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連載

九州新幹線〈つばめ〉
生みの親・水戸岡鋭治が考える
足し算のデザインとは?

KAI meets creative クリエイティブ解体新書
vol.005

posted:2017.11.10  from:全国  genre:ものづくり / アート・デザイン・建築

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  〈貝印 × コロカル〉第6シーズンは、貝印株式会社の商品開発・デザインスタッフが、
コロカル編集チームとともに未来志向のクリエイターを訪ね、
クリエイターのフィロソフィーやビジネススキームを学びます。
未来的なクリエイティブとは何か? という問いへの「解体新書」を目指す企画です。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:岩本良介

これまで5シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
今回からは、刃物やキッチン用品などの
商品企画・デザインを手がける貝印株式会社のスタッフが、
コロカル編集部と共に日本全国の未来志向のクリエイターを訪ねて、
ものづくりの技術から、デザインフィロソフィー、
ビジネススキームの話まで引き出していきます。

公共デザインが感動体験の元になる

九州新幹線800系〈つばめ〉やクルーズトレイン〈ななつ星 in九州〉など、
JR九州の鉄道関連の仕事で有名なデザイナーの水戸岡鋭治さん。
最近では横浜駅から伊豆・下田まで走る豪華列車〈ザ・ロイヤルエクスプレス〉などの
デザインも手がけた。

昨年、長良川鉄道の観光列車〈ながら〉を手がけたときは、
食堂車の展示スペースに物販コーナーを設け、貝印の商品を陳列して販売した。
列車が走る場所の地域性を考える水戸岡さんだけに、
岐阜に拠点を置く貝印の商品は適していた。

週末を中心に運行している長良川鉄道の観光列車〈ながら〉。

〈ながら〉もり号の客室イメージイラスト。

「包丁などの製造から始まったメーカーだと思いますが、
今では美容ツールにも進化している会社ですよね。
うちでも鍋を使っていますよ」と水戸岡さん。

実際にその〈ながら〉に乗ったという
〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さんは、
なんとお子さんが水戸岡さんの大ファン。
毎晩、水戸岡さんの著作『ぼくは「つばめ」のデザイナー』を読み聞かせしているという。
そこで、貝印としても、大塚さん個人としても縁の深い水戸岡さんを訪ねた。

大塚さんが持参した水戸岡さんの著作『ぼくは「つばめ」のデザイナー』。

2004年3月に生まれた九州新幹線800系〈つばめ〉。

水戸岡さんはもともとイラストレーター。
しかし次第にJR九州の車両デザインの仕事に携わるようになり、
以降、話題となる列車デザインを数多く手がけている。
水戸岡さんの話を聞いていると、すべてが当たり前のようで、だからこそ普遍的。
突き刺すようなことではなくボディブローのように効いてくる。
「ミュージシャンズ・ミュージシャン」ならぬ
「デザイナーズ・デザイナー」という言葉があるならば、
水戸岡さんのような人を指すのではないか。デザインの職人とも思える。

九州新幹線800系〈つばめ〉の木製シートを配したゆとりのある座席イメージ。

水戸岡さんのデザインは、いわく「自己表現ではなく代行業」。
すべては利用者や公共のためである。

「お客様にとっては、美しく、楽しく、おもしろく、
リーズナブルでなければなりません。
しかし、それらをただ積み重ねていくだけだと予算が膨らんでしまいます」

予算もスケジュールも決まっているなかでどうしていくか。
その答えは、自分たちでやること。そしてその能力をアップしていくこと。

「能力をアップするためには、まずは知ることです。
人より多くの色を知っている。多くの形を知っている。多くの素材を知っている。
多くの経験がある。長く生きている、とか(笑)」

いまでも全国を飛び回っている水戸岡鋭治さん。

たとえば電気屋さんは電気パーツや配線に詳しいし、
八百屋さんはたくさんの野菜や調理法を知っている。
同様に、デザイナーはデザインの要素(言語)を人よりたくさん知っていなければならない。

「経験といっても、ただの経験ではなく成功体験・感動体験でなくてはなりません。
その数がその人の感性に比例します。
人は感動体験を求めて生きています。思い出の量が人生の幸せをつくるといえます。
すると人にもいい思い出になる感動体験を提供したくなる」

利用者の立場に立つということを徹底している水戸岡さんだが、
それでも迷ったり、ブレてしまったりしそうなときは、
「子どもたちのため、次世代のため」と考える。

「子どものときにどういう環境だったか、
どういう人、コト、モノの経験をしたかというのは、
一生を左右する可能性があります。
無意識で見たもの、聞いたもの、感じたものが掘り起こされるのです。
ぼくたちは最高の舞台をつくる義務があるし、
子どもたちはそれを享受する権利がある。
人は感動的な舞台だと、おのずと演技をしてしまうものです」

人はいい環境を与えられると、みずから成長する。
するとその体験を伝えるため、次代にも好環境が整う。
こうしたスパイラルをつくるのもデザイナーの役割なのだ。

〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。

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引き算はモダン、足し算はクラシック

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「人間に感動を与えるのは、かけた手間ひまの量」

大量生産・大量消費の時代は、利便性と経済性を追求することで、
デザインもモダンなものと相性が良かった。
しかし最近はその揺り戻しからか、温もりが生まれるやさしい表現が増えてきた。

「工業デザインは省略することをずっとやってきました。引き算のデザイン。
でも〈ななつ星 in九州〉では、初めて足し算のデザインをしました。
引き算はモダン、足し算はクラシックです。
おじいちゃんおばあちゃんは、モダンはわからないんじゃないかな。
モダンをいいというのは専門家だけ。多くはクラシックに反応します。
JR九州の唐池恒二会長は、最近は私のことを
“足し算を超えてかけ算になってきている”といいますね。曼荼羅だと(笑)」

2013年に誕生したクルーズトレイン〈ななつ星 in九州〉。

クラシックデザインは「儲からないが感動が大きい」という。
そうした面倒で不都合なことを今の最先端技術を利用してどうクリアしていくか。
それが水戸岡さんが常に持っている課題だ。
また「クラシックな足し算」は、特徴的なものとなって、オンリーワンになりやすい。

「オンリーワンをつくっていくことは特別なことではなく、
みんなが見落としたもの、気づいていないもの、忘れてしまったものの中に
たくさんあります。それをピックアップして、存在価値や存在理由をつけていきます」

〈ななつ星 in九州〉のデラックススイートルーム701号室。

その代わり、オンリーワンを生み出すには手間がかかる。
「人間に感動を与えるのは、手間ひまの量です」という水戸岡さんは、
利便性や経済性を実現するための違う手法を模索している。
予算もスケジュールも決まっているなかで手間をかけるには、
能力をアップするしかない。
だから職人のように勉強し、デザイン力の研鑽を積んでいくのだ。

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デザインは全て理詰め

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日本の伝統、日本のデザイン

エンドユーザーのことを第一に考えてデザインするのは、
大塚さんのようなインハウスデザイナーも、
水戸岡さんのような外部デザイナーも同様だ。

「貝印の商品はリアルな商品が多いので機能が絶対条件だし、
制約も多いから大変でしょう。
しかしインハウスデザイナーだろうと、外部デザイナーだろうと、
基本的には何も変わらない。多くの人の役に立ちたいと思っているかどうか。
私は公共のためのデザインを心がけています。
デザインはすべて理詰めです。作家気分なんて少しもありません」(水戸岡さん)

公共にデザインが行き届いていると、人は環境に従うようになる。

「美意識や良識が身に付いていると、“隣の家がこの色だからうちはこの色”とか、
“隣がこの木だからうちはこの木”とか、
自然にまちも商品も美しく豊かになっていくと思います。
かつて日本にはデザインという言葉がなかった。
つまり“常識” “当たり前”のことでした。そもそもデザインは生活そのものなのです。
いまさらデザインが重要なんて言ってもね」(水戸岡さん)

今年7月21日に運行開始したばかりの〈ザ・ロイヤルエクスプレス〉。

伝統工芸なども採用した〈ザ・ロイヤルエクスプレス〉の車両デザイン画。

これは本来、日本人が持っていた感覚ではないか。それが失われかけている。
貝印の大塚さんも危惧していることだ。

「弊社には、特に海外で売れている〈旬〉という高級包丁のシリーズがあります。
アメリカやヨーロッパでもブランディングを行っており、日本文化をものすごく勉強して
外からの視点で日本のすばらしさを包丁で表現しています。
日本人では気づかない視点が多く、
国内から海外へ発信する努力がもっと必要だと考えさせられます。」(貝印・大塚さん)

「日本人が一番日本のデザインが得意だと思ったら間違いかもしれません。
勉強すれば、いいものはできますから。
一方、私たちは日本人のDNAを掘り起こさなければならない。
その作業をしないと、日本人デザイナーである存在理由がなくなってしまいます」(水戸岡さん)

水戸岡さん自身、20〜40代までは海外の文化にかぶれていたという。
その体験を通して、やはり必要なのは実直に学習することのようだ。

「これまでは伝統文化から培ってきたけど、今はそう簡単にはいきません。
たとえば世界の包丁をすべて勉強して、日本の伝統的な包丁と組み合わせて、
誰もつくれなかった包丁をつくる。それが日本人の仕事だと思います」(水戸岡さん)

日本人が日本のデザインや美を追求していくことが、世界での価値や存在理由になる。
日本人として当たり前のことのようだが、意外と足下を掘り下げていないのかもしれない。
デザインに王道はないが、
デザインプロセスの王道というものが水戸岡さんの仕事からは感じられる。

貝印の若手デザイナーからも質問が止まない。

information

ドーンデザイン研究所

住所:東京都板橋区中丸町24-11

TEL:03-3955-2116

information

貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。
http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

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