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連載

古民家活用でわかったこと。
リノベの未来、この国の未来。
一般社団法人ノオト vol.12

リノベのススメ
vol.114

posted:2016.6.16  from:兵庫県篠山市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
4つの都市から週替わりでお届けする、リノベーションの可能性。

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NOTE
一般社団法人 ノオト

篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。

http://plus-note.jp

「リノベのススメ」執筆陣はこちら。週替わりで担当していただきます!

皆さん、こんにちは。ノオト代表の金野(きんの)です。

ついにこの連載も第12回、最終回となりましたので、
古民家リノベの意義と日本社会に果たす役割について整理しておきたいと思います。
いま、なぜ、リノベのススメなのか?

失われゆく歴史的建築物

まず、文化財建造物とその活用について。
文化財建造物には、文化財保護法で指定された国宝や重要文化財、
都道府県や市町村の条例で指定された指定文化財などがあります。
文化財建造物には神社仏閣が多いのですが、
ここでは民家や庄屋など市井の建築物の話をします。
「◎◎家住宅」とか呼ばれるものです。

〈古民家の宿 大屋大杉〉のメイン棟となっている正垣家。養蚕農家として建てられた築約130年の古民家(→http://ooyaoosugi.jp)。

文化財建造物は国民の財産ですから、その改修には、基本的に公費が投入されます。

そして、「文化財を活用」するというとき、
それは「復元保存した文化財建造物を活用」することを想定していて、
一般に、施設の「公開」や「イベント利用」などに限定されています。
※これを「保存⇒活用」と表現しておきましょう。

文化財指定の考え方。

文化財建造物は「類型の典型を指定する」ことになっています。

ある地域の、ある時代の、例えば農家という「類型」を設定すると、
該当する建物が多数あって、そのなかから、
類型を代表する「典型」的な建物が文化財として指定されるのです。
その物件を民族学的な標本として保存します。

現在の日本社会の価値観は、
・古き良きものを代表する物件を「標本」として「保存⇒活用」する。
・代表になれなかったその他の物件は捨ててもよろしい。

というものです。
この国の制度(文化財保護法や建築基準法)がそのようになっています。

これに対して、
私たちは、歴史的建築物(文化財指定の有無を問わない広義の文化財建造物)を、
宿泊施設やレストラン、カフェ、工房、オフィス、住宅などとして
「活用することで保存する」活動を行っています。
※こちらは「活用・保存」と表現しておきます。

地域再生のために古民家を活用するプレイヤーの立場から言えば、
文化財建造物もその他の歴史的建築物も区別はありません。
これらを一体的に捉えており、どちらも同じように大切です。
文化財建造物が「活用・保存」されることがあってもよいし、
グレード(文化財的価値)が低い歴史的建築物であっても、
それに見合った「活用・保存」の方法が見つかるものです。
地域やまち並みに分布するその多様な建築物群の総体が重要です。

これからの歴史的建築物の考え方。

ちなみに、この「保存⇒活用」と「活用・保存」の境界をわかりにくくしているのが、
「伝統的建造物群保存地区」の特定物件と「登録有形文化財」の存在です。

どちらも文化財建造物でありながら、
内部改装は自由にできるので「活用・保存」タイプとすることが可能なのです。
古民家リノベを志す人は、このあたりの事情を理解しておくとよいでしょう。

古民家リノベの意義

何れにしても、一個の有機体である地域やまち並みから
文化財建造物だけを取り出して取り扱うことの限界というものがあります。
当たり前のことですが、
文化財はその周辺の環境や社会とともに成立しているのですから。

これはたとえ話ではなく、地方の現実の姿なのですが、
一部の社寺や住宅を文化財として立派に保存しながら、
そのまちや村が衰退して生活の息吹が失われるのであれば、
文化財の維持も適わなくなるし、そもそも文化財指定の意味がないでしょう。

私たちは、地域再生やまち並み再生には、
文化財指定されていない歴史的建築物の活用が大切だと考えています。

「保存⇒活用」ではなく「活用・保存」とすることで、
地域に移住者や事業者を呼び込み、新しい生業や雇用を生み出すことができます。
しかも「類型の典型」として指定される文化財建造物の背後には、
その数百倍の歴史的建築物があって、その多くが空き家となっているのです。
改修費も文化財建造物の保存工事に比べると驚くほど安価です。

私たちには失くしたくないものがある。

建て直したほうが安い?

実際に古民家再生の費用は新築工事より相当に安価です。
しかし、修復の技術を持ち合わせていない設計士や工務店は、
施主に「建て直したほうが安い」と言って、解体工事、新築工事に誘導します。
そのほうが工期も読みやすいし、実際には「建て直したほうが高い」ので稼げます。

結局、施主は諦めて、古い家を壊し、新しい家を建てることになります。

「建て直したほうが安い」という言説が意味するもっと重要な点は、
職人たちによって伝統工法で建てられ、長い時間を湛えてきた空間と、
大量生産の工業製品を、「お金で比較できる」としている考え方、価値観にあります。

この時空は、壊してしまえば二度と取り戻せない、
と、設計士も工務店も、そして施主も考えないのです。

何もかもをお金で測るようになって、
現代を生きる私たちは、すっかり視程が浅くなってしまいました。

誰もが、今日の生活のことを、今月の売り上げのことを考えて生きています。
人生設計くらいはあるでしょうが、自分の人生の時間スケールを超えることはありません。
自分が住む家は自分の世代が住むのであって、その先の世代を考えることはありません。
自分の子どもや孫のために裏山に木を植えようと考える人はもういません。
子どもたちには別の人生があり、家を住み継ぐという考えはありません。
私たちは現世的な生を生きていると言ってよいでしょう。

豊かさとは何か

いわゆる「限界集落」は、いっそ廃村にして、
残った住民をまちなかに移住させたほうが経済合理的であるとの主張があります。
このことは学問の世界ではずいぶん前から論じられてきましたし、
現在は国の政策となりつつあります。
脳(都市)にばかり血液を送っていたら、指先(僻地)が壊死を始めたので、
どの指から切り落とせばいいだろうと考えているわけです。
私には、それが健康な国土だとは思えません。

野生生物について、絶滅危惧種や貴重種を守り育てることの必要性と重要性は、
この国の社会にも認知されているように思います。
このことは経済原理を超えていて、
現世的になることも、お金で価値判断することもありません。

それでは、その土地の気候風土に適った建築様式はどうでしょう。
そして、その土地の人々の暮らし、工芸や祭。
長い年月をかけて創意工夫を重ねた建築様式や暮らしの技術を、
安易に捨て去ってよいものでしょうか。

今も続く伝統的なムラのまつり(篠山市福住)。

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古民家リノベが国の方針に?

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私たちは、谷奥の集落と関わって、そこにある豊かさを日々体感しています。
それは、戦後の日本社会が捨て去ってきた豊かさ、
都市的な思考が葬り去ろうとしている豊かさです。

私たちはそのことに気がついたので、集落の人たちとともに、
その豊かさを表現し、それを体験する場をつくったのでした。
動植物のひとつの種が絶滅して、生物多様性を損なうのと同じように、
ひとつの集落を失うことは、この国の文化多様性を損なうことだと気づいたのでした。

使い続けることの意義

どうして古民家などのリノベーションにコダワルのか。
スクラップ&ビルドでいいではないか。
その問いに論理的に答えるのは簡単ではありません。
リノベ物件もやがては朽ちるときがくるでしょう。
そのときに、そのDNAを地域やまち並みに残せるでしょうか。
その答えもまだ用意できていません。

けれども、私たちはこれまでの古民家再生の活動のなかで、
まずは、安価にクオリティの高い空間がつくれること、
いわゆる「特定空き家」のような物件でも再生可能なことを実証してきました。

そして、古民家は、
クリエイティブな人材(私たちは「変態」と呼んでいます)を呼び込むこと、
地産地消のオーガニックレストランと相性がよいこと、
工芸作家や現代アート作家と相性がよいこと、
IT技術者やデザイナーと相性がよいこと、を実感しています。
地域に根ざした空間は、地域にインパクトを与える人材や店舗が似合うようです。

古民家を再生したオーガニックレストラン、篠山城下町〈晩めし屋よかちょろ〉。

食文化や生活文化を容れる「器」として、
時間軸を湛えた建築が適しているということなのでしょう。
ヨーロッパの諸国は戦後の早い時期にそのことに気がついて、古きモノを大切にしてきました。
歴史地区(旧市街)を残しながら新市街をつくりました。

イタリア・ミラノの旧市街地。

私たちの社会は、そのことに気づかずに、新しいモノを奨励しました。
そして、ハコモノ行政に失敗して、ソフト重視に政策シフトしました。
けれども本当は、ハコモノはとても重要なのです。
これまで、日本社会は、ハコモノの選択を誤ってきただけなのです。
地域の文化の中心であった大庄屋の主屋、副屋、土蔵、茶室などを壊して、
意味不明の意匠の文化センターや図書館を新しくつくってきたのでした。

遅きに失したわけですが、今から始めたらよいでしょう。

この国の未来

〈古民家の宿 大屋大杉〉を支える地元の若手メンバー。食のワークショップに訪れたアルケッチァーノ奥田政行シェフと。

人口減少の時代、成熟の時代になって、
文化こそがまちづくりの、新しい産業創出の基盤なのですから、
文化財建造物は「標本」として保存するけれども、
その他の歴史的建築物は捨ててもよろしいというこの国の常識、
古い建物はさっさと壊して新しい建物を建てるのが社会の発展だという価値観を、
早急に変えなければなりません。
そして実は、デービット・アトキンソン氏が指摘するように、
文化財建造物の保存そのものも予算の制約があって危機的な状況にあります。

私たちには失いたくない風景がある。

この国は、ヨーロッパに歴史地区に憧れ、訪れるけれど、
自分たちの足もとにある歴史地区はテキパキと壊していく奇妙な国です。
これから日本各地に修復産業が根づき、歴史地区が形成されて、
そこでは、その土地の職人たちが活躍している、
そこでは、地場の食文化が育まれ、日々の豊かな暮らしが営まれている、
ヨーロッパからの旅人が、その豊かさに触れて楽しんでいる、
そんな国になるでしょうか。

私たちは、今、その大切な分岐点に立っているように思います。

余話(これからのこと)

最後に、ノオトのこれからについて記述してはどうかと、
編集部からリクエストをいただきましたので、追記します。

出稿に手間取って、編集部にご迷惑をかけていたのですが、
その間に、私たちにとってもいいニュースがありました。
6月2日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」のなかに、
これまでの私たちの活動が盛り込まれたのです。

国家戦略特区の推進

・古民家などの歴史的建築物の活用を進める養父市や篠山市の取組など、
地方創生に資する先進的事例を他の地域を含めた全国に周知し、
大胆な規制改革による地方創生を推進する。
・既に特区に指定された地域において、未活用メニューの活用を促すとともに、
地方創生に寄与する一次産業や観光分野等、残された規制改革を推進する。
(「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」20ページより抜粋)

古民家リノベのようなマイナーな領域が、政府の方針となるというのは、
私たちにとっても思いがけない出来事です。
確かに潮目は変わり、この国の価値観は変わろうとしています。
時代の新しい豊かさが求められていて、その未来の芽は、過去の遺物から芽吹くようです。

若者がそのことに気づいて動き始めました。
それを瑣末なこととする論調もありますが、
若者の地方回帰は既にトレンドとなりつつあります。
コロカルの特集を見てもわかるように、
全国で同時多発的に、古民家リノベによるまちづくりが始まっています。
私たちのところにも、毎日のように、全国から、
再生案件やまちづくり案件が持ち込まれるようになっています。

今後の機動的な事業展開と資金需要に対応するために、
藤原が代表取締役となって、株式会社NOTEを設立しました。
一般社団法人ノオトは、調査研究業務を柱に据え、公益認定を目指します。

集落や小学校区といったコミュニティ圏域を対象として、
そのミクロでローカルな文化資源の価値を発見し、表現する。
そこに、若者が回帰し、ミクロでローカルな産業が起きる。
そのようなクリエイティブな点が集積して圏域が形成される。
そのようなクリエイティブな圏域が日本の各地に形成される。
そのネットワークのうえを人や物が行き交う。
そのネットワークはそのまま世界のクリエイティブな人たちとつながっている。
どこまでもミクロでローカルであることが重要です。
私たちは、このようにして、国土を編みあげていきたいと夢想しています。

12回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ここに書いてきたことは、
私たちがひとつひとつ現場に向き合うことで得た知見です。
それではまた、どこかの現場でお会いしましょう。

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