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連載

未来を創るニッポンの現場
「島根 隠岐諸島 海士町」編 Part2
Iターン者と地元民でつくるまち。

KAI presents EARTH RADIO
vol.022 StoryF-01

posted:2012.10.12  from:島根県隠岐郡海士町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・プロフィール):
Suzu(fresco)

Iターンが新たに光をあてる海士町の魅力。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
今月訪れた島根県の隠岐諸島にある中ノ島=海士町の人口は約2300人、
そのうち330人がIターン者である。
なんと人口の1割を超えるIターンアイランド。
海士町出身ではないひとが、なぜこの離島に移住してくるのだろうか。

平成17年から行われた海士中学校の修学旅行は、
東京の一橋大学を訪問し、大学生を相手に
海士町を題材に講義をするという内容だった。テーマパークには行かない。
これはのちに、東京大学や京都造形大学でも行われることになる。
翌年からは「AMAワゴン」と呼ばれる出前授業が行われた。
これは若手起業家などを講師に迎え、
東京からバスに乗って海士町で授業を行うというもの。
この第1回目に参加した岩本悠さんは、大手企業を退職し海士町に移住。
今では町の教育委員会で
県立隠岐島前高校の魅力化プロジェクトに関わっている。
彼以外にも、一度海士町を訪れたあとに、海士町に移住している人材が多い。
しかし町として移住者受け入れに対する
積極的な宣伝や支援制度を講じているわけでもない。
「いくらいい支援策があっても、島に来てみて合わなかったら定住しません。
最初のころは、一度来たことがある人の移住が多かったんですよ。
来てくれたら気に入ってもらえる。来ていただいたら、みんな島のひとになる。
Iターンだからとか、地元民だからとか関係ありません。
あとはひととひとの縁です。友達の友達が来てくれます」と山内道雄町長。
友達に胸を張っておすすめできる島。
思えばここは後鳥羽上皇が島流しにあった島。
その時代からひとを受け入れるおおらかさがあったのかもしれない。

なぜか、高学歴でキャリアもスキルもある移住者が多いのが不思議だ。
「彼らは新しいステージを求めて来たんだと思います。
そしてみな、仕事があったから来たのではなく、
仕事をつくりに来たといいます。
事業を興したいというひとには相談に乗り、本気かどうか見極めます。
それに対しての制度を探し、無ければ国に提案することもあります」と、
山内町長は、本気の申し出には本気で応える。
こちらから「やらないか?」と誘うこともない。

一橋大学を卒業した宮崎雅也さんは、
中華の高級食材でもある干しなまこの事業を始めたいと町に申し出た。
町はその事業に本気度と将来性を感じ、7000万円を投じて加工所をつくった。
当然、たったひとりのために7000万円を投資するのか、と批判もあったが、
「彼だけのためではなく、周りのなまこ漁師のためにもなる」とはねのけた。
結果、この事業は成功し、今では中国への輸出も始まっている。

目の前は田んぼ&森。目にも心にもいい環境抜群の図書館。

Iターンの数だけ事業がある!?

Iターン者はこういった1次産業への関わりも大きいが、
コミュニケーションを生み出すような取り組みにも
大きく関わっているのが特長だ。
「知的な部分を支えてもらっている」と山内町長も語るように、
外からの視点を用いた教育や観光、メディア事業なども活発。
「海士町」をキーワードに少し調べてみるだけで、
さまざまな事業がヒットする。
町がやっているのか、個人がやっているのか、もうすでにわからない。
「好きにやってもらっています。行政は大きな仕組みはできますが、
細かなところまでは手が回らない。でもそれを邪魔するようなことはしません。
若いIターン者が地域づくりをしたり、
外からひとを呼ぼうと努力してくれますので助かっています」
これは大きな強みだ。頭でっかちにならず、実際に行動を起こすことができる。
結果、小さな活動がたくさん集まった変幻自在の集合体となっている。

集落支援員が行っている古道具屋さんは幼稚園跡地にある。

日用雑貨から、有田焼まで!

集落支援員は、空き家状況を調べるなど、各集落のお手伝いをする仕事。
この仕事に集まったIターン者たちは、集落の各家庭をまわるうちに、
使っていない古道具がたくさんあることに気がついた。
これを集めて販売することを思いつく。こうして始まった古道具屋さんには、
昭和レトロな食器や家具が揃う。取材陣も思わずいくつか購入。
田んぼを眼前に、大きく窓が開けた海士中央図書館は、
木のぬくもりが活かされて居心地がいい。だからひとも自然と集まる。
司書に任されているという選書は、なかなか刺激的なセレクトで、
こんな図書館が家の近くにあればいいなと思うほど。
ここでも若手女性写真家の林田摂子さんがIターン者として勤務していた。

こうしたコミュニケーションを大事にする働きかけによって、
島の住民の意識も変わってきた部分はある。
「昔は地域のムードがここまでウエルカムではなかったかもしれません。
やはり島なので、“余計なことはしてくれるな”という
保守的な気持ちもあったと思います。
しかし今は、“参加したら面白そう”という意識が強くなっています。
私にはわからない音楽ですが(笑)、
ライヴなんかも開催されたりして賑わっていますよ」と山内町長。

海士町に滞在中、地元のひとたちと同じくらいIターン者にも出会った。
でも、人間性はどちらも変わらない。
あたたかく受け入れてくれて、話をきいてくれる。
「最近では、地元の若者とIターン者が結婚したり、
定住したIターン者同士が結婚するなど、“縁”から“血縁”へと絆が深まっています」
と山内町長は、にこやかに話す。
それはもう、海士町の家族だ。

イカづくしだった道中。釣り上げられたイカはすぐに発送されたり、CASで冷凍される。

profile

MICHIO YAMAUCHI
山内道雄

島根県海士町長(3期目)。1938年海士町生まれ。
NTT通信機器営業支店長、第三セクター(株)海士総支配人を経て、海士町議会議員に当選。2期目に議長就任。2002年、町長に初当選。第三セクター(株)ふるさと海士社長を兼ねる。あえて単独町政を選択し、大胆な行財政改革と地域資源を活用した「守り」と「攻め」の戦略で、離島のハンデキャップをアドバンテージに、島興しに奮戦中である。
著書に『離島発 生き残るための10の戦略』(生活人新書・NHK出版)。

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