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瀬戸内のソファ屋さんが
主催する写真コンテスト
テーマは「ソファと本のある愉しみ」

Local Action
vol.050

posted:2015.3.17   from:広島県福山市  genre:ものづくり / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor’s profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。現在、幣誌『コロカル』内で家族の話やオフィスのある児島界隈のエピソードをつづった『児島元浜町昼下がり』を連載中。

credit

撮影:池田理寛

瀬戸内海というのは、言い方は悪いかもしれないけど、
どこも似たりよったりのところがある。
その風景は「多島美」とよく形容されるように、小さな島がやたら多いのだ。
海が穏やかで、沿岸の砂や岩がほんのり黄色がかっていて、
さらにぽつぽつと島があればヒントとしては十分、
「ああ、瀬戸内海なのね」と。
だから、福山市にある松永の海を初めて見たときは、一瞬、目を奪われた。
おびただしい数の材木を浮かべた貯木場のある港の光景、
それはまさしく東京湾の木場のそれだった。
と、同時に心までもわしづかみにされた。ぼくはその光景を前にして、
『鬼平犯科帳』の火付盗賊改方の面々が闊歩する
江戸の面影を強く感じていたのである。
以来、ぼくにとって松永は尾道市街への通り道ではなくなった。
とにかく粋なところなんだよ、松永ってぇのはよっ!

最近は製材所の数もめっきり少なくなって材木の数も少ないと地元の人たちは言うが、それでも貯木場の光景には江戸情緒というか、ぐっと惹かれるものがある。

古くは塩田の町であり、近年は下駄の産地として広く知られる。
といっても伝統的な桐の下駄ではなく、
輸入木材を使い生産工程を機械化したことで
国内随一の生産量を誇るようになった。
ピークを迎えた昭和30年には
年間5600万足もの下駄を世に送り出していたというから、
当時の松永湾は日本中から集められた木材で埋め尽くされていたに違いない。
さて、原料となる木材が豊富にあることに加えて行政のサポートもあり、
松永では木工加工の技術が発展を遂げる
(1953年に広島県立木履指導所設立。後に県立工芸試験場に改称)。
生活スタイルの変化によって下駄の産業は徐々に衰退し、
現在ではほとんど作られなくなってしまったものの、
しかし、木工の高い技術はしっかりと現在に受け継がれていく。
松永湾に面し、かつては広大な塩田があった柳津町に本社を構える
ソファ製造業の「心石工芸」。
1969年創業のこの会社は、松永が培ってきた木工技術を受け継ぐ
正統的な地場のメーカーといえる。
なにせ、現社長・心石拓男さんのおじいさんは下駄の仕事をしていたといい、
同社創業者であるお父さんの心石務睦さんは
特注家具を製造する木工所に勤めていたというのだから。

ソファの製造工程によって工房が分かれている。写真は縫製を担当する工房。巨大な裁断機がどんと置かれ、スタッフがミシンで縫製する光景は被服を扱う縫製工場と変わらないが、ミシンが縫っているのはとんでもなく厚い革だったりする。

各部門に必ず結構なベテランと思われる職人さんがいる。こちらはフレームの木工部門を担当している宮田住雄さん、67歳。創業の翌年にあたる1970年に入社したという超ベテランの職人さんだ。

革やファブリックをフレームに張る「張り場」と呼ばれる工房にて。ベテランになると、革を少し撫でるだけでウレタンに革が馴染むのだという。ソファ製造の奥の深いこと!

タンニンなめしというなめし加工をした革を使ったソファは心石工芸の十八番。業界で「ソファへの使用は困難」とされていた常識を覆した。経年の色味の変化が楽しめる味わい深い革だ。

ローカルというのはなめちゃいけないところがあって、
唐突に、世界が驚くような恐ろしいまでの高い技術をもった人や会社があったりする。
「心石工芸」がまさにそれで、この会社の製品がいかにスゴいかを書いても
十分読み応えのある記事ができそうなのであるが、
今回ここで紹介するのは同社が主催している写真のコンテストである。
2013年に第1回が開催されており、この春から第2回の公募が始まる。
これがローカルのレベルとは思えない、結構なスケールのコンテストになっている。
入賞者に賞品があるのはもちろん、受賞作を掲載した冊子も制作。
受賞者を招いての盛大な受賞パーティまですでに企画されているらしい。
心石社長にストレートに聞いてみた。
そもそもなぜに地方のソファのメーカーが写真のコンテストを?
「わたしたちは基本OEMメーカー(委託者のブランドの生産を担当する業者)なので、
普段接しているのは販売店の方たちが圧倒的に多いんです。
したがって、お客さんが家でソファをどのように使っているかを見るチャンスが
ほとんどないんですね。だったら、写真で公募すれば見ることができるのでは
というのでフォトコンテストを企画しました」
第1回のテーマは『ソファと家族』。ソファの上ではしゃぐ子どもたち、
楽しげにウクレレを奏でるお父さん、赤ちゃんのおむつを換えているお母さん、
赤ちゃんを膝の上に載せたままうたたねする若いお父さん、
ラフな下着姿でただお酒を飲んでいるお父さん、などなど。
全国から送られてきた写真には、ソファのあるさまざまな家族の日常があった。
……なるほど。
「どんな使われ方をしているかを知るのは、
ソファの商品開発にもすごく大切なんです。
それともうひとつ。お客さんがなにを買っているのかを深く考えたら、
お客さんは単にソファを買っているのではなくて、
ソファのある時間を買っているのではないかと。
であれば、ソファのある空間でどう暮らしているかを見てもらうことが、
効果的な広告になるのではと考えました。
作品を掲載した冊子を制作しているのはそのためなんですね」

第1回のコンテストで最優秀賞に輝いた作品『ソファが縮めるムスメとの距離』。ソファの深い緑の色合いがなんとも心地いい。このソファがあることによって、お母さんと子供の親密な距離感がより伝わってくる。

優秀賞の『我が家のヒエラルキー』は家族の素の感じが最高! 猫の重みだけでくたっとしたソファも素敵。すべてにおいて親近感のある写真だ。

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第2回の公募は3月25日からスタートする。
今回のお題は「ソファと本のある愉しみ」。
恥ずかしながら、ソファのある空間でほとんど生活したことがないので、
その「愉しみ」とやらは知らない。でも、簡単に想像できる。
適度に陽の光が入る明るい部屋で、
お気に入りのソファに寝っころがって池波(正太郎)先生の世界に浸る……
愉しみというか、そりゃ至福だ。そういえば、最近本も読んでないなあ。
コロカル内の『児島元浜町昼下がり』を読んでいただいている方には
おわかりいただけると思うが、筆者、幼いふたりの娘がいるので
ゆったり本を読むような時間がない。
平日は疲労困憊で娘たちよりも早く寝入ってしまい、
休日は休日で最後の一滴まで絞りつくされる。こんな生活がいつまで続くやら。
日曜日だけでもいいのだ、誰にも邪魔されることなく気がねすることなく、
前述のような贅沢な環境で本を読む日が生きている間にくることを願うばかりである。
そのときのソファって、やっぱり革がいいなあ。

授賞式に出席した最優秀賞を受賞した穂垣友康さんとご家族。穂垣さんは奥さんの貴子さんとともに建築設計を手がけている。なるほど、写真にある部屋も素敵なわけです。

第1回フォトコンテストの授賞式は倉敷の美観地区にある「林源十郎商店」の3階屋上テラスで行われた。その後は室内のカフェスペースとテラスで受賞パーティ。

Information


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株式会社心石工芸

住所:広島県福山市柳津町4-5-20

TEL:084-933-3335

FAX:084-934-5204

詳しくは下記サイトまで
http://www.sofa-kokoroishi.jp/photocon/

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