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投資ファンドで実現する
古民家再生の未来(その2)。
一般社団法人ノオト vol.6

リノベのススメ
vol.090

posted:2015.11.2   from:兵庫県篠山市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

NOTE
一般社団法人 ノオト

篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。

http://plus-note.jp

一般社団法人ノオト vol.6

みなさん、こんにちは。一般社団法人ノオト理事 兼
株式会社NOTEリノベーション&デザイン代表取締役の藤原(ふじわら)です。
株式会社NOTEリノベーション&デザインは一般社団法人ノオトと
REVIC(株式会社 地域経済活性化支援機構)が出資するファンドのための
SPC(Special Purpose Company)です。

今回は、vol.5につづき、投資ファンドと古民家再生についてお話したいと思います。

日本初!〈篠山城下町ホテル NIPPONIA〉の取り組み

2015年10月3日にオープンしたばかりの篠山城下町ホテル NIPPONIA(ニッポニア)は
投資ファンドを使った古民家再生事業であると同時に
国家戦略特区を活用した日本初の取り組みです。
まずは、事業概要を簡単にご説明したいと思います。

NIPPONIAの4つのホテルのうちのひとつ、ホテルONAE(オナエ)棟の受付ロビー。

NIPPONIAの事業コンセプト
「我々が再生したのは宿やホテルではない。
日本の暮らし文化を体験するように泊まれる空間である。
400年の歴史に、とけこむように泊まる」
約400年の歴史を持つ篠山城は、兵庫県篠山市の中心に位置する城跡で、
国の史跡に指定されています。
篠山城下町ホテルNIPPONIAは、
この篠山城を含む城下町全体を「ひとつのホテル」に見立てるという構想です。
城下町に点在している空き家となった古民家を、
歴史性を尊重しながら客室・飲食店・店舗として再生し、
篠山の文化や歴史を実感できる宿泊施設としてオープンしました。
時間を重ねた歴史ある客室、
丹波篠山をはじめとした、地域の豊かな食材をふんだんに使った創作フレンチ、
既存の歴史施設・飲食店・店舗などと連携した歴史的城下町のまち歩きアクティビティなど、
「歴史あるまちに、とけこむように泊まる」をコンセプトとした、
地域の暮らし文化を体験する、新しいスタイルの宿泊施設です。

ONAE棟:蔵をリノベーションした客室。

事業体制について

この事業は各分野のエキスパートが参画しています。
全体プロデュースに関してはプロデューサー、デザイナー、
クリエイター、プロモーションを担当するプロフェッショナルや個人や団体。
マネジメントでは、セールス、アセットマネジメント、
オペレーションマネジメントを担う専門企業や団体。
ファイナンスでは、ファンド・キャピタル会社、銀行。
建築においても、もちろんヘリテージマネージャーを取得した一級建築士をはじめ、
大工さん、左官屋さん……。行政では地方自治体や中央官庁。

こういったあらゆるプロが集結し、実現することができました。
しかし、これらの体制は急に立ち上がったのではありません。

このプロジェクトに先駆けて2年前からベースとなる準備組織をつくってきました。
地域資産活用協議会(OPERA)」といいます。
我々は7年間で30棟以上の古民家を再生してきた実績によりノウハウだけでなく、
各分野のプロフェッショナルとつながりをもつことができました。

投資会社〈観光活性化マザーファンド〉とは

NIPPONIAは国家戦略特区を活用した古民家を活用した宿(ホテル)として
日本初の取り組みとなります。
本プロジェクトは、国家戦略特区(関西圏)の特区事業に認定されていて、
旅館業法の玄関帳場(フロント)設置義務についての規制緩和などを受けています。
これにより、複数の分散した古民家の宿泊施設を、
一体化して運営管理することが可能になっています。

今回の古民家再生におけるファンドの仕組みは図1のようになります。
一般社団法人ノオトとマザーファンドが、
共同出資の会社(株式会社NOTEリノベーション&デザイン)を設立し、
その会社を通じて物件を買い取って、改修を行います。
改修した物件を事業者に貸し出すことで、全体の収益構造をつくっています。
(なぜ、ファンドと連携することになったかは、vol.5にて)

図1:ファンド方式

今回、投資決定いただいたのは〈観光活性化マザーファンド〉といいます。
地域の観光活性化を目的として株式会社地域経済活性化支援機構、
株式会社日本政策投資銀行、株式会社リサ・パートナーズの3社で組成された、
マザーファンドです。

〈観光活性化マザーファンド〉の概要。

※株式会社地域経済活性化支援機構についてはこちらより。

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NIPPONIAは、単なるリゾート開発ではない

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ファンドを利用するにはしっかりとした事業モデルと事業計画が求められます。
すべてをここでご説明することはできませんが、
我々がファンドに対して事業PRした部分を一部、ご紹介したいと思います。

①古民家再生ノウハウ

・建築分野:設計~工事に関する職人ノウハウ
・企画分野:地域によって異なる事情にあわせた再生手法の提示

②テナントリーシング(事業者誘致)

・その地域の特徴にあった事業者マッチングと誘致活動
・事業者メリットの確保と収益安定化支援する

③プロモーション(デザイン、情報戦略)

・その地域の特徴に光を当てるプロモーションを展開
・各メディアと連携した広報展開活動
・ITを利用した情報戦略

④マネジメント

・営業収益の最大化を図るためのノウハウ
・古民家に宿る歴史が積み重ねた暮らし文化などの資源を含めた不動産資産の管理と運営

つまり「デベロッパー (開発業者)」に近い機能を持っていることが重要です。
地方の古民家でこれだけの手間をかけると採算を取るのはかなり難しいといわれています。
諦めず30棟以上もやっているうちにノウハウとなり、実現することができました。

また、我々の構想において評価いただいた点として
「単なるリゾート開発ではない」という思いがあります。
それは「城下町ホテル構想」です。

東京オリンピックに向けた新たなリゾートやホテル開発が進んでいますが、
オリンピックが終わると、それらの施設はどうなるのでしょうか?
日本国内には高度経済成長時代に開発された、
鉄筋コンクリートの観光地やリゾート地がありますが、
現在では寂れてしまっている所も少なくありません。

これらに対して「城下町ホテル構想」と
「一般的なホテル・リゾート開発事業」との違いを以下のようにとらえています。

“城下町全体をひとつのホテルに見立てた構想になっているということ”

①客室やレストランやショッピング施設が城下町周辺に点在している。
②まちの既存商店主との連携を視野に入れている。

一般的な民間企業の場合「●●リゾートホテル」といった事業展開においては、
集客したお客様をできる限りホテル内または自社の関連施設に滞在させ、
購買行動を自分の商業施設内で完結させることで利益向上させます。
これらに対し、城下町ホテル構想は、
(ホテル事業者)⇔(お客さま)⇔(従来の地域内の商店事業者)
三者が一体となり、お客さまがまちにとけこむように滞在させることで
まち全体の利益向上を目的としています。

NIPPONIA全体図。

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地元金融機関と連携した古民家再生

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金融機関との連携における古民家再生の未来

今回のファンドで特徴的なのが、地元・但馬銀行との連携による融資も加わった点です。
地方銀行として本事業に対して多大な理解をいただきました。
銀行との連携は、資金調達や古民家流動化において、将来とても大きな可能性を秘めています。

例えば「古民家改修ローン」といったものです。
現状、個人で古民家を改修して移住しようとしても、住宅ローンが組めません。
住宅ローンは基本的に新築に限られているからです。
なぜできないのかというと、
古民家は既に減価(減価償却)しているという日本特有の不動産査定・鑑定にあります。
「減価している=その分、担保がとれない」ということです。
通常、金融業界では建物は古ければ古いほど、価値がないということになっています。

なので、銀行で「土地の購入費用」は貸してもらえても
「建築・改修費用」は借入れできない状況です。

日本の法律においても古民家(歴史的建築物)に対する規制が多く存在します。

欧米では一概に古い建物には価値がないとはされておらず、
きっちりメンテナンスされた建物の価値は下がりません。
ヨーロッパなどに古くて味わいのあるまち並みが点在し、
雰囲気のあるまち並みが数多く残っている理由のひとつともいえます。
有名ブランド店も日本では無機質なコンクリートのビルに詰め込まれているのに対し、
海外では古い味わいのある建物の中にとけこむように入っています。
そして、そのすぐ隣には、
地域住民の暮らしや生活が感じられる居住空間と絶妙なバランスを保っています。

イタリアのミラノにあるガッレリア。

日本も、こういった欧米の文化に対する価値観は学ぶべきかと思います。
日本の古き良き暮らし文化が体験できる場所があれば、
訪日外国人だけでなく日本人にとっても楽しめる場所になると感じています。

ファンドや銀行といった金融業界に対して、実績を提示して理解を深め合い、
古民家活用に対する資金調達が容易となることで、ホテルや店舗事業以外に、
個人住宅利用として裾野が広がることを我々は願っています。

古民家への投資ファンドは始まったばかりです。
そのため、篠山城下町ホテルNIPPONIAプロジェクトの状況は、
多くの金融機関や投資家が見守っているといった状況です。

古民家や歴史的建築物も投資対象となることが証明できれば、
今後多くの投資家の参入が期待できることでしょう。

リノベをススメるにあたり、古民家への住宅ローンが実現できれば、
今よりLife Styleの選択肢が増えることでしょう。

日本の暮らし文化を体現できるLife Styleへの実現に向けて。

次回は、〈篠山城下町ホテルNIPPONIA〉のリノベーションの経緯、
ホテルの詳細などについてご紹介したいと思います。

infoatmation


map

篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア) 

住所 兵庫県篠山市西町25番地 他

TEL:0120-210-289

http://sasayamastay.jp/index.html

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