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連載

未来を創るニッポンの現場
「岡山 美作」編 Part1
棚田再生に取り組む、東さんの秘策。

KAI presents EARTH RADIO
vol.009 StoryC-01

posted:2012.7.6  from:岡山県美作市上山地区  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力

credit

撮影(メイン・プロフィール):
Suzu(fresco)

森と田んぼから見つめ直す地域再生の道。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
今回からは、岡山県美作市上山地区で
棚田再生に取り組む若者たちを訪ねる。
美作市の上山地区は、人口が185人。
そのうち65歳以上の人口が75人と高齢化率が高い。
岡山の中心地から車で1時間ほどの山のなか。
本来ならば美しい棚田が広がる地域なのだが、
高齢化が進み、ほとんどが耕作放棄地となっていた。
その集落に住み込み、地域おこしの活動に携わっているのが
東 大史(あずまたいし)さんだ。

東さんは東京出身。東京大学大学院で環境学の勉強をし、
卒業後、食品メーカーに入社した。
鳥インフルエンザや狂牛病の問題が取りざたされていた時期、
トレーサビリティを徹底して安全性を訴えてみても、
消費者に心から納得してもらうことの難しさを感じていた。
「データの数字上ではなくて、
“このひとがつくったから安心なんだ”という顔の見える関係で
食べ物を提供することができないかなと思ったのが原点ですね」と話す。

その後、ITベンチャーへと転職。新規事業で売り上げをつくって
組み立てていくというプロセスは勉強になったが、
自分の父親世代の経営者に“おたくの会社を売ってください”と交渉しに行ったり、
メールや電話だけでお金を回しているのが窮屈に感じた。

そこで2008年、エコ活動を楽しんで進めていく理念を持った
「エコブランド」という会社を起業する。
まず注目したのは林業だ。

「環境をつきつめて考えていったときに、一番上流をおさえることが、
インパクトが大きいのではないかと。
水は森が雨水を貯めて川に流している。酸素は森の木が吐きだしている。
土は木が分解されて土壌となる。
歴史上、イースター島やメソポタミア文明など、
木をちゃんと管理できなくなったことで
滅びたといわれている国や地域はたくさんあるんです。
日本はこんなにたくさんの木があるのにみんな全然関心を持っていません。
森林資源のポテンシャルにのっとった国をつくることで、
サステナブルなことがたくさんできるはずです。
林業は、これから熱くなる分野だと思います」

林業はいわゆる3K産業で、人気はない。
それは逆にいうと、
東さんのような若者が新規参入するチャンスがあるということ。
若者の感性を取り入れ、林業をいいイメージでみせるために、
具体的に取り組んだことは、なんと山のなかでの林業合コン。

「林業をリブランディングするために林業男子と、
都会の女性の合コンをはじめました。林業は衰退産業といわれているけど、
逆にいうと、ぼくみたいな若者が新規参入するチャンス。
林業男子はトークは苦手だし、女性に対して気がきかない(笑)。
でも森の中で作業するとメチャクチャかっこいいんですよ。
これまで3組ほど結婚して嫁いでいきました」

麦が育ち、麦刈りの季節。これが終われば田植えだ。

棚田再生が、日本の新しい農業のかたちをつくる。

林業合コンを始め、
中山間地域での活動を活発化させていきたいと思っていたときに、
岡山県上山地区の棚田が耕作放棄されているという話をきいた。
実は他の地域での活動も考えていたが、
行政との関係や、地元になじんでいくことが難しい部分が多かった。
しかしこの上山は、外からひとを受け入れてくれる土壌があった。
そんな経緯があって、上山での棚田再生に取り組んでいくことになる。
棚田は、山の斜面に小さな棚のように田んぼが並んでいる。
それだけにひとつひとつの田んぼの面積は小さいし、作業も簡単ではない。
だから維持も大変だ。

「普通の田んぼは、大きな機械が入って生産する工場のようなもの。
でも棚田はひとつずつかたちも違うし小さいので、大型機械が入れません。
小型の機械を使って、どういうふうに耕していこうとか、
どうやってあぜをつくればいいかとか、
地元のおじいちゃんたちに昔の知恵を教わりながら進んでいかなくてはならない。
大変ではあるけれど、逆に、交流できる場所なんです」

また、棚田を再生することで、新しい農業のかたちが見えてきた。
「棚田は収穫量も少ないし儲からないだろうと、地元農家にもいわれます。
ただ逆に大量生産の農業をやっている限り、
これからアメリカや中国と真っ向勝負しなくてはなりません。
それに対して棚田は小規模ですけど、いろいろな作物がつくれます。
だから消費側のオーダーに応じて作物がつくれるんですね。
例えば、タイ料理屋さんから
タイの野菜をつくってほしいというオーダーがあったので、
“この棚田のなかの何枚かでつくりましょう”という話ができます。
消費者と一体となって特徴のある作物をつくれば
TPPなんてまったく怖くない。
そんな農業が展開できるのではないかと思います。
安全性という数字や理屈を追うよりも、
ここで、あのひとがつくっているという姿を見せるのが、
一番の安心ブランドになりますからね」

食の安全性という観点からも、
そういった場所を確保できるのは、放棄された中山間地域だった。
木、森、水、田んぼ、わたしたちの生活の原点に
鋭い視点で切り込む東さんの活動にこれからも注目したい。

そばは、わずかな枯れた土地のわずかな栄養分でも育ち、土をきれいにしてくれるので一石二鳥。

profile

TAISHI AZUMA
東 大史

「日本を環境立国として、世界のお手本にする」ことを目標として、日本のローカルに眠るさまざまな知恵や技術を現代の産業水準に合わせてルネッサンスし、海外の継続的な発展のために寄与していくことをライフワークとしている。現在は岡山県北部美作地域において地域活性化事業に従事しており、棚田再生を象徴とした農業振興、地域での生活基盤自給を目指した林業、雇用増加を志向する地域ビジネスの立案などを仕掛ける。
http://ueyama.shu-raku.jp/
https://www.facebook.com/taishibrian

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