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連載

いつもの食材で、新しい料理を。
にし阿波の食材を使った
クッキングステージ

Local Action
vol.060

posted:2016.1.18  from:徳島県三好市・つるぎ町  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:松木宏祐

急傾斜地でのサステナブルな農業

徳島県の山間部。徳島空港からも、高松空港からも距離がある
“にし阿波”と呼ばれる地域=三好市、つるぎ町、美馬市。
標高が高く、しかも急峻な傾斜地に人は住み、昔から独特の農業が行われてきた。
このような高地性集落の伝統農法は、
ススキを肥料にする“コエグロ”など集落内の植物資源などによる循環型農業が行われ、
食に対する関心の高まりとともに注目されてきている。

そのにし阿波を舞台に開催されたのが世界農業遺産推進協議会の主催による
〈世界農業遺産を目指すクッキングステージ〉。
料理研究家の松田美智子さんが現地を訪れ、生産者と直接ふれあいながら、
料理を考え、現地の人たちに食べてもらう企画である。

取材チームは、まずは農業の現場として三好市にある落合集落を訪れた。
ここは「重要伝統的建造物群保存地区」に認定されている。
最近では、茅葺き屋根の古民家空き家をアレックス・カーさんのディレクションのもと
リノベーションし、〈桃源郷祖谷の山里〉という宿泊施設として再利用もされている。

“コエグロ”を利用した傾斜地農村の風景。

いつもたくさんの見学者を迎えている南敏治さん。

その地区長である南敏治さんが、急傾斜地における農業の特性を教えてくれた。
「傾斜地なので、少量ずつしかつくれません。
だから必然的に少量多品種生産になります。
かつては20種類以上の雑穀をつくっていました。
いまでもキビとヒエは種も採っていますよ」

同じ集落でも、民家の高低差が390メートルあるという。
だから上部と下部では、多少DNAの異なる作物をつくっているということになる。
同じ集落内でも、さらに多品目になっているのだ。
しかも集落内で採れたススキを肥料にするので、無農薬のうえにサステナブル。

落合集落を反対側から見ると、山の傾斜に人が住んでいることがわかる。

にし阿波エリアの大切な穀物であるそば米。

さらに約10名が暮らしているつるぎ町の猿飼集落を訪れた。
秋になると、斜面いっぱいにそばの花が咲く。
しかし25〜30度の急傾斜!
スキー場を思い出してほしい。上から見たら、30度がどれだけ急斜面に感じるか。
ここでそばを育てている西岡田治豈(はるき)さんは、
「風通しがよかったので、傾斜地によくそばが育った」と語る。
当然重機は入れないので、昔ながらの農機具で、人の手による作業が行われている。
それなりの広さがあることはもちろん、この急傾斜に畑を持つことは、
受け継がれてきた技術があるからこそできることだ。

急斜面にみっちりと生えているそばの花。

つるぎ町の猿飼集落、その急斜面でそばなどを育てている西岡田治豈(はるき)さんと節子さん夫婦。

この大根を干していくと、松田さんも初めて見たという大根1本干しに。

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さて、料理ができあがりました!

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いつもの食材で、新しい料理をつくる

つるぎ町の〈つるぎの宿 岩戸〉と三好市の〈ハレとケデザイン舎〉で、
実際に料理を食べる〈クッキングステージ〉が行われた。

「この地域特有の“農業”と、それを“食べる”ということがつながっていませんでした。
それをトータルで発信していくためにこのような試みを考えました」と言うのは
つるぎ町役場商工観光課の大島理仁さん。

三好市での会場となったハレとケデザイン舎は、山のなかの廃校をリノベーションした施設。

外のウッドテラスで食べるのは気持ちがいい。

実際に料理を担当した松田美智子さんは、以下の料理をつくりあげた。
とりもも肉とじゃがいものオーブン焼と鍋焼、干しきのこのまぜごはん、
干し大根のはりはり漬け風、そば米といんげんのきんぴら風、こんにゃくと根菜のだし煮、
カブのサラダ柚子こしょう風味、干し野菜のキッシュ、あげ固どうふカレー風味、
干し鮎ソース半田麺パスタ風。

「和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて、
日本の食に対する関心が国内外で高まっています。
特に東京オリンピックまでにいい状態で維持して、
海外の人にも紹介できればいいなと思いました」と言う松田さん。
特に、地域の特徴を出していくことが重要だと語る。

料理を食べた女性たちと情報交換する料理研究家の松田美智子さん。

トウガラシに栗。とにかくいろいろ干す。

「日本の食文化の特徴として、発酵と干しもの、
大きくはこのふたつの文化に分けられると思います。
この地域は干しものが強いようなので、乾燥文化を大切にされてはどうかなと思います。
大根を1本まるごと干したものを初めて見ました。
すごく甘味があって感動しました。
今回は、戻してから薄く切って、はりはり漬けにしたり、炒めたりしました。
他にもいろいろなものを干していけるのではないかと思うと、とても可能性を感じます」

松田さんは、最近では干ししいたけでも、戻さずに使うことも多いと言う。
食感が残り、ダイレクトに旨味が伝わるからだ。
農薬や肥料の使い方など、食材のあり方も昔と変わってきている。
「食材をよく見極め、それに合わせた調理法を考える必要がある」と教えてくれた。

「干し大根のはりはり漬け風」

「干し野菜のキッシュ」

会場には、多くの地元の人が訪れた。
仲間同士で作り方を推察してみたり、会場にいる松田さんに声をかけて質問してみたり。
自分がよく知っている食材だけに、関心は高い。
そのひとつが、にし阿波でよく食べられているそば米だ。
国内でも、一部他の地域で食べられているだけで、この地域の郷土料理と言ってもいい。
米が少ない山間部では、穀物のひとつとして重宝されてきた。
しかしその食べ方は、そば米雑炊という料理がほとんど。
今回、〈そば米といんげんのきんぴら風〉を食べた人から
「雑炊以外で初めてそば米を食べました」という声があがった。

それに対して松田さんはこう答える。
「伝統がある分だけ、素材の使い方が硬直してしまっているのかもしれません。
せっかくのおいしい素材だから、みなさんの馴染みのある料理に利用してみました。
どうしても、なるべくやわらかくすることを考えてしまいがちです。
しかし、これはそば米を30分水に浸けただけで、加熱は炒めただけ。
味付けも砂糖と醤油のみです」

「そば米といんげんのきんぴら風」

「あげ固どうふカレー風味」

郷土料理や地域の当たり前の食材を、少しアレンジする。そうして広がりを持たせていく。
もともと地方にはおいしい素材が多い。
その風味を損なうことなく、変わった料理ではなく、
私たちに馴染みのあるものに仕立てていく。

「こんにゃくと根菜のだし煮」

松田さんは同時に苦言も呈した。
それは“化学調味料入り”の調味料しか地域になかったこと。
もちろん、愛のあるムチである。

「今、首都圏では、化学調味料を避ける傾向が高まっています。
こちらのスタッフにはきちんとお断りして、申し訳ないのですが、
今回は私が東京から持参した無添加の調味料を使用しました。
すべて私自身で取材しているものです。
何を食べているか自分のなかに残るような味付けが、いい料理です。
味を濃くするというよりは、食材の味をたてるように」

松田さんが会場に「自分で出汁を引く人?」と問いかける。
それほど多くの手が挙がらない。
家庭料理も、時代とともに変わってきた。
素材が良ければ、その素材を活かすように調理したい。
それは、その土地だからおいしく食べられるということにつながる。
地域の特色を出すには、素材を生かす味付けも必要だ。

調味料にはもうひとがんばりほしかったが、
その代わり松田さんはおいしくて刺激的なものをみつけた。
それはトウガラシ。美馬市は昔からトウガラシの産地として知られている。
種の保存、減農薬、露地栽培、手作業などにこだわり、
糖度が高く、辛味の強いトウガラシをつくっている。
糖度は14度あり、スイカよりも甘い。
しかしそれに負けないしっかりとした辛さがあるので、
旨味があってコクのあるトウガラシになるのだ。
もちろんトウガラシ製品も多く、輪切りしてゴマ油で炒りあげ、
醤油やかつお節で風味を増した〈みまから〉、
乾燥赤トウガラシを一本ずつていねいに石臼で挽いた〈みまから一味〉などが
発売されている。

松田さんは、サワークリームソースにトウガラシを混ぜたソースを提供していた。
トウガラシ生産者である逢坂祐美子さんは、
「この発想はなかったけど、すごくおいしい」と驚いていた。
逆に松田さんも「種と一緒に刻むと、甘味と辛味が出る」と地域の人から学んでいた。

美馬のトウガラシを種ごと細かく刻む。

薬味として出された「もろみしょうゆ」(手前左)、「もろみクリームソース」(奥)、「みまから一味トウガラシ」(手前右)。

特徴的な農法や食材があっても、それが料理に活かされていかなければもったいない。
これからわざわざこの土地を訪れたくなるだろう。
そんなきっかけのイベントになった。

information

徳島剣山世界農業遺産推進協議会

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