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岩手〈平泉五感市〉
“実演”から“体験”へ。
東北の新しい工芸イベント

東北の田園 一関&平泉
これから始めるガイドブック
vol.010

posted:2018.1.24  from:岩手県磐井郡平泉町  genre:ものづくり / 活性化と創生

PR 一関市

〈 この連載・企画は… 〉  岩手県南の岩手県一関市と平泉町は、豊かな田園のまち。
東北有数の穀倉地帯で、ユニークな「もち食」文化も根づいてきた。
そんなまちの新しいガイドブックとなるような、コンテンツづくりが始まった。

photographer profile

Kohei Shikama

志鎌康平

山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形へ帰郷。東京と山形に拠点を設けながら、日本全国の人、土地、食、文化を撮影することをライフワークとしています。山を駆け、湖でカヌーをし、4歳の娘と遊ぶのが楽しみ。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。
http://www.shikamakohei.com/

writer profile

Kei Sato

佐藤 啓(射的)

ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。
https://m.facebook.com/InternatinalSkipFederation/

平安より伝わる漆と彫金が美しい奥州市の〈岩谷堂箪笥〉、
同市の水沢地域でつくられてきた南部鉄器、
そして、平泉町を中心につくられてきた
伝統的な漆器〈秀衡塗〉(ひでひらぬり)……。
実は国内外に広く知られる多くの伝統工芸の工房が集まる岩手県南地域。
昨今業界の継承者が減っていく中、ここに拠点を構える若き職人たちが集い、
これからの伝統工芸や職人のあり方を模索しチャレンジしている。
その取り組みのひとつが、現場さながらの工芸体験ができる〈平泉五感市〉だ。
進化する伝統工芸職人たちが込める思いとは?

同地域との関わりも深いプロダクトデザイナーの石田和人氏による五感市のロゴ。イベント当日は、この「五」のマークに目を惹かれ、平泉観光に訪れていたお客さんも多く足をとめていた。

自らで未来を切り開くために

「各工芸の体験、職人による直接販売、品物を試用する、
芸術やデザインの勉強会などを通じて、岩手の工芸を五感で感じてもらうイベント」
として2016年に立ち上がった〈平泉五感市〉。2017年も10月14日・15日に
平泉の漆器工房〈翁知屋〉(おおちや)を会場に開催され、
岩手県内外からたくさんのお客さんが集まった。
工芸体験のほかにも、旬の郷土料理や各社の美しい工芸品も販売された。

伝統工芸の体験は、翁知屋の中庭、ショールーム、蔵の3会場で行われた。1日3社ずつ2日間に渡り合計6タイプの工芸体験をすることができた。

「2016年以上に人が集まり、ホッとしましたね。
リピーターの方も多く、我々の活動が少しずつ認知されてきたのかなと思います。
やっぱり直接お客さんと触れ合えるのはうれしいし、刺激になりますね」

そう話すのは、平安時代に平泉を拠点に栄華を極めた
奥州藤原氏ゆかりの技を受け継ぐ、漆器〈秀衡塗〉を150年以上もの間伝承し、
国内外から高い評価を得てきた翁知屋の4代目・佐々木優弥さん。
同イベントを主催する〈いわて県南エリア伝統工芸協議会〉の前会長で、
若き伝統工芸職人たちの中心となり、
その立ち上げからプロジェクトを主導してきた。

佐々木優弥さん。翁知屋のショールーム2階の工房にて。

皇太子殿下への献上品や伊勢志摩サミットのG7各国首脳への贈呈品、
世界で活躍するデザイナー、マーク・ニューソン氏の作品への参加、
ミラノサローネへの出展、大手プロダクトメーカーとのコラボ……。
伝統の技術を生かしながらも全国のジャンルが違う職人仲間やデザイナーとの共作で
数々の作品を発表してきた佐々木さんは、伝統工芸の今を牽引する職人のひとり。

伝統的な秀衡塗から現代的なデザイン性の高いものまで、時代のニーズに合わせて広がった翁知屋の商品。

これからの時代にあった“職人の共通言語”とは

さまざまな仕事を手がけるなか、
岩手の伝統工芸業界への危機感を感じた佐々木さんは、
まず、もともとあった〈いわて県南エリア伝統工芸協議会〉の会長と交渉し、
次世代の若い経営者中心の組織に組み替えた。

「近年、富山や新潟辺りだと、
異業種工芸の職人たちが連携して工芸観光イベントを仕組んだり、
さまざまな商品を地域内の異業種間で開発したり、
“産地”として集団で攻めている流れがあるんです。
例えば職人を抱える事業者は若手デザイナーのデザイン案を商品化し、
売れたらデザイナーにロイヤリティーで還元。
若手デザイナーは自分のデザインを製品化でき、売れることで市場感覚が身につく。
事業者にとっても、初期投資を抑えて今までとは違うデザインの商品ラインを
揃えることができるという、今の時代にフィットするような試みを始めている。

それを目の当たりにしてきて、
『ちょっと岩手は遅れているぞ』という思いがありました。
もともとは秀衡塗・南部鉄器・岩谷堂箪笥の各事業者組合の
合同事業者組織として立ち上がったいわて県南エリア伝統工芸協議会は、
半ば休眠状態の組織になっていた。
そこで、僕たちの世代が中心になって、伝統工芸品製造事業所以外にも
県南地域の手工芸品を製造する企業も仲間にして、
新組織としてリスタートさせたんです」

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まずは、勉強会からスタート

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各社それぞれ課題を抱えるなか、自分たちができることは何か。
これまでに「伝統工芸未来塾」や「先進地研修」などを開催し、
国内外で評価を受けているカメラマンやデザイナー、
伝統工芸の同業者など、パイオニアの方々を勉強してきた。

目指すのは、これからの時代にあった“職人の共通言語”をつくること。
協議会のメンバー同士で普段からweb会議やSNSで連絡をとることで
誰かの意見を待つのではなく自主性を持つよう意識を変えていったり、
多角的な視野を持つようなきっかけをつくったりと、
今は“共通言語”の土台づくりをしている最中だ。

「そんな中で各社の取り組みを知ってもらいながら、
五感を使って体験してもらおうと生まれたのが、〈平泉五感市〉。
自分が中心にならず、
イベント名も含め参加メンバーがそれぞれ意見を出し合って決めたもの。
工芸の職人同士が話し合い、PRや販売などでも主体的に動く。
お客さんと職人がともに五感を使って“体験”を共有することで、
着実に新しい流れが起こりつつあると思います。まだまだ発展途上ですが!」

2017年は、自分たちの技術を伝えることにもチャレンジ。交渉する力も日頃から培っているメンバーたち。パワーポイントを使ったプレゼンもお手のモノ!

広がる職人の輪、参加者の輪

〈京屋染物店〉〈丸三漆器〉
〈彫金工芸 菊広〉〈岩谷堂タンス製作所〉〈小山太鼓店〉。
今回、翁知屋とともに平泉五感市に参加した5社は、
そんな佐々木さんの危機感や思いを共有し、
主体的に協議会の運営にも携わるメンバーだ。

〈彫金工芸 菊広〉の代表・及川 洋さん。岩谷堂箪笥の彫金を中心に、〈Iwayado craft〉の彫金のアクセサリーなどの制作まで手がける。イベントでは、基本的な彫金技術を体験してもらいながら小皿をつくるワークショップを開催した。

写真提供:平泉五感市

秀衡塗の漆器を展開する〈丸三漆器〉代表・青柳 真さんは、同社の代表的商品である漆グラス制作のワークショップを開催。参加者はガラスへの漆塗りと金箔による絵付けに挑戦していた。

コロカルが訪ねたイベントの1日目、3工房が主催するワークショップには、
家族連れからクラフト好きのご婦人仲間、伝統工芸に興味があるという女性や
自らの洋服を持参して藍染体験にきた洋服店のオーナーまで、
さまざまなお客さんが本格的な工芸“体験”を楽しむとともに、
職人による自らの工芸の紹介や会話を通じて、ご贔屓だけでなく、
そのほかの工房の作品にも興味を高めている様子が印象的だった。

一関市で100年続く染物屋〈京屋染物店〉。全国各地のお祭り衣装などの制作を中心に、自社の藍染ブランドまで展開。専務の蜂谷淳平さんが開催した藍染ワークショップは、初体験の人からリピーターまで、たくさんのお客さんでにぎわっていた。

「大学の仲間とまた体験しに来ます!」と話す、この日ワークショップで藍染を初体験した『美女旅xいわて』の高橋礼子さん。現在大学生で岩手の観光PRをお手伝いする彼女は、イベントの運営も手伝っていた。

参加者の関わりを高める仕組み

2日目に行われた翁知屋の佐々木さんのワークショップは漆の絵付け。この日は小皿や木のスープンに本物の色漆で、思い思いの絵を描いていた。(写真提供:平泉五感市)

「今日は〈京屋染物店〉の藍染体験をしにきました。
〈小山太鼓店〉の太鼓づくりは今日、ここに来てみておもしろそうだなと思った。
岩手の出身ですが、
一関の室根ということろで太鼓づくりが盛んだったなんて、驚きです!私はもともと
東京で伝統工芸作家さんの商品の仕入れの仕事などをしていたのですが、
今はUターンして地元の手工芸品の商品開発をしています。

全国の伝統工芸に特化したイベントにはけっこう参加しているほうですが、
“実演”ではなく“体験”できるイベントは珍しいですね。
作品を試用できるのもあまりない。
ワークショップでは、かなり本格的な指導をしてくれました。
自社の工房を見れたり、
そこでもっと踏み込んだ体験もできたりするとうれしいですね」

職人たちが自ら制作・更新していたFacebookのイベントページで
平泉五感市を知り訪れたというこの参加者は、
ワークショップ参加を機会に後日〈京屋染物店〉の自社工房へ見学に行き、
現在は一緒に商品の開発をしているのだそうだ。

写真提供:平泉五感市

岩手の郷土芸能に、欠かせない和太鼓。担い手も減るなか、今も技術を継承する〈小山太鼓店〉。2日目に行われたのは、和太鼓の革張り体験。事前に用意された革張りした太鼓の型に、鋲打ちを行っていく。なかなかほかではできない貴重な体験だ。(写真提供:平泉五感市)

写真提供:平泉五感市

江戸中期に創業した奥州市の老舗〈岩谷堂タンス製作所〉。伝統的な岩谷堂箪笥のほかに、その技術を新たなプロダクトにした〈Iwayado craft〉のビンバッチや蝶ネクタイは、平泉五感市でも販売されていた。同社が2日目に行ったワークショップは、漆が塗られた木に釘打ちをするオシャレな時計づくり。(写真提供:平泉五感市)

当日、会場では一関市の〈かぶらや〉による岩手のご当地名物「いもの子汁」は、翁知屋の秀衡塗のお椀で振る舞われた。郷土料理は郷土の器でいただくと、よりおいしい。

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次なるチャレンジは?

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「2年かけて平泉五感市は地元や周辺地域の人にやっと定着してきたところだけど、
新潟や富山に比べると産地としての力はまだまだこれから。
よいところは残しつつも、
お客さんの声を取り入れて変えるところは思い切って変えていく。
そうして継続しながら続けていくことで、職人個々の力だけでなく、
“産地”という意識をもっとみんなで共有していければよいですね。

次の段階にいくためにどうしたらよいのか。
『次はデザイナーや専門家と組んで、
ジャンルを超えて商品の開発開発をしていこう』など、
運営メンバーから自発的に声が上がってきたりしているので、
みんなで一緒に次の戦略を考えていこうと思います」

佐々木さんはまだ「定着段階」と謙遜するが、
若手の伝統工芸職人たちが自らつくり上げた平泉五感市は
全国的にみても既に十分興味深いイベントだったと思う。
来年、このイベントにどんな新しい顔が集いどんな顔になっているのか、
ぜひ会場で“体験”してほしい。

information

平泉五感市

Web:http://iwate-kennan-kogei.com/

次回開催については、HPをご確認ください。このHPも、職人たちが自ら運営している。平泉五感市参加工房の詳細や伝統工芸未来塾の活動内容、ECショップまで展開しているので、ぜひ一度ご覧あれ。

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