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連載

食のリトルプレス
『PERMANENT』を発行する
サダマツシンジさん・千歌さん

PEOPLE
vol.032

posted:2015.11.20  from:福岡県福岡市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

text & photo

Yuichiro Yamada

山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に『うどんのはなし 福岡』。
http://ii-kiji.com/

食にまつわるリアルが詰まった一冊

手に取ったのは、ほんの小さなきっかけからだった。
「これから冊子づくりのお手伝いをすることになりました」
そう言って友人が教えてくれたのが、この冊子、
『PERMANENT』(パーマネント)だった。

PERMANENTは「食べること」をテーマに編集されたリトルプレス。
だから、ほとんどの人が「食」「料理」といったキーワードから
この冊子にたどり着くのかもしれないが、僕は友人からの紹介という、
まったく別の角度から、この冊子に接触した。

ページをめくる。めくる。そして、また、めくる。
いまでもよく覚えていて、とにかく強烈に、その世界観に引き込まれていった。

鼻が鳴る——そのひと言から始まったテキストは、
猛烈に好奇心を掻き立てる“作家鍋”という料理をテーマに、その奥底にある
食の楽しみ、料理の奥深さ、卓を囲む時間のすばらしさを拾い集めながら、
僕の胃に空腹感をしっかりと刻み込みつつ、勢いよく駆け抜けていった。
その不思議な鍋の考案者である画家、牧野伊三夫さんのお人柄、
完成に至るまでの心踊るエピソード、食に貪欲な姿勢、
いろんな要素が盛り込んであり、それは、その後に続くページにも共通する。

些細なきっかけだったが、それ以後、新刊の発行を心待ちするほどの出会いとなる。
もうひとつつけ加えると、「つくる、たべる、かんがえる」というキャッチコピーが、
とても肌に合った。あとがきには、その言葉が生み出されるに至るまでの、
編集者であり発行者の思いと考えが綴られる。
以下はその一部の抜粋。

私たちが着目したいのは、例えば、普通の人の食卓の風景。
食の基本は毎日の食卓にあると私たちは考えています。
何が食べたいか、どの店で食材を選ぶか、どのように調理するか、
どの食器で食べ、どんなふうに時間を過ごすか、
それら全てを自分の意志で決める場所だと思うからです。
私たちは津々浦々の食卓で、食べることについての話を聞いたり、
調理の様子などを取材し、食卓の風景から、
あらためて「食べること」について考えてみたいと思います。

そのまっすぐな言葉の連なりにとても共感し、これからも読み続けていきたいと思った。
クレジットを見ると、〈THIS DESIGN〉という福岡のデザイン事務所を営む
アートディレクターのサダマツシンジさん、その妻で編集・プランナーの千歌さんが
中心となり、企画・運営・発行しているとわかった。

PERMANENTを読むことは、つまり、サダマツさん夫妻を知ること。
2014年に、ご夫妻と初対面を迎えた日、僕はなんだか不思議な、
それは親戚に会うような親近感に近い、感情を覚えた。

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なぜPERMANENTをつくるのか

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デザインを違うカタチで表現する

なぜ、PERMANENTをつくろうと考えるようになったのか。
その主な理由について、サダマツさんはこう教えてくれた。
「3.11が大きかったですね。それまでの価値観が、みごとに崩されましたから。
そんななかで、自分たちが生きるうえで一番の根源にある
“食べること”を強く意識するようになったんです。
それがPERMANENTの根っこにありますね」

加えて、サダマツさんはこのようにも言う。
「それまでは広告の仕事がベースでした。
ただ、徐々にデザイン=広告というかたちに疑問が湧いてきたんです。
デザインとは、物を売るためだけのものではないはずなんですよね。
だから、広告ではないモノに、自分が培ってきたデザインの経験を
生かしたいと考えました」

PERMANENTが生まれた背景には、そんな心境の変化とともに、
サダマツさん自身の環境の変化も大きく影響している。
以前は福岡市内の中心地に事務所があったが、現在は郊外に事務所兼自宅を構えている。
千歌さん曰く、中心地で働いていた頃は多忙な日々にかまけて
生活をおろそかにしていたのだという。それは体にも不調として表れた。
それから日頃の食事を改め、日々の暮らしを大切にしていくうちに、
みるみると改善されていった。そんな実体験が、PERMANENTの背骨にある。

だから、ただ、おいしいものを紹介するという類いの冊子ではない。
5号では、有機農業を支援し、その販路の窓口として運営を続けている
〈下郷農協〉の取り組みを切り取り、食にまつわる安全について
考えるきっかけを投げかけてくれた。
6号では、巻頭で採卵鶏の廃鶏をさばく様子を克明に記録したページを掲載。
そのさばかれた鶏肉がどのような工程を経て
私たちの口に入っているのかを知ることができた。
なかには血が流れている写真も掲載されている。
サダマツさん夫婦の本気の想いが伝わってきた。
この号を読み終え、食卓に向かったとき、
いつもよりも、背筋がのびたのをいまでもはっきり覚えている。

すべての号に一貫しているのは、何を選び、どのように体へとり入れるのか、
それらについて徹底的に検証し、さまざまな切り口から誌面で紹介する姿勢。
そんな骨太なスタンスこそ、PERMANENTの本来の姿なんだと思う。

そのため、取材対象者を探すのも一苦労だとサダマツさんは教えてくれた。
例えば、食にまつわる生産者を探す場合、千歌さんは
「農法が同じでも、考え方が違えばまったく異なる野菜ができますから。
誌面で紹介するからには責任が生じます。
そういう意味でミスマッチを防ぐため、まずは会ってみて、
対話するようにしています」と教えてくれた。
もちろん、手当たり次第に農家を訪ねるわけにもいかない。
これまで培ってきたサダマツさん夫妻の嗅覚、そして何より
出会ってきた人々からの紹介が大きいそうだ。

掲載にあたっての基準は明確だ。
それは、読者の「生活の質」を高めることを目指し、
「Timeless」(時代を超えるもの)
「Borderless」(境界を越えるもの)
「Creative」(創造的なもの)
「Necessary」(必然的なもの)
「Will」(そして、そこに意志があること)という5つを満たすものだという。
「最終的には、この人とつき合っていきたい! と思えるかどうかですね。
言ってみれば、僕らが最初の窓口ですから。
自分たちが好きだと思えない人やモノは、紹介すべきではない。
そう考えるとシンプルですね」
そう言って、サダマツさんは笑顔を見せた。

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冊子からリアルな場での発信へ…!

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冊子を媒介に新たなコミュニケーション

2012年にオンラインマガジンとして産声をあげ、
その翌年に季刊誌として再スタートを切ったPERMANENT。
2015年11月現在、7号まで発行されている。

最新号では、子どもたちに料理、給仕、お会計まで体験させるという
〈こどもカフェ〉の取り組みをフィーチャーした記事、
熊本の〈玉名牧場〉で得られた体験についての克明なレポートを収録。
回を追うごとに、サダマツさん夫妻が取材を通して得た知識が
また新たなる知識の基盤となり、それはそのまま読み応えのあるテキストとなり、
読者の心を揺さぶってくれる。
また、誌面では伝えきれない空気感を表現したムービーもいい。

2014年以降、PERMANENT から生まれた新たな取り組みも、
冊子のリリースと並行して実施されている。
サダマツさん夫妻は、自身が取材で得た体験を冊子へと凝縮させるだけでなく、
リアルな場でも発信していくことを決めた。
その第一歩がワークショップ『PERMANENT HOMEMADE STUDY』。

有機・無農薬栽培、土、種のことを学んだうえでのマヨネーズ・ドレッシングづくり、
無農薬野菜をとり入れたお菓子づくり、
大豆の話を交えた手づくり味噌教室など、
その企画から下準備、生産者との連携、当日の進行まで、
トータルでコーディネートし、PERMANENTの世界観を具現化した。
PERMANENTのエッセンスに直接触れることができるトークイベントも
先の10月に実施され、好評を博した。
「本は情報発信のツールとしてはとても効果的です。
ただ、メッセージを伝えるのは、やはり直接交流するのが一番望ましい。
本を読んで終わりではなく、読者と顔を合わせ、手で、声で、
つながることによって、見えてくるものがあると思ったんです。
ワークショップは自分たちがPERMANENTを続けていくために
必要なものだと位置づけています」とサダマツさんは言葉に力を込めた。

実は来春をめどに現在の住まいから、
福岡県の最も南にある大牟田市に拠点を移すことが決まっている。
「いま、とても“小商い”に興味があるんです。
事務所の移転を機に、いままで以上に、身の回りの人たちのためにできることを
少しずつかたちにしていきたい」とサダマツさんはうれしそうに語った。

目下、取り組んでいるのが、だしをとることのすばらしさを知ってもらいたい
という想いから始まったラーメンづくりだ。
「ラーメン=インスタントラーメン」
「ラーメン=お店の味」
「家のラーメン=大変そう」ではなく、
子どもにも安心して食べさせることができ、
そのうえ手軽で簡単な「お母さんのラーメン」がコンセプト。
自宅でだしをとり、具材を用意し、カラダにやさしいラーメンを作る
——そんな光景が多くの家庭に広げられないかと思案している。
その話は、またの機会に。

profile

サダマツシンジ 
定松千歌

アートディレクター、デザイナーであるサダマツシンジ、編集、プランナー、コーディネーターである定松千歌の夫妻で、2001年にTHIS DESIGNを設立。これまでに広告、販促ツール、パッケージ、企業のブランディング、雑誌・書籍の企画・デザインを手がける。現在はPERMANENTを起点に、「食べること」の周辺を掘り下げる活動に力を入れる。
http://thisdesign.jp
http://permanentbros.com

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