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連載

どうして? 神山町に
古民家オフィスが根づいた理由。
坂東幸輔建築設計事務所 vol.3

リノベのススメ
vol.118

posted:2016.7.19  from:徳島県神山町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
4つの都市から週替わりでお届けする、リノベーションの可能性。

writer profile

Kosuke Bando

坂東幸輔

京都市立芸術大学講師/坂東幸輔建築設計事務所主宰。1979年徳島県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部建築学科卒業。2008年ハーバード大学大学院デザインスクール修了。スキーマ建築計画、東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手を経て、2010年坂東幸輔建築設計事務所設立。京都工芸繊維大学非常勤講師。徳島県神山町、牟岐町出羽島など日本全国で「空き家再生まちづくり」の活動を行っている。主宰する建築家ユニットBUSが第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)日本館展示に出展。

『リノベのススメ』執筆陣はこちら。週替わりで担当していただきます!

皆さんいよいよ夏ですね、空き家再生の季節です。
建築家の坂東幸輔です。

vol.1では私と徳島県神山町の出会いについて、
http://colocal.jp/topics/lifestyle/renovation/20160514_72499.html

vol.2は神山町にサテライトオフィスを誕生させるきっかけとなった
空き家改修プロジェクト〈ブルーベアオフィス神山〉と
そこで生まれた人のつながりについて、さらにBUSが出展している
第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展について書きました。
http://colocal.jp/topics/lifestyle/renovation/20160611_74937.html

今回は〈ブルーベアオフィス神山〉以降に
私が関わった神山町でのプロジェクトを一挙に紹介したいと思っています。

まちとつながる、神山町の古民家オフィス

透明度の高い川や美しい山々に囲まれたすばらしい自然環境、
過疎のまちに敷設された高速インターネット網、
そしてアーティストやクリエイターといったおもしろい人が集まる神山町という場所は
ITベンチャーの経営者たちの琴線を刺激しました。
〈ブルーベアオフィス神山〉を改修後、
いろいろなメディアに取り上げられる神山町の噂を聞きつけて、
東京や大阪のITベンチャー企業が
相次いで神山町にサテライトオフィスを構えるようになりました。

建築家ユニットBUSとして6年間で
神山町で改修6軒、新築2軒の計8軒の設計を行いました。
小さなまちでこれだけたくさんの設計をできたことは奇跡のようです。

プロジェクトの分布図。BUSで神山町内にこれまで6つの改修、ふたつの新築を設計しました。

前回紹介した〈ブルーベアオフィス神山〉に加え、
〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉も
NPO法人グリーンバレーと一緒に行ったプロジェクトです。

2013年1月に誕生したのが
元縫製工場を改修したコワーキングスペース
〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉です。
プログラマーや3Dモデラー、ウェブデザイナーといった
個人でクリエイティブな仕事をしている人たちが
集まって仕事ができるオフィスというものを設計しました。

改修前の写真。縫製工場時代に使われていた大空間、蛍光灯がたくさんぶら下がっている。

ほとんどいじっていない縫製工場の頃のままの外観。

コワーキングスペース。プログラマーや3Dモデラー、ウェブデザイナーらが常駐している。

オフィス内の家具は神山町で不要になった古いタンスなどを集めてきて
デスクや椅子に再生するワークショップを行い制作しました。
会議室の大きなテーブルは、縫製工場時代に生地を置くために使われていた
大きな棚を解体し制作しました。
アルミ製の大きな引戸は、もともと設置していたものをそのまま利用しました。

〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉では
積極的にもともとあるものをリユースすることで
地域の人にとっても利用する人にとっても愛着が持てる、
長く使い続けられるデザインにしました。

家具づくりワークショップの様子。古いタンスからテーブルやキャビネットをつくっている。

〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉は
延床面積の約620平方メートルすべてを改修できるほど予算が潤沢ではなかったため、
一部のみを改修し、残りを「成長するオフィス」として手をつけないでおきました。
今ではレーザーカッターや3Dプリンタを設置した
デジタルファブリケーション施設〈神山メイカーズスペース〉(KMS)が
地域の住民の手によって生まれたり、
消費者庁の徳島県移転を検討するための業務試験が行われたりと、
設計者も驚く成長ぶりを見せてくれています。

2016年3月の消費者庁業務試験の際にオフィスとして使われた部屋。会議室やフリースペースとして活用されている。中央の大きなテーブルは、縫製工場時代に生地を置くために使われていた大きな棚を再生して制作した。(写真:樋泉聡子)

〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉内に新たに生まれた神山メイカーズスペース(KMS)。レーザーカッターや3Dプリンタが設置されている。

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瓦屋根の古民家が、最新オフィスに変貌

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耐震補強と、地域にオープンな古民家オフィス

2013年7月に完成した〈えんがわオフィス〉は
恵比寿に本社を構える映像関連の会社〈株式会社プラットイーズ〉から依頼されました。

改修前の〈えんがわオフィス〉母屋棟。左端に映っているコンクリートの水廻りは撤去した。

〈えんがわオフィス〉は築90年の空き家を再生した
プラットイーズのサテライトオフィスです。
母屋と蔵のふたつの建物を改修しました。

神山町ではこれまでふたつのプロジェクトを行ってきましたが、
いずれも規模は小さいほぼ手づくりのようなプロジェクトでした。

〈えんがわオフィス〉のプロジェクトで第一に求められたのは、耐震性です。
プラットイーズはCMの順番を決めるなど、
リアルタイムでテレビ放送に直接関わる業務もあります。
地震などの影響で会社が停電になって、放送に支障をきたすことのないよう、
東京本社のバックアップセンターとして神山町にサテライトオフィスを構えました。
そのため、デザインを重視しつつも
同時に地震にしっかり耐えられる建物にするということでした。
建築基準法制定以前に建てられた、柱も石の上に乗っているような建物を
どうやって地震に耐えられる建物に改修するのか、
BUSのメンバーや構造家、工務店と頭を抱えました。

しかし、神山には「やったらええんちゃうん」という、
悩む前にとにかくやりましょうというすばらしい空気感があるため、
あきらめず設計に取り組むことができました。
悩む暇がないくらい、
スケジュールがタイトなプロジェクトだったということもありますが(笑)。

プラットイーズのコンセプトである
「オープン&シームレス」を建物で実現してほしいという要望から、
母屋の内部をオープンにするように外壁をガラス張りにし、
地域とシームレスにつながれるように建物の四周に縁側を取りつけました。

民家は耐力壁という地震や風の力から耐える壁を外壁に設けるのが一般的ですが、
〈えんがわオフィス〉母屋棟では耐力壁を内側に配置し直すことで、
外壁をガラス張りにすることができました。伝統構法の建物を現在の在来工法の考えで補強し、
基礎はしっかりコンクリートでつくっています。

改修後の〈えんがわオフィス〉母屋棟。外壁をガラス張りにし、縁側を四周に設けることで「オープン&シームレス」というコンセプトを実現した。

〈えんがわオフィス〉の縁側は地域の人が野菜のお裾分けを置いていってくれたり、バーベキューをしたり、阿波おどりを見るためのステージになったりと、地域とのコミュニケーションに貢献している。

地域が見つめ直した古民家の価値

これまで神山町に来るITベンチャー企業は
古民家の中に籠って仕事をしていたため、
地域の人にとっては中で何をやっているかわからなかったそうです。
〈えんがわオフィス〉の母屋棟では夜になると、
オフィスで働いている様子がガラス越しに見えるようになっています。
都会から来た若者たちが夜遅くまで働く様子が目に見えることで、
少しずつ地域の人たちの心を動かしました。

神山町には空き家はたくさんあったものの、
使える空き家が少なく、空き家不足の状態になっていました。
〈えんがわオフィス〉が完成してからは、
神山の変化に刺激を受けた神山町の若手職員のがんばりもあり、
600軒もの使える空き家が発見されたそうです。
これまで地域の人たちは空き家を改修すると再び使うことができるという、
空き家そのものの価値に気がついていなかったのだと思います。
〈えんがわオフィス〉が地域の人たちの考え方を変えるきっかけになりました。

〈えんがわオフィス〉母屋棟の夕景。外壁のガラス越しに都会から来た若者たちが夜遅くまで働く様子が見える。

続いて、〈えんがわオフィス〉蔵棟はプラットイーズが購入する前に
隣地で火事が起こってしまったため、
延焼防止のために消火にあたった消防士によって
西側の外壁がボロボロに壊されてしまいました。

改修前の蔵。火事の延焼防止のため外壁が一面壊されてしまっている。

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ボロボロの藏もここまで変貌する

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普通なら解体して新築の建物をつくるところかもしれませんが、
ピンチはチャンス、もともと採光の少ない蔵に大きな開口部ができるじゃないか、
ということで迷わず改修しました。

〈えんがわオフィス〉蔵棟は壊れてしまった壁を修理せず
ガラスのカーテンウォールを取り付けることで
明るく眺めのいいオフィスとなるように設計しました。
もともと蔵は石垣の端に立っており、カーテンウォールを取り付けたことで
西側の外観は大変美しい佇まいになりました。

蔵棟の夕景。壊された外壁部分にガラスのカーテンウォールを取り付けた。

ガラス越しに風景が見える、眺めのいいオフィスができた。

現在、〈えんがわオフィス〉は、母屋棟、蔵棟に加え、新築したアーカイブ棟があり、
それらに囲まれた場所には広場が生まれ地域の人の憩いの場になったり、
たこ焼き屋が店を出したり、地域の阿波おどりのお祭りの会場になったりと、
プライベートな企業の敷地でありながら
不思議な公共性を持った広場に成長していきました。

〈えんがわオフィス〉アーカイブ棟外観。〈えんがわオフィス〉改修工事の終了後、地域の映像をハードディスクに保管してアーカイブ化する業務を行うオフィスと試写室、ハードディスクの収蔵庫、さらにサーバー室の機能を兼ね備えた〈えんがわオフィス〉のアーカイブ棟新築の設計を行った。ボリュームを6つに分割し、それぞれのボリュームの間に外気の隙間を設けることで、空調負荷を抑え自然換気がしやすい建物となっている。

このほか、vol.2で登場した、BUSの須磨一清さんが個人で設計した
〈Sansan株式会社〉の牛小屋を改修したオフィス〈KOYA〉も見応えがあります。

牛小屋を改修したオフィス〈KOYA〉はSansan株式会社のサテライトオフィスのひとつ。(写真:SUMA HPより)

今回、紹介したサテライトオフィスは視察をすることが可能です(有料)。
視察希望の方はNPO法人グリーンバレーに連絡してください。
http://www.in-kamiyama.jp/shisatsu/

そうこうするうちに、年間2000人を超える視察者が訪れるようになった神山町。
そこで、宿泊施設をつくろうということになり、
2015年7月1日に〈WEEK神山〉というゲストハウスができました。
新築のゲストハウス棟をBUSが設計しています。
一般の方も宿泊できるので、ご希望の方は〈WEEK神山〉に直接ご連絡ください。
http://www.week-kamiyama.jp

〈WEEK神山〉外観。

〈WEEK神山〉ツインの宿泊室。開口部から鮎喰川や神山の山々が見えます。

実は、神山町の空き家再生が、
大きく発展するきっかけとなった〈えんがわオフィス〉には、
誕生秘話がありました。

夢のはじまり

神山町には1929年に生まれた劇場〈寄井座〉があります。
大衆演劇をするための劇場でしたが、時代の変化とともに映画館に転用されます。
しばらくして映画館も閉鎖、1960年頃に縫製工場として使われるようになります。
縫製工場閉鎖後、2007年にNPO法人グリーンバレーの手によって再生され、
アーティスト・イン・レジデンスの会場などに利用されるようになりました。

天井広告が立派な劇場〈寄井座〉。

この地域の火災の災害復興の一環として〈寄井座〉が建てられたそうですが、
建設費の一部を出資した企業の看板が天井広告となっており、
建物の一番の見どころとなっています。まちづくりの活動拠点としても、
文化財としても貴重な建物なのですが、躯体や壁、屋根の老朽化が激しく、
一日も早い再生が必要となっています。

そこで、私たちは2011年に〈寄井座〉のある寄井商店街全体の再生を考える
ワークショップを行いました。
日本全国から集まった学生たちと寄井座の実測調査や寄井座の活用案の提案を行いました。

学生の案の中でおもしろかったものは、
普段は商店街に住んで大工や美容院などの仕事をしている人たちが、
劇が行われるときには劇団員に返信し、大道具やメイクさんになるという、
商店街ぐるみで劇場を運営する「劇場商店街」という提案です。

劇場〈寄井座〉の実測調査の様子。

後に東京で神山での活動をレクチャーした際に
「劇場商店街」についても話しましたが、
実はその講演会をプラットイーズの会長・隅田徹さんが聞いていてくださいました。
後日、一緒に「劇場商店街」を実現させましょうと
〈えんがわオフィス〉の改修の設計を私たちに頼んでくださいました。
学生の作成したパースの中に大工・大道具の家となっているのが、
今の〈えんがわオフィス〉の母屋棟だったのです。

ワークショップでの学生の商店街ぐるみで劇場を運営する提案「劇場商店街」。大工・大道具の家が後の〈えんがわオフィス〉母屋棟です。

〈寄井座〉を何とかしたいという「夢」を
「劇場商店街」という目に見えるかたちで提案したことで、「夢」の一部が実現しました。
神山町はみんなのやりたいこと、「夢」が実現できる場所なのです。
神山町が若者、ITベンチャー企業やクリエイターを惹きつける理由のひとつは、
都会ではあきらめてしまうような「夢」も、
神山町でなら叶えられるという雰囲気がまち全体にあるからだと思います。

次のページ
なぜ、地方創世のロールモデルに?

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地方創生時代の今、神山町は地方創生のロールモデルとして取り扱われていますが、
神山町から学ぼうとする自治体の多くは、
アーティスト・イン・レジデンス事業やサテライトオフィス事業など、
目に見えてわかりやすい事業をそのまま彼らの地域に持ち込もうとします。
「若者を呼び込むためにはサテライトオフィスがあればいい」という発想は、
箱モノ建築をつくっていた時代と何ら変わらないでしょう。

神山町に変化が起きたのは、
サテライトオフィス事業のような先進的な取り組みも大きいですが、
それ以上にNPO法人グリーンバレーの方たちが
20年以上かけて少しずつ育んできた地域への信頼と、
その信頼感のおかげで生まれた彼らの活動を
受け入れる地域の人々の態度がとても大きいと思います。
神山の地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちは変わることを恐れず、
若者たちの生み出す神山の変化を歓迎するようになりました。
その態度が地域を盛り上げるクリエイターやITベンチャー企業を呼び込みました。

いくつもの地域でまちづくりに関わるうえでわかってきたことがあります。
まちづくりで最も大切なのは「何をやるか、ではなく誰がやるか」です。
おもしろいアイデアを考えたり、
ほかの自治体の成功例をコピーしたりするだけでは何も生まれません。
アイデアは凡庸でもそれを実行する人がおもしろければ地域は盛り上がります。
あなたがいいと思ったことを失敗を恐れず、すぐに始めてみてください。

次回は神山を飛び出して行っている、徳島県の南部にある、
人口70人の島・出羽島での空き家再生まちづくりについてお話します。

人口70人の島、出羽島。

お楽しみに〜。

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