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親が決めた移住に娘は…?
順風満帆というわけにはいかない、
移住した家族のリアル|Page 2

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.023

Page 2

一番気がかりだった、娘のこと

いこの前まで蝉が鳴いていた庭先では、
もう鈴虫の音が聞こえ始めました。
海からの風はひんやりとして清々しく、直売所の棚は新米や栗など、
はじけんばかりの秋の味覚で埋め尽くされています。
初めて下田で過ごす秋です、心が踊ります。

直売所にはいろんなつくり手さんの新米が並んでいるので、それぞれを味わってみるのが楽しみです。ふっくらとして甘みのある炊きたてのご飯、これに勝るものはない! というくらいおいしくて食べ過ぎてしまいます。

庭の木に柿がなり始めました。ひとつ食べてみたら渋柿! 干し柿をつくってみよう。

今回の原稿を読み始めた夫が「なんかヘビーだね……」
という感想を漏らしました。下田に住み始めて半年。
正直、やっぱりいろいろありました。

「順風満帆です!」という内容だけでは移住のリアルは伝わらない。
ようやく少しずつ落ち着いてきたので、
ここ半年の我が家の様子を書こうと思います。

4月に下田に住み始めてから一番気がかりだったのは娘のことです。
我が家は今年のはじめ、三重県の美杉に住み始めました(vol.06参照)
けれど、東京とはあまりに違いすぎる山奥の環境。
そして、ずっと一緒に暮らしていたいとこたちに会えないことが、
娘にとってあまりにもつらかったのです。

結局、美杉への移住を断念し、いったん東京に戻りました。
その後、東京に週末帰れるくらいの距離であらためて探し始め、
下田に住むことになりました。

三重での出来事があったので、下田で暮らし始めるのも
恐る恐るという感覚でした。
この半年のあいだ「いとこのいる東京に帰りたい」と、
娘が夜中に泣き出すこともありました。
新しい保育園に行くのを嫌がり、玄関先で泣くこともありました。

自分たちが選択したことに娘をつき合わせている、無理をさせている。
娘の泣く姿を見ると申し訳なく思えてきて、移住にさえ疑問がわいてしまう。
「娘に無理をさせてまで下田に住む意味ってあるのだろうか」
不安になるたび、そう夫に詰め寄っていました。

夫はその都度、自分たちの選択は間違っていないとはっきり言いました。
家族で過ごす時間も増えたし、
海で遊んでいる娘もとても楽しそうじゃないか。
この環境が娘の将来にとって良いと信じていると。
そうした夫の意思を確かめることで、
私は自分の中の迷いを払拭してきました。

娘が東京に帰りたいと泣くたびに、夫婦で悩みました。
いまは下田で踏ん張ったほうがいいのか、
それともいったん戻ったほうがいいのか。
東京に戻ってばかりでは、新しい下田の環境に
なかなか馴染むことができないし、
いとこたちと余計に離れづらくなるのではないか。

けれど、「下田は東京とこんなに近いんだよ、いつでも行けるんだよ」
という安心感を持たせることも大切かもしれない、そうも思えました。
それに、あるときふと思ったのです。
どんなに泣いている子どもでも、母親が抱っこして
安心させてあげれば大抵は泣き止みます。
娘の気持ちに寄り添って抱きしめたら、きっといつか泣き止む。

それからは、娘が帰りたいと言ったときには
可能な限り東京に帰るようにしました。
保育園の通園バスを嫌がるときは送り迎えをして、
早く迎えに来てほしいと言えばその通りにしました。
いつか、泣き止んで下田の生活に慣れてくれるはず。
そう夫婦ともに感じていました。