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小豆島日記100回記念スペシャル 後編
HOMEMAKERSの暮らし方

小豆島日記
vol.101

posted:2015.4.13   from:香川県小豆郡土庄町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。

editor profile

Ichico Enomoto
榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画やカルチャーを中心に編集・執筆。コロカルではアート関連の記事や、コロカル商店を担当。出張や旅行ではとにかくおいしいものを食べることに余念がない。

photographer profile

Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。コロカルにて「美味しいアルバム」連載中。

小豆島に移住する人たち。

三村ひかりさんの連載100回を記念した特別編。
前編では三村さんとつながりのある移住者の方をご紹介しました。
では、小豆島の移住の現状はどうなっているのでしょうか。
小豆島には三村さんの住む土庄町と、お隣の小豆島町のふたつの町がありますが、
今回は小豆島町企画財政課の黒島康仁さんにお話をおうかがいしました。

小豆島の人口は約3万人。土庄町と小豆島町でほぼ半々だそうですが、
小豆島町では高齢化などにより毎年240~250人ずつ人口が減っているそうです。
それでも、小豆島町への移住者は
平成25年度は87世帯117人、
26年度は105世帯131人が移住しているとのこと。
土庄町では、25年度で47組66人ということなので、合計すると、
1年に200人近い人たちが小豆島に移住しているということになります。

この場合の移住者というのはUターンを除き、
Iターンと、一度都会で働いたあと故郷の近くに戻ってくるJターンの合計で、
小豆島町ではほとんどがIターン者。
もともと縁のない人たちが転入してきているというのが特徴的です。
もうひとつの特徴としては、20~30代の若い世代の人たちが多いということ。
なかにはもちろん、リタイアして第二の人生を
楽しむために移住する人もいるようですが、
自然豊かな土地で子育てをしたいといった若い世代の移住が多いようです。

平成24年度と25年度の小豆島町への年齢階層別移住者数。(町長のブログ「小豆島町長の『八日目の蝉』記」より)

小豆島町の具体的な施策としては、
土庄町とともに「小豆島移住・交流推進協議会」を設置し、
空き家バンクの開設や「島ぐらし体験」ツアーを実施。
島ぐらし体験ツアーについては「小豆島日記#082」でも紹介しましたが、
移住を考えている人を対象に、就労相談や空き家物件の見学、
移住者たちとの交流会などをメニューに組み込み、年2回実施しています。
特に実際の移住者たちにいろいろな話を聞く機会となる交流会はとても好評で、
さまざまな地域から参加の応募があるそうです。

空き家バンクは、いまや全国各地の自治体が取り組んでいますが、
小豆島町でも空き家の問題は深刻。
誰も住んでいなくてもいろいろな事情でなかなか貸し出せる物件が少ないそうですが、
借り手の要望は多く、今年も現時点で新規の賃貸登録物件9軒のうち8軒で契約が成立。
物件が出たらすぐに埋まるような状況だといいます。
町では家財撤去、改修などに助成金を出し、
さらなる物件の掘り起こしに努めたいとしています。
また、小豆島町では、中・長期滞在施設を用意し、移住を希望する人に
1週間から最長3か月まで、1日2000円で部屋を貸し出しています。
ここに滞在しながら仕事探しをしたり、実際に暮らしてみたりすることで、
より移住が現実的なものになるようです。

そして、移住を考える人にとっていちばん気がかりなのは就労。
小豆島町ではハローワークと連携して面接会を開催したりしていますが、
まずはよく調べてみてほしいと黒島さん。特に、1次産業に関心を持ち、
農業をやりたいという人がよく相談に来られるそうですが、
まず畑を借りるというだけでもハードルが高く、
また実際に収穫できて収入が得られるまでの資金面でも大変です。
家庭菜園くらいの規模であれば別ですが、移住して農業をゼロから始めて
仕事にするというのは、かなり難しいことのようです。

黒島さんは、「なかなか地域になじむのが大変という話も聞きますが、
高齢者が多い地区で移住者のお子さんが生まれたり、
移住者によって若い人たちが増えたりしたことで、
お祭りや行事が復活したという話もあります。
利用できる制度は活用してもらいながら、
いろいろ下調べをしたうえで島に来てもらいたいですね」と話していました。

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HOMEMAKERSカフェの1日。

ふたたびHOMEMAKERSに戻ります。今日はカフェの営業日。
朝から仕込みに、掃除に、めまぐるしい1日のスタートです。

お庭に咲いていたお花をつんできてベースに飾ります。

店内を隅々まで掃除。

ふだんの居住スペースも、営業日はカフェスペースに。

たくちゃんはカレーの仕込み。前日の晩から仕込んでいます。

今日は11時の開店と同時に予約が入っていたこともあって大忙し。
メニューはランチがサラダプレート、サンド、カレー、それにデザートが2種。
それでもやることは盛りだくさんです。

もうすぐ旬も終わりのブロッコリー。きれいな色。

サラダを盛りつけ。昨日とれた紅くるり大根がきれい。

デザートはひかりさん担当。バナナを入れたマフィンが焼き上がりました。

近所の人たちが家族で来店。春休みということもあって、にぎやかなカフェ。

お昼どきを過ぎて少し落ちついた頃、
「こんにちはー」とお店にやって来たのは太田有紀さん。
三村さんと小豆島カメラの活動を一緒にしている太田さんは、小豆島生まれ。
兵庫の大学を卒業後、社会人となって神戸と大阪で働き、
10年間島を離れたのちに戻ってきたUターン者。
戻ることになったきっかけは2013年の瀬戸内国際芸術祭。
その前年に山崎亮さん率いる「studio-L」で働いていた太田さんは、
芸術祭の小豆島でのプロジェクトの担当になり、
島の人たちと一緒に作品づくりをするなかで、戻ることを決めたのだそう。

太田有紀さんが愛媛の大三島から送られてきたというデコポンを持ってきてくれました。

「昔はそんなに小豆島がいいと思っていなかったんですが、
大学に入って島を出てから、戻ってくるたびに、
やっぱり小豆島っていいなと思うようになりました。
芸術祭のプロジェクトで島のおっちゃんたちと接していろいろな話を聞くうちに、
何か島の人たちと一緒にできることがあったらいいなと思って」と太田さん。
そのまま小豆島町の企画財政課で芸術祭の福田地区担当として役場に勤めていましたが、
ちょうどこの3月で仕事を辞め、しばらく海外に行くそう。
いろいろな経験をして、また小豆島に戻ってくるのかもしれません。

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農業で暮らしていくことの難しさ。

テツ

このあたりは農家って多いんですか?

ひかり

専業農家はあまりいなくて、兼業農家です。
自分たちの食べる分を栽培している人はけっこういますが、
農業を仕事としている人は少ないです。

たく

まず畑を貸してもらえないですからね。僕らはほとんどIターンに近いですけど、
おじいさんの家があったのでUターンみたいに地域に早く溶け込めることができたし、
親戚がいたから畑を貸してもらえたので、それはよかったです。

ひかり

でも私たちもまだ農業で生計が立てられているわけではなくて、
農業に関する補助金を国からもらっています。
これは45歳未満の人が新規で就農する場合に、
経営が安定するまで最長5年間給付されるものです。
農業で生計を立てられる所得の目安が250万円というので、
あと3年後に250万の所得を得るというのがひとつの目標ですね。

たく

でもこの補助金を得るのには条件がいろいろあって、
地域のコミュニティをつくって、そこに役場の人や農家の人、
自治会の人にも入ってもらって、そのなかで将来の担い手として
認めてもらわないといけないんですが、有機栽培はだめだと言われました。

ひかり

まず農薬を使わないで農業をやろうなんて人は周りにほぼいないですから。
素人にできるわけがないと思われて当然なんですけど。

たく

でも補助金のためにやるわけではないので。
やりたくないことをやるのも違うと思って、
有機栽培が認めてもらえないならいいです、って
補助金の申請をあきらめようと思ったんです。
そうしたら、じゃあやってみればいいから、
有機栽培を実際にやっている農家に研修に行きなさいと言ってもらえて。
それで丸亀市にある農家に研修に通ったんですが、
いま思えばとてもいいご縁で、行ってよかったと思っています。

カフェから見える肥土山の風景はとても気持ちいい。

ひかり

でも野菜のセット販売は思っていたよりもすごく大変。
ちゃんと量をはかって、同じようにパッケージングして、
送付先の住所も管理して、請求書を入れたり、入金を確認したり。
やってみてその大変さがわかりました。
それでも、少量でも何種類か野菜をつくっているのは私たちの強みでもあるし、
地元のレストランで使ってもらえたりするのはうれしいので、
がんばってやっていこうと思っています。

テツ

3年後の所得250万をめざして、どんな工夫をしているんですか?

たく

ひとつは加工品を増やすということ。
いま生姜と柑橘を使ったジンジャーシロップをつくって販売していますが、
こういう商品を増やしていけたらいいなと思っています。

ひかり

移住して地方で農業で生計を立てるというのは、本当に大変なこと。
でも自分たちがちゃんと楽しみながら稼げるように
考えていかないといけないなと思っています。

HOMEMAKERSのシトラスジンジャーシロップ。ソーダで割ってジンジャーエールに、お湯で割ってホットジンジャーに。今後、コロカル商店でも販売予定。

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週末カフェがちょうどいい。

テツ

家を改修するのは大変でした?

ひかり

改修してカフェを始めるまでに結局1年以上かかりました。
お金もけっこうかかったんですが、自分たちで全部やるのは無理だから、
やれることはやって、あとは大工さんとか、プロの方にお願いしました。

テツ

カフェをオープンして1年ちょっと経ちましたね。
実際にやってみてイメージと違うことはありました?

たく

大学卒業後にカフェで働いていたこともあるので、
そんなにイメージと違うことはなかったです。

ひかり

私はもともとイメージできていなかったかも(笑)。
飲食店ってこんなに大変なんだ、と思いました。
でもカフェをやりたかったのは、人に来てもらって、
人とのつながりができていけばいいなと思ったからなので、
それはイメージどおりかそれ以上ですね。
ただ、仕込みもしなくちゃいけないし、掃除もしなくちゃいけないし、
やることがたくさんあって大変です。

テツ

週2日だけの営業ですが、それは変えるつもりはない?

ひかり

週2日がちょうどいいバランスだと思っています。
接客をするのは楽しいけれど気を遣うこともあるし、
農作業のことを考えても、これ以上は難しいかな。
基本的には農業がベースにあって、
カフェは自分たちの畑でとれた野菜を食べてもらう場として考えています。
最初は土日にオープンしていましたが、
家族と過ごす時間を大切にしたくて移住してきたのに、
いろはと過ごせなくなってしまうので、
オープン1か月くらいですぐに営業日を金・土に変えました。
いまも土曜日はかわいそうだけど、カフェにいろはの友だちが来てくれたりします。

本日のサラダプレート。野菜はすべてHOMEMAKERS産。ピンク色のスープは、紅くるり大根とフェンネルとじゃがいものポタージュ。

カレーとサラダのセット。たくちゃん特製のカレーはスパイシーでおいしい!

テツ

いろはちゃんが、パパは料理してるときがいちばん楽しそうって言ってました。

たく

その日とれた野菜をどうやって出そうかって考える楽しさはありますね。
盛りつけも変わってくるし。

テツ

しんどいこともあります?

たく

カフェはある程度、売り上げの見込みもたつからいいけれど、
野菜がうまくつくれなかったときはちょっと辛いですね。
種が発芽しないとか、育ってきたのに実がつかないとか。
生活していけるのかと不安になることはあります。

テツ

ひかりちゃんも不安になることはありますか?

ひかり

私はあまり深く考えてないというか、
いつも前向きに、なんとかなるだろうと思っています(笑)。

たく

そんなところに少し救われているところはあります。
実際ここまでなんとかなってきたけど、僕はちゃんといろいろ考えてますよ。

デザートはバナナマフィンと肥土山のレモンが入ったチーズケーキ。三村さんが「店を始めるまではお菓子づくりなんてしなかった」というのが信じられないほどの腕前。

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「生きることを働くことに」を実現。

テツ

収支はどういう感じですか?

たく

収入は農業とカフェが半々くらいで、
足りない部分を補助金で補っているという感じです。
それプラス、地元企業のウェブサイトのお手伝いとか、臨時収入が少し。

ひかり

あくまで農業が中心にあって、その野菜を使ったカフェがあって、
さらにとれたものを加工品にして販売するというように、農業を軸に考えています。
そのつながりから、知り合いの農園や地元企業の
ウェブサイトやパンフレットの制作のお仕事もさせてもらっているという感じ。
いまは加工品を含めた農業の所得が全体の半分くらいですが、
補助金がなくなる3年後には、農業が所得の主体になるようにしていきたいです。

たく

支出は、昨年度は家の工事があったので収入を少し上回っていますが、
今年度からは黒字になっていく予定です。

テツ

最初に工事費はかかっても、あとは家賃はかからないですもんね。
食費など生活費は、移住前に比べて下がりました?

たく

野菜はあるし、近所の人からおすそわけももらったりするし、
カフェで残ってしまった食材を使ったりするので、食費はあまりかからないですね。

ひかり

生活費自体は下がりましたが、カフェの事業経費としてかかっているものは
けっこうあります。仕入れもこの1年は試しながらやっているので
少し無駄が多かったですが、今年はもう少し精査してやっていきます。

たく

こっちだと誘惑が少ないからあまりお金を使わなくなりました。
以前は洋服も新しいものを持ってないと不安だったけど、
いまはズボン1本にしても履きつぶしてから買うから、早く履きつぶしたい(笑)。
そうやってものを買わない生活って意外と満足度が高くて、
消費に対する感覚は変わりました。
お金を使わず、うまく生きていく力が必要なんでしょうね。

ひかり

借金はしたくないので、自分たちの手の届く範囲で
やれることをやろうと思っています。でもお金の計算をしながら、
なんとか生活していくことを考えるのっておもしろいですよ。
それは苦じゃないです。

テツ

そう言えるかどうかですね。そうやって楽しめる人は移住向きかも。

悩みどころは、やらなくてはいけないことがたくさんあるので、時間のやりくりが難しいことだとか。

テツ

ひかりちゃんの「生きることを働くことにしたい」という言葉が
すごく印象的でした。それで移住したって。

ひかり

それまでの生活は、お金を稼ぐことと暮らすことがバラバラで、
それに疲れてしまって。仕事も暮らしも1本にしたいと思ったんです。
そういう意味では、いまはやることがありすぎてイライラすることもあるけれど、
もやもやした気持ちはなくなりました。

たく

どういう仕事をして、どういうスタイルで生きるかということは
常に考えていました。僕らは暮らしをよりよくするために、
生き方を変えないといけないんじゃないかと思ったんです。

テツ

移住してよかったと思います?

たく

もちろんそうですね。不満はないです。

ひかり

よかったと思っています。何より家族が一緒にいられるということが大きいですね。
けんかも増えたけど(笑)。

テツ

でもたしかに忙しいですよね。農業をやってカフェをやって、
小豆島カメラの活動もして、そのほかに肥土山農村歌舞伎とか地域の活動もあるし。
昨日も歌舞伎のパンフレットに載せるための出演者のポートレートを、
頼まれて撮影してましたね。

ひかり

そういう細々としたこともあるし、本当にやることがたくさん。
でも地域の活動にも積極的に関わることで、
本当にここの人間になっていくと思うし、小豆島カメラの活動も、
同世代の人たちと一緒に何かをやるのがとても楽しいです。

たく

移住すると良くも悪くも想定外のことが起こると思いますけど、
もし移住を考えている人がいるなら、やってみたらいいと思いますよ。

ひかり

不満とか疑問とか、いまの暮らし方でいいのかなという悩みを
抱えている人が増えているんでしょうね。移住をひとつの選択肢というか、
ひとつの暮らし方として考えてみたらいいと思います。
私たちもこれからまた家族でがんばっていこうと思っています。

たくちゃんが庭に友人とつくったブランコ。いろはちゃんは4月から小学校2年生。

テツカの編集後記

今回、三村さんご夫婦からいろいろな話をうかがい、
移住後の生活というものを、かなりリアルに感じとりました。
まず大事なのは、家族が互いに尊重し補い合うこと。
そして、タフじゃなきゃ成り立たない。経済的にも、身体的にも。

そんな難しい側面もあるけれど、
やはり海や山に囲まれた暮らしは、本来、人のあるべき姿であり、
あらためて都会での生活では得られない圧倒的な豊かさを感じました。
そして、大都市を中心にまわる経済成長も頭打ちとなるこの先は、
自然の恵みや地域の人と寄り添った生活が見直されていくのだろうと思いました。

たくちゃんは、移住を考えている人に向けて
「迷っていたら、とにかくやってみたらいい」と言っていました。
やらないで後悔するよりも、やって後悔するほうがいい。そう思います。

これからも三村ファミリーの描き出す「小豆島日記」から目が離せません。

information


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HOMEMAKERS 

住所:香川県小豆郡土庄町肥土山甲466-1

営業時間:金曜、土曜のみ 11:00~17:00(L.O. 16:00)

http://homemakers.jp/

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