colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧

連載

〈辻製作所〉
デザインの力で
スギを生かしたMIYABIO

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.027

posted:2015.1.6  from:福岡県大川市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

text & photograph

Yuichiro Yamada

山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。http://ii-kiji.com/を連載中。

辻製作所からつながる福岡の森のはなし

1年間の平均気温が16.0度、年間降水量は1690ミリという
おおむね温暖な気候の福岡県。
福岡は県下一の繁華街・天神界隈から車でわずか10分足らずで海が見えることもあり、
自然豊かなイメージがある。全体的に平地部が多いが、
大分県境にある英彦山・釈迦岳山地、佐賀県境に広がる脊振山地は
いずれも標高1000メートルを超える大きな山塊を形成し、
福知、三郡、古処、耳納、筑肥の各山地は標高700~900メートルの山々を連ねる。
実は、九州最大の人口を擁しながら、福岡は県土面積の約半分が森林なのだ。
広葉樹の大半は天然林のシイ・カシ類、タブ類。
針葉樹の多くはスギ、ヒノキの人工林で、一部天然林と人工林にマツなどもある。
民有林の人工林は約90%がスギ、ヒノキ林であり、
そのうちの70%が利用期を迎えている状況だ。
こうした現状の中、近年、地元の「九州大学」では建築を学ぶ学生らが中心となり、
県産材利用の取り組みをスタート。
空き家の再生を通して自然と共に暮らすライフスタイルを提案する
「糸島空き家プロジェクト」をはじめ、その動きに注目が高まっている。

福岡県下の森林面積に対する森林率は約45%と全国平均よりも約20%ほど低いが、人工林率は約66%と全国よりも約20%高い。

“家具・木工のまち”で4代。

家具・木工のまち 大川―――「辻製作所」がある大川市は、
いつからかそう呼ばれるようになった。

約480年前、九州きっての大河「筑後川」の畔に広がる大川では、
それまで培っていた船大工の技術を生かし、
「指物」と呼ばれる、釘などの接合道具を使うことなく
木と木を組み合わせていく家具・建具づくりが始まった。
以降、時代の流れとともに技術は磨かれ、さまざまなデザインが生まれていくなかで、
その生産高は日本一に。名実ともに“家具・木工のまち”となる。

「大川市に数多ある他の家具メーカー同様、船大工がルーツです。
辻製作所という会社になってからは、初代が桐ダンス、2代目が和洋ダンス、
そして現在はソファ、テーブル、イスが生産数のほぼすべてを占めています」
そう教えてくれた辻直幸さんは4代目。大手自動車部品メーカーの営業職に就き、
退社後は実家に戻り、いまは営業課長として広報も務めている。

やさしいトーンの声で、物腰もやわらかな辻直幸さん。ただし、製品の魅力を語るときは言葉に熱がこもり、真剣な表情に。

Page 2

八女杉との出会いが転機に。

辻製作所では、メインに樹齢150~200年の北米・ヨーロッパ産木材を使う。
それは昔もいまも変わらない。
「理想を言えば、同じ日本、地元の材木を使いたい」と辻さんは言うものの、
必然的に海外の材木を使わざるを得ない状況にある。たとえば固さ。
「日本では戦後の建築需要に対応するため、主に建材用途の育成が早く、
やわらかい針葉樹を植林してきました。
ただ、海外の広葉樹に比べ、物足りない強度だったんです」
仮に固さをクリアする木があったとしても安定供給されない点、
流通量が少なく価格が割高になってしまう点がネックになってしまう。
「ただ…」、そういって、辻さんは5年前の出来事を切り出した。

工場内の様子。大きく分けて、右側でテーブル、左側でイスの製作が進められている。

NCルーター加工によってイスの脚部分を削り出していく。その精度は緻密で、1000分の1ミリ単位で調整可能。

ある日、大川から車で30分ほどの八女に、
「八女杉」というスギがあることがわかった。
木目の美しさに加え、赤みが強く品がある。
何より大川の地から近く、ある程度の量が確保できた。
辻さんは「これを機に、弊社でも何かに活用できないかと模索するようになったんです」
と言葉に力を込めた。

とはいえ、スギは元来、強度が強くない。
そのため、3年にわたり、どの程度まで耐久性を兼ね備えつつ、
製品に落とし込めるかを試行錯誤。さらにスギそのものの魅力を引き出せるような
デザインを導き出すための研究が続いた。

大学在学中に家具職人を志し、卒業後、辻製作所の門を叩いた工場で紅一点の若手職人。

Page 3

デザインの力でカバーする。

2013年、八女杉を取り入れたプロダクトを発表。
「MIYABIO(ミヤビオ)」はハイエンドなライフスタイルを創造する
ファニチャーシリーズとして売り出された。
辻さんは、最終的にすべての部分に八女杉を使うという発想を捨てた。
「『MIYABIO』シリーズは脚の部分に強固なウォルナットを使い、
テーブルの天板、イスの背もたれなど、
決め手となるポイントに八女杉を取り入れました。
変えようのない素材の性質は、デザインの力でカバーする。これがひとつの答えです」
辻さんは我が子を見るような優しい眼差しをMIYABIOに向けた。

MIYABIOの最大の特徴はエレガントな佇まいにある。
その美しさに一役買っているのが、
4代にわたって受け継がれてきた確かな職人の技術力だ。
八女杉の天板は、ひとつひとつ職人がやわらかい部分を除去し、
強度のある節の部分だけを浮き上がらせる「うづくり加工」を施す。
節の濃い色が強調されることで、
ピンポイントの使用ながらスギの魅力が前面に打ち出された。
この手間ひまこそ、辻製作所が掲げる
「華美な言葉より愚直なモノづくり」という理念そのものだ。

「うづくり加工でやわらかい部分を取り除いた後に、硬質ウレタン塗装を施して耐久性を向上させています」と辻さん。

濃い色のウォルナットと明るい八女杉とのコントラストが秀逸。手で触れると「うづくり加工」によってうっすらと節の部分がせり上がっているのがよくわかる。

「うづくり加工の完成度は入念な下地づくりで決まる」という職人歴50年の研摩担当。

成熟しているからこそ、面白い。

最近では、お隣の熊本県・小国町から「小国杉」を利用した
プロダクトがつくれないかという打診もあったという。
「ある時期にカーブやシュート、フォークなどが生まれて以来、
野球の球種は今日までほぼ増えていませんよね。
木材における加工技術も同様に、もう随分と革新的な技術は誕生していません。
成熟している状況だから、県産材との出会いをきっかけに、
新たな技術を探していきたいですね」

小国杉を利用して実験的につくったというクリアファイルならぬ、“ウッドファイル”。スギを極限まで薄く削り、ラミネート加工を施す。

Page 4

木のある暮らし 福岡・辻製作所のいいもの

「MIYABIO」センターテーブル 価格:84,000円(税別)/「MIYABIO」ソファ 価格:210,000円~(税別)

「MIYABIO」テーブル 価格:113,000円(税別)/「MIYABIO」ベンチ 価格:57, 800円(税別)/「MIYABIO」チェア 価格:37,800円(税別) ※テーブルはサイズオーダー可能。

information

map

辻製作所

住所:福岡県大川市大字向島1671-1

TEL:0944-86-2938

http://www.tsuji-ss.com/

Recommend