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仕事を決めずに移住? 
新しい土地でナリワイを見つける|Page 3

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.017

Page 3

人との縁がつながり、ナリワイを見つける

この頃からいろいろとまわり出したように思います。

下田のまちを歩いてると味のある木彫りの看板をよく目にします。
TableTOMATOの隣、老舗珈琲店〈邪宗門〉の看板もそのひとつです。
Table TOMATOに出入りする際に目にするその看板に
不思議な魅力を感じていました。

ある日、娘の保育園のパパ友さんとともにちょっとした用事を済ませ、
どこかでコーヒーでも飲みましょうかという話に。
そこで、僕がいつか行ってみたいと思っていた邪宗門をリクエスト。
看板と同様、味わい深い珈琲を飲んでいるそのとき、
彼からこんな話がありました。

「看板屋をやっている後輩が人を探していて、
シズオさんにぴったりな気がして。興味があれば紹介しますよ」

まさにその邪宗門の看板をつくった会社〈安東看板〉とのこと。
なんとも不思議な話です。
こんな流れには乗るに限ると、さっそく話を聞きにいきました。

それからはとんとんと話が進み、次の週からお世話になることに。
看板をつくるうえでは知識が重なるところが多い建築の経験があること、
そして前職のリノベーション会社で管理職をしていたということも、
これからの安東看板にとって必要な人材と
思っていただいたのかもしれません。

ほかにも仕事を持ち、いくつかのナリワイのひとつとして
仕事をさせてもらいたいとの自分の考えにも理解を示していただきました。

いまでは、ほかに予定がなければ平日、朝から夕方までは
こちらで働いています。いくつか収入源をといっても、
すべてが不安定な状態というのも難しいと感じていました。

そんな意味でもこちらの収入をベースに
ほかの収入を合わせてと思っています。

そして、建築、リノベーションの仕事を長くやってきたといっても
やはり畑違い。ほとんど初心者です。
ゼロから学ぶ新鮮な気持ちで仕事をしています。

さまざまな木工機械のある作業場。看板以外にも木工全般の仕事を手がけていて、下田だけでなく全国に納品しています。

社長や先輩スタッフが彫った文字をヤスリがけ。ちょっと彫ってみましたがとてもとてもうまくできません……。

木彫り看板だけでなく、このような地域の看板の仕事もしています。設置しているとき、土地に根づいた仕事をしていることに不思議な感慨を感じていました。

東京で会社員をしていたとき、経験も地位もそれなりにあったので
自信を持って仕事をしていました。
でも新しい土地、職場ではそれは関係ありません。
初心者になれるかどうか、そこが新しい土地で仕事をするうえで
大切なことのような気がしています。

職場へは海沿いの道を自転車で10分。満員電車も渋滞もありません。海には黒船を模した遊覧船が行き来しています。

夕方には仕事を終えて庭仕事をしたり、娘と遊んだり。
その後、家族3人そろって食事をとります。

収入は落ちました。でも、このような時間を持てるようになりました。
ミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくる時間どろぼうに勝った、
そんな気がしています。

そして、もしかすると黒船は時間どろぼうだったのかも、
などと思いを巡らせているのです。

ほかにもいくつかナリワイが動き出しています。
夏の数日は民宿の手伝いをすることになっています。
下田には数多くの民宿があり、夏は一番の繁忙期。
民泊を考えている僕にはとてもよい経験となりそうです。

また、お世話になったある方に、僕の建築の経験や
さまざまな地域を移住先として検討し見てきた経験を買われて
下田市の「景観まちづくり市民会議委員」へのお誘いを受けました。
今後はその活動もする予定です。

このようにして、仕事を決めずに移住してきた下田で
いつくかのナリワイを見つけることができました。
すべては縁がつなげてくれたのです。感謝。

6月に誕生日の妻と娘へのプレゼントとして庭に枇杷の木を植えました。

先日、TableTOMATOの棚をつくっている僕を見て娘が言いました。

「パパ、いくつ仕事してるの」

そんな父親もありかなと思っています。

information

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Table TOMATO

住所:静岡県下田市1-11-18

Web:https://facebook.com/TableTOMATO/

information

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安東看板

住所:静岡県下田市中565

TEL:0558-22-5471

Web:http://www.ando-craft.com/

文 津留崎鎮生