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古民家宿 LOOF vol.3
デザイン家具に薪ストーブ。
山梨に残る伝統建築を、快適な宿へ

リノベのススメ
vol.136

posted:2017.2.6   from:山梨県笛吹市芦川町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yoshie Hoyo

保要佳江

古民家宿LOOF代表。山梨県笛吹市芦川町育ち。2013年、任意団体〈芦川ぷらす〉を立ち上げ、古民家でフレンチを食べる〈囲炉裏フレンチ〉を実施。2014年からは芦川町内に100棟以上ある古民家を生かし、同年10月に〈古民家宿LOOF澤之家〉、2016年6月に〈古民家宿LOOF坂之家〉をオープンさせ、都内の20代後半の女性や外国人の観光客をターゲットに一棟貸し宿を経営。

古民家宿LOOF vol.3

山梨県笛吹市芦川町で運営している、古民家一棟貸し宿LOOF澤之家・坂之家という2棟の宿の
オープンまでの経緯を綴っていきます。

vol.2では、澤之家の解体がひと通り終わり、ようやく建物をつくりあげていく段階へ。
大工の市田 仁さん指導のもと、
使ったことのない機械や道具を使って建物をつくり上げていきます。

床材・壁材を古民家に合わせた色に塗っているところ。

初めてインパクトを使用して、床を張っていきます。

改修は、下記のポイントを大切にしました。

1、古民家の良い部分は残す。

2、快適に過ごせるような空間にする。

3、モダンな内装にする。

ひとつ目に、古民家の良い部分はそのまま残すという点。
これはいろいろな古民家をリノベーションした宿やレストラン、カフェを見るなかで、
まったく手を加えていないそのままの古民家や、
手を加えすぎて古民家の良さがなくなってしまった現代的すぎる建物を見て、
ほどよく改修していこうと考えたからでした。

まずは、元の姿をとり戻す

芦川町の古民家の特長である “兜造り”の屋根はそのまま残し、
中の茅葺きがしっかりと映えるように、建物は吹き抜けにしました。

長年時間をかけて燻された梁はそのままに。燻された黒い梁の色に合わせて壁や床は同様の色に。

建物自体は築100年を超える建物ですが、すべてが当時のままだったわけではありません。

私たちがお借りする前に住んでいた方が住みやすいようにと
お風呂、キッチンなどの水回りは現代的に改修され、窓はアルミサッシに変わっていました。

改修前のキッチン。

解体前、窓はほとんどこのようなアルミサッシでした。

そこで、古民家の室内に浮いてしまっていた現代的な部分はすべて解体し、
キッチンスペースは土間のキッチンに、サッシはアルミから
すべて木枠のサッシに取り替えるような、逆に古く戻すという作業をしました。

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木のぬくもり感じるキッチン

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改修後のキッチンは、対面式に。

木製サッシに変更した改修後の窓辺。

ふたつ目に、快適に過ごせる空間にする点。
古民家の壁は隙間だらけ。夏は涼しくて快適でも、冬はすきま風がとても寒いのです。
また、お手洗いが水洗トイレではありませんでした。

古い建物でも、快適に過ごせるよう、床・壁に断熱材を入れ、薪ストーブを設置。
暖かく過ごせる工夫をしていきました。

断熱材を入れているところ。こちらも自分たちで施工しました。

薪ストーブは古民家の内装と合うような古いデザインのものを選びました。

また、ターゲットは 20〜30代の女性なので、水回りは特に気にかけました。
お手洗いは水洗トイレ、キッチン・洗面台・お風呂は、
すべて新しいものに取り替えました。
営業してみると水回りがきれいで安心したという声を多くいただきました。

お風呂とお手洗いの間に新しくつくった洗面台。

昔ながらの囲炉裏も快適に

また、快適に過ごしてもらう重要なポイントとして、注目したのが囲炉裏。
もともと床に掘られていた囲炉裏をすべて解体し、
足を伸ばせるよう掘りごたつ式にし、テーブル型の囲炉裏を特注でつくってもらいました。
これはお食事を囲炉裏で召し上がってもらう際や、
ゆっくり炭を見ながらお話をすることになるだろうと想定し、
長時間囲炉裏を囲んでも苦にならないようにとテーブル型にしました。

これも実際に営業を始めてからお客さまに大変好評な点。
特に年配の方や外国人のお客様に喜んでいただいています。

新しくつくったテーブル型の囲炉裏。

そして最後にモダンな内装にするという点。
ターゲットは20〜30代の女性。
せっかく私がやるのであれば自分と近い感覚の方をターゲットにしたいという想いで、
伝統的な古民家の中も、自分自身がワクワクできる内装を考えていきました。

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宿に、ひとりでくつろげる場所……?

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今回インテリアの協力者として、
前職の同僚で、中目黒のおしゃれなカフェ〈中目黒LOUNGE〉の店長である高橋竜太くんに
協力してもらいました。
いろいろとアドバイスをもらいながら、雑誌やPinterestでお気に入りの内装を探しました。

室内のワクワクポイントひとつ目は、2階につくった「一人の間」。

一棟貸しなので、基本グループで過ごす時間が多くなるなか、
自分自身を見つめる時間を持つのも大切ではないかという考えのもと、
キッチン上の1畳ほどの狭いスペースに、マットレスとクッションを敷き詰めて、本棚を設置。
ぼーっと考え事をしたり、雑誌を読んだりしながら、ひとりになれる空間にしました。

もうひとつのワクワクポイントは「床の間」。
1階のリビングにある床の間の空間がもったいないので、
何かおもしろく活用できないかと考え、
床の間を真っ白の壁にし、プロジェクターを映し出すスクリーンにしました。
LOOFは、日常から離れた、時間を気にしない時間を過ごしてもらおうと、
テレビ・時計を設置していません。

ただ、快適に過ごしてもらいたいし、周りはなにもないイナカなので、
楽しめるものを用意しておこうということで、
wifiとappleTV、プロジェクターを用意。
宿でお好きな映画をプロジェクターに映し出してご覧いただけるようにしています。

知らなかった、屋根の広さ

改修作業は大工の市田さんにお任せした場所、
私たちも手伝ったところがありますが、
なかでも自分たちで行って大変だった大仕事は、屋根塗り!
これはすべての作業の中で一番大変でした。

安全ベルトをつけながら、屋根に登り自分たちで塗っていきます。
まずは、もともと塗ってあった塗料や剥がれかけの塗料を削ります。
ここ芦川の古民家は、茅葺きの上にトタンが載っている、
“兜造り”と呼ばれる様式の古民家が多くあります。

これは塗り始めてから気づいたことですが、屋根は……広い。
知らないからこそ、思い切れた屋根塗りでしたが、すごく大変な作業でした。
しかも始めた時は7月。真夏の日差しで、トタンも暑くなり、塗る人はもっと暑くなる。

屋根塗りを指導していただいた大塚 直樹さん。

塗料を削り、錆び止め塗料を塗り、上塗り塗料で完成です。
その間にも、塗った直後に雨が降ってきてしまい、
また塗り直さないといけなくなったり、思うようにスムーズに作業ができず、
屋根塗りだけで、1か月丸々時間を使うことになってしまいました。

時間がかかりながらも少しずつ仕上げていき、解体から改修まで
合計100名以上のボランティアの方にもお手伝いいただきながら、
約半年間をかけて完成していきました!

土間に使うコンクリートを運びます。

土間にコンクリートを敷き詰めているところ。

東京からもたくさんボランティア・友人が手伝いに来てくれました。

次は澤之家がオープンした後のお話を。

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