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旬の里の開店は朝8時半。
その時間が近づくと軽トラが次々と現れ、
生産者さんが農産物を運び込んでいきます。
東京もんにしてみるとこうした光景はとても新鮮で、
初めて目にしたときは心が踊りました。
つくり手さんの顔が見えるこうした環境は、
東京の暮らしと大きく変わった点です。
生産者さんを見かけるとつい話しかけたくなります。
また脱線しますが、下田に住むようになって変わったことは、
人によく話しかけるようになったこと。
東京では知らない人に声をかけることはあまりなかったのですが、
こちらに来てからは散歩しているおばちゃんと雑談したり、
魚売り場で買い物をしているおばちゃんに調理法を聞いてみたり、
知らない人にも自然と声をかけるようになりました。
そういえば、もともと自分から話しかけるタイプではなかった夫が、
こちらに来てからすごく変わったな~、と感じています。
いつまでも干物やのおばちゃんと話してたりするので、
「なんか、いいじゃないの」と微笑ましく思うのです。
話は戻り、そうしてこの旬の里でも
いろんな方に声をかけてお話をうかがったりしています。
ある朝、軽トラックからにんじんを下ろしている男性を見かけました。
黒く日焼けした肌が、いかにも熟練した農家さんという雰囲気です。
そのにんじんは、とびっきり濃くてみずみずしいオレンジ色。
「おいしそうなにんじんですね~、色がすごくきれい」と声をかけると、
「おいしいよ~、すごーく手間かけてつくってるんだから。
農薬も使っていないし肥料も自分のとこでつくってるし、
だからほかのにんじんより少し高いんだけど、絶対においしいから。
にんじんジュースにしたらもう最高だよ~」
と、我が子を自慢するようにうれしそうに話してくれました。
その表情がとても溌剌としてすてきだったので、
「写真を1枚撮らせてください」とお願いすると、
「いやいや、絶対ダメダメ!」と恥ずかしそうに
逃げられてしまいました、残念。
旬の里は、それぞれの生産者さんが
自ら値段をつけて持ち込むという方法で運営されています。
それによって市場に比べて手取りが何割も増える、
そう話してくれたのは、なすやきゅうりを納品していた生産者さん。
「市場だとすごく安く買われてしまうでしょ。
コンテナいっぱいのほうれんそうが全部で200円とかね」
え、そんなに安いんですか!?
大きく育ったきゅうりや曲がったきゅうりも
市場に出すと二束三文となってしまうけれど、
このお店ならそれなりの値段を自分でつけて売ることができるといいます。
それによって無駄は減り、収入は増えるのだそう。
「農業って刺激があって楽しいんですよ。
失敗があるけど成功もあるし、努力したら努力しただけ結果があらわれるし」
農業は楽しい、そんな言葉を聞いたらなんだかうれしい気持ちになる。
「でも、それが生活に結びつかないと楽しくてもやっていけないんですよね。
このお店ができていなければ、下田市の生産者は何割か減ったと思いますよ」
なるほど、このお店はそうした役割も担っているのか。