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羊とりんごと一本ねぎ。
長野市産の食材でつくる
〈長野市の定食〉

Local Action
vol.101

posted:2017.5.23   from:長野県長野市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Tsukada Yuko

塚田結子

つかだ・ゆうこ●「編集室いとぐち」所属。長野市・善光寺門前にて長野県の暮らしや工芸まわりの編集・執筆を行う。

credit

撮影:平松マキ(料理)
安斎高志(生産者取材)

「長野市といえば」を集めた定食をつくろう!

山好きが高じて大阪から長野市に移住し、
善光寺近くで〈小とりの宿〉を営む福田舞子さん。
山と同じくらい好きなのが、おいしいものを食べること、つくること、
そして、それを誰かに食べてもらうこと。

1日1組限定の小さな宿は、料理がおいしいと評判で、
火曜から木曜のランチ限定で〈小とり食堂〉として営業し、
宿泊客でなくとも舞子さんの料理をいただくことができます。

会社勤めをしていた頃に山の魅力にとりつかれ、退職後は山小屋で働きながら、海外へも遠征する日々を送っていた。客の胃袋をつかむ料理の腕前は、かつて通っていた料理教室や、日々ごはんをつくっていた山小屋で培った。やわらかな関西弁を話す人。

善光寺から北へ徒歩5分ほど。静かな住宅街のなかにある平屋。古い民家の飴色の柱や建具などはそのままに、無垢材を多用して改装した。

広い庭に面した縁側に出ると、水路を流れる水の音、鳥のさえずりが聞こえる。

山を下り、山に囲まれた長野に腰を据え、自分の居場所を構えた舞子さん。
この地を訪れる人、この地に住む人を、この地が育んだ食材でもてなしたい。
そんな思いから、長野市の食材を生かして定食をつくろうと、
生産者のもとを巡りました。
まずは、集めた食材と生産者のみなさんをご紹介します。

信州サフォークを育てる峯村元造さん

メインの食材にと考えたのが、長野市信州新町で飼育されている羊、
ジンギスカンでおなじみの「サフォーク肉」です。
峯村元造(もとなり)さんは、長野市内で
400頭のサフォークを飼育・繁殖させている人。
峯村さんの育てたサフォークの肉は臭みがなく、
脂に甘みがあると定評があり、全国の飲食店から注文が寄せられます。

それにしても、つぶらな瞳の羊たちのかわいいこと。
思わずもれる「かわいい」のつぶやきに、峯村さんは
「料理人たちは『おいしそう』って言いますよ」

さらに重ねて舞子さんは
「私の料理の師匠は、魚の切り身を見て『かわいい』って言います」
いやはや、上には上がいます。

峯村さんが手塩にかけたサフォーク肉は、ほとんどが飲食店向けに出荷され、
市場には出回りません。
そんななか、せっかくの特産品を地元で買えるようにしたいと、
サフォーク肉の小売に力を入れているのが〈フレッシュトップ田中屋〉です。

とはいえ、一頭買いが基本のため、欲しい部位を欲しい量だけ買いたい、
という要望を叶えるのは難しいのが現状です。
「それでも、まずはご相談ください」という店長の田中利加子さんの心意気を買って、
舞子さんは肉を注文するのでした。

減農薬有機のりんごをつくる〈羽生田果樹園〉

続いての「長野市といえば」は、りんごです。
羽生田果樹園〉の羽生田春樹さんは、
20年以上前から減農薬有機栽培に取り組んでいます。
その技術を学ぶため、国内外から研修生がやってきます。

妻の寿子さんは、畑を手伝いつつ、果樹の加工に力を入れます。
うす切りのりんごはパリパリのチップスに、
くし切りのりんごはモチモチとした「天日干しりんご」に。
りんごのほかにもイチジク、柿、プルーンなど、さまざまな果物を加工しています。
また〈小布施ワイナリー〉に委託醸造するシードルも人気があります。

秋に収穫したりんごは、大型冷蔵庫や戸隠の雪中で保存され、春まで出荷されます。
舞子さんも、冷蔵庫に眠るりんごを寿子さんから受け取りました。

信州伝統野菜「松代一本ねぎ」をつくる〈カネマツ倶楽部〉

「松代一本ねぎ」は、長野県が認定した信州伝統野菜のひとつ。
肉質はやわらく、火を通すと甘さが増し、さらにトロみが出ます。
城下町・松代では古くから栽培されていましたが、
原種を守ってきたのは1軒の農家のみ。
野菜のカネマツ〉5代目の小山修也(のぶや)さんは、
その種を受け継ぎ、仲間の農家とともに育てています。

冬の寒さにあたる頃が一番おいしくなりますが、
雪が降れば畑は凍りつき、掘り起こすことはできません。
地下部は越冬するので、雪解けとともにふたたび収穫されます。
野菜を通じて地域の文化や伝統を守ろうと活動する小山さんが
「焼きねぎ、すき焼き、鍋にぴったり」と推す地元のねぎを、
舞子さんはどう料理するのでしょうか。

地釜で豆を炊く豆腐屋さん〈デンショウとうふ店〉

いまでは日本に数軒しかない地釜で豆を炊く豆腐屋さん〈デンショウとうふ店〉。
長野県産の大豆のみで、消泡剤や乳化剤といった添加物を加えずにつくる豆腐は、
大豆本来の甘みや旨みがきちんとします。

店を営むのは伝田敬康(ゆきやす)さんと恂子さんご夫妻、
そして長男のお嫁さんのかお里さん。
昔ながらの実直な豆腐づくりに、お嫁さんの感性が加わって、
味良しセンス良し、唯一無二のお店となりました。

豆腐屋さんが食べる豆腐の料理に、興味津々の舞子さんでしたが、
「うちはあんまり食べないのよ」と、恂子さん。
「食べるとしても冷や奴とか、そのまんまかな」と、かお里さん。
それでも話すほどに、炒り豆腐や、おぼろ豆腐でつくるけんちん汁など、
料理のヒントをうかがうことができました。

若手杜氏が醸す蔵元〈西飯田酒造店〉

花酵母で日本酒を醸す蔵元〈西飯田酒造店〉の9代目であり、
杜氏も務める飯田一基さん。
昭和59年度生まれの酒蔵跡取り息子から成る〈59醸〉メンバーのひとりとして、
以前コロカルでもご紹介しました。

飯田さんの搾った酒粕を料理に加えたいと、お訪ねしたのは酒造り真っ盛りの頃。
少々お疲れ気味ながら、快く酒粕を分けてくださいました。

「板粕に砂糖をふって焼くとおやつになるそうで」
そんな話をすると、
「酒粕は、酵素が生きているので、発酵が進んでゆるみます。
搾りたてはかたいので、焼くのにもいいですよ」とのこと。
後日、搾りたての板粕まで分けていただき、
舞子さんのもとに大量の酒粕が届けられました。

長野産はちみつのオリジナルブランド〈なごみつ〉

東京から帰省の際に、父親の趣味の養蜂を手伝ってきた小泉徹司さんは、
脱サラして〈北信濃養蜂場〉を起業し、
オリジナルブランド〈なごみつ〉を展開しています。

「はちみつには殺菌・抗菌作用がある」
「ミツバチは自己組織化の進んだ生き物で、子育て、掃除、採ミツなどを分担している」
「働きバチの寿命は1、2か月で、一生のうちに採ミツできる量はスプーン1杯程度」
などなど、興味深い話の数々。極めつけは
「ご存知ですか。長野県は、はちみつ生産量が全国第1位なんです」
知りませんでした!

この記事のタイトル「羊とりんごと一本ねぎ」に、
「そして、はちみつ」と加筆訂正いたします。

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いよいよ〈長野市の定食〉が完成!

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長野ならではの食材が集まって、いよいよ調理にとりかかります。
舞子さんの考えた定食は以下のとおり。つくり方を紹介します。

〈長野の定食〉の御品書き

松代一本ねぎの焼きねぎ 特製甘辛ダレ

蒸し野菜 豆腐のタルタルソース

季節のサラダ 酒粕とはちみつのドレッシング

季節の柑橘と塩でいただく木綿豆腐

(以上、前菜盛り合わせ)

サフォーク肉とりんごの煮込み

おぼろ豆腐の酒粕けんちん汁

善光寺平産キヌヒカリの土鍋炊きご飯

はちみつ甘酒

コックピットのようなこぢんまりした台所から、次々とおいしい料理が生まれる。

松代一本ねぎの焼きねぎ 特製甘辛ダレ

「松代一本ねぎは『火をとおしたらおいしい』と
小山さんがおっしゃっていたので、焼きます」
以上、実にシンプルです。

甘辛ダレは、舞子さんの旧姓を冠して別名「森ダレ」。
しょうゆ、みりん、水を1対1対1の比で鍋に入れ、
適量の砂糖を加えて煮立て、煮詰まってトロミが出たら完成。

「鶏肉を焼いたものに、または冷や奴にかけてもおいしいです」
何かと使える「森ダレ」は夫の胃袋をもつかみ、
福田家でも冷蔵庫に欠かせぬ調味料となっています。

蒸し野菜 豆腐のタルタルソース

「長野は季節ごとにいろんな野菜が出回ります。
それをおいしくいただくためのソースを考えました」

木綿豆腐 1丁、オリーブオイル50ミリリットル、塩・こしょう各少々、
イエローマスタード 大さじ1、酢 50ミリリットルを混ぜ、
豆乳を少しずつ足しながら、なめらかになるまでさらに混ぜます。
玉ねぎ4分の1個をみじん切りにし、さらしたものを加えると
「豆腐のタルタルソース」の完成です。

さらしタマネギは、水に入れて手でもみ、しばらくさらすと辛みが抜けます。
手でギュッと、またはキッチンペーパーで水を絞ってください。

季節のサラダ 酒粕とはちみつのドレッシング

「こちらも、野菜をおいしくいただくためのドレッシングです。
われながらヒットでした。酒粕がほんのり香って、いい仕事してます。
はちみつの甘さがやさしくて、お子さんも好きやと思います」

しょうゆ大さじ1、酢大さじ2、オリーブオイル大さじ2、黒コショウ適宜、
酒粕ペースト大さじ2、はちみつ大さじ1、以上を混ぜればドレッシングの完成です。

「酒粕ペースト」は、板粕をヒタヒタのぬるま湯に浸けて戻し、
酒を数滴入れ、ペースト状にします。
こうしておくと料理に使いやすく、冷蔵庫に常備しておくと、何かと便利です。

季節の柑橘と塩でいただく木綿豆腐

季節の柑橘を絞って、塩でいただきます。
「豆腐のおいしさを味わってほしいので、シンプルな味つけで。
大豆の香りと甘さが、より引き立ちます」

以上4品が前菜となります。

サフォーク肉とりんごの煮込み

いよいよメインディッシュです。
「長野は海がないので、魚でなくて肉。
そして長野市の肉といえば、羊でしょう。りんごとも相性がいいですよ」

サフォーク500グラムは、バラ肉と腕肉を半々使いましたが
「手に入る部位でいいですし、豚肉でも作れますよ」とのこと。
ひと口大に切り、塩、コショウ、臭み消しのマジョラム、それぞれ適量をすり込みます。
肉は焼いて余分な脂を落とし、いったん取り出しておきます。

玉ねぎ2個、セロリ2本、りんご2個は粗みじん切りにします。
煮込み用の鍋に、玉ねぎ、塩をパラリ、セロリ、塩をパラリ、
りんご、塩をパラリと重ね、呼び水とローリエを入れて
弱火でじっくり水分を引き出します。

「根のもの、葉のもの、実のものと、地面の下から生えている順に鍋に入れ、
素材ごとに塩をするのがポイントです」

このひと手間が、素材それぞれの旨みをぐっと引き出すそうです。
水分が出てきたら、肉を重ねてさらに煮ます。
1時間ほど煮たら全体を混ぜ、煮詰まりすぎなら水を足しつつ、
3時間ほど煮込めば完成。いったん冷ますと味がしみて、よりおいしくなります。

おぼろ豆腐の酒粕けんちん汁

「おぼろ豆腐を入れるのは、デンショウのお母さんに教わったアイデアです。
とろけるような口あたりに仕上がります」

大根、にんじんを食べやすい大きさに切り、だしで煮ます。
好みで油揚げも加えます。
野菜がやわらかくなったら火を止めて、酒粕ペースト、白みそ、
それぞれ適量を入れ、しょうゆで味を調えます。
最後におぼろ豆腐を入れ、温まったらできあがり。

善光寺平産キヌヒカリの土鍋炊きご飯

「土鍋で炊いたご飯は、ほんまにおいしいですよ」
小とりの宿、あるいは小とり食堂では、炊きたてご飯が土鍋ごと出てきます。
ふっくらツヤツヤのお米は、善光寺平産のキヌヒカリ。
近所の産直で精米してもらいます。

はちみつ甘酒

「最後はデザート代わりに甘酒をどうぞ。ほっとするやさしい甘さです」

酒粕ペーストを好みの濃さになるよう水で溶き、温めます。
きび砂糖を適量入れ、塩少々で味を引きしめ、好みではちみつを加えます。

「生産者の方を訪ねて、どんな思いを込めて食材をつくっているのか、
直接お聞きできたのが、ほんまにうれしかったし、勉強になりました。
生産者の方の顔を思い浮かべて、より一層おいしいものをつくろうと思いました」
と、舞子さん。

〈長野市の定食〉には、この地が育んだおいしい食材がふんだんに使われ、
そこに込めた生産者の思い、それを受け止めて料理する
舞子さんの思いが込められています。

*今回ご紹介した〈長野市の定食〉を期間限定で小とり食堂で食べることができます。
仕入れによって料理の内容に変更がある場合がありますのでご了承ください。

information

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小とり食堂でいただく〈長野市の定食〉

提供期間:2017年6月6日(火)〜8日(木)12時〜完売次第終了(各日10食限定)

場所:小とりの宿(長野県長野市箱清水2-23-22)

料金:1500円〜(税込)

http://cotorinoyado.com/

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