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連載

馬場浩史さん

Innovators インタビュー
vol.004

posted:2012.8.1  from:栃木県芳賀郡益子町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地域を見つめることで新しい日本が見えてくる。
新しい視座で日本の地域を再発見していく人にインタビューする新ローカル論。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

自分の居場所と、持続可能な暮らしを求めて。

益子の古い市街地を抜け、焼き物や藍染めの店や工房が並ぶ一角を
もう少し奥へと進んでいくと、池沿いに「STARNET(スターネット)」が現われる。
自然と調和した暮らし、ていねいなものづくりを益子という地で実践する馬場浩史さんが
15年前に始めたギャラリーとカフェは、これまで多くの人々を、
時に客として迎え、また、“働く人”“つくる人”として迎え、持続してきた場所。
ここは、馬場さんが「思いをかたちにする」という実践を続けてきた、ひとつの聖地。

土地の新鮮な食材で提供されるオーガニックな食。益子伝統の手仕事に、
デザインや使い心地を追求してつくり上げられてきたオリジナルの陶器。
草木染めのオーガニックコットンやリネンの服。
靴や鞄もヌメ(草木のタンニンでなめす)の革を使った手仕事。
この場所でレコーディングされたスターネットレーベルの音楽……。
クラフト作家たちの発信の場となるギャラリーも併設している。
少し前には、オーガニックヘアサロンもできた。
ここでは、オーガニックのシャンプーなどを使い、
土地を汚さないようにと、カラーやパーマはやらない。
建物は、太陽光や太陽熱を使ったエネルギーの自給をめざして運営されている。
衣食住、そしてエネルギー。すべてが自分たちの仕事として、
ていねいに取り組まれている。これこそが、このスターネットの営み。

「下の須田ヶ池の手入れをしようかと思っていますよ。
山や川の状況が昔と変わったのでしょう。水が濁ってしまった。
いろいろな方法で、水をきれいにして、蛍が飛ぶ池にしたい」
馬場さんがそんな話をしてくれたのは、5月。
益子の夜はまだ少し肌寒く、土間になっているテラスに薪ストーブが焚かれ、
この家の守り犬、ハクが寝そべっている。
神様犬とみんなから呼ばれるホワイトシェパードだ。
屋外からは蛙や虫の鳴き声が聞こえる。
新じゃがの煮転がし、こんにゃくと厚揚げの煮物など、
パートナーである和子さんの手料理はもちろん地の野菜。どれも本当においしい。
きわめつけは、シンプルな梅のおにぎり。馬場さんは東京出張のときにも、
このおにぎりを持参して、みんなで食べながら打ち合わせをするそうだ。
「スターネットは、時間を経て、いろいろな人が関わりを持ち、
いま熟成してきたように感じます。独特の磁場に引き寄せられて、また人が集い始める。
逆に言えば、それぞれがもともと持っていて閉じていたものが、
スターネットとの出会いによって、開くのかもしれませんね。
そんな人が増えてきたと思います」

自然と調和した暮らしを実現するため、1998年に益子スターネットが誕生。

遠方からも多くの人が訪れるギャラリーとカフェ。地の食材を使った料理が味わえる。

馬場さんとスターネットの15年については、
多くの方がこれまでも伝え語ってきたことだが、少しだけ振り返っておくと。
馬場さんは、1980年代、ファッションブランド「TOKIO KUMAGAI」で
故・熊谷登喜男氏のもとで働いていた。しかし、グローバルな社会に違和感を感じ始め、
自分の居場所を求めて、37歳のとき益子へやって来る。
そして98年にスターネットをオープン。
デザイナーだった星恵美子さんが「キッチン」で料理を担当し、
あとはアシスタントがひとりという、ミニマムの態勢でのスタートだった。
ギャラリーでは、益子にない新しい文化を紹介しようと思い、
サウンドアートや写真、ペインテイングなどの展覧会を企画した。
やがてオーガニックに意識の高い人たちが、遠方からも駆けつけるようになり、
1年も経たないうちに改装して店を拡張するなど、経営が軌道に乗り始める。
当初は、ほかにもたくさんお店があるからと扱っていなかった焼き物にも、
しだいに目を向けるようになった。
「焼き物でも僕らの役割があると思ったんです。
ほかのお店にはないような編集で、自分たちでオリジナルもつくり、
新しい陶器のギャラリーを目指しました。そうやって少しずつかたちになってきました」

店内にはスターネットオリジナルの器や、益子で活動する作家の器がセンスよく並んでいる。

ていねいにつくられ、安心して食べられる食品を提供するスターネットフーズ。豆やお茶などもある。

「自然に調和する音」をコンセプトに掲げるレーベル「STARNET MUZIK」のCDも販売している。

からだで感じて、きちんと“手入れ”をしていく。

スターネットに惹かれて、益子に若手のクリエイターたちが集まってきたのは、
とても自然なことに思える。
2010年にスターネットに開設された工房「art workers studio」では、
陶芸や服飾など、若手作家たちとの共同作業による作品制作が行われている。
このインタビューの最中も、靴や鞄など、革を扱う作家の曽田耕さんが
隣で作業をしていた。彼はふだんは東京・浅草で活動しているが、
週一度スターネットに通い、馬場さんと制作を続けている。
「それぞれのクリエイターのなかにあるものを、僕は引き出す役割をしているのかな。
その人にとって自然な方向にクリエイティブを導いて、
その仕事が、スターネットとつながっていくのが理想。
いずれは、みんなが持ち寄ったものでスターネットができていくのがいい。
スターネットとしてのスタンダードはぶれちゃだめだけど、
一緒に仕事をしていくなかでつかんだ技術やセンスをうまく使いながら持続していけば、
僕がいなくてもやれるでしょう」

art workers studioで制作をする曽田耕さんも、スターネットに引き寄せられた作家のひとり。

黒板には、作品のデザインやスケジュールなどが書き込まれている。自由な発想が生まれる場所。

2011年2月、東京は馬喰町に、スターネットで生まれたものを紹介する
「starnet 東京」をオープンさせた。そこへ、3月にあの大震災。
私たちの生活の基盤を揺るがすような事態に、馬場さんはとてもショックを受けたという。
そのショックもあったのか、腰を痛めてしまい動けなくなってしまったそうだが、
それでもしばらくすると、大阪や倉敷へと足を運んでいた。
「ここでじっとして頭で考えてばかりいてはだめだと思った。
からだを拡張させるように、少し触覚を伸ばしてみたんです。
いろいろな人の話を聞いて、それぞれのまちの状況を聞くと、
感じ方が全然違うことがわかりました」
そうこうするうち、縁あって、大阪のとあるビルを借りることに。
場所は瓦屋町。その名のとおり江戸時代に瓦を焼いていたというまちだ。
「500年くらい続く鰹節屋さんがあったり、町家もたくさん残ってるんですよ。
土地にぐっと根を張って生きている人たちがいて、いきいきと暮らしている。
あんな状況でしたから、そこにいるときは、魂の休息になりました」

かくして「starnet 大阪」は、震災から1か月余りの4月23日にオープン。
そのスピード感には驚かされるが、やはり馬場さんが
すぐれた身体感覚の持ち主だということがわかる。
馬場さんはいつも、からだをアンテナにしているのだ。
「頭で考えていてもオーバースケールになっていくから、
自分のからだに立ち返ることが大事。からだをアンテナにして、何を感じるか。
そして感じたことに対して常に“手入れ”をすることが必要です。
部屋が汚れていて嫌だなと思ったら、きれいにして快適にしていく。
人に対する接し方に違和感を感じたら、きちんと手入れをしていく。
食べるものも身につけるものもそう。
僕はお肉を食べるとあまり調子がよくないから食べないし、
服も自然素材のものを使って全部自分でつくります。からだをアンテナにしながら、
これは気持ちいい、これは気持ちよくないからこうしよう、と考えていくと、
食べものも暮らしも、おのずと決まってきますよ」

ひとりひとりの感覚と、社会、地球はつながっているというのが馬場さんの根本的な思想。
気持ちいいことに正直に生きることの大切さと、必要以上の欲望を持たない、
過剰に求めないことのバランス。それがこれからの人間のセンスだと語る。
「僕は正しいと思うことに突き進んで、矛盾なく暮らしたい。
個人的には、自給自足の暮らしをするために、
外の何にも頼らない自活型の最小住宅を作って暮らすのが夢です。
でもまずは、もっと深くこの土地に根ざして暮らすことから。
植物や動物は自分が与えられた場所で生きていきます。
人間も、歩ける範囲で暮らすというのが本来の生き方だったはず。
そこから離れてしまったことに、そもそもの問題があるような気がします。
完璧にはいかなくても、それに近い暮らしを実現させるのが、未来を考えるうえで
いちばん大事。グローバルな社会からは、未来に希望は持てませんしね」

素焼きの器が並ぶ工房。シンプルで洗練されたデザインのスターネットオリジナル。

益子を、現代の聖地に。

馬場さんは、益子で開催される「土祭(ヒジサイ)」の総合プロデュースも手がけている。
古くから窯業と農業を営んできた益子の風土と文化を見つめ直し、
展示やワークショップ、セミナーなどさまざまなイベントが重層的に展開する土祭は、
2009年に第1回が開催され、2011年の「前・土祭」を経て、
2回目が今年2012年9月16日(新月)から30日(満月)まで開催される。
民も官も手を携え、まちをあげての一大行事だ。
「土祭をきっかけに、地域の力を呼び覚ましていくことができないか。
たとえば、このあたりには野仏がたくさんあるのに、
ほとんど手入れが行き届いていない。それをきれいにしてあげて、
野仏マップをつくったら面白いんじゃないかって提案したんです。
それに宿泊施設が足りないから、ひとり住まいのおばあさんの家に
民泊できるようにして、田舎料理を味わってもらうとかね。
ここにある歴史的な資源を発掘して、現代の桃源郷を演出できたら、
いまみんなの心が求めている世界ですから、それで成功です。
益子は古来、聖地であったわけだし、民芸の聖地でもあります。
だったら現代の聖地と考えるのも悪くない。
自然豊かで手仕事が残っていて、等身大の暮らしが実践されている、
美しい現代の聖地、桃源郷。それって面白いですよね」

スターネットは最終的な目標やゴールは設定しないという。
“いま”という瞬間にどれだけ真剣に向き合えるか。
その積み重ねで、スターネットを15年走らせてきた。
馬場さんは、もう何も欲しくないという。
「ここにいる限り、基本的にこの恵みのなかでやるということを考えています。
ここにあるもの、やり方で充分と考える。そうするとその結果、
ここにしかない独特のもの、スターネットでしか生まれないものになると思っています」

土祭の総合プロデュースも手がける馬場さん。「予算がないのって面白いですよ。予算があったらできないことができます」

本当の豊かさを探して。スターネットはこれからも続く。

information


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STARNET
スターネット

住所 栃木県芳賀郡益子町益子3278-1 TEL 0285-72-9661
営業時間 11:00 ~ 18:00 木曜定休
http://www.starnet-bkds.com/

profile

KOSHI BABA
馬場浩史

スターネット主宰。1958年生まれ。
12歳で真言宗の僧侶として得度するが、その後、体調を崩し、僧侶の道をあきらめる。

1980~88年
ファッションデザイナー故熊谷登喜男のパートナーとなり、パリ、ミラノ、東京を活動拠点にTOKIO KUMAGAIブランドのプロデユースを手がける。

1991年
「遊星社」設立。企業の宣伝美術のプランニングやプロデュースなどに携わりながら、舞台やインスタレーションなどの個人作品を発表もするなど、独自の活動を続ける。また恵比寿に手仕事や食(オーガニック)のためのギャラリー&カフェの運営も始める。

1998年
栃木県益子町にそれまでの活動の結晶化、STARNETをスタートさせる。オーガニックレストラン+ギャラリー、陶器やコスチュームの工房も併設。

2004年
馬場浩史環境設計事務所設立。工芸的な手法による建築や空間のプランニングやプロデュースをする。ZONEをオープン。展覧会やワークショップ、コンサートを開催する。

2007年
RECODEをオープン。民間療法による身体の手当を目的とした野草茶寮や鍼灸院の運営。手仕事を紹介するギャラリーも併設。STARNET MUZIK活動開始。「自然に調和する音」をコンセプトに、音作り(レーベル)を始める。

2009年
益子町全域に及ぶアートイベント「土祭」を総合プロデユース。

2010年
art workers studio(starnet内)開設。当スタジオでは、 陶芸、服飾などの若手アーテイストとのコラボレーションによって、ナチュラルで独自なクラフト制作を始める。

2011年
starnet東京、starnet大阪をオープン。art workers studioでの制作の成果を発表する。

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