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連載

〈スマイルズ〉遠山正道さんが
実践する、
人の熱意を大切にした
経営デザインって?

KAI meets creative クリエイティブ解体新書
vol.003

posted:2017.8.23  from:東京都目黒区  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  〈貝印 × コロカル〉第6シーズンは、貝印株式会社の商品開発・デザインスタッフが、
コロカル編集チームとともに未来志向のクリエイターを訪ね、
クリエイターのフィロソフィーやビジネススキームを学びます。
未来的なクリエイティブとは何か? という問いへの「解体新書」を目指す企画です。

editor's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:岩本良介

「自分のやりたいことをやる」ことが、ビジネスの処世術

食べるスープの専門店〈スープストックトーキョー〉や
セレクトリサイクルショップ〈パスザバトン〉、ネクタイブランド〈ジラフ〉など、
数々の事業やプロジェクトを仕掛ける〈スマイルズ〉。
代表取締役社長の遠山正道さんには、
経営者でありながら「クリエイティブマインド」を感じる。
そこからたくさんのユニークなアイデアは生まれているのではないか?
そこで〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さんとともに、
遠山さんを訪ねた。

〈スマイルズ〉代表取締役社長の遠山正道さん。

スマイルズはスープストックトーキョーから始まった。
今でこそ、「体験を売る」という手法は当たり前のように語られているが、
スープストックトーキョーでは
1999年の第1号店オープン当初から共感を軸にしたビジネスをベースにしていた。
遠山さんの著書『スープで、いきます 商社マンがSoup Stock Tokyoを作る』は
「『なんでこうなっちゃうの?』という世の中に対する疑問やいらだちから
Soup Stock Tokyoは生まれました」という一節から始まる。

「飲食業界をなんとかしたい、というような大きな目的ではなく、
自分だったらこうするという個人的な思いから始まっています。
もちろんスープは提供しますが、それ以前にあるべき“共感”をつくりたかったんです。
スープを軸にして集まってきた仲間とのいい関係性。そしてそれが次に広がっていく。
共感を得られる一番はじめの場所です」(遠山さん)

極端に言えば、それが共感の手段になっていれば、スープでなくても良かった。
遠山さんが感じていた「疑問やいらだち」は、
当時の飲食業界が共感の場ではなかったことだったようだ。

〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。

「問題意識があって、自分ならこうするという考え方は、今も変わりませんか?」
という貝印・大塚さんの問いに、
「変わりませんね。ビジネスありきではありません」と遠山さんは答える。

「かっこつけているのではなく、ある種の処世術として大切なことだったんです。
当然、これまでもうまくいかなくて苦労してきた側面が多々ありますが、
そういう状況に『儲かるって聞いたから』『流行っているらしいから』という理由では
太刀打ちできません」(遠山さん)

「スマイルズのある1日」と題された事業計画書。

トラブルが起きたり、うまくいかないときに、
「なんでやっているんだろう?」「いつまでやるんだろう?」という
弱気が頭をもたげてくる。それを打破するのが個人の思い。

「両足を突っ込んで『オレがやる!』という人がいれば、事業も始めることができます。
絶対にコレだと言い切る力。
四六時中そのことを考えて、当事者になってやり切る人がいるかどうか。
理屈では超えられないこともありますよね」(遠山さん)

「貝印もものづくり自体には歴史もあり、プライドも持っていますが、
経験や共感というような“曖昧なもの”を
確固たる事業にしていくプロセスを強化していきたいですね」(貝印・大塚さん)

「結局、何をやっても仕事は大変です。だからこそ、ときめくものじゃないと。
『あいつ、めちゃくちゃ楽しそうにプレゼンしていたよね』ということが大切。
その仕事を一番楽しめる人は誰か、ということです」(遠山さん)

「事象」だけあって、担当者を後から決めるというやり方はではうまくいかない。
肝心なのは「言い出しっぺ」なのだ。
それが当事者となり、ジブンゴト化していくから。

美術・アート系の本が多いオフィスの本棚。

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『電子メールのある1日』という物語を書いた

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お客さんへ出すお茶を変えてみる

遠山さんが「個人の引力」と呼んでいるもの。
前述のように会社内での「個人の引力」を活用することもあれば、
外部の魅力的な個人に出資する場合もある。

〈瀬戸内国際芸術祭2016〉で泊まれる作品として出展した〈檸檬ホテル〉がその一例。
かつてスープストックトーキョーのスーパーバイザーを務めていた
酒井啓介さんが支配人となって運営されている。

「スープストックトーキョーのときもよくやってくれていたけど、
正直言って、全権を担っている今のほうが生き生きとしています。
仕事と人生がまるっと重なっているわけです。
人が持っているやる気とか、トキメキ感をすべて使えたほうが、
会社としても個人としても楽しいですね」(遠山さん)

瀬戸内海の豊島にある檸檬ホテル。(写真提供:takram)

何かを始めることは容易ではないはず。
こんなことをやりたいと思い描いているものはあっても、
それを実現しようとすると重い腰が上がらない。そんな人も多いと思う。

「たとえばお客さんへ出すお茶に、決まりなんてありませんよね。
いつもは買ってきたウーロン茶を出しているけど、
『私は普段、家でオリジナルブレンドのお茶を飲んでいて、
体にもいいからそのお茶を出したい』というのであれば、やってみればいい。
それくらいならば部長の承認も経営会議も通過しなくていいはず。
そういうことからできる」(遠山さん)

中央には〈ジラフ〉のネクタイも飾ってある。

頼まれないことをやってみることで、「プチ成功体験」を積み重ねていく。
それがクセになっていき、ひとりひとりがやるようになれば
会社のためにも自分のためになる。
遠山さんも前職(三菱商事)時代に「プチ成功体験」があった。

「まだパソコンがあまり普及していなかった時代に、
電子メールの重要性を感じて絶対に導入したほうがいいと思っていたんです。
そこで『電子メールのある1日』という架空の物語を書いて、
誰ともなく渡していったんです。もちろん誰にも頼まれていませんよ。
それがひとり歩きして、社長のところまで届いたみたいで。
最終的には社長に直接説明しに行くまでになりました」(遠山さん)

スープストックトーキョーなどのメニューが開発されているテストキッチン。

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「切る」というテーマでブレスト

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遠山さんは、三菱商事という大企業のなかでこうしていろいろな壁を突破していった。
さらに貝印、そして貝印のメインの事業である刃物と重ねて話してくれた。

「ユニークで前例のないものは、『どうしてやるのか』『どこの事業部でやるのか』と
暗礁に乗り上げることが多いと思いますが、
実際はそういうもののほうが社会で話題になりますよね。
たとえば刃物ならば、発想の根本から、消費者の手に届いてどんな扱われ方をするかまで、
一気通貫でイメージすることができそう」(遠山さん)

そうして遠山さんとブレストのように、さまざまなアイデアが生まれてきた。
刃物から「切る」というテーマを抽出。
そこからたくさんの「切る」があることに気がついた。
縁を切る、風を切る、見栄を切る。
さらにおまわりさんが切符を切る。映画の「カット」もある。
一瞬のうちに遠山さんの変化球な妄想が広がっていく。

「目標を一旦遠くに置いたり、変わったところに置くことで、
その間が急に自分たちの範囲として現実味を帯びてくることがあります」
と遠山さんは言う。
もしかたら、ここから今後、何か新しい事業が生まれるかもしれない。

風通しのよさそうなオフィス。

さて貝印が「切る」だとしたら、スマイルズは何だろうか?

「『切る』のようにわかりやすいキャッチフレーズをつくらなくても、
私が会議などでほかの社員に却下されたり諭されるくらい、
みんなの根底には『やる意義』を問う意識があると思います」

現場レベルや部署間でも、企画内容や事業内容を問い直す機会がよくあるという。
社員が遠山さんに決裁者としてハンコをもらいにいく機会はほとんどないらしい。

「私はほとんど指示していません。みんなが勝手に動いています。
むしろ『遠山さん、ネーミング案を10個考えてください』とか、
普通に仕事の依頼をされますね(笑)」(遠山さん)

「ファミリーレストラン」がコンセプトである〈100本のスプーン〉。(写真提供:Takumi Ota)

遠山さんが社内でデザインしたのは、ジブンゴト化する仕組みだった。
すでにスマイルズでは、〈100本のスプーン〉〈刷毛じょうゆ 海苔弁山登り〉など、
遠山さん発意ではない事業が生まれてきている。
それぞれが自分の能力を最大限発揮できるように、ひらめきやトキメキを大切に育める。
熱量を持って手を挙げる人がいれば、なんでもできる。

〈刷毛じょうゆ 海苔弁山登り〉のお弁当「海」。家庭料理の最上級を目指している。

貝印スタッフで遠山さんを囲んで。

information

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株式会社スマイルズ

住所:目黒区中目黒1-10-23 シティホームズ中目黒203

TEL:03-5724-8521

http://www.smiles.co.jp/

information

貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。
現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。
http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

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