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江戸時代の商家建築に生まれた
まちのサンドイッチ屋さん。
仏生山まちぐるみ旅館 vol.2

リノベのススメ
vol.092

posted:2015.11.21   from:香川県高松市仏生山町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

SHOHEI OKA

岡 昇平

1973年香川県高松市生まれ。徳島大学工学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科修了。みかんぐみを経て高松に戻る。設計事務所岡昇平代表、仏生山温泉番台。まち全体を旅館に見立てる「仏生山まちぐるみ旅館」を10年がかりで進めつつ、「仏生山まちいち」「ことでんおんせん」「50m書店」「おんせんマーケット」などをみんなで始める。

仏生山まちぐるみ旅館 vol.2 
大好きなパンづくりから生まれた店

ぼくは、香川県高松市の仏生山町というところで暮らしています。
建築設計事務所と、仏生山温泉を運営しながら、
まち全体を旅館に見立てる、
〈仏生山まちぐるみ旅館〉という取り組みを進めています。
まちぐるみ旅館にとって、仏生山温泉から徒歩数分のところに、
おいしいお店がオープンするのはとてもうれしい。
2014年、〈天満屋呉服店〉の隣にオープンした〈仏生山天満屋サンド〉もそのひとつです。

〈天満屋呉服店〉は江戸時代からある老舗です。
建物も江戸時代後期に建てられ、
その後増改築を繰り返しながら現在にいたっています。
法然寺を中心とした門前町である仏生山のなかでは、
代表的な商家建築です。南北に間口の長い木造2階建、
虫籠窓(むしこまど)や、南西の隅には鏝絵が施された“うだち”があり、
これまでの歴史を伝えるような趣ある店構えです。

リノベーションする前の天満屋呉服店外観。

リノベーションを行うまでは、
半分は呉服店として、
もう半分はご主人である佐藤誠治さん夫婦が洋服店を運営していました。

リノベーション前の洋服店だったときの内観。

今回のリノベーションはご両親が経営する呉服店はそのままにして、
佐藤さん夫婦の洋服店を
サンドイッチを提供するカフェにすることでした。

佐藤さんの奥さん、美香さんは、
おいしいものを食べるのが大好き。
とくにパンが好きで、洋服店を経営するかたわら、
ときどき自分自身でパンを焼いては近所にお裾分けをしていました。

そのうち、友人たちを通じて、パンがおいしいと評判になり、
友人を招いたパンの食事会や、注文を受けてつくったりしていました。
そういうことが数年続いたのち、
ある日、「えいっ」
と業態変更したのが、〈仏生山天満屋サンド〉の始まりです。

客人、暮らし、新旧の建物が寄り添うカフェ空間とは

リノベーションの計画を進めるにあたって、
最も大切にしたのは、
100年以上の時間を経た天満屋呉服店の既存の建物に
新しくつくられる空間がしっかり寄り添いながら、
これからの何十年かの時間を
共にしていける存在になれるかということでした。

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歴史的な建築物のリノベーションとは?

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一般的なこととして、
刺激の強さと飽きやすさ(時間軸)には、相関関係があります。
刺激というのは、外部から人に向けられた感覚的な作用のことで
楽しい気分になることもあるけれど、ずっとその状態ではいられないものです。
刺激が強ければ飽きやすく時間軸は短い。
刺激が弱ければ飽きにくく時間軸は長い。

空間も同じで、
例えば、商業施設などは購買意欲を高めるために、刺激を強くしています。
同時に飽きやすいために、リニューアルを繰り返します。

逆にいうと、
刺激の弱い空間は、長い時間軸で居心地のいい状態をつくれるということです。

人も同じで、
長年連れ添った夫婦はお互いを空気のような存在と言ったりしますね。

仏生山天満屋サンドは、
既存の建物、新しく整備するするカフェ部分、
店を運営する佐藤さんご夫婦、来てくれるお客さん、
この四者がお互いに空気のような存在になり、
長い時間軸での関係が築ける、ということを主題にしています。

解体が終わった直後の様子。

その主題のもと、
何を除き、何を残し、何を新しくするのかということだったり、
機能や広さや構造やコストのことだったり、
たくさんある要素を、一旦ばらばらにしてから、
そのひとつひとつを
全部重ね合わせていくということをしています。
もちろん何十通りもの重ね合わせ方があります。
すてきなリノベーションとは、
その重ね合わせ方が最も魅力的な状態になることだと思っています。

具体的には、
天井を除き部屋の高さを確保することにしました。
それによって、もともとあった大きな梁も見えるようになりました。
いくつかの梁や柱は昭和の改修時に鉄製に置き換えられています。
それらはそのまま残すようにしていて、
建物の履歴がなんとなくわかるのもいいかなと思っています。
壁は主張しないようすべて白にしています。

厨房の土間コンクリートを打っているところ。

新しく設ける必要のあった間仕切り壁は、
地震時に建物全体の動きを合わせるために、あえて土壁でつくっています。
床は既存のプラスチックタイルをすべて剥がし、
昭和の改修時に設置されたであろうコンクリートをそのまま現して仕上げとしました。
以前は壁だったところに、ひとつだけ、大きな窓をあけました。
もともとあったすてきな中庭が見られるようになり、
明るさと視線の抜けを確保できました。
外観は登録有形文化財ということもあって、そのままにしています。

新設する壁は、地震時に建物全体の動きを合わせるため土壁に。

おおまかに、内装が見え始めた状態。

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ついに、サンドイッチ屋が完成!

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2014年の春にオープンし、
いまでは毎日、大勢のお客さんで賑わっています。

毎日にぎわう店内。みんな楽しそう。

新設した窓から見える中庭。

何より、サンドイッチがほんとうにおいしい。
佐藤さん夫婦は、洋服店からすぐにカフェを始めたため
飲食業の経験がまったくないままなのです。
それがよかった。
飲食業の変な合理化や変な味つけがなく、
もともと誠実なお人柄だから、どこまでも丁寧で、
自分の子どもに食べさせるようなものをお客さんに出しています。
だから、すごくおいしいし、それ以前にとてもやさしい味がするのです。

一番人気のAサンド。バンズやはさむ具材が1か月おきに変わる。

佐藤誠治さん美香さん夫婦。

お店は誰かの役に立ち、まちの彩りになる

仏生山まちぐるみ旅館は
ここで暮らす自分たちが行きたいお店が増えて、
この場所でにやにやしながら暮らすための取り組みですから
仏生山天満屋サンドのようなお店をとても大切にしていています。

そして、お店をしているみんなが仲良しで
お互いの店をお客さんに
気持ちよく紹介し合える関係ができればいいなと思っています。

ひと昔前なら、夕食をつくるために、
八百屋さんに行って、肉屋さん、豆腐屋さんと、まちを巡っていました。
そうすると肉屋のおばちゃんが、
「今日の豆腐はおいしいよ」って、
隣の店を紹介し合うような自然な関係がありました。
夕食をつくることと、まちぐるみ旅館は、
自立、役割分担、相互補完、巡るというところは一緒だから、
その状況に置き換えることができるかもしれないと思っています。

いま仏生山に少しずつお店が増えていっているなかで、
お互いの店を気持ちよく紹介し合える関係が生まれつつあり、
なんとなくいい感じに進んでいます。

子どもから、おばあちゃんまで、みんなおいしい。家具はすべてオリジナル。設計制作:こんぶ製作所

information


map

仏生山天満屋サンド

住所:香川県高松市仏生山町甲542

TEL:087-889-1630

営業時間:11:00〜18:00

定休日:水曜、第二火曜

https://www.facebook.com/tenmayasando/

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