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木ノ浦ビレッジ

Local Action
vol.042

posted:2014.11.28  from:石川県珠洲市  genre:暮らしと移住 / 旅行

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都出身。小柄ですが、よく食べます。お酒は飲めませんが、お酒に合う食べ物が好きで酒飲みと思われがちです。美術と映画とサッカーが好き。

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撮影:後藤武浩

何かに出会えるような体験を。

豊かな自然をたたえる石川県能登半島。
その美しさは「能登の里山里海」が世界農業遺産に認定されるなど、
訪れた人を魅了し続けている。
その能登半島の最北端に位置する珠洲市の体験宿泊施設が「木ノ浦ビレッジ」だ。
今年8月にオープンしたばかりの木ノ浦ビレッジには、
木ノ浦海岸に面した長期滞在向けのコテージが8棟あり、部屋からの眺めは抜群。
食事は奥能登の素材をいかした夕食と「一汁三菜」の朝食が味わえる。
週末は家族連れで利用する人も多いが、ものづくりの工房や
研修棟も併設しているため、研修などさまざまな用途にも対応している。

木ノ浦ビレッジはもともとは「木ノ浦荘」という国民宿舎だった。
老朽化して建て直しが決まり、新施設は地元の人たちで
運営してほしいという市の意向により、
現在は株式会社「日置之国」によって経営されている。
とはいえ、社員はふたり。30代の女性支配人と、今年新卒で入った女性社員で、
あとはパートで地元のお母さんたちが調理や清掃を担当している。

木ノ浦海岸に面したロケーションは抜群。各部屋から海が見える。

木ノ浦ビレッジの入り口となる「管理棟」。食堂や、おみやげを販売するショップもある。

中は明るい空間。この冬初めて火が入る薪ストーブは、今後大活躍しそう。

支配人の小寺美和さんは石川県白山市出身。
金沢の大学でまちづくりを専攻し、閉校になった小中学校の
利活用案を考えるという課題のために訪れたのが、珠洲との出会いだった。
その後、金沢で就職。まちづくりのコンサルタントのような仕事だったが、
もっと現場に入り込んで働きたいという思いがあり、6年前に珠洲に移住した。
「結局、まちづくりの総合計画のもとに事業を進めていても、
それが実際に地域住民にまで下りていっているかというと疑問でした。
だったら、何も手つかずのところにこそ、
自分ができることがあるんじゃないかと思ったんです」

管理棟を囲むように並ぶコテージ。6名用コテージが7棟と2名用コテージが1棟ある。

6名用コテージは家族がゆったり過ごせそうな空間。各部屋にお風呂とキッチンがある。

珠洲に移住後、珠洲市のまちづくり支援員として働き、木ノ浦ビレッジの支配人となった小寺さん。

木ノ浦ビレッジはただの宿泊施設ではなく、
「奥能登すず体験宿泊施設」と銘打っているように、
珠洲が体感できるような体験プログラムを用意している。
珠洲の地で太古の昔からできてきた「珪藻土」でつくった窯で
ピザを焼く「窯焼きピザづくり」。
木ノ浦に自生するやぶつばきの種から、
純度100%の天然つばき油をしぼる「つばき油しぼり」。
生豆を自分で焙煎し、ゆっくりコーヒーの時間を楽しむ「オリジナル焙煎珈琲」。
珠洲の自然を感じながら里山里海を歩く
「ノルディックウォーキング」の4つのプログラムだ。

この体験プログラムの企画を担当しているのが、志保石薫さん。
「“体験”ってどこでもやっていますし、私自身、
よくある“体験”にはあまり魅力を感じていませんでした。だからこそ、
ただ楽しかったで終わるのではなく、体験を通して何かに出会えるような、
何かのきっかけになるような体験になったらいいなと思いました。
地域のことを知ってもらうという面では、ここだけではなくて、
日本の地域でこんな問題があるんだとか、
何かを考えるきっかけや、自分の暮らしについて
もう一度見つめ直そうと思えるような体験になればと思っています」

能登の名産である珪藻土七輪と炭火で生豆を焙煎する体験プログラム。

インストラクターを務める志保石さん。体験プログラムをメインで担当している。

おしゃべりを楽しみながらじっくり時間をかけて焙煎していると、いい色に。

自分で焙煎したコーヒーはまた格別の味。味だけでなくこの時間を楽しむ。

珠洲の食材を乗せて、珪藻土のピザ窯で焼いたピザをみんなで食べる体験プログラム参加者たち。(写真提供:計画情報研究所)

新しい土台をつくる仕事。

志保石さんは東京生まれの東京育ち。
国際協力に興味があり、大学では国際地域学部という、
国際的な問題を地域規模で考えるような学部で学んでいた。
だが海外への短期留学がきっかけで「豊かさ」の価値観を見つめ直すようになり、
やがて国際協力より日本の地域に関心が向いていった。
「青春18きっぷ」で日本全国を旅して回ったことも大きかったという。
大学のゼミで初めて訪れた能登で、面白い人々との出会いがあり、
その人たちにまた会いたいという気持ちで能登に通うように。
友人とフリーペーパー『スズノコト』をつくり、珠洲は卒業論文の題材となった。

東京で就職する予定だったが、卒論を書き終えたとたん、
珠洲との関わりがなくなってしまうことに違和感を覚えた。
本当にこれでいいのだろうか……と考え直した志保石さんは、
東京での就職をやめ、能登で地域に携われるような仕事をしようと決意。
たまたま木ノ浦ビレッジのオープンに伴い、現在の仕事に就けたというわけだ。
まったく潔い行動だが、本人は
「新卒で失うものも何もなかったので。
私にとって東京で暮らすか珠洲で暮らすかの違いは、
高円寺で暮らすか吉祥寺で暮らすか程度の違いだったのかもしれません」と笑う。

志保石さんは体験プログラムの企画運営のほかにも、
厨房に入ることもあれば、配膳や掃除、予約や売り上げの管理など、
木ノ浦ビレッジの運営にまつわることは何でもする。
もちろん小寺さんも同じだ。
社員がふたりしかいないのだから当然なのだが、
ふたりとも生き生きと楽しみながら仕事をしているように見えた。

夕食の支度をする志保石さん。少ないスタッフで運営しているので1日中動き回っている。

この日の夕食は、金沢の郷土料理「治部煮(じぶに)」のほか、旬の魚の刺身、塩焼きなど。小鉢には「うみぞうめん」と呼ばれる海藻の酢の物などが並ぶ。

厨房では地元のお母さんたちが料理をつくる。地元の素材を使った素朴でおいしい家庭の味。

小寺さんは、珠洲でまちづくりの基本となるのがこの施設だと考えている。
体験プログラムを通して外から来た人に
珠洲を知ってもらうことができるということももちろんだが、
木ノ浦ビレッジがわずかでも雇用を生み出していることは、とても重要なことだ。
「この地域もどんどん人口が減っていっています。
若い世代にとどまってもらいたいですが、それには雇用を生み出さないといけない。
若い人がここに残りたいと思っても、就職先がないから残れないんです。
だからいまの目標は、来年4月に地元の飯田高校の卒業生をひとり雇うこと。
私みたいなIターンはそういう土台をつくることが仕事だと思っています」

木ノ浦ビレッジの駐車場の裏にはかつて棚田があった。
現在は荒れてしまっているが、その棚田を復活させるプロジェクトを、
高校生たちと進めている。
そんな小さな動きが、次の一歩につながっていくに違いない。

木ノ浦に自生するつばきの種からとれた椿油は、木ノ浦ビレッジのショップで販売。

夕食にも並んでいた「うみぞうめん」も販売されていた。

珠洲の魅力を小寺さんに聞いてみた。
「なんといってもこのロケーションのすばらしさ。
それに食べ物がおいしい。そして素朴なところでしょうか。
珠洲って細かく10地区に分かれるんですが、市長さんが
10の民族と表現するほど、それぞれにカラーがあって面白いんです。
海も山もある外浦とよばれる地域では、女の人たちが朝から晩まで働いているので、
おばちゃんたちの気性も荒い。冬も厳しいし、人間的に強くなりますよね。
生きていく大変さってこういうことなんだと思います」

志保石さんは、お客さんに「ここに来るのをとても楽しみにしていた」
と言われたことがとてもうれしかったと話す。
以前そのお客さんが木ノ浦の民宿に泊まったことがあり、
いまはやめてしまったその民宿を営んでいた女性が、
木ノ浦ビレッジの食事をつくっていたのだ。
「懐かしい味をとても喜んでくださって『ありがとう』と言われたときは、
この仕事をしていて本当によかったと思いました」

木ノ浦ビレッジは単なる宿泊施設ではなく、また人に会いに来たくなるような、
どこか民宿のような温かさが感じられる場所だった。

information


map

奥能登すず体験宿泊施設
木ノ浦ビレッジ

住所:石川県珠洲市折戸町ホ部25番1
TEL:0768-86-2014
http://kinoura-village.com/

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