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連載

〈民家工房 常栄〉
地域の木材を使う“健康住宅”。
これが、人の暮らしを変えると
信じる。

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.070

posted:2015.7.31  from:神奈川県厚木市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:高見知香

木材にも地産地消を

神奈川県の本厚木駅からバスで40分程度。
中津川を横目に眺めながら山道を進んでいくと
〈民家工房 常栄〉が手がける〈元(はじめ)の家〉ブランドの
モデルハウスが見えてくる。
元の家は、平成18年に立ち上げられた自然素材にこだわった住宅だ。
かつては常栄でも建材の一部に工業製品などを使用していたが、
それを約10年前に一切捨てた。

ことの始まりについて、代表取締役の山本常美さんが教えてくれた。
「当時、農業や食べ物に関しては、地産地消という考え方が広まっていましたが、
家や木材というものに対してはまだまだでした。
あるとき、神奈川県の職員と話をしていたところ、
県産材がたくさんあることを知ったんです。あるのならば使っていこうと」

常栄代表取締役の山本常美さん。

神奈川には県産材があるにはあった。しかし使う人が少なかった。
使われないと、せっかくの木材も他県に流れてしまう。
かつては運搬手段が発達していなかったので、木材も地産地消が当たり前。
家を建てるときは土地のすぐそばにある山から木を調達してくるしかない。
しかし、次第に運搬技術が発達してくると、
どこの地域の木材でも自由に選べるようになる。
結果的に、木材の地産地消という風習が薄れていくことになった。

常栄の作業場にはたくさんの木材がストックされている。もちろんすべて国産材。

山本さんがモデルハウスを案内してくれた。目につくもの、すべてが木製。
しかもほとんどが神奈川県産材、とくにここ丹沢地域の木材が多いという。

「構造材はすべて県産無垢材です。
多少は岐阜など他地域の木材も使用していますが、
もちろん産地はすべて把握しています」
外国産材はもちろん、出所のよくわからない木は使わない。

天井の梁には、わざと曲がったもの(曲り梁)を使用している。
「曲がっている木は、普通は使ってもらえません。
このスギは、丸太置き場で腐る一歩手前だったものを引っ張り出してきて、
製材してもらいました」

そのうえ虫食いの跡=小さな穴まで空いている。
「低温乾燥や天然乾燥だと、まだ虫が出てくることもあります。
しかし木材としては粘りがあって力が残るんです。
もちろん時間も手間もかかりますが……。
もし秋に家を建てて、春になって虫が出てきたら、それは“ラッキー”(笑)。
ちゃんとした乾燥をしているから、虫が出てくるんですよ」

そういった素材や製法に納得できるかどうか。
モデルハウスというブランドの顔になる場所に、
“曲がった木”や“穴の空いた木”を使っているあたりに、山本さんの心意気を感じる。

木材のほかにも、素材にはこだわり抜いている。
断熱材には、新聞紙をリサイクルした木質繊維である
自然素材系断熱材のセルロースファイバーを使用。
漆喰はオリジナルで開発している。
すぐれた吸湿・放湿効果があり、カビも発生しにくい自然素材だ。

梁が見える、あらわし工法。構造材がどんな木材なのかすぐわかる。

スギを中心に木でできた家は香りもいい。

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元の家の基本コンセプト“健康住宅”とは

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家が空気をつくる

10年前に元の家を始めた頃は、年に1件程度しか注文がこなかったという。
しかし年々増え続け、最近では若い世代を中心に注文が増えている。
「特に子育て世代に住んでほしい」と山本さんはいう。
その根本には、元の家が掲げている“健康住宅”というコンセプトがある。

「水や食べ物にはみんな気を使うようになってきました。
それはいい心がけだと思いますが、もっと重要なのは空気です。
人間が一生のうちで摂取する物量の重量比は、食べ物が約7%。
飲み物で約8%に過ぎません。しかし空気は約83%も摂取します。
そのうち自宅で吸う空気が約56%といわれています。
室内の空気は非常に重要なのです」

空気をつくっているのは木。木材になっても、空気を吸ったり吐いたりする。
そのときに空気中の有害物質を吸着し分解してくれる。
さらに、調湿効果が高いので、カビやダニの発生も抑えてくれるのだ。
木を部屋や家に使えば、空気の環境がよくなる。
食や運動には気を使うようになったけど、一番長く時間を過ごすのは家だろう。
木の家なら、気持ちよくすごせる。

持ってみると手に馴染む手すり。まっすぐな木材ではないあたりが、山本さんの遊び心であり、また木が画一ではなく、自然素材であることを証明する。

家は、いろいろな要素を包括している。
昔から伝えられてきた工法ならば、大工、左官、瓦、畳、建具など、
多くの職人技術を生かしていける。
例えば国産の畳を使って売れていけば、原料であるい草農家もやる気になるだろう。
そういった循環において、素材や技術が詰まっている家は総合的な存在といえる。

さらに、家を1軒建てるということは、地域や社会にもつながっていく。

「どんなものでも、その土地で育ったものを使うのがいいと思います。
木材でもできれば県産材、最低でも国産材にしたい。
それが地域や日本の自然環境を守ることにつながるはずです。
スギやヒノキの針葉樹は、1年中、葉があるので、日が入らず間伐が必要になります。
私たちがスギを伐って使えば、広葉樹が増えます。
広葉樹は秋冬になると葉が落ちるので、日が入り、下草も増えます。
するとタヌキやキツネなどの小動物も増えるし、
クマやシカも里に出てこなくなります」

モデルハウスのベランダにミツバチの巣箱が置いてあった。
目の前は豊かな森。そこからミツバチがこの巣箱に飛び込んでくるという。

「これはニホンミツバチです。蜂が受粉してくれないと、木は実りません。
その木の実を動物が食べるのです。
しかしスギの実は動物は食べませんし、マツの実は鳥しか食べない。
雑木林がいいですね」

森が目の前の環境なので、蜂の巣箱にも蜂がたくさん。

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家に愛着を持ってもらうために

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常栄では『タヌキの恩返し』という童話をつくった。
絵本にも落語にもなっている。これは山本さんのある体験をもとにつくられた。

「事務所でゴミ出しをしているときに、毛がなくて弱っているタヌキに出会いました。
たった15センチ程度のブロックを越えられないんです。
森で食べものがないから里に降りてきて、人間の残飯を食べていたのでしょう。
それでアトピーになってしまったんです」

家を建てることで、森を守る。それをわかりやすいお話にして伝えている。

『タヌキの恩返し』山口タオ 著、田丸芳枝 画

取材の数日前に「懐かしくて買った」というナイフ〈肥後守定〉。これがあれば遊びが無限に広がったという。

わが家に愛着を持てるか

元の家は、家を建てる際、シンボルツリーを植える。
木に、そして家に愛着を持ってもらうためだ。
記念に植えたものであれば、そう簡単には伐りはしないだろう。
同じ思いを、家にも持ってほしい。

「私たちがつくる家は、メンテナンスをして2世代、3世代と住むことができます。
例えば工業パネルの壁に穴が空いてしまったとします。
しかし10年程度すると、その部材はもうないことが多い。
だから少し色が違うことを妥協して直すか、1列すべて交換しなくてはなりません。
しかし、無垢材ならその1枚だけ交換すれば、最初は色が違いますが、
2年くらいで馴染んでいきます」

家の前にはシンボルツリー。

長い目で見たら、経済的にもオトク。
そして長く使うということに、もっと重要なメリットがある。
「愛着を持ってもらわなければならない」と山本さんは言う。
愛着を持っているものは、大切に扱うから。
せっかく家を建てるなら、そんな家がいい。

モデルハウスになぜかあるピザ窯は、山本さんの力作。なんでもまずは自分でつくってみることが重要だ。

information


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民家工房 常栄

住所:神奈川県厚木市上荻野2720-3

TEL:046-241-6959

http://www.jyouei.co.jp/

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