「水」をアピールできそうなアイデアも、いくつかあったという。
しかしそれが果たして大野らしいのかどうか。
新しいものを生み出すだけがいいことではない。
そのバランスを考えて、“やらない”という選択肢を丁寧に選び取った。
水を使いながらも、“大野そのもの”を伝えることが目的だから。

漬け物、煮っころがし、おにぎり……。おもてなしがすばらしい。

「若い人に、手間暇かけてつくる料理の大切さを伝えていきたい。
たとえばおばんざいのお膳ひとつにしても、すごい水が使われています。
ぜんまいを洗う、茹でる、アクを取る、すべてにたくさんの水が使われます。
水をたくさん使う裏側には、手間暇というものが同居しています」(三嶋さん)

「同じコーヒー豆でも、使う水によってぜんぜん違うものになります。
だから大野の水で淹れたコーヒーがおいしいということを、
まずは大野の人に飲んで知ってもらいたいです」(牧野さん)

このように水は大切だが、大野には水を取り巻く環境や、
水とともにあるくらしが息づいているということ。それを忘れてはならない。

「自分自身、このプロジェクトを通じて、水への意識を高めることができました。
大野の人にも、同様に感じてほしい。
すると水を守るということにつながると思います。
水自体の外部発信やアピールももちろん大切ですが、守るということも、
大野に住んでいる僕たちの大きな役割です」(長谷川さん)

水自体をどうブランディングし、アピールしていくかはすごく大切だ。
しかし目的を見失っては本末転倒。大野はかつて昭和40〜50年代に、
水をムダ使いし過ぎて、地下水が低下し枯らしたことがある。
水があることが当たり前でなく、守るべきものでもある。水への感謝。
そして水があることで成り立っているくらしや市民の息づかい。
遠回りかもしれないが、着実に伝えていきたいことなのだ。

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「根底には大野愛しかない」と言い切る理由

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思いが詰まった大野の若手コミュニティ

ミズカラのメンバーは世代も近く、大野への熱い思いも共有している。
そしてみんなUターン者である。
このようなイベントはIターンの人などが火付け役になることが多いが、
ミズカラは「大野DNA」でできあがっている。

お見送りまであたたかい。

モモンガコーヒーの牧野さんもUターン。
大野から出たときは、戻るつもりはなかったという。

「大野から気持ちが離れている間に、大野でがんばっている若い世代が見えたんです。
そのときは正直、ただうらやましいと思って見ていました。
でも今は、『うらやましいでしょ』とハッキリ言える。
迎え入れてくれる人がたくさんいるので、
今、出ていっている人たちにもそれを感じてほしいですね」(牧野さん)

「大野から出ている人でも、もちろん大野が好きで、
実は戻る理由を探している人たちがいるんです。『大野に帰ることにしました』
という声や動きが最近出てきました」(長谷川さん)

〈Carriying Water Project〉のロゴから形の着想を得た小屋。設置途中の様子。(写真提供:ミズカラ)

本当の大野を知ってもらいたい、という思いが〈ミズカラ〉にはあったようだ。
それが凝縮された〈水をたべるレストラン〉は、本当にすばらしく、
どこの三ツ星レストランにも負けないひとときとなっていた。
惜しむらくは、一夜限りのイベントだったので、たくさんの人に体感してもらえないこと。

くすぐったい言葉だけど、ミズカラのメンバーは恥ずかしげもなくいう。
それは理屈ではなく、彼らが生まれ育った土地だからこそ、
当たり前に持っている感情なのだろう。市民が主体的に動いている地域は強い。
最後にズバリと言われた。
「根底には大野愛しかないですね」(長谷川さん)

打波古民家の前を流れる打波川。大野の水の源流域といえる。

information

Carrying Water Project 

http://www.carrying-water-project.jp/

http://www.carrying-water-project.jp/restaurant/event/

以前、コロカルで掲載した、「Carrying Water Project」の詳細はこちら

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