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山ノ家 vol.7:
気だてのいい移民になろう 
二拠点生活への覚悟の芽生え

リノベのススメ
vol.027

posted:2014.4.23   from:新潟県十日町市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Toshikazu Goto

後藤寿和

ごとう・としかず●東京生まれ。株式会社ギフト・ラボ代表。2005年に池田史子とともに同社を設立し、東京・恵比寿にて空間や家具のデザインや、広い意味での「場づくり、状況づくり」の企画などをおこなうかたわら、ギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営。2012年には縁あって新潟・十日町松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在恵比寿と松代でのダブルローカルライフを実践中。
http://www.giftlab.jp

山ノ家 vol.7
カフェのにぎわいと、熱気の中でのドミトリー工事

無事、山ノ家の「カフェ」はオープンしたが、2階のドミトリーはまだ工事中。
少しでも早く来訪者に開きたいという想いから、
まずは1階のカフェだけでも先に工事を終わらせて、
お盆より前にはオープンしようという計画だった。
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の期間中に
遅ればせながらオープンし、手配りのチラシの効果もあって、
カフェを利用するお客さんも増えてきた。
僕らは連日泊まりがけで合宿のように生活しながら、
カフェの運営チームは来訪者のために大忙しで、
数少ない男子と、大工さんたちはドミトリーの工事を進めている。

カフェのキッチン内には常に3〜4人のスタッフが入り、忙しく動き回っていた。ここが元和室であったことを考えると、何とも新鮮な光景。

ドミトリーができるまでに必要な残りの作業は、2階の床張り、
壁のボード貼り+塗装、1階のシャワーブースや2階の水回り、
そして一番の作業はドミトリーのための、2段ベッドづくりなど。
カフェのにぎわいの裏では、ドミトリー完成へ向けた工事が続いていた。

カフェはこんな感じでにぎわっていてうれしい限り。しかしその裏で……。

2階ではこのような感じで作業をしている。これは廊下の塗装を行うための、階段の養生。

カフェが営業している時は外への出入りに気を使ったり、
道具や資材の搬入などでどうしても融通がききづらかったりと、
作業をするためのスペースや導線確保の大切さを再認識した。

追加資材の搬入は2階の窓からユニック(クレーン付きトラック)でカフェの開店前に行った。

まつだいの8月は焼けるように暑く、
1階に設置したばかりのエアコンがフル稼働という状態。
しかし、2階にはまだエアコンがついていない。
こもる熱気の中でみな黙々と作業を続けていた。

暑い中での作業。アキオくんは大工さんからアドバイスをもらいながら自分で床張りをマスターしていた。

カフェから生まれる、地元との接点

カフェが開店したこともあってか、
いろいろなかたちで地元の方々とつながる機会がいくつか生まれていた。
ある日、工事を見てくれていた近隣の大工棟梁さんが、
僕らに相談を持ちかけてくれた。
「お盆の8月15日に、近くの小学校で盆踊り大会があるんだけど、
近隣の人に知ってもらうのにいいチャンスだと思うから、
店を出してもらえたらと思うんだけど」
地元で彼の世代(30〜40代)がこの盆踊りを仕切ることになったから、とのことだった。
始めたばかりのカフェの営業はまだまだ落ち着かないが、
これはとても良い機会だからなんとか工夫してやろうということになり、
夕方に店頭に貼り紙をして、小学校で出店することにした。

近隣の小学校の盆踊り大会に、キーマカレーやマフィンなどを急遽仕込んで出店。反応はなかなかよかった。

またある日は、関東圏から十日町に帰省した大学生が立ち寄ってくれて、
「地元にこんな素敵なお店ができたなんて!」と感激してくれた上に意気投合。
なんとカフェのお手伝いを1日してくれることになった。

写真の奥にいるのが、地元がこの近くという大学生。地域の過疎化を心配し、まちづくりなどにも興味があるようで、僕らがここで拠点を持つことになった経緯などにとても共感してくれた。

また、お隣の方などが「たくさんとれたから」
と野菜をドサっと持ってきたりしてくれたのはとてもうれしいことだった。
冬の工事の時から、通りかかるおばあちゃんなどに
「ここは何かできるの?」と聞かれ
「ここで喫茶店をやります。是非来てくださいね!」
などとなるべく丁寧に接してきたことなどが思い出された。

この先の可能性がいろいろと広がるのが少しだけ見えた気がして、
本当にここでやってよかったと思った瞬間だった。
このころから何となく「気だてのよいヨソモノでいよう」
というキーワードが自分たちの中で浮かびあがっていた。

根城を転々とする、移民としての生活

僕らは若井さんが使用している近隣の一軒家
(味噌づくりのために使っている「味噌工房」と呼ばれている借家)
の部屋を借りて寝泊まりをしていた。
実はその前にも、工事が始まるころから
しばらく寄せていた場所があった。
しかし、大地の芸術祭をお手伝いをする方たちが来たら
部屋を空けることになっていたので、
その後に若井さんの「味噌工房」に移動していた。

若井さんの味噌工房のある家。この脇の土地で、少し前から畑もやらせてもらっていた。

もちろん、山ノ家の上に泊まれたらそんなに楽なことはないのだが。
アキオくんは「ここのユニットシャワーがついたら、休憩中に汗を流せる!」
などと冗談を交えながら作業していたが、
そこはまだ粉塵が舞う戦場のような工事現場で、
とても落ち着けるような状態ではない。
泊まるための場所をつくりながら、自分たちは別の場所に寝泊まりしている。
なんとも歯がゆい状況での現場、というか、生活。
例えばこれが東京での話ならば、
皆それぞれの住む場所から通って現場で集まるだけという、あたりまえのこと。
ここでは、その前提が無い状況なのだ。
普段とは全く違う土地で生活をしながらリノベーションを行うということ、
そして共同生活を伴ったかたち。楽しくもあり、難しい部分でもある。
この状況のなかで、皆が生き生きと活動していることが
本当に何ものにも代え難い心の支えだった。

そんな中、カフェがオープンする前後に、
若井さんが言いづらそうに僕に相談をしに来た。
「実はお盆前後に、毎年農作業を手伝ってくれる人たちが
泊まりにくることが前から決まってしまっていて、君たちの寝泊まりする場所を
どこか他に移動してもらわなくてはならないんだよ」と。
お盆が近づいてきて、宿泊できそうな場所はみな似たような状況で、
新たな宿を見つけなければならない状態になっていた。
また、移動しなければならないのか……。
とはいえ、どこにも行くアテが無い。
まさに移民(というかむしろ難民に近い)。

若井さんがいろいろと周辺の人をあたってくれて、
なんとかなりそうな場所の情報を持ってきてくれた。
そこは僕らがよく行く温泉のすぐ近くのロッヂで、
地元の有志でつくったらしいが、震災のあとは使っておらず、空いているという。
なぜなら、ほんの少しだけ床が傾いていたりして、
直す目処がたたない状態だから、とのこと。
加えて、いままでは現場に徒歩で行ける距離だったが、
そこはちょっと離れていて車での移動が必須な場所だ。
いろいろとハードルは上がるが、いまのところ他に選択肢がない。
掃除をして、そこにあった布団を使用するので干すついでに、下見に行く。
うーん……大丈夫だろうか。
1年半空いているだけならきっと大丈夫だろう……。
というより背に腹はかえられない。
お盆を目前にした頃、僕らは「大移動」をした。
その時現地に乗り込んでいた僕らのチームは、およそ10人くらい。
実際には、1年半空いていただけというにはずいぶんとラフな状況だった。
しばらく人が使っていない場所というのは、どうも空気が重たい。

ロッヂでの生活がしばらく始まる。

ペンを置けば転がる床で寝ることは、思ったよりも不安定な気持ちだった。
正直キツかったが、皆連日の疲れもピークなせいか、すぐに寝てしまった。

次の日の朝、なぜかいつもよりも早く目が覚めた。
その時、窓に広がっていたのは、

見事な雲海!

いまの大変な状況が一気に報われるような、素晴らしい景色だった。

ここまで長くひとつの所に滞在して活動するということはなかなかない経験で、
短期間の滞在では気づけない日々のわずかな気候の変化や、
この地の風景をさまざまな角度から見ることや、
鳥や虫や、木々や緑の生命力のたくましさや美しさなどを
目の当たりにしていくことで、得難い何かをからだ全体で感じていた。
そしてときどきこんなふうに、
風景はその土地の特別な顔をかいま見せてくれるのだ。

これが別の土地で日々の営みをつくっていくことなのかもしれない。
旅行でも移住でもない、二拠点生活への覚悟の芽生えが出てきていた。

そしてとても好きなのは、カフェがオープンしたことで、
みんなで朝食を山ノ家でとれるようになったこと。

眠そうにしているが、みんなリラックスしているのがわかる。

自分たちの作った空間で、とてもおいしい朝ご飯を食べられるというのは
何とも言えない充実した時間だった。

朝のまかないご飯。自分たちが借りていた畑でとれた野菜や、ご近所の方にいただいた野菜を使って。

すべて出来上がるまで、あともう少し。

information

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YAMANOIE
山ノ家

住所 新潟県十日町市松代3467-5
電話 025-595-6770
http://yama-no-ie.jp
https://www.facebook.com/pages/Yamanoie-CafeDormitory/386488544752048

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