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連載

“依存型”から“循環型”へ
食や農を通して感じる命のつながり
小林武史の「つくる」前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.015

posted:2015.8.4   from:千葉県木更津市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

メイン写真

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

小林武史さんが見る「いま・ここ」

音楽プロデューサー小林武史さん。〈ap bank〉による環境プロジェクトに対する融資のほか、
2005年からは野外音楽フェス〈ap bank fes〉を静岡県つま恋にて毎年開催。
2010年には、農業事業を実践する法人として〈株式会社 耕す〉を設立するなど、
活動の幅を広げている。
ap bank やレストラン・カフェ・バーの〈kurkku(クルック)〉など、
社会へのメッセージを発信し続けていた小林武史さん。
しかしこの数年、メディアへの露出を控えていたという。
今年に入って2017年東北でのアートフェス開催の発表など、次の動きが見え始めた。
小林武史さんの「つくる」とは何か。数年の沈黙をやぶって小林武史さんの今をお聞きした。

取材にうかがったのは7月15日。いみじくも安倍政権の「安保関連法案の強行採決の日」。
インタビューのマイクをむけた瞬間に小林武史さんはまずそのことから語りはじめた。

「今日は強行採決の日にたぶんなるんですけど、じつはこの流れ、
すでに12年の終わりに安倍自民党が衆議院議員選で圧勝したときから始まっていたんですよね。
原発のことがあって、経済とか大きな力に依存していく流れに対して、
あれだけ問題が露呈したのだから、みんなが自分たちの責任ある社会を
みんなで自治していくような流れがあったとは思うんですけど。
それは期待もあったけど、それまでの民主党の流れも含めて駄目なんだろうなと、
みんな何となく思っていたのでは。
やはり“我々に任せてください”という安倍自民党の強い言葉、アベノミクスへの期待、
経済第一というあの流れに、
町工場とかシャッター商店街の人たちが疲弊し悲鳴があったのは事実です。
あの段階で、アベノミクスを国民が選ぶというのは理解できます。
下までしずくが落ちるというトリクルダウンの期待がありました。
しかし株価だけ上がって、金融の資本主義になると
世界レベルでタックスヘイブンをフル活用で、
いよいよ本当に金持ちはさらに金持ちになって、貧富の差は開く。
だからあそこでもうちょっと“脱依存”の社会という方向になればと思っていたのが、
おそらくそう簡単ではなく難しいんだと感じます。
やっぱりこういったん沈黙するしかないみたいなところはあったんですよね。
アベノミクスは強い抗鬱剤みたいなもの。本当はそういうものを与えても、
根底を変えなければやっぱりその場しのぎかもしれません」

根底を変えること。依存型の社会から脱け出すこと。
小林武史さんは、足下を堀る“耕す”活動を開始した。

耕す木更津農場 写真提供:耕す

代々木VILLAGE。小林武史さんを中心とした株式会社kurkkuがコンセプトプロデュースを担当し、デザイン、内装、レストランなどを各界の日本を代表する方々が手がける、“こだわり”を追求した拠点。 写真提供:kurkku

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食への関心を実践的な場に移して

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実践の場〈kurkku〉と〈代々木VILLAGE〉

小林さんの食と農を結ぶ活動は〈kurkku〉から始まった。
神宮前・代々木・スカイツリーエリアを中心にレストランや
カフェ、バー、フードストアを展開している。
おいしい・心地よい・環境によいをコンセプトに、
これからの時代のオーガニックな消費や暮らしのあり方を提案している。

「サステナブルな消費活動を促していくときに、
できるだけベターな持続可能性を持つ事業の中でやっていきたい。
その実践として始めたのがkurkkuなんです。
ひとつ都市のなかのレストランとして
自分たちの実践の場をもってやってみようと。
その後の代々木VILLAGEもいい感じで展開できています」
さらに小林さんは、もっと根源的な、生命としてのサバイバルが
“持続可能性”ということなのではないか? と考える。

「僕がずっと一貫して思っているのは、生き物としてちゃんと生き抜いていくこととか、
もしくは生きていくことそのものについてかもしれない。
それはサバイヴしていくということ、生き抜いていくという意味合いも含まれています。
そして“共生”という考えがなくてはサステナブルとしてやっていけないということもある。
つまり、生き物として生きていくときに、僕はそれを“ちゃんと反応していく力”と言うのですが、
五感から第六感の感覚をちゃんと磨いて、取り組んで生きていくことが必要なんですよ。
あなたがこの役割をやるんだったら、僕はこの役割をしますというようにわかち合いながら
社会というのはできていくべきだと思います。
僕は前々から、それが強い力、経済とかお金に依存しすぎて、
そういうものの価値が肥大しすぎちゃって、
依存していくだけの社会への危機感をものすごく持っているんですよ」

小林さんは、依存型の社会から脱け出すための活動として、
食や農を通して、命のつながりを感じることができる循環型農業に取り組んでいる。

耕す木更津農場。約9万坪(30ヘクタール)の広大な土地からなる。有機農場のほか、2000キロワットのメガソーラーがある。写真提供:耕す

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小林さんが農場を始めたワケ

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命のつながりを感じることができる循環型農業〈耕す〉

2010年3月に小林さんは〈耕す 木更津農場〉を設立した。
都心から車で1時間程度の木更津の約9万坪(30ha)の広大な土地で有機農業に取り組み、
有機野菜や鶏卵の収穫を行っている。

「代々木VILLAGEをつくるもっと前からなんですけど、
都市でのセレクトショップだけではなくて、もう少しエネルギーや
実際に命を育んでいくということの根っこのところまで下りていった循環というものを、
自分たちで可視化できるようなものなり、場所なり、
人なりの営みをそこでつくっていかないと、やっぱり伝わらないなと思ったたんです。
オーガニックレストランでも、僕がシェフだったらどんな食材を使うのか。
毎日供給するものだから、より説得力を持たせたい。だとしたら畑からつくりたい。
セレクトショップではない循環ということが必要だと思いました。
そこで、“Farm&Stay”というコンセプトで、
2009年頃から長野とか山梨にそういう場所を探しだしたんですよ」
そこに木更津でという話が来たという。
「実際に見に行ってみたら、東京から近いけれどもすごい場所だったんですよ。
車を走らせると田園地帯があって、家もぽつんぽつんとあって、
そんなずっときれいな風景が続くようなところがあったりするわけです。
高度経済成長のときに相当疲弊した場所なんですけど。
そこで時間をかけて土を生かしていくというやり方ですすめていったんです。
これは時間がかかるけど、やる価値があるなと思って」

「農業法人の人たちが進めてくれていたので、一緒にやることになったのですが、
なんと僕らが農業法人をつくれるかもしれないという。それはすごい画期的だなと。
いまはだいぶハードルが低くなってきましたけど。
当時、民間は簡単に農業法人に参入できなかったんですよ。
そしてそこに行ってくれるという仲間がap bankにいたので、彼らを中心にスタートしました」

そうして小林さんは2010年に〈農業生産法人 株式会社 耕す〉を立ち上げる。

耕す木更津農場 写真提供:耕す

コンセプトは食や農を通して、命のつながりを感じることができる
循環型農業の実践をする会社。

「僕は絶対有機じゃないとダメだって言ったわけじゃなかったんですけど、
彼ら(ap bankの社員)がどうしても有機農業がいいって言って。
そこは本当に有機でよかった。
最初は経営的には本当に大変でしたけどね」

耕す 木更津農場の有機野菜 写真提供:耕す

耕す 木更津農場の商品

「商品としては、これまでににんじんジュースとか、卵とか、
もうほとんどいろんなものをやっていますね。枝豆から大根、ブロッコリー、ズッキーニとか、
ほうれん草、レタスとか葉物。丹波のほうでも農場を持っているのですが、
葉物は丹波のほうが強くて上手にできて、
木更津はにんじんやなす、玉ねぎとか、じゃがいもとか、
だいたい一般的にスーパーで売られているような品種をつくっています。
有機のプチベールというキャベツの小さいものなど、
レストラン向けに卸しているものも多いです。
有機と認定されているプチベールをつくっているところはほとんどないので、
そちらの出荷が多いですね」

耕す木更津農場の卵。日本古来の方法で飼育された鶏。写真提供:耕す

そんななかでも小林さんのおすすめの商品は? と尋ねてみた。
「卵ですね。卵はすごい人気ですよ。日本原産の2種類の鶏を飼っていて、
〈岡崎おうはん〉というのと、〈もみじ〉という鶏です。
ふつうはロスを減らすためにくちばしとかを切っちゃうんだけど、
そういうことをせずに、小さい頃からかたいものも食べられるような取り組みをしています。
あとは、有機飼料ですね。いわゆる配合飼料をいっさい与えていないというやり方で、
千葉県産の有機飼料のみで育てています。
あとは飼育をしてくれている女性なんだけど、
自信を持って彼女はすごいと言えるような人なんです。
鶏にかかるストレスが極端に少ないと思う」
さらにおすすめの食べ方も聞いてみると
「卵かけご飯は一番おいしいのがわかる」と小林さん。
「オムレツも、目玉焼きもおいしいし、昨日も3個食べちゃった」とのこと。
〈耕す〉の卵に慣れると、他の卵がなかなか食べられなくなってくる、という。

〈耕す〉でつくられた〈耕すにんじんジュース〉。人気商品のひとつ。 写真提供:耕す

耕す農場・有機青大豆みそ。有機青大豆と国産有機米のこうじからできたこだわりのオーガニックみそ。千葉県の伝統品種〈小糸在来〉の大豆を、信州の名工みそ職人・百瀬さんが12か月間熟成している。写真提供:耕す

food kurkku

これら〈耕す 木更津農場〉の商品は〈food kurkku〉で販売している。
food kurkkuは、ナチュラルローソンとkurkkuがコラボレーションし
日本各地の生産者と都市で生活する人々をつなぐ〈Food Relation Networkプロジェクト〉の
リアル店舗だ。卵のほか、にんじんジュースや枝豆、味噌も売っている。
さて次週は2017年に東北で開催予定の新たなアートイベント
〈リボーンアートフェスティバル〉についてうかがいます。

ナチュラルローソンとkurkkuがコラボレーションした、新しいスタイルのコンビニエンスストア〈food kurkku〉。“食”にこだわる人のための食のセレクトショップ。写真提供:kurkku

後編【アートで東北支援する〈リボーンアートフェスティバル〉 小林武史の「つくる」後編】はこちら

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