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連載

農産物を加工し魅力的に発信。
和歌山〈FROM FARM〉
大谷幸司さん

PEOPLE
vol.042

posted:2017.2.16  from:和歌山県海南市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

writer profile

Miki Hayashi

林みき

はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手がけた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。

photographer pfofile

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。コロカルで「美味しいアルバム」「暮らしを考える旅 わが家の移住について」連載中。

“緑のダイヤ”と呼ばれる、和歌山の特産品

みかん、梅、はっさく、柿などの生産量が日本一として知られる和歌山県。
しかし日本一の生産量を誇るのは果物だけではない。
全国収穫量のうち、和歌山県が約70%を占めているのが山椒。
また和歌山県有田郡が原産とされる、紀州独自品種の「ぶどう山椒」は
“緑のダイヤ”と呼ばれるほどの最高級品とされている。

山椒は実はミカン科の植物。ぶどう山椒は粒が大きく、畑では柑橘のような香りがするという。(写真提供:FROM FARM)

七味唐辛子の原料として、そして鰻の蒲焼きを食べるときに欠かせない存在である山椒。
誰もがその風味をイメージできる香辛料だが、
日常的に料理に使っている人は少ないかもしれない。
そんな山椒と和歌山の農産物を組み合わせて、
新しい魅力を生み出している人が和歌山県海南市にいる。
農業を営みながら、和歌山の農産物を生かした加工食品の
製造・販売を手がける〈FROM FARM〉の大谷幸司さんだ。

〈FROM FARM〉代表の大谷幸司さんと奥様の奈穂子(なおこ)さん。

周辺にはみかんの畑が広がる。

現在FROM FARMの定番商品となっているのは
ドライフルーツ、グラノーラ、ミックスナッツの3種類の商品。
そのどれもに山椒をはじめ、はっさくや不知火(しらぬい)などの柑橘、
キウイや柿といった地元で収穫された農産物が原料として使われている。
どの商品も和歌山県外のセレクトショップでも取り扱われていたり、
そのおいしさが評判となってメディアで取り上げられていたりすることもあり、
パッケージに見覚えがある人もいるだろう。

定番商品のミックスナッツは「メープルシロップ&山椒」と「メープルシロップ&はっさく」の2種類の味わい。

メープルシロップでコーティングし、ぶどう山椒で風味づけされたミックスナッツ。あとを引く味わいを、山椒の爽やかな風味とメープルシロップのやさしい甘味が生み出している。

「いまでこそFROM FARMというブランドを僕たちは手がけていますが、
当初はそういうことをまったく考えていなくて」と大谷さん。
地元の農家に生まれた大谷さんだが、農業を始める前は
愛知県で会社勤めをされていたのだそう。

「10年くらい前に父親が体調を崩してしまい、
そのタイミングでUターンをして家業を引き継いだんです。
ちょうどその頃、施設園芸を始めたばかりだったこともあり、
6〜7年ほどは専業農家としてスプレーマムという品種の菊を生産していました。
その頃に農家さんたちと話をするなかで、
農業がおもしろいなと思い始めてきたのと同時に
『農作物を一からつくるのとはまた違う、自分にできることがあるんじゃないかな?』
と考えるようになったんです」

家業が軌道に乗り、またお父さんの体調が戻った4年ほど前から、
和歌山の産物を使った加工品づくりに取り組み始めた大谷さん。
そのとき、注目したのが山椒だった。

グラノーラは「山椒」「柿」「不知火(しらぬい)&キウイ」の3種類。ミルクやヨーグルトとあわせるのはもちろん、そのまま食べても美味。

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ぶどう山椒のおいしさにびっくり

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きっかけは、ぶどう山椒のおいしさとの出会い

「出荷先の農協で、ぶどう山椒の生産の状況について聞くことがあって。
山椒は和歌山県の一部の地域で全国の生産量の
約70パーセントが生産されているのですが、
ほかの農産物と違って個人が大量に購入して消費するというものではなく、
生産量の90数パーセントの受け入れ先が漢方薬や調味料の大手メーカーなんです。
つまり買う側は、買う量が決まっている。
でも農産物は工業製品と違って生産量が毎年違うので、
収穫量が多い年はどうしようもないくらいに価格が下がってしまい、
生産者さんたちがもろに打撃を受けてしまう状況が起きていることを聞いたんです。
そのときにぶどう山椒を食べさせてもらったのですが、ものすごくおいしくて。
山椒のおいしさに可能性を感じて、農家さんに利益が還元される
山椒を使った加工品をつくりたいと思ったのが、最初のきっかけでした」

山椒本来の香りとおいしさに驚いたのが、FROM FARMを立ち上げるきっかけに。
(写真提供:FROM FARM)

そんななか、大谷さんがまずとったアクションが
「フードディレクターの野村友里さんに、山椒を当たり前な感じではなく、
斬新なかたちにしてもらえないかとメールを送ったんです。
野村さんとは面識はなかったのですが、想いを伝えてみたところ、
たまたま彼女が始めようとされていた〈Nomadic Kitchen〉という
プロジェクトがあって『じゃあ、そこでやってみる?』という話になったんです」

Nomadic Kitchenプロジェクトと関わるなかで誕生した〈Japanese Nomadic Salt〉は、山椒のピリッとした後味と柚子ピールの爽やかな甘みが特徴。ひとふりするだけで、お肉やお魚がごちそうに早変わり。

そしてプロジェクトに参加する料理人たちによってレシピ開発されたのが、
和歌山の山椒や柚子を使ったハーブソルト〈Japanese Nomadic Salt〉。
「レシピが完成して『誰がつくる?』という話になり
『じゃあ、言い出した僕がつくります』となって。それから設備を整えて
ハーブソルトの商品化を始めたのが、いまから4年くらい前ですね」

山椒といえばピリッとした清々しい風味が特徴だが、
この香りや辛味の成分を多く含んでいるのは果実ではなく果皮。
成熟した果実の果皮を乾燥させたものが、香辛料としての山椒となる。
ハーブソルトを製造するにあたって山椒用の乾燥機を入手した大谷さんだったが、
これが思わぬきっかけを生み出すことに。

出荷できない果物を活用する、ドライフルーツづくり

「不知火(しらぬい)」「柿」「キウイ」「ミックス」の4種類で展開中のドライフルーツ。それぞれの果物のおいしさが、ギュッと凝縮されている。

「果皮を乾燥させてから出荷するのが普通の流れということもあり、
多くの山椒農家さんは乾燥機をみなさん持っていて。
この乾燥機ですが、例えば切り干し大根やしいたけを乾燥させる機械と
構造がほぼ一緒なので、山椒以外のものも乾燥させるることができるんです。
せっかくコストをかけて設備を整えたのに、
ハーブソルトをつくるだけではもったいないなと思ったのと、
高齢化した山椒農家さんのところで使われていない乾燥機もあるので、
それを使って自家製のドライフルーツもつくり始めたら
おもしろくなってしまったんです(笑)。
和歌山にはいろいろな果物がありますから
『これもドライフルーツにしてみたい、あれもしてみたい』って」

取材で訪れたときは、ドライ無花果を試作中。今後、どのようなかたちで商品に取り入れられるかが楽しみ。

「それと果物の産地であるここにいると、商品となる生産物ばかりではないんですよね。
例えば、ちょっと傷がついているだけで出荷できないものとか。
そういったものは流通に乗せると、お店に並ぶまでの間に傷んでしまうので
商品にはできないけれど、ドライフルーツ加工にしてしまえば大丈夫で。
すごく安い単価で手に入る、逆に言うと農家さんの手取りにはなりにくいものを
上手に生かしたいなっていうところもあって。
和歌山ではすごい数の品目の果物が生産されているし、
僕も農協や果物農家さんとのつながりもあったので
『だったら自分なりに、僕だからできることにチャレンジしてみようかな?』
と考えるようになり、FROM FARMというブランドを立ちあげたんです」

そうして誕生したのがFROM FARMのドライフルーツ、グラノーラ、ミックスナッツ。
山椒のイメージをくつがえすインパクトのあるおいしさもあってか、
初出展した展示会でも多くのバイヤーの目にとまり、
発売間もない頃から全国のショップで取り扱われるように。

そんな状況について「僕らは食のプロではなく素人ですから、
本当に試行錯誤を繰り返していて。いろいろなお店に商品を置いていただけるのも、
僕たちにしてみれば奇跡みたいなことですね」と大谷さん。

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農家をサポートする〈援農キャラバン〉とは?

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生産者にとって、よりよい環境をつくることを目指して

2016年5月には加工場を改装したショップをオープン。
加工品に加えて、地元の農家さんや自分たちで生産した野菜を販売したり、
週末限定でカフェの営業も始めた。

「加工場の周りには果物の生産者は多いのですが、
逆に野菜を生産している人がいなくて。そこで加工品と、
自分たちでつくった野菜を販売する二本柱でやっていければと考えているんです。
2〜3年前から市内に畑を借りて、ひととおりの野菜を育てながら
チャレンジしているところですが、こちらに関してはまだまだですね。
これから理想に向けてがんばっていけたらなって感じです」

みかん農家さんの倉庫として使われていた建物を改装したショップ兼カフェ。2階は大きなテーブルが並ぶイートインスペースとなっている。

カフェでは季節の果物のドリンクも用意。取材で訪れた際に提供してくれたのは、ぶどうと桃をたっぷりと使ったジュース。濃厚でおいしい! このぜいたくな味わいを楽しめるのも、果物の産地だからこそ。

また昨年からは〈援農キャラバン〉という、農家を支援するプロジェクトにも参加。
産地では高齢化や後継者不足で収穫期に人手不足が起こり、
各地から季節労働者がやって来る。そこで、地域の農家と連携し、
現地の空き家などを利用してシェアハウスの生活環境を整え、
農業に興味のある若者を募集して農家をサポートするという、
牛飼勇太さんが展開するプロジェクトだ。

牛飼さん自身は、それぞれの地域の事業者にその活動を引き継いでいっているといい、
有田市に次ぐみかんの産地である和歌山県海南市下津町の援農事業を、
FROM FARMが引き継ぐことになった。
今後は、援農者と農家のマッチング、援農者の生活サポートなどにも、
積極的に取り組んでいくという。

「さまざまな若者が一時的にでも地域の、また農業の現場に入ってくることは、思いもよらない活性化につながる糸口になると思います」と大谷さん。(写真提供:FROM FARM)

たった数年でさまざまな取り組みを行ってきた大谷さんに、
迷いなく新しいことに取り組み続ける秘訣は何かあるのかと訪ねてみると
「僕らも迷いながらやっていますよ、自信がないこともいっぱいありますし。
東京の人の意識と、地元の農家さんとの意識とのギャップだったり、
いろいろな葛藤もあります」と、意外な答えが。

「農業がだんだん厳しくなっているなか、
農家さんに利益が還元される仕組みを考えないといけないと思うんです。
でもいい流れをつくるきっかけって、きっといろいろなところにあると思うんです。
そういうことを、ちょっとずつやれたらなと考えています」

産地のものをできるだけそのままの状態で加工品に生かすことをポリシーに、
和歌山の農業の可能性を探求し続けるFROM FARM。
ブランドとしてはまだ小さな存在かもしれないが、
小粒でもぴりりと辛い山椒のように、和歌山の農業のあり方を変える
大きなきっかけを生み出す可能性が、彼らのプロダクトには秘められている。

information

map

FROM FARM 

住所:和歌山県海南市下津町方1378-3

http://from-farm.com/

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