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連載

市内の湧水地は20か所以上。
知られざる北陸の水のまちの
新たなチャレンジとは。

Local Action
vol.068

posted:2016.3.1  from:福井県大野市  genre:活性化と創生

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〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

cocoon

出地瑠以 Rui Izuchi

写真家。1983年福井生まれ。東京とハワイでの活動を経て、現在は大阪・福井を拠点に活動中。〈Flat〉という文化創造塾の運営メンバー。また結婚式を創るユニット〈HOPES〉のメンバーでもある。
http://www.cocoon-photo.com/

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supported by 福井県大野市

地下水で生活するまち、大野

まちなかのいたるところに清水(しょうず)と呼ばれる湧水地があり、
水が豊かであることを感じさせる福井県大野市。
もともとは、織田信長に仕えた武将、金森長近によってつくられた
越前大野城の城下町である。
そのまちづくりの際に、南北に延びる一番通りから五番通りまでの、
5本の通りの道路中央部に上水道の機能をもつ水路が設けられ、
水量の豊富な本願清水の湧き水が水源になっていた。

現在でも、大野市の市街地の家庭では井戸を持っていて、
地下水を組み上げて生活用水として利用している。
もちろん無料だ。
大野というまちは、豊富で美しい水に育まれてきたといっても過言ではない。
大いなる自然の恵みを生活に取り入れる工夫をしたことで、
水は暮らしと一体となり、生活の糧となっているのである。
この地域の本質を見つめた人口減少対策のアクションとして、
いま、大野市では〈Carrying Water Project〉という取り組みが始まっている。

郊外の家庭の敷地には、農業用水が引かれている。

大野のおいしい水は、その地形が育んだものだ。
周囲を1000メートル級の山々に囲まれた盆地で、
有名な九頭竜川をはじめ真名川や清滝川などの一級河川が流れている。
地下100〜200メートルには岩盤があって、これが水を通さない。
その上に広がる小石や砂の砂礫層が、水をたっぷりと蓄えているのだ。
まるで大きな水がめのよう。

水循環の解析によると、この水は、山や川からはもちろん、
4割は田んぼから地下へ染み込んだものだという。
雨や雪が降って浸透した水が、30〜50年の滞留期間を経て、
大野人の元へと湧き出ているのだ。

周囲を山に囲まれる盆地であることがわかる。写真中央に流れるのは、地下水との関わりが深い真名川。

大野盆地に悠々とそびえる標高1523.5メートルの荒島岳。

まちにあるいくつかの水のスポットを巡ってみた。
まずは一番の観光スポットでもある〈御清水(おしょうず)〉。
かつて武士の米を炊くのに使われていたことから、
武家屋敷の住人が厳しく管理し、
上流から飲料水、果物を冷やす場所、野菜などの洗い場と定められていたという。
現在でもその名残りが、言葉にせずとも受け継がれている。
この澄んだ水がまちの中心にあることが、
大野の水文化の深さと歴史を物語っている。

717年創建といわれる篠座神社を訪れた。
境内にある弁天池からは、御霊泉が湧出している。
「大巳貴尊の御仁慈より眼病に苦しむ者を救はむとしてこの霊泉を湧出せしむ」とある。
「篠座目薬」とも謳われ、眼病に効くらしい。
目を清める場合は、左目、右目の順番で。
太古から、大野は水のまちであったことを感じさせる場所だ。

篠座神社の御霊泉。まさに湧き出ているという雰囲気。

一方で、山のエリア。荒島岳のふもと。
このあたりの民家は、地下水を得るためにはまちなかよりも深めに井戸を掘らなといけない。
しかし、九頭竜川から豊富な水量の農業用水を庭まで引いて、
夏になれば、野菜を冷やしたり、お茶をヤカンのまま冷やしたり。
稚アユを放したりもするそう。
荒島岳への登山道を少し登って行くと、〈慈水観音〉があった。
祠の前には豊かな湧き水。雪化粧のなかでひっそりと、しかしとうとうと流れていた。
「水を慈しむ」なんて、水への敬意が表れたステキな名前だ。

雪に覆われた慈水観音。

慈水観音の湧き水は、周囲が雪模様のなか、緑豊かに湧き出ていた。

食文化にも影響は大きい。
現在、大野市には酒蔵が4つもあり、味噌や醤油も有名。
豆腐屋さんも多く、厚揚げがおいしい。でっち羊かん(水ようかん)、そばも名産だ。
どれも、水が重要な産品。

風情あるまち並みが残る七間通りの一画にある〈南部酒蔵場〉。

それなのに、住民のなかでは、水はそこにあって当たり前、タダで当たり前、
という意識があるのも、また事実。

「本願清水をはじめ大野の湧水地には、イトヨという淡水魚が棲んでいます。
ここは陸封型イトヨ生息地の南限なんです。
しかし昭和40〜50年代にかけて、イトヨが絶滅しかけたことがありました。
みんなが水をムダ使いし過ぎて、地下水が低下して水不足になったんですね」
と話してくれたのは、
大野市役所 企画総務部 企画財政課 結の故郷推進室長の吉田克弥さん。

市の課題を真摯に見つめ、歴史文化を丁寧に教えてくれた結の故郷推進室長の吉田さん。

こうした事象をきっかけに、地下水保全条例が制定され、
みんなで水を大切にしていこうという機運も高まっていった。
それでも、まだまだだという。

「地下水や湧水をこれだけ活用できている例は、全国的にも希有だと思うんですよ。
本来だったらもっと誇りに思ってもいいはずです。
最近では、小学校や中学校の教育のなかで教わるので、
子どもたちの意識は高いかもしれません。
私たちの世代は、水があることを当たり前だと思って育ったような気がします」

外で使う生活用水。

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大野市が取り組む新たなプロジェクトとは?

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水の大切さを、世界へ運ぶ

そこで立ち上げられたのが〈Carrying Water Project〉だ。
キャッチフレーズは“水で未来を拓くまち”。
大野にとって身近であるはずの水のことをもっと知っていくことで、
水でできることを考えていこうという活動である。

その一環として、
2002年に独立したばかりのアジアで一番新しい民主主義国家、
東ティモール民主共和国へ、日本ユニセフ協会と協力して支援を始めた。
「水と衛生」の問題を抱えており、まだまだ清潔な水が国民に行き届いていないという。
そこで〈Carrying Water Project〉のさまざまな活動で寄付金を集め、
水質改善に役立ててもらう。
具体的には、山の湧き水を、重力を最大限に利用してふもとまで引いてくる
「重力式給水システム」を設置し、
その管理体制の整備なども行っていく。

2016年2月に開催された〈越前おおの冬物語〉という毎年恒例のお祭りでは、
コーヒーの産地である東ティモールのコーヒー豆を使って、
大野の名水で淹れたコーヒーを提供、募金をお願いした。
目に見えるようなかたちでも、東ティモールとの水のつながりを示した。

Carrying Water Projectのキャラクター、水の精〈みずのめぐみん〉がデザインされた紙コップに注がれるのは、東ティモールの豆で淹れたコーヒー。〈越前おおの冬物語〉で出店された。

〈越前おおの冬物語〉で雪見灯ろうがライトアップ!

世界的に水が豊かな日本のなかでも、より水と密接な大野。
だからこそ、その意識は、国境を越え、世界に広がっていける。
支援先や目的など、明確に定めていくことで、
市民ひとりひとりが、大野の水が世界で役に立っていることを知り、
その一端を担っていくことになる。
それが大野からの、水への恩返し。

大野市内の3階建ての古ビルを借りて〈ツイタチビル〉として再生し、新たな場づくりに挑む建築士の川端慎哉さん。「大野の水を使って荒島ビールをつくりたい」。民間からの水を活用する動きも。

「大野の水をきっかけにして、もっと地元に対して誇りを持ってもらいたい。
〈Carrying Water Project〉の大きな目標のひとつには、人口減少対策があります。
大野市は、この20年間で、人口が約7000人減少しました。
平成25年3月に国立社会保障・人口問題研究所が出した、
平成52年の将来推計人口は、福井県内の市のなかで、減少率が最も高いと予測されています。
それを食い止めるためには、雇用創出して経済循環をつくり出すことが必要です。
それを水関連でやっていきたい。
例えば水のレストランや水関連の商品開発など。
さらにその先には子どもへの教育、専門人材の育成も考えられます。
全国や全世界の水ビジネスや水問題に関わる人材の輩出を目指した
専門教育プログラムも検討できればいいですね」(吉田さん)

水のまちから生まれる水の専門家。大野だからできる取り組み。
地元の特徴を受け継ぐようなすばらしい循環になりそうだ。

水への意識が低くなっては、水のまちの文化と美しい景観を継承できないし、
それを守る人も減少してしまう。
大野がいつまでも水に寄り添ったまちであることが、
世界に水の大切さを伝えられることにつながっていくだろう。

〈越前おおの冬物語〉では、子どもたちにより手づくりで雪見灯ろうがつくられた。

毎年、春分の日から大晦日まで七間通りで開かれる大野名物の〈七間朝市〉。この日は雪見灯ろう仕様で特別出店。

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Carrying Water Project 

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