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連載

〈春陽食堂〉相藤春陽さん 
マンションの一室の食堂から
熊本の食ブランドへ

PEOPLE
vol.039|Page 1

posted:2016.12.1  from:熊本県熊本市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

writer profile

Yoko Yamauchi

山内陽子

やまうち・ようこ●企画と文章。熊本生まれ、熊本育ち、ちょっと放浪、熊本在住。地元を中心に、広告・広報の企画を手がけています。おいしいものが大好きで、お米、お水、お魚、お野菜、いろんなおいしいものにあふれている熊本から離れられません。

credit

撮影:山口亜希子(Y/STUDIO)

食は、すべての人、すべてのことにつながっている

大地、海、太陽、森、風、そして水。
その土地のさまざまな自然の恩恵を受けて食べものは育つ。
そして、土地の人たちはその恵みをいただきながら日々の営みを続ける。
太古の昔から、なんにも変わらない食と人のつながり。
人の活動源であり、健康を育むものであり、命のもとになるもの。
そして、土地の文化や歴史のなかにも必ずといっていいほど関わっているもの。
すべての人、すべてのことにつながっている食を通して
熊本の魅力を発信しているひとりの女性がいる。

栄養指導の一貫として、玉名市にある病院に併設されたキッチンスタジオで料理教室を開いている相藤春陽さん。

管理栄養士である相藤春陽さんが〈春陽食堂(はるひしょくどう)〉を
オープンしたのは、平成28年4月13日。
場所は、熊本市内の住宅街にある小さなマンションの一室。
食堂といっても、店を構えて、いらっしゃいませ、と客を迎えるようなものではなく
事務所として借りている部屋の一角にテーブルを準備し、
1回につき、最大4人まで迎え入れる会員制の食堂。

メニューは、季節のものを使った家庭料理の定食のみ。
旬をとり入れ、土地のものをふんだんに使い、どこかほっとするような
懐かしいような、家庭の味を楽しみながら、大人が食に向き合える時間を提供したい。
それまで栄養指導や料理教室などで、言葉で伝えてきたことを、
誰かといっしょに食べるという時間を設けることで、“実感”として受け取ってほしい、
という春陽さんの願いが込められている。

その活動趣旨に興味をそそられ、春陽食堂オープン2日目、
4月14日のお昼に、春陽食堂を訪れた。

献立は、甲佐うなぎごはん、かぼちゃのひき肉あんかけ、
たけのこ辛子酢みそ、千紫万紅ピクルス、そして旬野菜のお味噌汁。

甲佐は、熊本県中部にあるまち。4月14日お昼の春陽食堂のメニュー。千紫万紅ピクルスを数種類食べた後であわてて写真を撮ったため、ピクルスの種類が実際より少ないが、文字通り“千紫万紅”でした。(撮影:筆者)

献立のレシピのことや、食材のこと、食材が育ったまちのこと、
それをつくっている生産者のこと。
この日初めて会った人がいるのにもかかわらず(春陽食堂は相席制)
「食」という共通の話題で盛り上がった。
同じもの、しかも家庭料理を、同じテーブルを囲んでいただくことで、
まるで家族のような、そんな不思議な距離感を味わえた。

想像するに、春陽さんは、この食べている時間、食べたあとの時間もひっくるめて
「春陽食堂」だと考えていたに違いない。
お昼を食べる。ただそれだけの短い時間で、
季節を感じ、つくる人の気持ちを想像し、土地のことを想い、
昔の記憶を呼び起こし、おいしい、という感動を噛みしめる。
そして、目の前にいる人とさまざまな話題を共有する。

2時間という時間があっという間に感じられた。
「また、メニューが変わったらうかがいます」と、春陽食堂をあとにした。

そしてその日の夜、熊本を未曾有の災害が襲う。
後になって4月14日の地震は「前震」と発表された、平成28年熊本地震だ。

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